「どっどうしたんですか?」 「あ、かなみちゃん。……いやね、あんたんとこのチンピラが順番取ったの取らないのって騒いでたごんたくれを小突いてさぁ……」 おばさんの肩越しに向こう側を見ると、カズくんが3人がかりで喧嘩を売られているのが解った。 「あれって何の順番待ちなんです?」 「砂糖と小麦粉の配給の列さね」 珍しくカズくんがお給料を全部持って帰ってきたので、お菓子でも作ろうかと二手に分かれて材料の調達をしたのが失敗だった模様。 わたしはそ知らぬ顔でチョコレートとシナモン、その他の買い物が入った袋を脇に置いて叫んだ。 「カズくーん!もう帰ろうよー!」 はっとした顔をした暴れ者たちの中で一番最初に正気に戻ったカズくんが、三人のうちの一人の襟を掴んで引き倒し、もう一人の足を払って地面に沈め、もう一人を返す肘打ちでしゃがませてしまった。なんて見事な流れ技。……とてもいつもの“ぼんくらカズマ”とは思えない綺麗な動作ねぇ。 だだだだと砂煙を巻き上げてカズくんがわたしとわたしの隣にあった買い物袋を引っ掴み、わたしを小脇にひょいと担いで市場の人ごみをすり抜けてゆく。 「カズくん喧嘩とかするんだ」 「イジメられてたんだよ!」 「勝ったじゃん」 「どうでもいいけど、あんな顔見知りがいっぱい居るところでカズくんだなんて呼ぶな!恥ずかしい!」 「だぁってぇ、カズくんだもーん」 「とにかく呼ぶな!」 ……なによ、ばつが悪いからってわたしに当たらないでよ。 「カズくん」 「呼ぶなっつーのに!」 「あーん」 はぁ? と大きく開けたカズくんの口に、わたしはチョコレートをひとかけら放り込んだ。 「おいしい? カズくん」 わたしが尋ねると、カズくんは走っていた足を止めてわたしを地面に降ろす。 「なんだこれ、甘ぇ……」 もうひとかけら手渡すと、カズくんは熱心にチョコレートを口の中で堪能しているらしく、怒りの矛先がすっかり消えてしまった。 ――――――この手は使えるわぁ。 8:36 2008/11/02 物を咥えると暴れないという習性がある。かなみはカズマが強いことを薄々分かってるといいな。 |
かなみの髪は長くて重い。 顔に掛かって死ぬほどウザッてぇ。 特に今みたいにクソ暑い夏の日は最悪だ。ゾロゾロ肌にへばりついて痒くなるから。 汗の匂いでむせ返りそう。ベタベタと襟元だとか脇の下だとか股座だとかが汗でじっとりしている。 「かなみ、どけよ」 当然だが返事はない。 「かなみさん、暑い」 もちろん返事はない。 「マジどけって」 それでも返事はない。 「……犯すぞ」 あろう事か返事がない。 「冗談だと思ってんのか? ほんとに犯すぞ」 みん、みん、みん、みんみんみんみんみん。セミの声が耳に付く。いやに耳に付く。 窓が閉まっているから部屋の温度と湿度はバカみたく高くて、子供の体温は燃えるような温度で、額や胸元に浮かぶ玉の汗が思い出したように流れてゆく。 ああもうめんどくせぇなぁ。 「かなみさーん、降参ー……あちィー……のいてー……」 かなみの髪は長くて重い。 腹の上をゾロゾロ引きずられてひどい痒痛感。ビリビリする。過敏症になりそう。 「いやー」 「――――――家抜けて悪かったー!謝るからもうカンベンしろー!」 「いやー」 寝間着代わりのTシャツは絞れそうなくらいビッショビショになっているのを思いながら、オレはもう一度だけ許しを乞う。 「かなみさーん……ゆるしてー」 「いやぁ〜」 13:12 2008/11/06(しさ)……ため息をついて嘆くこと。かなみちゃんのお仕置き真夏編。 |
薄汚れてベージュだかみかん色だかわかんなくなっているワンピースが戯れている。 「すごいよカズくんが光って見える!」 「まつげに水がついてんだよ」 海辺で波とはしゃいで駆ける少女が、なにやら荷物をどっさり背負った少年の周りに寄り添う。 「あんま濡れると風邪引くぞー。着替えねーんだからー」 「だってすっごいよ!波がね、足元を引っ張ってくの!砂が動く!」 「……へー」 さして興味もなさそうに、赤毛の少年がずんずん先を急いでいる。 「ねー、カズくんも!カズくんも!」 「だから、荷物持ってるって何べん言わすんだヨ。粉入ってんだぞ、濡れたらうッせェ癖に」 少年は遠出の帰り、つまらなさそうな顔の少女の機嫌を取る為に海岸線を選んだのは間違いだったと、今さらながらに思った。まさかここまでテンションが上がるとは。 「……ま、いっつも家か牧場、たまに市場の生活だもんな。無理もねぇか」 ぽつりと零して少年は気持ちを新たに靴底の砂を踏みしめる。杜撰な出来の粗末な靴で砂浜なんぞ歩こうものならこうなる事は分かりきっているのに、少年はこの道を選んだ。 ただ少女の笑顔を見たいがために。 抜けるような青空と潮騒、少し冷たい海風に初夏の太陽。遠くではしゃぐ少女の声。 白い地面に落ちる影は濃い藤色をしている。少年はそれを見ながら黙って歩く。 「カズくん!」 不意に名を呼ばれて顔を上げた。 「見て!貝!」 牧場の誰かのお下がりの薄汚れたワンピースのスカートの袂を持ち、そこに砂だらけの貝殻を山と乗せた少女が誇らしげに見せている。 「………………かなみ、露天街寄るぞ」 「なんで?」 「新しいズボン買ってやる」 真っ白できめの細かい磁器のような太ももから目を逸らし、少年が苦虫を噛み潰したような顔で言った。 その後、家に着いた少女がホクホク顔で鮮やかなオレンジ色のキュロットスカートを無邪気に喜んだり、少年はその日の夜なかなか寝付けなかったりした事を最後に記しておこう。 14:48 2008/11/06 どっか買出し旅行に行った帰り。かなみのキュートな装いがカズマの趣味だったら面白いかなと思って捏造した。一切何の反省もしていない。 |
ブラックスターが椿と一緒に遊びに来た。 オレとブラックスターが一緒にゲームをして遊んでいる間に、椿に日本の料理を習うんだそうな。 オレは淡白なメシも結構いける口なので、マカが和食をマスターするのは大賛成。 「なあソウル」 なんだよ、待ったナシだぞ。 「ここにある家具ってどっちの趣味?」 ……はぁ? 「お前はシックなの好きじゃん。マカは派手っちいの好きじゃん」 んと、確か、キッチンに置いてあるテーブルとか部屋のベッドはここの部屋の据付家具で、このローテーブルはマカが家から持って来たんじゃなかったかなぁ。カーテンは貰い物で…… 「んじゃ、いま座ってるソファってどっちが買ったんだ?」 ああ、これは二人で買いにいったんだよ。向こうに置いてある一人掛けのソファしかなかったからあれに合う奴が欲しくてさ。二人で折半して買ったんだ。 「へぇ。どっちの趣味?」 あー、と、チョイ待ち。マカー!このソファってお前が選んだんだっけー? 「違うよ、あたしはもっとおっきい奴が欲しかったけどソウルが玄関に入んないっつって、それにしたんじゃん。あんだけ大騒ぎして二人で持って帰ったのを忘れたの? まだボケんには早いよー」 だってさ。 「へぇ」 ンでもまたなんで急に? あ、こういう奴欲しいとか? ショップ教えるぞ? 「ばぁか。うちは和室だぞ。ソファなんか置いてどーすんだよ」 んじゃ…… 「お前このソファの名前知ってるか?」 ……ラブソファだろ? 「つまり、そういうこと」 ――――――はぁ? 眉をひそめてブラックスターのほうを向いたらTVから爆発音がした。 「やった!俺様の10連勝達成!ひゃっはぁ!」 15:28 2008/11/11 うちの★はマカちゃんが好きです。でも椿を愛してます。つまりそういうこと。 |
やめて、やめて、ほんとやめて! 泣き声を上げるカズくんがベッドの上で暴れる。 「いたたたた!髪!引っ掛かってる!ほどいてよう!」 ……つかやめろほんと、洒落になんねぇ! 「だめ、引っ張らないで!髪の毛ちぎれちゃう!」 カズくんのジャケットの金具に髪の毛が絡まってぐいぐい引っ張られている。 「カズくんがイタズラするから引っ掛かっちゃったじゃない!」 だって、かなみがオレの足の上でずっと起きないから!暇だったんだよ! お昼寝のつもりなんか全然なかったの。でも珍しくお昼ご飯が終ってもカズくんが家を出て行く様子がないから、寒いなんて言って抱っこの体勢に持ち込んだだけよ。 じっとしてたらカズくんが勝手に寝ちゃったって勘違いしただけじゃない。 わたしの髪の毛を弄ったり、頬を抓ったり、腕に噛み付いたり、指を舐めたり。……くすぐったい。 その辺りまではわたしも我慢してた。……でもね、女の子に無断でキスしようとするなんて! そんなの起きちゃうよ! 寝てるのもったいないもん! 「やだ、やだぁ!カズくん動かないでったら!髪!引っ掛かってるの!上着の金具に!」 だったら痺れてる足に触るなあぁぁぁぁ! 悶えるカズくんが大きく丸まった拍子に、引っ掛かってた髪の毛が外れたらしい。頭がようやく自由になって、一息ついたらなんて素敵なシチュエーション。 「うーふーふーふー……カァズくぅん〜?」 ヒィ! 真っ青な顔のカズくんが両手をワキワキさせるわたしに怯えている。……あ、なんか快感。 だぁぁぁぁぁぁ!やめぇろぉ〜〜〜!!ギャーーーー! 「おきゃくさァん〜凝ってますねェ〜」 クソ、てめぇかなみ!お前、そんな奴だったのかヨ!か弱い青少年をいたぶるような!そういう女だったのかよ!つかてめぇ!やめろ!太ももと爪先の同時攻撃はほんとやめ……ぎひぃぃぃぃ! 「カズくんが弱ってるのって楽し〜」 ニヤニヤニヤニヤいい気分で笑ってたら、ムッとした顔のカズくんが振り向いた瞬間にわたしはベッドに倒れていた。……えっ!? 何が起こったの!? 『あんまチョーシこいてっと、痛い目みんぞ』 あら、怖い顔。 「……元気じゃん」 残念そうに唇を尖らせたら、狼に齧り付かれちゃった。 きょーくん、教訓。調子に乗りすぎるのには気をつけましょー。 15:55 2008/11/11 ……なんだこりゃ。知るかよ。カズマが弱気だと楽しいよねっていうストーリー。 |
んあ。 あ、起きましたか。 ……今何時? 6時ちょっと過ぎです。じきお父さんが帰ってきますよ。 うそっ!? 何で起こしてくれないのよ! おばさんは? さっき夕食に呼びに来ましたけど、宿題を終らせてミミさんを起こしてからにしましょうって。 うそーっ!やだ、もうホントなんで起こさないかなー! 飛行機の長旅で疲れたんですよ。明日は遊園地に行くんでしょう? 体力回復させとかなきゃ。 …………ったく……。で、なにそれ、夏休みの宿題? はい。英語のテキストです。 なーんだ、わたしの得意分野じゃない。どれどれ。 い、いいですよ!自分でやらなきゃ意味が……! はーん。構文かーめんどくさいわよねこれ。読めるし意味は分かるけど言い換えとかさー。 返してくださいよ、もう、終りますから!ねぇ! あ、間違いはっけーん。ここ。ここー。ここはofじゃなくてin。初歩の初歩じゃーん! いいんです!それで合ってるんです! 頑固もん。 お節介。 意固地。 お調子者。 頭かたーい! 気まぐれ屋! ……あらカッチン。むかついた。二度寝してやる。 どうぞどうぞ。夕飯までグーグー惰眠を貪っててください。僕はとっとと宿題終らせます。 フン!なにさ! しーん。 ……………………。 ………………………… ねぇ。 はい。 寝てるときイタズラした? しません。 うそ、ちょっとしたでしょ? し・ま・せ・ん。 怒らないから言ってみ? ……ミミさん…… 11:29 2008/11/20 たまにはこういう日もあったらいいねー。そう思うんならこういう話書けよ俺。 |
「いくよ、ソウル」 赤いエナメルが足元でパカパカ言ってる。……似合ってない。恐ろしく似合ってない。 「……何怒ってんだよ」 「怒ってません」 髪の毛がくるくるカールしてる。白のカーディガンにはチョウチョの意匠。 「さよか」 「連続通り魔の囮なんだからこういう格好が適当なの!あたしの趣味じゃない!」 「俺、別に何も言ってねぇだろ?」 「うっさいなー、黙って歩けないの!?」 ヒラヒラピンク色サテンのスカート、ポーチは何とビックリうさぎちゃんだぜ。 「アンタにロリコン趣味があったなんて知らなかったわ」 「……ロリコンってお前、歳相応の格好だろ? 大体、ロリータっつのはもっとこうフリルとレースでビラビラの重たいスカートをだな」 「うるさい黙れ。それ以上言ったらお前の柄をボキリと折ってやる」 ……本当にお前はもうちょっと女の子らしく出来ねぇのか…… 眉をビッと釣り上げて口元はぎゅっと引き締められて、負けないぞ掛かって来いって、そういう顔の女を狙ってくる通り魔はなかなか居ないと思うぞ。歩き方だって大股でさ、ガサツなんだよ。 「なぁ、マカ」 「なによ」 「ちょっとゆっくり歩いてみ。で、肩の力を抜く。ポーチはこう、袈裟懸けにして……はいそこでにっこり笑って『こんばんは、今日はいい月ですね』って言ってみ」 「なんで」 「いーから。そら、眉を釣り上げない。笑って笑って、はい台詞」 「こ、こんばんは、きょうはいいつきですね?」 「あー。違う違う違う。力入りすぎ。もっとフツーに笑ってみろよ。いつもみたいにサ」 ふー、と大きなため息をついてマカが眉間に寄せた皺をぱっと振り払うようにして笑った。 「こんばんは。今日はいい月ですね」 にっこり。 よそ行きの笑顔、よそ行きの声、よそ行きの服、よそ行きの靴。そんなものに身を包んだよそ行きのマカが俺に笑いかける。こんばんは。今日はいい月ですね。……おう、可愛いじゃん。 ……でもなーんか違う。そうじゃねぇ。そーじゃねぇんだよなー、マカは。 「……だめだ、お前こういうのホントに似合わねぇなぁ……」 はぁとため息をついて両肩の高さに手の平を持ち上げた瞬間、額に赤いパンプスがストライクした。 「そうそう、お前はそういう方が似合ってる」 14:24 2008/11/21 おでにしてはスゲー珍しいコメディ風。文句付けるソウルくんの顔は多分赤い。 |
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