かなみがオレを見ている。じっとオレの挙動を見ている。 「な、なんだよ」 「別に」 背を向けて用意されたキレーに畳んであるシャツにおずおずと手を伸ばし、くたびれた寝間着代わりのTシャツを脱ごうが脱ぐまいか一瞬迷って、もう一度かなみの方を向いた。……やっぱり見てる。 「スケベ!」 おどけてみせてもクスリとすら笑わず。不発。 ため息付いてTシャツを脱いだ。サラサラのシャツに腕を通して、いつものジャケットに着替える。 ……流石にかなみの目の前でズボン脱ぐ勇気はないからコイツは後回しにしとこう。 「……怒ってる?」 「別に」 ツン、とあからさまにそっぽを向いて、抱きしめたままの枕に顎を埋めた。……怒ってんじゃねぇか。 「ごめんな。わりぃ。すまねぇ、許せ。うちに居るって約束の日に仕事入れて悪かった」 いつものセリフ、いつもの謝罪。これ以上ないオレの精神的土下座。最大級の謝辞。 「許して欲しい?」 「ほしい」 「なんでもする?」 「するする」 思いっきり眉を下げたオレに毅然とした態度でかなみが自分の蹲ってるベッドの隣りを叩いた。スゴスゴとその場に向かい、ベッドに腰掛けた途端、ちょっと驚くぐらい凄い力で引き倒されてしまった。朝日の刺す窓辺、目の前に埃の影が舞う。のっしりとかなみがオレの腹の上に陣取って、腰と首にあのちっこくて短い手を廻し…… 「ちょ、ちょっ……おいっ!?」 否応無く少女の顔が近付いてくる。オレは慌てて顔の前に手の平を出し、ぎゅっと目を閉じてしまった。人間、本当に怖いときって消極的になるもんだなぁ。 「何でもするって言ったぁ」 「だってでもお前」 「言ったぁ」 あとはもう、覚えてない。いつの間に手がどっかに追いやられたのかも知らない。気が付いたら君島の車の助手席に居た。 「――――――カズマぁ……お前、口んとこ涎ついてんぞ。」 君島がオレの昨日と同じズボンを一瞥して何もかも見透かしたように笑ったよーな気がした。 ……仕事?手につくわきゃねーだろそんなモン。 12:39 2008/07/03 攻め攻めかなみん。不調だなぁ……一気に書きすぎたか。 |
かなみは歌をうたう。 最初の頃は碌に口もきかなかった。……“きけなかった”風ではねぇけど、やっぱ口数は妙に少なくて、ヘンなガキだと思っていた。 「よう、かなみ」 君島が何でもいいから話し掛けろというので、オレはかなみに何かといっては話し掛けた。君島みたく無駄口を叩くのは好きでないし、そもそも何を話せばいいのか皆目検討が付かないので、オレはただただかなみに質問をする。 「お前うたうの上手いな」 我ながら見え透いたお世辞。 だがそれにさえ彼女は恥かしそうに笑みを零して、はにかんだ。 聞けば歳は6つらしい。誕生日は不明。ただ夏が6回来たらしいニュアンスの話をしたことがある。だから多分6歳。……生まれたばかりの頃の夏を覚えている筈はないから、彼女に歳を教える人間が側に居たのだろう。ま、オレだって自分の生まれた月すら知らんし、おあいこか。 「短い歌だな。なんて曲だ?」 ちょっと眉を顰めて見せて、首をかしげる。 「この先も題名も知らないの」 かなみは歌をうたう。 答えはもたらされるはず、あるがままに、あるがままに。 オレはそれを聞きながら少し目を閉じた。窓の外にそぼ降る雨の音が聞こえている。 答えはもたらされるはず、あるがままに、あるがままに。 短くて耳障りのよい曲。 最初の頃は碌に口もきかなかった。 今は時々、歌もうたう。 17:29 2008/07/07 ちょっとづつ打ち解けてゆく二人。それは二人が変わっていこうとするから。 |
開いた胸元に指を滑り込ませた。すっかり冷えてしまっている。細い首筋も、ひんやり冷たい。 どくどくと鼓動が指先に伝わってきて、その力強い脈がくすぐったくさえ感じられた。 星明りは弱々しくてよく見えない。 ただ簡素なベッドで毛布に包まって一人眠るかなみの目尻に光るものは見えた。 ……胸クソの悪ぃモンだきゃぁキッチリ見えやがって…… 冷たい肌はなかなか暖かくならない。 手の平で包むように服の下の肩を触った。きめの細かい子供の肌はさらさらすべらかで、触ると心地いい。ふにゃふにゃで柔らかいのかと思ったら、意外に強い弾力があって面白かった。 そんな風に触っても、冷たい肌は温まらない。 余程長い間この格好のままで居たのか、自分の手が冷たさにジンジンと痺れてきやがる。 ――――――ちがう。 指に鼓動が移ったように指がどっくんどっくんうるさい。 柔らかく冷たいかなみの肌、触れている自分の手、薄く沈んでいる自分の指。 あるかないか、見ただけじゃわかんないかなみの乳房。 気が付いたら触ってた。 まだ全然膨らんでないし、独特の弾力もないし、さきっちょだって触ったくらいじゃわからない。 なのに、そこは不思議と柔らかくて温かかった。 「……成長……してんだな」 ゆっくり無粋な手を抜いて服の襟を正し、毛布を胸元にしっかり押し込んで、部屋を出た。 薄暗い廊下に忍び足で音を殺しながら、オレは土産がごっそり入っている袋をそっとかなみの部屋の前に置いたままに自分の部屋に滑り込む。 冷たい自分の布団がイヤでかなみの布団にもぐりこもうとした事も忘れた指がまだドキドキとうるさくて、あんまり喧しいから折ってやろうか。 節くれだった指はかなみの肌の柔らかさに歓喜している。 二・三度指を動かして 握るまねをした。 「……いっちょ前に女だねぇ」 16:34 2008/07/10 本人にその気はさっぱりないけど身体は正直などー見てもレイプ寸前のカズマ。 |
大が大声で笑っている。 私はそれを呆れ顔で見ていて、隣りにララモン、その隣りにガオモン、その隣りにトーマ。 大はアグモンの陰に隠れていて顔がよく見えない。 でもいるの。 そこにいるの。 隣りにララモン、その隣りにガオモン、その隣りにトーマ。 大が大声で笑っている。 大が目の前で笑いながら座っている。 ……あれ、なんで芝生? なんでDATSの制服着てるの? ねぇララモン。 振り返っても誰も居なくて、ただただ大の脳天気な笑い声だけが響いている。 草原には風が吹いていて、わたしは一人先の見えないその真ん中に立っていた。 楽しそうな笑い声が今も響いている。 「ねぇ大、どこ?」 本当はわかっている。これがいつも見る夢だって。目が覚めてすぐに忘れる夢だって事を。 「ちゃんと居るよね?」 笑い声は途切れる事がなく、穏やかに響いている。 『いるよ』 不意にあの声がした。 『いつもな』 目が覚めたら忘れてしまう淡い夢。思い出すことも出来ない半端な記憶。 そんなときにでもわたしはあんたの事を思っている。 あんたもそうなら、いいと思う。 17:31 2008/07/28 ワオ。なんだこりゃ。乙女淑乃、そしてクラッシュ。つーか大死んでるみてぇ。 |
男の子がグラウンドに一人傘を差して佇んでいる。 わたしはその黄色い傘を差している男の子をじっと見るために、窓辺に張り付いている。 傘の男の子は煙る雨の向こうに居て、わたしは水滴で濁るガラスのこちらに居て。 透明の隔たりがわたし達を分ける。 雨の音は激しさを増して 風の音は強さを増して ただ二人の間に絶望的な空間の隔たり。 あめなんか かぜなんか きょりなんか 関係ないのに、それを言い訳にして進まないのはわたし自身。 ガラスの向こう側の水滴の軌跡を指で辿りながら、いつか見た誰かの涙のようだと思った。 指が痛む。伝うもののない隔たりが心臓の拍動と同じ痛みをつれてくる。 苦しい。切なくてもどかしい。じれったい心が疎ましい。 なんて言えばいいの どうしたらいいの 何が足りないの うつむくわたしと、グラウンドのあなた そこに言葉はなく そこに意思はなく そこに動機はなく ただ雨が降り、風が吹き、二人の間に絶望的な空間の隔たり。 14:44 2008/08/21 2.5話のリファイン光ミミを中断して書いてるのがこんなんとか。順調に腐ってんなぁデジモン02。今度こそ腐って終わりじゃなく、ちゃんと軟着陸させる予定。ほんとだよっ。 |
「なぁなぁ、武器になってる時ってどんな気持ちだ?」 授業が終ってブラックスターが話し掛けてきた。珍しく隣にはいつもいる椿がいない。 「椿に聞けよ」 「バカ、聞けるか」 「……あん?」 「だから、マカに身体中触られてるのってどんな感じだって聞いてんだ」 ああこいつバカだったんだっけ。 「――――――変身してる時の感覚は殆どベツモノ。嬉しい事も楽しい事もねーよ」 「マカのスカート短けーから覗き放題ーとか?」 訂正。こいつ大バカだったんだっけ。 「……そんなもんもう見飽きたぜ」 ひゅう、クールだねぇ。からかうようにブラックスターが口笛を吹く。 「職人はどうだよ。形が変わるとは言え、人間ぶん回してる時の心境は興味ある」 オレは少し意地の悪い質問を投げ掛けてこれ以上のバカな質問を止めさせる。 「他はどうか知らんが、椿とオレは一心同体だからな。別に何の感慨も湧かねぇ」 「へぇ」 「オレが死ぬ時が椿の死ぬ時だし、椿が壊れる時はオレも壊れる」 「………………相思相愛ごちそうさま」 一心同体という言葉が寒々しくさえ聞こえた。 同じように出会い、同じように時間を過ごし、同じように目指したのに、一体何が違うのか。 椿はブラックスターを、ブラックスターは椿を、自分自身と変わらぬ物だと認識している。 なのにオレたちは。 「ソーシソーアイってのはちょっと違うな、上手くは言えねーけど」 それよか、お前んとこはどうなんだよ。最近マカ機嫌悪そーじゃねぇか。脅威的な目聡さでブラックスターが訊ねるので、オレはあいつの虫の居所の具合までは把握してないと返した。 「椿はチューしたら大抵機嫌直るぞ」 お節介焼きが気楽に笑ってそんな突拍子もないことを言うので、オレはクールに反逆する。 「潔癖マカちゃんにフケツ!とか言われたら俺立ち直れねー」 ……やべ、あいつの親父みたいなこと言っちまった。 15:58 2008/08/21 ソウルイーターです。出ると思った?読者の予想を悉く裏切らない男スパイダーマン!ソウル授業復帰直後の話。ソウルイーターはポップでキッチュでいいよね。どんな話になるのかな。 |
錐揉みしながら落ちてゆく赤い制服を見た瞬間、頭が真っ白になって。 ああ、あいつ死ぬな。 そう思った。 「地上300メートルで紐なしバンジー!?あんた死にたいの!?」 その言葉にひょい、とこちらを向いて大があたしの顔を見る。 「でもお前助けに来たじゃねぇか」 彼の顔には恐怖も疑問も不安さえも見当たらない。 「間に合わなかったらどうする気だったワケ!?」 あたしは怖くてまだ震えているってのに。 「……お前なら間に合わせる」 あっけらかんとバカな返事が返ってきた。 「そーゆー事を聞いてんじゃないでしょうが!」 あたしはもう全身が怒りで震えてくる。 「大体淑乃がデジタマ落とすから悪ィんだろー。何で感謝より説教の方が早ェんだ」 唇を尖らせて、いっそ誇らしげなクソガキがついに矛先をあたしに向けた。 「デジタマは落とそうがぶん殴ろうがデーターなんだから損傷無いわ! でも生身のあんたはどうやっても死ぬの!ここはデジタルワールドじゃない!」 首根っこを襟ごと掴んでドン、とコンクリートの壁に押し付ける。これは言葉に詰まったのでも、反論に自信がなかったのでもなくて、理性が情動を押えきれなくなったから。 「あんた向こう行って線切れたんじゃないの!?金輪際こういう信じらんない事しないで頂戴!」 憤怒、憤怒、憤怒。もう止められない。止めたくない。憤怒。憤怒。憤怒。 「ああ、わかった」 バカがくしゃっとあたしの髪を撫でる。 「心配させて悪い。……もうしねーよ」 これ以上なくその気楽な笑顔がムカついて、ぶん殴った。もちろんグーで。 11:28 2008/08/28 淑乃の精神が擦り切れたらそれはそれで面白い。タイトルはモノカキさんに都々逸五十五のお題より。 |
わたしは右手を伸ばします。 カズくんは左手で掴みます。 夕日がゆっくり地面に解けてゆくのを見ながら、夕日の向こうにある家に帰ります。 カズくんの右手にはどっさりの食料品と日用品。今日は特別に大奮発です。 だってすごくたくさん店が出てたから。市場のおじさんが「本土の放出品が船ごと落ちてた」なんてよく分からない事を言ってたけれど、すれ違うみんながすごくニコニコしてたのできっといいことが起きたんだと思います。 「珍しいもんいっぱいあったなぁ」 燃える色の地面が歪みながらゆらゆら震えていて、少し冷たい風が頬と髪を撫でました。 私の左手には赤い傘。私の頭には赤いバンダナ。赤は私のラッキーカラーです。 「カズくん重くない? 荷物持とうか?」 に、と笑っただけでそれ以上カズくんは何も言いませんでした。 私はそれに釣られて笑って、ちょっと強く繋いでいた手を握りなおします。 夕日に照らされていたカズくんは全身真っ赤な色をしています。 「カズくん真っ赤だよ」 「かなみもすげー色」 空がぶどう色に染まって、雲が薔薇色に染まって、それはすごい光景だったけれど。 「今日はいっぱい石鹸とかシャンプーとか買えたからお風呂楽しみ!すぐ沸かすからね!」 カズくんの顔が一番真っ赤でした。 ……なんで? 16:23 2008/08/28 なにエロいこと考えてんだよカズマ! |
歩いている。彼女が歩いている。僕の後姿を見つめながら。 「ミミさん」 返事はない。彼女は返事をしない。僕の後姿を睨みながら。 「あの、ミミさん」 ランドセルの中身が鳴る。歩道橋をスニーカーの裏で叩く音。 「聞こえてますよね」 それでも僕は足を止めないし、彼女も道をたがえない。 「何をそんなに怒ってるんですか」 見当はついている。でも納得はいかない。僕だって怒っている。 「ちゃんと食べましたよ、少なくとも僕が頂いた分は全部」 まずい、と本音をみんなと同じ調子で口に出したのは悪かったと思うけど。 「僕が怒られる理由はないと思うんですが」 オクラとチョコは相性以前の問題だときっぱり言い切ったとして僕に何の非があろうか。 「言いたい事があるなら言ってください」 無言でただ二足のスニーカーがアスファルトを踏んづけるリズムは変わらない。 「ミミさん」 ぼくが一体何をしたって言うんだ。なぜ僕だけが責められるんだ。 「返事してくださいミミさん」 こうなったら意地でも振り向かない。ああ、絶対に振り向いてなんかやるもんか。 「二学期最初の給食の時」 やっと彼女の声がして。 「出たじゃん。オクラ。……美味しそうに食べてたから、喜ぶと思ったの」 僕は一歩後ろを歩いてる彼女を振り返った。 「喜びましたよ」 「うそ。いま怒ってるじゃない」 「みんなに同じチョコ配った事にね」 僕は一歩先を歩いている。 彼女は一歩後ろを歩いている。 僕の左手はピンと伸びていて、彼女の右手もピンと伸びている。 アスファルトに映る影は、一つだけ。 17:13 2008/08/28 拷問バレンタイン。ミミちゃんの事だから絶対に生一本。光子郎のゲテ喰い! |
外で見るカズくんの手は大抵ポケットに入ってます。 でもうちに居るときは結構無防備です。 てゆーか隙だらけ。 なので、いたずら心を擽られます。 何の気なしにベッドから垂れ落ちている右手をつついてみました。 無反応。 人差し指を掴んでみました。 かすかに動いたような気もしなくはないけど、やっぱり特に反応はありません。 思い切って親指と小指以外をぎゅっと握ってみました。 いままで死んだみたいに自由になってたカズくんの右手が瞬く間もないほどの速さで私の手首を掴み上げてベッドの上に一本釣りよろしくそのまま引っ張り上げられてしまいました。 「うひゃー!」 「……なんだ、かなみか」 「――――――誰だと思ったの?」 しわだらけのシーツをぐちゃぐちゃにひとまとめにして、わたしを腕を掴んだまま軽がるとベッドの上にかいた胡坐の上に乗せました。 「久しぶりに帰ってきたんだからゆっくり寝かせろよおめーは」 ぐた、とうな垂れるカズくんがわたしのお腹に顔をうずめたまま唸ります。 「もうお昼だよ。お腹減ってない?」 「もー眠くてダルくてメシどころじゃねーんだっつーのー……」 「珍しい、カズくんの優先順位の一番って絶対ゴハン……――――――カズくん?」 ぐーぐーぐーぐー。 お腹の上でいびきが聞こえました。……し、信じられない!ふつう喋ってる途中に寝る!? 「おーいカズくーん、離してー」 ゆるく手足をばたつかせてみたものの、お腹にずっしりカズくんの上半身が乗っているので身動きが取れないのは考えなくてもわかったので、上半身を反らしてベッドから反転した窓を眺めました。 真四角に少し足りない歪んだサッシに切り取られた青空にはところどころ白い雲が浮かんでいます。 どこからか鳥の鳴き声が聞こえて、しばらく耳を澄ましてみました。 ……ぐぅ〜…… 「やだ、鳴っちゃった」 照れくさくて顔を元に戻したら、意地悪そうなニヤニヤ顔がお腹の上に乗っていました。 「かなみの腹の虫すげー音」 ひゃっひゃっひゃっひゃ、と含み笑いみたいな引き笑いみたいな変な声でカズくんが笑い声を上げました。 「だ!だって!もうお昼なんだもん!お腹も鳴るよ!」 「ぐるぐるぐるーっつったぞ、腹」 「もー!そんなとこ耳つけてたら大きく聞こえて当たり前なの!カズくんのばかっ!」 いひゃひゃひゃひゃ。 カズくんが掴んだままのわたしの腕をぶんぶん振り回して笑い続けます。 その大きな手の暖かさが、なんだか無性に切なくなったのは何故なのでしょう。 21:58 2008/09/17 キャッキャウフフ。なーんにも考えずにキャッキャウフフ。 |
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