花をむさぼり生きるけだもの

 キッドは誰かに触れてみたかった。クロナは誰かに触れられたかった。
 それは望んではいけない800年の約束。自分が自分である限り、決して叶う事のない願い事。
 アンバランスに肥大した二つの魂の中継者は伝説の魔剣。
 片や自らを封殺するもの。片や自らの弱味となるもの。
 魔剣は考える。破滅を望む悪のつるぎは考える。敵と枷を同時に始末する術を。
 生かさず、殺さず、程よく無力化する方法を。
 「おいクロナ」
 子供達に企みが知れぬように、素知らぬ振舞い。
 「死神野郎がドアの外に居るぜ」
 まるで仲人のようだ、と魔剣は思った。求めるものを口に出せぬ子供達の。悪魔の考えは未成熟な子供達の柔らかい魂をゆっくりと蝕んでゆく。甘く狂わせ、気付いた時にはもう引き返せない。
 「ノックも出来ない腰抜け野朗が、親父に怒鳴られるの覚悟でよ」
 くつくつと笑いながら魔剣は考える。今行ないうる最も効果的な仕掛けを。
 「お前の為だけに」
 クロナの中に芽生えたものが付ける果実の味を魔剣は知っている。
 キッドの中に芽生えたものが咲く時期と条件を魔剣は知っている。
 そしてそれを最も美味く美しい時に切り取る事がどういうことかを、魔剣は知っている。
 「ドアを開けてやらねぇのか?」
 囁き声は人肌に温めて。
 「待ってるぜ、お前が迎え入れてくれるのを」
 たっぷりのハチミツに毒を一滴。
 「入れてやれよ。扉の外は冷えるぜ」
 震えるクロナがベッドから降りて、靴も履かぬままにフラフラおぼつかない足取りでドアに向かうのを満足げに眺めながら、魔剣はその身体を血に変えてクロナの身体の中に戻った。
 思い鉄のドアが開く音がする。
 男の子の声。
 女の子の声。
 抱き合う衣擦れの音。
 魔剣はクロナの身体の中でまたくつくつくつと静かに嗤う。



 12:10 2009/01/20 キッドとクロナの三日間おわり。おでんチの3人のスタンスと『初めて物語』をノンシュガーでお送りしました。






タイルの世界

 だじだじだじだじタイルに湯がたたきつけられる音が響いている。
 排水溝に吸い込まれていくぬるま湯がゴポゴプうるさい。
 痣だらけ傷だらけの細い身体にシャワーを当てると少しだけ呻くように声を上げた。
 「……痛むか?」
 目に力がない。当然だ、二時間もひっきりなしに嬲られたのだから。
 血と白濁液のにおい。髪にへばりつく誰かの唾。おぞましくて力任せに髪を洗う。
 白い肌に黒い斑点。
 こいつの血は黒いから。
 シャワーで流して何度もボディソープだらけのスポンジで擦った。匂いが嫌だ。跡が嫌だ。感触が嫌だ。
 出来ることなら全てを上書きしてやりたい。
 自分の持てる全てを使って。
 だがこいつにとってそれは更なる苦痛でしかないのだろうなという事が容易に想像できるので黙っている。
 「他にどこか、洗って欲しい場所はあるか?」
 力のない唇は動かない。
 潤む目を見ているのが辛い。
 いっそ逃げ出したくさえある。
 「……からだ、ぜんぶ、あらって……」
 微かに声が聞こえた。
 まるで迷子の子供の泣き声みたいじゃないか。
 「髪も歯も身体も既に8回洗っている。これ以上こすると皮膚が擦り剥けてしまうぞ」
 「からだのなか」
 僕は汚い、とかすれる声が聞こえたと思ったら、啜り泣きがそれに続いた。
 「もうマカにあわせる顔がない」
 もう尽きたかと思っていた涙が、大粒の涙が腕の上に降ってくる。
 だじだじだじだじタイルに湯がたたきつけられる音が響いている。
 排水溝に吸い込まれていくぬるま湯がゴポゴプうるさい。
 痣だらけ傷だらけの冷えた身体にシャワーを当てると、クロナは呻くように声を上げた。



 23:49 2009/01/28 クロナ魔女裁判でめっちゃレイプ後。もちろん息子さんは拷問に立ち会ってます。






こどもそうだんしつ

クロナ「せん、先生、し、質問をしていいですか」
マリー「もちろんよクロナ!何でも聞いてちょうだい!」
クロナ「さ、最初はマカに聞こうと思ったんだけど、なんだか聞きづらくて」
マリー「(ピン)大丈夫よクロナ。誰にも喋ったりしないわ!遠慮なく聞いていいのよ」
クロナ「三日くらい前にキッドと出会い頭にぶつかって顔を打っちゃったんだけど」
マリー「ほほう」
クロナ「僕謝ったんだ、よそ見しててごめんねって。でもキッドは顔真っ赤にして無言で走り去っちゃって」
マリー「ほうほう」
クロナ「それからずーっと目も合わせてくれなくて……どうしたらいいのか……」
マリー「……その時、キッドくんは口を押さえてたわね?」
クロナ「そういえばそうかも。顔面打ったけどそんなに痛くなかったし……でもよくわかりましたね」
マリー「ふふっ……大人の洞察力を甘く見てもらっては困るわ!それはね、キッスよ!」
クロナ「キッスって、なんですか?」
マリー「愛の告白(みたいなもん)よ!」
クロナ「ええええええええええええええええええええ!?」

(略)

ラグナ「お前ら両思いなら結婚すれば」
クロナ「結婚てなに?」
ラグナ「一緒の布団で寝ることだ」
キッド「俺はリズとパティと一緒に寝ることもあるけど結婚はしておらん」
ラグナ「バカだねお前らは。儀式をしないと一緒に寝ても結婚にはなんねーんだよ」
クロナ「儀式ってどんなの?」
ラグナ「お前らホントなんも知らないのな。教えて欲しいか?」
キッド「その儀式とやらをすればクロナの唇を奪った責任を取ることになるのか?」
ラグナ「なるなる。お釣りが来るぜ」

(略)



 00:24 2009/02/07 考えたら負けです。感じてください。何をかは各自で考えてください。






『白く細く白鳥の首のように頼りなげで愛しさのあまり』

 何故ホックを外すの
 彼は応えずに黙ったまま一つ一つ金具を外し白い襟を開く。
 僕は疲れたような気分で、壁にかかっている大きな鏡を見た。薄い隈のある自分の力ない濁った目。
 彼の全身像は見えずにただ黒い服と黒い袖がゆっくり動いている。
 ねぇ、なんなのさ
 指が肌に触れるたび胸が痛いのはどうした訳だろう。ランプに彼の指輪が鈍く光って、それが何故だか鬱陶しい。
 視線を上げてみようか、それともこのまま放っておこうか。
 どこか遠くでレコードが鳴っている。ランプの油が燃える匂い。暖かな部屋のカーペットの上。
 僕は彼の膝の間に居て、彼はソファに浅く腰掛けていて、言葉は交わさない。
 頬を触って、開き切った襟に指と手のひらを滑らせながら、僕の髪の形が変わるのを見ているのだろう。
 手は暖かくて、指輪は少し冷たくて変な気持ち。
 視線を何処にやるのもめんどうくさい。
 手はずっと動いている。
 擽るでなく、撫で付けるでなく、擦るでなく、暖めるでなく。
 ゆっくりゆっくり僕を攪拌し続けている。
 嬉しいのか
 悲しいのか
 わからない
 ただなんとなく半分幸せで、ただ漠然と半分苦しくて、身体がずんと痺れるように重かった。



 20:50 2009/02/15 ノノ宮さんちの09/02/15の同タイトル絵に捧げた話。






サムシング・ワンダフル

 食後ふらふら死武専のキャンパスの裏山を散歩してたら、雑木林の少し入り組んだ所で、よく見知った背中を見つけた。
 おねーちゃん、なに半ケツ出しながら茂み覗いてんだ?
 あたしはヒョイと近くの枝に掴まって、逆上がりの要領で身体を枝より上に起こす。
 なんとビックリ、キッド君その人がクロナを後ろから抱っこしてるじゃーあーりませんか!
 ……で、おねーちゃんはアレを出歯亀してるワケね……
 一瞬、情けねーなーと突っ込むセリフが口をついでかけたけれど、それよりオモシロそうな事を先に考え付いたパティちゃんはエラい!自分でよしよししちゃう。よしよし。
 くりん、と枝を降りて(この時点で結構ガサガサ葉が鳴ってるのに気付かないおねーちゃんもどうなのよ)何食わぬ顔で別の道から二人が居るデスシティを見渡せる展望台があるベンチに向かう。
 「ヤァヤァお二人さん、お安くないねぇ!」
 丸虫のように団子状になっている二人を覗き込んで声をかけると、まずキッド君が赤らめていた頬以上に顔を真っ赤に染めて金魚のように口をパクパクさせた。はわ〜……か、カワイイ!
 次いでクロナが顔を上げ、疲れたような目をカッと見開いて、同じような顔になった。アハハそっくり!
 「なにそれ、今流行のパントマイムか何か?」
 ベンチにキッド君が座り、その膝の上にクロナが座っているとゆーラブラブな二人をしゃがんで見上げながら、あたしも二人の真似をして口をパクパクさせてやった。
 「こ…っ…これは……ちがっ!違う!違うんだパティ!」
 「そっそうだよ!全然そーゆーんじゃない!全くの誤解なんだ!」
 二人が同時に奇妙なひっくり返った悲鳴を上げたので、あたしはニヤニヤしながら平然と尋ねる。
 「そーゆーのって、ナぁニ? ナ〜ニがチガウの?」
 あたしが『ン〜?』という風に首を曲げて語尾を延ばした。
 「だっ!だからその!話せば長くなるのだが!決してやましい事を屋外でしているのではないぞ!」
 「ヘー。」
 「そ、そーだよ!ぼぼぼ僕がちょっと体調悪くて!ここで唸ってたらキッドがたまたま通りかかって!」
 「ホー。」
 「そう!その通りだ!クロナが腹痛を訴えて困っていて、そういう時は身体を冷やすのは良くないだろう!? だがあいにく上着の持ち合わせが無く……!」
 「フーン。」
 「で、でだな!この場を動くにも難儀をすると言うからおれが仕方なく……!」
 「なっなにそれ!平気だって言ってるのにそっちが無理やりここに座れって……っ」
 「戯け!あんな真っ青な顔でそんな事いわれて捨て置けるか!」
 「なんだよ!僕は痛いの慣れてるし、これくらいよくある事だって言ったじゃないか!」
 「何を言うか!おれが服を引っ張ったくらいでよろけた癖に!大体ここに座った時だって氷のように身体が冷え切っていたんだぞ!」
 二人がギャアギャア言い始めたので、頃合かなとあたしは二人を制する。
 「あー。うん。大体分ったヨ、二人の言い分」
 「……そ、そうか。ならば良かった」
 「うん、だから別に他意はないんだよ、偶然こうなっただけで」
 どうだ、といわんばかりに納得顔の二人があんまり面白かったので、つい突っ込んじゃった。
 「で、お前らいつまでしっかり抱き合ってんの?」
 そう言ったとき、ものすごーく頭に慣れたゲンコツが降って来た。
 「馬鹿だねパティ!もーちょっと待てば面白くなったのに!」



 21:05 2009/02/20 ゲラゲラワッハッハ。もう好きにします。よくもまぁ飽きもせず糞話ばっか量産するな俺は!






Let Me Tonight

 風呂上り、覆い布を取り払った鏡の前で身繕いをしながら耳を澄ますと、少しエコーした節もげの鼻歌が聞こえてきた。珍しくお風呂にすぐ入ったようだ。
 「そんなにバスオイルが珍しいのかしら」
 何度促してもまたあとでとか、すぐ入るとかなんのかんのと言い逃れをするのが常なのに、パティから貰った菖蒲の香りのオイルを私があんまり自慢するので気になって仕方なかったようだ。
 お湯に落とす薄い緑の液体がふわっと白い霧みたいに広がって、目を閉じると雨の降る実家近くの竹林にある小さな沼のほとりに立っているような気がした。
 「……もう、沼の水もぬるくなってる頃ね」
 鏡から視線を外して窓の外の月を見上げたら、ブラックスターの声が聞こえた。私の部屋とお風呂はすぐ隣りで、両方の窓を開けているとこの通り、会話も出来る。
 『なぁ椿ィ』
 「は、はい?」
 『風呂、すげーお前の匂いする』
 落ち着いた声が乱反響していて、わたしは思わずごくりと唾を飲み込んだ。急に何を言い出すのかとどっと汗が出てしまう。
 『このシャンプー、どこの』
 「ど、どこのって、普通の、よ。量販店の、ふつうの」
 『……ふうん』
 それっきり声がしなくなって、ただ水の音。でも私はドキドキ騒いだ心臓を宥める術が無かった。自分の髪を一心不乱にタオルで撫で付けて、何度も何度も櫛で梳かす。ビリビリ指先が細かく痙攣してるみたいに自由にならない。
 やだ、やだ、何を急に言い出すの。お風呂なんかいつものことなのに!
 とそこまで考えて、壁一枚隔てた向こうに素っ裸のブラックスターがいるのだと急に意識してしまった。そうしたらもうダメ、どうにもこうにも頭が混乱してきて、考えないようにしようと懸命になればなるほどブラックスターのいつも剥き出しの腕だの、引き締まった腹筋だのがちらちら頭を過ぎってクラクラしてくる。やだやだやだ!なによこれ!
 わあーっと声を出して窓から飛び出したい衝動に駆られて、バッと立ち上がった拍子にタオルが足元に落ちて、視線を取られた。鏡には袷の乱れた寝間着姿の自分。
 肩が顕わになって洗い髪がほつれ、二三本絡んだ髪が上気した肌に張り付いて、胸元が汗で光っていた。胸の谷間がVというよりはUの字にたわんで、いつかブラックスターが持ってたこーゆー格好の女の人がやたらに載ってる写真週刊誌程度には、セクシーなような気がする。
 「――――――うっふん、ブラックスター」
 髪を掻き上げながら鏡に向かってウインクしてみた。うん、そう捨てたもんじゃないわよ。
 唇に紅を落としてもう一度ウインクをしてみた。……ほら、ね、悪くないんじゃない?
 こんな格好で迫ればいくら奥手の彼でもきっとイチコロだわ。
 姿見に映しながら、でも流石にいきなりこの格好を見せる訳にはいかないなぁ、とため息をついて寝巻の帯を締め直そうと立ち上がって、気づいた。
 背後の気配に。
 「椿、そんな格好してっと風邪引くぞウッフン」

 それからあとの事は押し入れの中で布団を被って転げまわって忘れました。
 しばらくブラックスターの口癖が「うっふん」になったことも忘れました。
 ……お願い忘れさせてーッ!



 17:53 2009/03/26 ★ん家のある日。椿ちゃん匂いについて触れられるとスイッチはいる説。






わたしとかみさま

 僕の身体は時々血を吐く。黒い血を吐く。意味もない血を吐く。
 全身が軋んで声も出ないほど、節々が痛い。内蔵が崩れ落ちる。
 相棒はこの身体を欠陥品だと言った。
 僕もそう思う。

 「どうした」
 声を掛けられて、頭を上げるべきかこのまま無視するべきか迷い、頭を上げずに唸った。
 「体調不良。気にしないで、しばらくじっとしてたら治る」
 声の主は木漏れ日のベンチに腰掛け、おなかを抱える僕の手に触れる。……正直、鬱陶しい。
 「ややややめて、今本当に余裕ないんだ」
 僕は元々人に触られたりするのに慣れてない。ラグナロクに触られるのさえ嫌な時だってある。元気な時でもそんな調子なので、精神力が散漫になってるこの時は誰にも触れられたくない。
 「では、保健室に……」
 痛みや苦しさってのは、僕の問題だ。他の誰に成り代わってもらえる物じゃない。僕はそれを嫌と言うほど知っている。自分でどうにかしなきゃ、どうにもならないのだ。
 「僕が人間の保健室に行ってどうなるのさ」
 腹立たしい。女でも人間でもないキミに何が分かるの。心がささくれ立っているのが、自分でもわかる。嫌味な言い方を選んでさえいる。痛みで朦朧とする頭が、魂を卑屈にさせていく。
 「近寄らない方がいい、僕、今生理でさ、黒血が流れてるんだ。ものすごく気が立ってる。自分でも何を仕出かすか分からないから、午後の授業は休むよ」
 早口で言って、なんて嫌な言い方だろうと絶望した。
 本当は嬉しいはずなのに、頭から出るのは残酷な言葉ばかり。涙が出てくるのに、感謝の気持ちも謝罪さえも唇が作ってくれない。悲しくて、辛い。泣きたい。
 「悪いけど、一人にして」
 喉の奥からそうやっとの事で引きずり出したセリフは掠れて、小さかった。
 「断る」
 あんまりきっぱりと聞こえた声に一瞬で眉が吊りあがって、怒りと共に塞ぎ込んでいた頭を振り上げた。怒鳴ってやる!殴ってやる!
 「いい加減にしろ!放っとけよぉぉ!」
 隣りに座る男の頬をぶん殴ろうと振り上げたおなかを抱えていた左手が、空中で止まった。
 「少しは友達を頼ったらどうだ」
 グッと左腕を引っ張られて、腰が浮いたところをいとも簡単に引き寄せて、彼は僕を膝の上に座らせ……おなかに手をやる。身体に触れられたという事実は、僕を激高させるに余りあった。
 「やめろ!馬鹿か!黒血が出てるって言ってるだろ!」
 「黒血如き恐るるに足りんわ。死神をなめるなよ」
 言った途端、僕のおなかに触れていた彼の手がボンヤリ暖かくなっている事に気付く。
 「……パティがよく温めろとか腰を擦れとか言うんでな、慣れてる」
 それ以上何も言わずに、彼は黙って目を閉じた。
 ゾワゾワと身体中を這いずり回る人の体温が気持ち悪くて、イライラした。吐き気もする。神経がこれ以上無く逆立って悲鳴を上げそう!指に力が篭る。引き裂いてやりたい。殴り飛ばしてラグナロクでバラバラにしてやろうか!首を跳ねてミンチにしたっていい!
 何十、何百と凄惨な想像をしながら、僕を抱きしめる腕に爪を立てる。
 「……苦しい……!」
 罵詈雑言を吐き散らかしてやろうと開いた口からは、たった一言、泣き言が出た。
 「痛みが分けられたらいいのにな」
 彼はぽつりとそれだけ言って、腕の力を少しだけ弱くして、おなかを擦る。
 僕は襲ってくる目頭の熱さと戦うのに必死で、しばらくの間、おなかの痛みを忘れてしまった。

 僕は欠陥だらけ。
 うれしい、ありがとう、たすかる、という言葉が出ない。
 唇を食いしばって、この暖かさに融かされないよう必死で抵抗する。
 嗚咽だけが木漏れ日の落ちるベンチに低く響いていた。



 21:56 2009/03/27 幸せって慣れてないと怖いよねーちゅう、はなし。クロキド大絶賛不幸中。






打たれ弱いったらありゃしない

 部屋の明かりはない。窓から挿す街灯の淡い光の反射した灰色と藤色とオレンジを混ぜたような色の肌は限りなくぺったんこで、俺はそれをずーっと見ている。
 マカのおっぱいはほんとにちっちゃい。触っても弾力とかそういうものがない。ただちょっと盛り上がった肌って感じで、すぐ骨の硬さにたどり着く。
 俺はそのささやかで面白味の無い、二次元のおっぱいをじーっと見ている。
 ……これでも俯けにするとチョッピリおっぱいの形になるんだけどな。
 寝て動かないマカの背にあるシーツを思いっきり引っ張って、身体をひっくり返した。
 マカのケツはとってもいい。腰の線とか太ももの細さとか、絶品だと俺は思う。
 「肌キレー……」
 産毛のある背中に頬を当てて、ケツの肉を揉んでみる。この4分の1くらい胸があったら、お前パーフェクトなのに。目を閉じて頭を回転させ、背中に唇と舌を当てる。
 マカの身体は細くて小さくて筋肉質で、あんまり柔らかくない。触ってもあんまり女という気がしない。だけど……いや、だから、か。俺はマカの身体を触りたくなる。
 特に、こうやって物言わず意識のないマカに。
 エロいこともするさ。そりゃ俺だって男の子だからねェ。共鳴でなく心が繋がる錯覚大好きヨ。
 でも
 でもさ
 でもなのさ
 たまにマカが憎くて嫌いで腹が立って恨めしく思うことがあるワケ。
 俺ってお前のなんなのさ、という、ご主人に構ってもらえねぇ犬みたいに不満で満載になる。
 お前、ちょっと前までずっとソウルソウル煩かったじゃん。
 クロナクロナて、何ソレ。意味わかんね。
 解ってるよ、心配なんだよな。
 でも俺もクロナも同列ってホント何ソレ。意味ワカンネ。マジ意味わかんね。
 俺が特別なわけじゃないとかホント意味ワカンネ。
 エロい事とか俺と、ちょーするくせに。
 俺とチューとかすげーするくせに。
 物言わぬ意識のないマカが、俺はスゲー好き。鎖骨触っても胸触っても嫌がらないし、背中舐めてもケツ噛んでも怒らない。ずっと黙ってほお擦りしてても気持ち悪がらない。
 虚ろな目でクロナの話題も出さないし。
 そこまで思って涙が出そうになったので、のろのろ服着てマカに毛布かけて、部屋を出た。明かりのない薄暗いリビングに人影があって、それが冷たい顔のブレアだと理解した瞬間頬が焼け付く。
 「マカでオナニーすんな!」

 その後、猫に説教されてたらマカが起き出して来て、みたいなまあその辺に良くある話なので割愛。
 ブレアに詰られながら、初めからマカとエロい事なんかしなきゃ良かったと心の底から思った。
 魂の共鳴で止めとけばよかったんだ。
 肌なんか合わせるから、要らないことまで伝わっちまう。



 20:16 2009/04/01 魂の共鳴って思春期だからこそスゲーパワーが出るんだろうケド、思春期に実際他人と(半ば義務的に)共鳴するのって鬱陶しいだろうなぁ、とふと思った。しかも男女とかなくね。






嘘じゃないけど

 「楽しい?」
 本を読みながらつまんなさそうな声でマカが俺に尋ねた。
 お前もすっかりスレちまったなぁと見当違いの返事を返そうとして、やめた。
 始まりは多分、マカの言いがかりから。俺がブレアの胸を見てるだのなんだの、ありがちで下らない、オリジナリティの欠片も見当たんねー。
 ……そりゃ見るよ、ああ見るともさ。俺は男だぞ、猫の乳でも人間の女の形してりゃ目は行くよ。
 いやらしいだの何だのケチをつけるから、言ってやった。
 お前のおっぱい触っていいなら他の女の乳なんか見ねぇよ。
 その後のことはまぁご想像通り。本の背表紙がへしゃげたとこなんか初めて見たよ俺。あと一週間くらい口きいてくんなかったし、飯も作ってくんなかった。
 自分でも謎だ。よくあんなこと言えたと思う。一応パートナーだからそれなりにマカの体は触ったことはあるけれど、触ることが主目的で接触したことはお互い一度もない。
 ほんとに、一度もない。
 だから普通にただ触ってみたかったんだよ。布越しでもいいから。
 知的好奇心ってやつ。どんな感じなのかなぁって。
 まともに声も掛けないような状況が続いて、結局そんな悠長なことやってられない校外授業が始まり、なあなあのうちにぐだぐだと元に戻ったある日、何の気なしで夕食後の皿洗い中、俺の手の甲がマカの胸にポンと当たった。
 結構取り乱して謝ろうとした矢先に、マカが言ったことには。
 こんなもん大したことじゃない。それよりお皿早く洗ってよ。
 ……顔真っ赤だぞ、と言ってはいけないよーな気がして、ほんとごめん、と呟いただけで黙々と皿を洗った。手の甲のやーらかい感触よ早く消えろとシンクや排水溝までものすごく丁寧に洗った。
 ―――――――なーんて嬉し恥ずかししてた頃が俺は懐かしいよ。
 本を読んでるマカのささやかなおっぱいを俺はだらんとソファに寝転がりながらつつく。
 ときには後ろから手で包みこんだりもする。
 マカは嫌がったり怒ったりしない。……というか、マカが嫌がったり怒ったりしないように、慎重に触る。力を込めないし、妙に動かしたり不自然にずらしたり、そーゆーことはしない。
 ただおっぱいを触るだけ。指をちょっと埋めるだけ。
 「落ち着く」
 ほんとはおっぱい触ってるとお前の体がちょっと強張ったりするのが面白いんだけど。
 マカが平気な顔を努めているので、俺も務めて紳士的にマカのおっぱいを触る。
 「子供ね」
 精一杯の突っ張り声に、俺は今日もマカの背中に張り付いている。ちっとも静かなマカの心臓の音が心地よくて悲しくて、それでも何だか誇らしい。



 09:49 2009/06/15 マカの勇気は勇気じゃないと、勇気を持たないソウルは思う。






いつか ないた ような

 誰かが僕の腕を引っ張っている。
 無理に引っ張られて痛い。
 背が高く硬い葉の深い草原はガサガサと音を立てて煩しい。瞼や頬を何度も掠って、ひやりとした。
 「ね、ねぇ!どこへ行くのさ!」
 尋ねても返事は返ってこない。ただつんのめりそうな早足でどんどん引っ張られ、僕はなすがまま。
 時々視界に映る空は塗ったように真っ青で、なにもない。気がつけば青々とした草に自分の深い色の影が落ちているので、太陽を背にしていることが分かった。
 僕を引っ張る誰かは背の高い草に落ちている影よりも真っ黒な事しか判らない。茂みが邪魔をして、黒い色の背だけが僕の腕の先に見える様な塩梅だから。
 いつから僕はこうしているんだっけ。
 そもそも僕はなぜこんな処に居るんだろう。
 そして僕を引っ張るこの人は一体誰で、何のために、何所へ、何故。
 漠然とした疑問が浮かんでは消えて、それ以上のことを考えることができなかった。
 僕はのどが渇いてずいぶん疲れていたから、そのことだけで頭がいっぱいだったんだ。
 「ね、ねぇ止まってよ!」
 息が切れて足がもつれている僕なんかお構いなしで、そいつは僕の腕をつかんだまま放さず同じスピードでどんどん草をかき分けてゆく。ブルドーザーじゃあるまいし!
 「もう歩けないんだ!腕を放して!」
 声が掠れてしゃっくりみたい。泣いてる時に無理やり喋ったよう。引き攣った言葉は届かない。
 がくがくと視界が揺れて、自分の吐くと息の音と、かき分ける草の音がうるさい。噎せるような草と土と汗の濃いにおいがきちんと物を考える隙を潰してゆくみたいだ。
 砂漠よりマシなはずなのに。
 何も見えない、何もない世界より気楽だとは思えない。蹲ってた方がまだ良かった。
 「やだよ!もうどこにも行きたくないんだ!」
 そうだ、マカ。マカのいるところに帰りたい。マカに会いたい。マカの側にいなくちゃ。
 「放して!僕はマカのとこに戻るんだから!」
 精一杯の大声で泣きわめくみたいに叫んだ。カラカラなのに大声を上げた所為で喉が焼け付くように痛む。ふと全身がずんとだるく重たくなったように感じた。数瞬それがどういうことだか分らなくていぶかしんだけれど、足が止まったのだということに気付いて一気に呼吸が荒くなる。
 はぁはぁと息を切らせて引っ張られていた腕が緩み、ようやく顔を上げることが許された矢先、僕を好きなだけ引っ張りまわしていた真っ黒のそいつが声も高らかに歌うように言う。
 「お前に戻る場所などあるものか」
 振り向いたその人の顔を見て、僕はもう一度悲鳴を上げた。



 10:31 2009/06/15 さて、誰でしょう。本命:蛇母さん、対抗:相棒、大穴:死神君。
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