君とキスがしたいな

※ソウルイーター第71〜73話を読んでからお楽しみ下さい※

 ……がーん。
 ほんとにパティとヤってしまった。
 どうしよう。
 今更どうもこうもないんだけど。
 ああ身体が痛い。肌が重さを覚えてしまった。圧し掛かられる温かさと苦しさ。むず痒い。
 そこらじゅうがビリビリ電気を帯びてるから声を上げて走りまわりたい。嬉しいんじゃなくて、恥ずかしくて。
 まだ胸がずきずきしてる。……ううううう……
 「なー、なー」
 うるせぇな、俺様は大絶賛落ち込み中だ空気読め。
 「なんだよ、やい、こっち向けブラックスター」
 やめろその声で俺様の名前を呼ぶんじゃない。
 「人が呼んでんだろ……寝てんのか?」
 寝るかボケ! どんな呑気キャラだよ!
 服のどこかの裾だか何だかがくいくいと引っ張られていた。その度に普段は不要なはずの胸の痛みが増した。物理的にも、精神的にも。
 くそう、お前女の時はそんな可愛いコトしやしねぇ癖に。甘えたところなんか俺、イッペンも見たことねぇぞ。
 いつも何考えてっか解らないバカキャラで、本心なんか話してもくれねぇ。
 ……ああそういえばソウルとはちょっと仲良しだよなお前。
 マカもそうだ。ソウルには良く懐いてる。
 あいつばっか、本当にずるい。
 「―――――――おいブラックスター!」
 伏せてた肩をぐっと引っ張られて顔が青空の方を向く。
 「……泣いてんのか?」
 「泣いてない!」
 どういう目ェしてんだこいつは。泣くか。泣くか。泣くわけねえ。
 俺様を一体誰だと思ってやがる。
 「……ふうん」
 大体泣く理由がねぇだろ、俺様が泣く根拠を説明しろ!
 いろいろ言いたい事はあるけれど、俺はそれ以上喋らない。口を開いたら妙な罵倒をしてしまいそうだったからではないからな。……本当だ。
 「じゃあなァに拗ねてンだよ」
 包帯を巻いた腕を優に封じ込める大きな手が手首を優しく握る。
 ……やめろ、やめろったら。
 「目ェ逸らすなよ。一回限りだろ? これで終了だよ。後腐れなく、御破算だ」
 低い声。でも喋り方の癖は間違いなく。
 「もう二度と永遠にこんな事は起こらない」
 昏い目がニット帽の影からちらちらと見える。いつもの青い瞳。
 「安心しろ、本から出れば何もかも元通りさ」
 パティが笑った顔が怖い。震えが来るほどだ。
 「そうか」
 「そうとも」
 「なら、楽しまなきゃ損だな」
 「……ああァ?」
 “わたし”は罪の刺青を背負った腕を“彼”の首筋に回して引き寄せる。
 胸が潰れた。物理的にも、精神的にも。
 「ちゅ〜してくれ。気持ちのいい奴をもう一回」
 言って笑った。
 どうか怖い顔になっていませんようにと、何かに祈りながら。
 目を閉じたら頬に温い舌が走って思わず顔が緩んだ。

 なんだよ、泣いてなんかねぇってば。



 11:05 2010/07/21 パティオと★子ちゃん3部作しゅーりょー。さく先生がまたすごい絵を魅せてくださったので、しでかしてみるテスツ。先生まじ川井のマインドアサシン。パテブラのド本気エロの需要がご本人から来た場合のみこの“腰が抜けて立てなくなるまで★子さんにお口で奉仕されるパティオさんの話”をエロパロ板にですね……あ、ハイスイマセン黙ります。






月に叢雲、花に風

  ネットdeデートってのも飽き始めた頃、旧秋の名月を見に行こうと先輩が言い出したので、僕がとあるマンションの踊り場がものすごく景色がいいと提案すると、二人申し合わせて土曜夜の八時半にこっそりピクニックをすることになった。わ、すごい僕。ジゴロだ。
 「……うわー」
 比較的明かりの少ない住宅街とは言え、都会中の都会で月光の冴えを堪能できる訳もなく、ぼんやり霞む空の穴を二人で見上げる。
 「田舎だと月の光で影踏みが出来るの」
 そう声を上げる夏希先輩の横顔を恭しくも盗み見て、僕はぼんやり返事をする。
 ああ、『月より先輩のがキレーです!』……なんて洒落た事が言える性格の人になりたい……
 どうせ今勇気を出して言っても“似合わない!”とか何とかで笑われるんだろうと、僕は一人目線を逸らす。
 「あ、そーだ」
 ポンと手を叩いた先輩が肩に掛けてあったトートバッグからラップにくるまれた白いものを取り出し僕に渡した。
 「はいお月見団子」
 何の気なしで当たり前のように。
 ――――――――だ、団子? な、なんで?
 「……よ、用意周到ですね」
 他にコメントが思いつかない僕は出来るだけ平坦な声を絞り出してそう返した。
 「ホントは関東のお月見団子って具入れちゃ駄目らしいんだけど、関西は入れるのが普通なんだって、今日テレビでやってたから」
 餡子ときな粉と海苔、これお茶ね。先輩がそう言ってぽんぽんとバッグから取り出しては僕に渡す。……す、すごいなこの人は。
 今まで自分の事を理性的となんか思った事もなかったけれど、夏希先輩の感覚的な行動には毎度驚いてばかりだ。付き合いを始めてから夏希先輩の天然っぷりには多少慣れたつもりだったけれど、一週間に一度はこういう風に僕をビビらせてくれて本当に飽きない。……失礼上等で言えば、むしろ非常に興味深い。
 「ここ、余所ん家の隣なんですけど……」
 「あ、やっぱりお行儀悪いかな?」
 そこは問題じゃないと言いかけた僕は、思い直して誰に迷惑掛けてるわけでなし、静かにお月見するくらいならきっと許してくれるだろうと首を振った。
 憧れてた学校のアイドルは、近づいてみると意外に面白くて可愛い人でした。
 ……この先もっと近づいたら一体彼女は何を見せてくれるのかな? と、不安と期待が入り混じったみたいな不思議な気持で思う。
 「このお餅、柔らかくて美味しい」
 「うん、お父さんが去年の騒動の時に餅搗きマシーン買ってきたの覚えてるでしょ。あれから家中でハマっちゃって……おかげで受験中の夜食はもっぱら餅でさ、まー太ったの太らないのったらないわよ」
 「えっこれ先輩の手作りですか!」
 「? うん。なんで?」
 「す、すごい……家庭的ですね……」
 「……餅くらいで感動されるとか……あたし一体どういうイメージなの……」
 「普通の女子高生はお餅とか作らないと思います! そんな女子高生見たことない!」
 「ほら、餅って英語でライスケーキっていうからお菓子作りと同じ範疇じゃない?」
 「ち、違うと思います……絶対……」
 お正月に田舎で食べる臼と杵で搗いた餅はこんなもんじゃないのよ! と先輩がまた田舎自慢を始めたので僕は黙々と餅を食べる。まだほんのり暖かくて本当に旨い。
 雲に隠れ始めた月などそっちのけで二人して階段の踊り場で餅を食べていると、思い付きみたいに先輩がほっぺたに小豆などくっつけながら言った。
 「ねぇ、前の遠出は健二くんが海って決めたから次のデートは紅葉を見に山とかどう?」
 「……いや、僕一応受験生なんですけど……」
 「二日くらいでどうこうなるような勉強の仕方なの? それじゃ私と同じ東大なんて無理よ」
 ふふん、と嫌に“東大”の部分を強調しながら先輩が言った。……この人は……
 「せ、先輩はっ! 受験生のナイーブと苦悩とゆーものをすっかり忘れてしまっているっ!」
 プルプル震える人差し指を先輩に突きつけて涙目になった。だいたい僕の志望は我が国の最高学府の中でも難関中の難関と言われる……って、ちょっと待て。
 二日?
 ……え?
 …………そ、それって……と、泊まり、って、こ、と?
 ブレブレの喉を無理やりに動かしてそれを言葉にしようとしたら背中から声がかかった。
 「何やってんだ健二、人んチの横で」
 はっと振り向くと窓から佐久間が顔を覗かせて口に手を当てニヤニヤしていやがる。
 「あら隅に置けない子ね、俺の教えてやった天体観測ポジションでデートですクァ?」
 嫌味ったらしく彼がそんな事を言い、先輩に俺も混ぜて♪と声を上げたのを聞きながら、溜息ついて薄雲を纏った月を見上げ、嘆く。
 「くっ……好事魔多しとはこの事だ……っ!」
 「あははは。なんだ、お前ここまで来て国語の勉強かよ?」



 11:30 2010/04/09初稿・15:29 2010/08/03二稿 サマーウォーズが金曜ロードショー初登場と聞いて早速夏コミ本没救済企画。あるみ先生がお渡しした選択SSの全部にイラストを付けてくれるという偉業を達成したくださったのでこれも載っけずにはおられないだろJK。 初稿は夏希のトンデモっぷりを核に、二稿はそれを許容する健二を主題にしてみた。健二くん、夏希はめんどくせー女だと思うケド、おめーも結構な性分だから安心するといいよ。






PERFECT GOD

 薄暗い部屋にはステンドグラスから差し込む陽が落とす影が冴え冴えとしているだけで、他には家具ひとつもない。部屋は広くはなく、さりとて狭くもない。ただ空っぽなだけで、それ以上何の意味も持たない部屋に男が一人と、少年が一人居るばかりだ。
 「口が過ぎますよ、どこで誰が聞いているか解らない。―――――――お前の意思は私の意思と同等と見る者がある。口を慎め」
 「……申し訳ありません……」
 男がそう言うと、傍らに立ち尽くしていた少年が更にいっそう身を縮める。
 その様子を歯牙にもかけず、男はまるで壁にでも話しかけるように言った。
 「私はね、世界を牛耳るネットワークなんかより彼が欲しかったんですよ。
 痺れませんか、あれほどのパワーと狂気を持ちながら他者に己の全てを委ねてしまえる脆弱を捨て去ることもなく800年の時を超えて来た発狂……あんなにも濁りのない禍々しさは稀だ」
 「……コレクションに値する程、ですか」
 少年は少なからず歯噛みしながら答えた。自分以外に男の興味が向かうことに我慢が出来ないのだろう。
 「まさか。所詮は余興、唯一じゃない。
 私はねゴフェル、似た物や重複なんかに興味を持てるほど暇じゃあない。あの程度の忠誠心で私のコレクション足れる訳はない。……最も、彼はだからこそ私の目についたのだけれども」
 「……だからこそ?」
 名を呼ばれ、少しほっとしながらも男の機嫌を損ねず話を促すよう、彼は努める。
 「そう。あんなに人間くさい男は久しぶりに見ましたからね。ただの人間の癖に見上げた狂いっぷりだ。目的と手段が結果的に入れ替わってる辺りの弱さも含めて、理想的・模範的な人間ですよ」
 「……はぁ」
 生返事を返す以外にどうして良いのか分からないといった表情の少年を一瞥して、男がため息がてらに言う。
 「お前には解らないでしょうね、化けの皮がどんどん剥がれてゆく退廃を愛でる高尚は。
 “お前を殺せればそれでいい”と言ったんですよ、己の発狂で世界を壊してやるんだと息巻いていたはずの男が。アラクノフォビアをただの手段だと本気で思っていたはずの男の最後の望みが“アラクネを殺した奴を殺す”になっていた。
 ……フフフ、人間ってのは面白いですねぇ……いや、実に楽しい。全く期待を裏切らない」
 その笑みを見た者が正気ならば悪魔や地獄の鬼だと評し、潔癖者ならば或いは私刑(リンチ)だと唾棄し、夢見る少女ならば神と崇めたのかも知れなかった。
 そういうアルカイック・スマイルを浮かべる男には、感情がない。笑っているのにも拘らず、それに何の意味も温度もないのだ。
 さながら、このからっぽな部屋のように。
 「名も身体も魂さえも捨てても、たった一人の女の妄言を支えたかったんですかねぇ……ここまで来るとあの二人の間に何かロマンスを感じずには居られません。……ま、どちらも魂ごと失われてしまった今となっては知る由もありませんが」
 「ノア様はそれを愛だと仰るのですか?」
 「……そんなものどうでもいいんですよゴフェル。愛などというその辺に転がってるものなど問題にならない」
 少年はこの男に感情を求めたのだろう。それが怒りであれ呆れであれ、なんであれ。
 だが男はただそれを一笑に付す。
 感情など存在しない顔で。
 「あいつの魂を何が支えていようと、あいつの望みが何であろうと、そんな事は私の関心を引かない。
 私が見たかったのはギリコの壊れゆく姿だけだ。滑稽ではないか、誰にも揺るがせなかった強固な魂が、あんな小娘とガキの絆とやらに負けたんですよ。
 800年、あいつは無駄足を踏んだんだ! こんなに面白い余興はなかろうが!」
 男はそういってまた笑った。
 感情のない顔で。
 人形のように。
 藁のように。
 少年はその高笑いに背筋を凍りつかせる。まるで神か何かを見ているようだ。理解が出来ない。どこに同調したらいいのかさっぱり分からない。
 残酷心を衒っているのですらなく、目の前の男は笑っている。
 でも一体何に?
 哀れな男の無様を笑っているのでもないのに、ただ目の前の男は崩壊した魂を肴に無感情な笑い声を上げている。
 「魂の循環! 笑わせる! 狂気に食われて自滅だ!? こんな間抜けな死に際があるものか!」
 恐ろしい。
 理解が出来ない。
 男にとって“世界は蔑ろ”なのだと悟らずには居られない。
 「……しかし、或いは彼の死はあの小娘達に致命的な爪を立てたかも知れませんよ。『あんな強大な力を持った連中さえ勝てなかった狂気に、さて我々は立ち向かえるのか?』とね」
 少年は俯きながら思う。
 この男にとって、有象無象全てが同じものなのだろうと。
 自分も、珍しい魂を持ったいけ好かない小娘も、愛とやらを形にし損ねた800年の妄執も、皆押しなべて平等に、ただそこにある物体でしかない。だからこそ彼は言うのだろう。“小娘とガキの絆とやらにギリコが負けた”と。自滅であろうが敗北であろうか、彼にとってそんなことは問題にもならない。
 『ノコギリは自分の想いに食われたに過ぎない。子供のおままごとに800年の重みが負けるものか』
 少年は口の悪い新参者を気にも留めていなかったが、あの小娘の格を上げるのが癪に障ったのか口の中だけでそう断じる。
 「愉快ではありませんか! 我々は死によって繋がってゆくよう!」
 高笑いを続ける男に跪きながら、少年は、それでも、と思う。
 それでも、この男の興味を引き続けたい、と。
 『……この感情が例え作られたものであったとしても』
 ただ、少年は思う。
 あの小娘やあの蜘蛛の魔女のように、ただ一心に想われたい、と。
 あの銀髪の少年やあの魔凶器のように、ただ一身に想いたい、と。
 『この世に生まれた者の定めなのならば』
 例えそれが神であろうとも。
 『あの神父のように、ただ“神というもの”を信じるのではなく』
 “神のような彼”を信じたい。



 23:04 2010/08/20 第88弾。楽しいノア様本にコレを載せようと思いますと言い出す俺が一番狂気。みおのすけ先生ごめんなさい。……ノア様とゆーよりは、ゴフェルの話だなコレ……ノア様が解らないにも程があったので10本ほどこの手の短い話でノア様のキャラ立てに挑戦。そして敗北。ノア様難しすぎる。






死神の救世

 「このイザヤ・オリハラってコはホントろくでもないねぇ」
 死神様がそう言ってため息をついた。
 アタシはそれをソファに深く沈みながら見ている。
 「……一番救えない種類の人間だよ」
 欲望に忠実なのも、利己的なのも、罪の意識が弱いのも、社会規範を逸脱するパラノイア加減も、大したことじゃない。鏡に向かったまま振り向きもしない死神様の背越しに、アタシは綺麗な顔に隠された魂の揺らめきを見ている。
 アタシは職人みたいな技術はないので生きている人間の魂なんか見えない。だけど、死神様の寝室にだけある……通称『死神の目』……特製の鏡を通せば、単なる人間にも死神様と同じように世界を見る事が出来るのだ。
 「神なんてろくでもないのに」
 世界中にこの手の“神になりたい”人間は居るから大して珍しくもないケド。死神様が呆れたのとは少しだけ違うニュアンスの言葉尻で文章を締めたのが気になって、訊ねる。
 「……魔女の力も死神の力も、世間一般に浸透してるもんじゃない。死武専の存在だって噂レベル以上の事を知ろうとしたらこちらの情報網に引っ掛かる。そーゆーモンをね、このコは自力で確信を持ち、引きずり出そうとしてるのさ」
 デュラハンの存在が国外に出ちゃったのはまずったねェ……かと言ってあの辺はワタシの管轄外だし……デュラハンは協同組合がうるさくて死神と言えどあんま強く言えないのよォ。
 死神が見返るように身体をねじり、そのままゆるゆると足音などしないままこちらにやって来た。ソファの隣に空気の動きさえ感じられぬ“死”が佇んでいる。
 ――――協同組合とはまた俗な話だなぁ――――
 「死を司ってると言っても時間の流れの中に存在してるのは、生き物もそうでない者も同じだからねェ。ほら、あの日本に居るデュラハンだってすっかり染まっちゃってるじゃない。そーゆーもんなのよ」
 人の影響力は恐ろしいよ。“死神”さえこの様だもの、デュラハンの娘が恋に落ちるなんて仕方がない事さ。囁きながら落ちてくる“死”がくすぐったくもあり、空恐ろしくもあり……その中間の感情で鏡の中の男が冷たい表情の美人にケレン味たっぷりで笑いかけているのを見て
 ――――イザヤ・オリハラも恋すりゃ変わりますよ――――
 アタシはそう言って笑った。
 オボコい仲間内で鈍ったと思われちゃ困る。オトメの恋に関する嗅覚をナメんじゃない、と昔取った杵柄を掲げつつ。
 「……してるさ、人間全てにね。
 しかも絶対に報われないって本人が一番よく知ってる。……だからこそ“人間って種そのものと無理心中を企ててる”んだよ、このコは」
 神話や伝説、空想の中に紛れ込んだ小さなブロックを拾集しながら我々の世界に肉薄せんとしている。そこになら自分の求めるものがあると信じているのだろうね。死神が憐れむような声でアタシの動かない手を取った。
 「自分の周りの世界と馴染めない人間は、どーして我々の世界になら居場所があると思うのかしら?」
 死神のキスは命を奪うのだそうだ。
 なんてロマンチックな話。
 ならばアタシは何度死なねばならないのかね。
 ――――死神様が慈悲深いとバレてんでしょう――――
 ソレを聞いた死神は、一瞬だけきょとんとして仮面を震わせて笑った。

 「自分の欲の為にエリザベスを車椅子なしで動けなくしたようなワタシが慈悲深いなんて、人間はギャグのセンスがある……!」

 地獄の底の窯の蓋が亡者の悲鳴で踊るような声で。
 ――――死神様、意外にペシミストじゃんねぇ――――
 楽観主義の塊のよーな妹を想いながら、アタシは微笑んだまま目を閉じる。そんな怖い声出してもダメだよ、死神の目を通さなくたってアタシには貴方の魂の揺らめきなんて手に取るように見えちゃうんだもの。
 「死神様、あの日本人と同じ魂の震え方してますよ」
 愛されたいのに悪者ぶって意地張ってる、あの“しょーがないコ”と、ね。



 15:13 2010/08/31 第89弾死リズ。デュラララ!!とうっかりコラボ。同人誌用ネタの一部救済。見ての通り見事に楽しい話じゃないので没。死神と交わると生命エネルギーとか吸い取られちゃうネタに絡ませて新セルの悲恋を死リズに被せて……みたいなのを考えたが、地球上にニーズを一切見い出せなかった。こんな話を嬉々として人に無理やり読ませようとする俺が一番死神であるというオチはいかがかな?\うるせー/ 新セル分より臨波分が高濃度なのは完全に俺の趣味。死神様が生きてリズが死ぬってのもロマンだよね。\うるせー/






イースターのたまご



 子供が欲しいなんて思ってなどなかった。
 欲しかったのは実験用ホモサピエンスの幼体であって、決して“子供”が欲しかったわけではないのだが、ちょうど条件に合うような幼体を適切に手に入れるためには盗んでくるだとか母体ごと浚ってくるだとかはリスクが大きすぎた為、魔力とかなりの体力を引き換えにすることを承知の上で、生むことにした。……父親? そんなものどうだっていいじゃない。それこそ無意味だわ。
 魔女は基本的に生殖能力が弱く、魔力で身体機能を増幅させないと子供が出来ない。そうでなければ寿命の長い魔女があっという間に増えて地に満ちてしまう。死神のように正しく“身を切って”子を成すため、出産直後の魔女は魔力を吐き出し切って非常に弱い。私のように身体すら縮んでしまう魔女だって少なくないのだ。
 今の身の丈は130センチあればよい方。魔力に至っては逆さに振っても出ない。
 それでも幼体がどうしても必要だった。
 どうしても、どうしても。
 例え自分の身を守る術を失ったとしても。
 「いいザマですね蛇の魔女」
 褐色の肌の男が帽子の向こうでそう言って笑ったのを苦々しく聞く。
 いつもならば胸を張り眉を吊り上げ自信たっぷりに笑い返してやったろうに、抱えている幼体がこの身体には大きすぎて身動きも取れやしない。
 「生殖能力がないと言われてる魔女も子を産むんですね、初めて知りましたよ!」
 それともどこからか浚ったのですかね。猫が獲物をいたぶるような顔の魔道師がクククと胸糞の悪い笑い方をしたのを機に、私は意を決して走り出した。
 体力、魔力、状況、地の理。全て分が悪くて涙も出ないけれど、大人しく捕まる義理も意味もない。……賭けは嫌いじゃない。今まで全てに勝って来た。今度も勝ってやる。
 「お嬢さんどこへ? おうちへ帰るのならばカボチャの馬車を用意しましょう」
 背後からは斥力とも引力ともつかぬ圧迫感が差し迫っている。捕まれば万事休す、逃げ出すことも適わず朽ち果てるだろう。
 息が切れ、足がもつれる。箒で飛べればこんな奴振り切るなんて訳もないのに! 頭の中に焦りと後悔と……恐怖。
 失敗や失策への不安ではなく、恐怖。
 私はその日、初めてそれを体感した。
 幼体などまた生めばいい。時間は掛かるかもしれないが不可能ではない。ここで死ぬよりはよっぽどマシだ。
 そんなことは頭で解っている。
 だけど私の身体は決して言うことを聞こうとしなかった。ただただ、幼い足取りで必死に地を駆けてゆく。
 哀れなものだ。惨めなものだ。
 母親になるとは、なんと不幸なのだ。
 脳が勝手に再生した言葉が急にリフレインされた。母親、母親、母親。いや違う私は研究者だ。母親、母親、母親。違う……違う!
 胸の中のお包みを握り締めながら眉を顰める生まれたての幼体が、不安そうにあぶあぶとワケの解らない事を言った。
 「……アナタのお陰で大災難だわ」
 口で幼体の顔に布を引っ張り覆いをして、私は走るスピードを上げた。背中に迫る魔道師がこちらを甘く見ているのならばまだ勝機はあるはずだと自分に言い聞かせながら。



 20:20 2010/03/19 さく先生絵の破壊力がすごかったので10分くらいででっち上げてみた。出来に関しては言及しないように。……子メデュと赤さんクロナ、そして謎の腐れ魔道師……ロマンやね……(うっとり
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