悪いことしましょ

 きょとんとした目が丸メガネの奥で驚いている。
 「しずちゃんがそんなこと言うなんて思わなかった」
 どうして? と尋ねるのもじれったくてわたしは彼の胸に顔を埋めた。
 「やっぱり初夜までとっとく?」
 自分で言ってて恥かしいから顔を見ない。声が上擦ってる。
 「……結婚、するんだねぇ僕たち」
 溜息を吐くのと同じタイミングでわたしの背中に彼の腕の重さが生まれ、何度か滑ってる。
 「そう。そしてたくさんエッチな事をするの」
 わざとそんなことを言う。嫌な言い方をする。
 「そ、そういうの、やめない? なんだか気後れするよ」
 心臓の鼓動はいつも通り穏やかで揺らがない。
 「意気地なしね」
 わたしはそれが悔しくてツンツンしてしまう。
 「そんなの子供の頃から知ってるじゃないか」
 まるで私ばかり好きみたいで歯痒いの。
 「あの時の方がずっと積極的だったわ」
 ぐいと顔を胸に深く埋めながら呟いた。ねえ、ねえ、もっと強く抱きしめてったら。そんなセリフ死んだって口に出さないけれど。
 「だって、あんまり綺麗になったからさ。触るのもったいなくて」
 照れもせずに彼がそう言った。十数年の月日を感じる。いつの間にそんなあしらい方を覚えたの?
 「だめ。いっぱい可愛がってもらう為に綺麗にしたんだから」
 丸メガネのあなた。目を閉じて思い出すわ。黄色いシャツに緑の半ズボン。鮮明に思い出すわ、頼りなかった頃のあなたを。恋する前のあなたを。わたしを恋に落としたあなたを。
 「希望に添えるよう努力はするよ」
 笑って彼が独り言のようにさらりと流した。
 「そんな涼しい顔してられるのも今のうちだけだわ」
 わたしはそれが、ことさら癪に障る。わたしばかり、苦しいなんて不公平よ!
 「……酔ってるね?」
 「当たり前でしょう……酔ってなきゃこんな事いえない……」
 ぎゅっと彼の胸のあたりの服を掴んだ力の加減で服のどこかの糸がぷつりと音を立て、やっとわたしは自分の声が震えているのを知ったのだ。あまりにも必死過ぎて、滑稽な話だけれども。
 「しずちゃん」
 「はい」
 「お嫁に貰う前に言っとくけど」
 「はい」
 「他所でお酒飲むの禁止ね」
 「…………別にお酒飲んだら淫乱になる訳じゃないのよ」
 「絶対禁止ね」
 にっこり笑う凄い迫力の笑顔。ああそうだったわ、あなた意外にここ一番は押しが強いのよね。
 「わ、わかりました」
 「僕ね、こう見えてものすごーく嫉妬深いから、浮気したら絶対刃傷沙汰になると思うんだ」
 ちょっと、怖いこと言わないでよ!
 「しずちゃんのこと信用してるけど、キミ意外に隙が多いからさ」
 一言も口を挟める気がしない。謎の威圧感。
 「浮気したら死んでやる」
 その一言で締めくくられたセリフがあんまり衝撃的だったので、しばらく脳が痺れたみたいに動かなかった。ようやくその恐慌から逃れてもうまく物が考えられない。
 「……ど、どうしてわたしだけが浮気する前提?」
 「僕が浮気できるほど甲斐性があると思うの」
 「意外にモテると思うんだけど」
 「人間以外にはね」
 「まぁ!まるでわたしが人間じゃないみたいに聞こえるわ!」
 「わが妻ながら好みはあんまり正常とは言えないと思うな」
 我が愛しの旦那さまがやっとくすくす表情を崩した頃にはすっかり毒気が抜かれてしまって、悪いことをする気も酔いも綺麗サッパリ殺がれていた。
 ……ほんとに、結婚したらしてくれるんでしょうね?



 17:00 2009/02/20 そんな普通の婚前会話。第66弾ドラえもん〜。野比と静香は結婚しても結構他人行儀にしてそう。子供の前ではお父さんお母さんで呼び合うけど、二人の時はのび太さんしずちゃん(原作呼称推奨)で。そんな古き良き家庭を作り上げながらも、夜はもうそりゃあ昼間の鬱屈をかなぐり捨てんばかりの勢いで獣のように貪りあうのですよ。うるせぇしね。でもやっぱ実際は淡白そうだな。それ以外のところでかなり深刻に癒着しちゃってる(希望)からこの二人。






最悪の隣人

 「一週間 毎晩夢に きみが 現れて リアルに側に居る ウウッウ〜」
 「………やめて………」
 「サーカス団 軽業師 さながらに 満面の笑みで 自転車 乗りこなすー」
 「……やめてよ……」
 「焦る僕をからかって 上手く話せない。きみは無防備装って 触れそうな距離」
 「やめろォ!」
 「あー? 俺様はただ単にthe pillowsのご機嫌なナンバーを歌ってるだけだぜぇ」
 「うるさいんだよ!音痴!」
 「ぐぴぴぴぴ。死神野郎の実習はたった五日だろうが? それでそのザマかよ淫乱!」
 俺のからかう声がクロナの喉に突き刺さったかのように声も出ないようだ。
 「足の爪の先から瞼の裏、ケツの穴の中まで可愛がって欲しいんだろぉ? あの腐れ死神によ!」
 「……う……うう……」
 下品な罵りに何も言い返せなくて、それでも無視できなくて、それでも口からは踏み潰される蛙みたいな潰れた声が出ただけだった。睨みつける目が恨みがましくて最高にセクシーだぜ!
 「ゲシャシャシャ!いいオチだなクロナ!全く、最高にくだらねぇ!欲望に振り回されてりゃ何もかも忘れられていいな!お前はただ逃げてるだけで、何の解決にもならねぇ!」
 俺はいつだって“何もしないこと”にだけ腹を立てた。
 「……だって、だって……!抱かれたら、温かいんだよ……!」
 こいつが何か行動を起こすのなら、いやいやでも今までは付き合っていたのにな。
 「その半開きの寝てんだか起きてんだかわかんねー目を開け。そして見ろ。この世はテメーにとって何一つ優しくなんかしてくんねぇんだよ。あいつはお前の魂を刈り取る死神で……」
 それなのに何故、こいつにしては能動的なことしてるはずなのにムカついてんだろうな。
 「うるさいな!解ってるよ!……そんなこと言われなくたって解ってる!」
 ああ腹立たしい。
 「ヘェー。解っててコレかよ。ますます救えねぇ。悲惨だ、主に俺様がな」
 いつにも増して腹立たしい。
 「いいかクロナ。お前は誰の側にも寄っちゃいけないんだ。あの腐れ死神が俺様の毒を無効化するってのは単なる偶然で、運命でも希望でもねぇ。忘れるな、呪われた魔女の子。お前はお前の道がある。俺様はその道を切り開く為に“蛇の魔女”からもたらされた“草薙の剣”だ。お前の心が鈍れば俺は意味がなくなる。なあクロナ、俺を捨てるなよ。一時の感情に道を見失うな。それはお前が死ぬって事だ」
 何故こんなにも腹立たしいのか解らなくて腹立たしい。
 「解らない!解らないよラグナロク!まるで僕が恋をしちゃいけないみたいだ!」
 おお珍しい噛み付いてきやがったぜ。アホの死神に何か吹き込まれやがったのかな。
 「……違うぜクロナ。こいつは恋じゃない。お前解ってるんだろ? 懐いてるだけさ。頭を撫でられていい気分になってるだけだ。恋なら、考えてやれ。
 お前にしがみ付かれて身動きできない死神野郎の心中ってヤツをよ」
 目に見えるなんて生ぬるいほど顔色が変わって、こっちは満面の笑み。主題をずらされていることにすら気付いてない。全く、ガキだ。泣けてくるほどにクソガキだ!
 「哀れなもんだぜ。リズもパティも、死神野郎とお前に気を使って遣り繰りして時間を作ってくれている。本当は誰より側に居たいだろう死神野郎の隣りをお前に譲ってる。死神野郎は今まで孤独で可愛そうな人生を歩んできたお前を一人に出来ないだけなんだ。それを馬鹿が勘違いしてさ、滑稽だね」
 「…………うそ……」
 かすれる声、ああなんと心地いい!畳み込む饒舌はいよいよなめらかになってきやがる!
 「嘘なもんかよ。お前の目が曇ってるだけだ。お前は邪魔者なんだ。マヌケのピエロだ。マカだってそうだ。あいつはお人よしだからな、いつまで経っても独り立ちできないお前を仕方なく構ってるだけなんだ。可愛そうなのはソウルだぜ。パートナー取られちまってさ、いい面の皮だ」
 「うそ……!」
 ひび割れる声、絞られてゆく瞳孔、ハハハッ背筋があわ立ってきやがった!
 「それを友情だの、愛情だの。ハッ、馬鹿かテメェ!人の迷惑ってものを全く考えてねぇ!俺に言われるまで気付きもしねぇ!ほんっとに救えねえ愚鈍だ!間抜けの白痴だ!」
 「うそだ……!嘘だ!そんなの嘘だ!」
 「なら言い返してみな。ほら、どうしたよ? ラグナロクのいう事はみんな嘘だって言ってみろよ」
 「うそだよ!そんなの、何の根拠もない!」
 「ぐぴぴぴぴ。そうだな、そうだな。そうとも、そうとも。……で?それで?」
 「うそ……嘘に決まってる……だって、キッドは、僕のこと好きだって言ってくれたもの……マカは僕のこと友達だって言ってくれたもの……!」
 「そうだな。言ってくれたな。じゃあそれを信じろ。俺の言葉に魂揺らすなよ」
 「うそうそうそうそだうそだ……うそ、うそだよぉ……!」
 「所詮他人は他人だ。信じるに値するものなんてねぇ。確かなのは絶望だけ」
 俺は甲高く叫び声を上げた。悲鳴が魂を著しく振動させて魂が膨れ上がってゆく。
 怒りと悲しみと不満だけが俺達をつなぐ。そいつは悪くない。そうだろう、クロナ。 
 「忘れるなクロナ。お前が両手に頂くのは魔剣ラグナロクただ一本のみさ」
 ……なんて言いながら、頭のどこかがこんだけ引っ叩いてもどーせあのアホが帰ってきたら泣き付きに行くに決まってる、と囁いた。
 ますます救えねぇ。悲惨だ、主に俺様がな。



 20:32 2009/02/18 第67弾ソウルイーター、ラグナロクの憂鬱。the pillows「オレンジフィルムガーデン」より。おでこのナンバー相当好きな。さわおの淫夢原案の歌。届かない憧れに焦がれる歌。もうちょっと他のやり方もありそうだけどな、ラグクロは。






見てはならぬもの

 キミはお母さんのお手伝いはする方?
 お料理は好き?
 僕はどちらでもない。
 食卓に並んでいる物の、元の形を想像したことがある?
 豚を殺して血を抜き、皮を剥いで解体し、肉をえぐり取る。
 魚の鰓に包丁を差し入れて脊椎ごと一刀両断。臓物を抜き取って水で洗う。
 青々と茂っていた白菜を根っこからぶちぶち引き抜いて、土を払う。
 そうやってこの食卓に上っている物は出来ている。
 僕の母さんは(そう呼ばない約束になっているけど)、料理をする。
 蓋付きのゴミ箱に捨てられる果物の皮だとか、じゃが芋の芽だとか、鳥の足だとか、そういうものが腐って酷い臭いを巻き上げているのを見ながら、僕は今まで疑問にすら思っていなかった事を考える。
 母さんは、必要のないものを捨てるのが上手だな。

 僕には元々お父さんと呼ぶ人は居ない。
 何故居ないのかも知らない。
 ただ最初から居なかった。そういうものだと思っていたし、特に疑問も持たなかった。
 だけどある日その人はやって来て、一緒に暮らすことになった。
 何故だかは知らない。
 僕は家に居る間は与えられた部屋から出る事はあまりしなかったし、どこにでもついて回る特別製の相棒と一緒に、母さんの言い付けで色んな場所に出かけては指定された場所に浮かぶ青くて綺麗な玉を相棒に食わせる事に必死だったから、気にもかけていなかった。
 3人+一匹でしばらく暮らしていたある日、初日に「お父さん」と紹介されたそいつが食卓についていて、リビングを通り抜けようとした僕に話し掛けてきた。
 「やぁクロナ、調子はどうだい」
 「………………」
 「暮らしてずいぶん経つのに、つれないな」
 手に持っていた書類を食卓に置き、警戒する僕に彼はもう一度優しく声をかける。
 「お母さんの言い付けを良く守ってるね、これから仕事かい?」
 「……はい」
 出来るだけ視線を合わせないように小さく頷き、返す言葉がそれ以上ないので黙った。
 「小さいのに偉いな。俺がクロナくらいの頃は本ばかり読んで外に出なかったよ。クロナは本は好きかい?」
 「……字、読めない……」
 僕が返事をすると彼は、それはよくないクロナさえ良ければ教えてあげるよ、と言った。
 「本はいろんな事を教えてくれる。知識は武器だ、誰にも取り上げられない最強の武器さ」
 その日を境に、僕は博士(二人の時は父さんと呼ぶ約束になった)に字を教わることになった。ただ言われるままにそうしていた筈なのに、僕が声を出して本を読むと博士は大層誉めてくれて、僕はそれがとっても嬉しいという事に気付いてしまった。
 本当は本を読む事なんか二の次で、ただ彼に誉めて欲しくて、必死になって文字を覚え単語を習得する。拙いつづりで感想文など書いたとき、彼は感激して僕を抱きしめてくれた。何てもの覚えのいい子なんだ、教える前に文章が書けるなんて!
 人に抱きしめられた事なんてなかったから、舞い上がって舞い上がって、僕はとっても幸福だった。その瞬間に世界で一番博士が好きになった。
 「そうだクロナ、もう文字が書けるのなら、一つお使いを頼まれてくれないか」
 博士はそう言って羊皮紙とペンを渡し、母さんが出かけてしまってうっかり仕事の書類を貰い忘れたんだ。机のどこかの引き出しに緑の透明の薄いファイルがある。そいつの中を一部始終書き写して来てくれると仕事がはかどるんだが、と言った。
 僕は上機嫌で頷いて言われた通りに、普段入ってはいけないときつく言い聞かされていた部屋に入り、見たこともない難しい単語がずらりと並んでいる緑のファイルを、机を漁るまでも無く見つけて書き写し始めた。
 後から知ったのだけれど、母の部屋はある種魔力溜まりの中枢で、普通の人間には立ち入る事は愚か近付く事もできないほどの高圧力が結界の役目を果たしていたのだそうだ。母の魔力に親和性があった僕はその圧力を感じなかったのだろう。
 ファイルは数枚紙が挟まっているだけだったので、小一時間ほどですっかり写し終えた僕は間違いがないか何度も良く確かめてそのファイルを戻し、びっしりと文字で埋め尽くした羊皮紙をヒラつかせながら博士の部屋に戻った。
 そこには母さんが居て、手にいつも僕の相棒が食べる青い玉を一つ持っていた。
 「お、おおおかえりなさいメデューサ様……」
 「ただいまクロナ。どうしたのシュタインの部屋に飛び込んできて」
 博士の部屋には窓が一つしかなくて、随分薄暗い。開きっぱなしの窓から生ぬるい風が吹き込んで、その窓の前に立ち尽くしている母さんからは、鉄の匂いがした。よく見ると玉を持ってるのとは反対の手に首がぶら垂れた白い鳩らしき物が握られている。
 「と……は、はは博士が……書類を持ってきてって……」
 恐る恐る差し出した羊皮紙を彼女は鳩を投げ捨て、受け取ってさっと視線をめぐらせる。
 「……クロナ、あなたいつ字が書けるようになったの?」
 声が聞こえて、僕は反射的に身を硬くして声を絞り出した。
 「ベベ勉強したんです、博士に教わって……!」
 言うと彼女はすっと僕の頭に手を翳す。殴られる!と、咄嗟に身構えた僕に、母さんは殊更に優しく言ったのだ。
 「そう、素晴らしいわクロナ。知識は武器よ、たくさん本を読みなさい。……ラグナロクにだけお土産を持ってきたんじゃ不公平だわね。今から美味しいステーキを作ってあげる、クロナが文字を覚えたお祝いよ」
 僕の相棒を呼び出して手に持っていた“お土産”を食べさせ、母さんは僕を部屋で待っていなさいと微笑んだ。
 僕はもうたまらなく嬉しくなって、ベッドの上で飛び跳ねて喜んだ。相棒もさっき貰った“お土産”がずば抜けて美味だったらしく、非常にご機嫌極まりなかった。
 ああなんて素晴らしい!これも博士が僕に文字を教えてくれたお陰だ、あの母さんが僕を誉めてくれるなんて一体いつ振りだろう!僕は躍る心を押えきれずに部屋で待っている事が出来ず、キッチンに向かった。
 「あらクロナ、もう出来上がるわよ」
 いつの間にか部屋着に着替えていた彼女が笑い、食卓に並んだ二人分の食器を眺めてうっとりしていた。……二人分?
 「あ、あの……と、博士の分は?」
 「シュタイン? ちゃんといるわよ」
 僕はその平気で普通の声をいつもなら聞き違えたりしなかっただろうに、ちゃんとあるわよ、と聞き違えた。きっと博士は急な仕事で出ているに違いない、冷えてしまってはご馳走が台無しだから後から作るのだろうと納得した。
 「さあクロナ頂きましょう」
 エプロンを外し、席についた彼女がふと思い立ったみたいにくしゃくしゃに丸めた羊皮紙をポケットから取り出し、僕に手渡してゴミ箱に捨ててきてちょうだい、と言いつけた。
 僕は浮かれてその羊皮紙を丸まったままもち、蓋付きの生ゴミを捨ててあるゴミ箱を開ける。
 そこには
 血だらけの
 白衣と
 銀色の
 大きなネジが
 無造作に
 捨てられていた。
 継ぎ接ぎだらけの折り畳まれた腕とともに。
 「……う、う、うううわああああぁぁぁぁぁああぁぁぁ!」
 手に持っていた羊皮紙が地面に落ちて広がった。そこには血で「制裁」と書き殴られている。
 いつの間にか後ろに立っていた母さんが笑みを崩さず、言う。
 「どうしたのクロナ、さあ席について食べなさい。裏切り者のお父さんでも大好きでしょう?」



 12:19 2009/02/24 第68弾ソウルイーター、読まなきゃ良かったって思うぐらい後味の悪いシュタイン一家というリクエスト。最初は「母親が人殺しをして貢いでいることをシュタが知らないという一連をクロナが知ってしまってそれでも笑えと母親が言う、みたいな」のを考えてたけど、蛇子が博士に貢ぐってのがどうもしっくりこなかったのでこういう感じに。もしも博士が潜入捜査官とかなんとかだったら。ごめんね博士アレな役ばっかりで。バレスクショ初ホラー風味頑張ったぞ俺。しかし俺の書く蛇子は原形を一切とどめてねーな俺。元ネタは劇ドラ「パラレル西遊記」冒頭の野比ママが出すトカゲのスープを何故か長年「パパのスープ」と思い込んでたおでの故事に因る。






Let Me Be

 仲が悪い訳じゃない。
 関わろうとしない訳じゃない。
 拘ってる訳でもない。
 ただ、なんとなく、としか言えない程度に俺はクロナに積極的には話し掛けない。だって趣味が合う訳でなく、話が合う訳でなく、気に掛かる訳でもないんだぜ。所謂フツーのクラスメイトって奴だ。そんなの普通だろ、誰にだって居るじゃねぇか別にどーでもいい奴なんて。
 だからそういうワケ。
 ……ワケ、なんだけど。
 今目の前にそのさして俺の気を引かない奴が居る。ここは俺と相棒の部屋のリビングで、相棒はコンビニにお買い物へ行った。……作為を感じるな、これ以上なく。
 「ワリィな、適当なカッコでよ。日曜いっつもこれなんだ」
 「きききききにしないで、大人しくしてるから……!」
 マシンガンみたく強烈にどもりながらソファの上で縮こまる。
 「……マカの奴、客放ってどこ行ってんだァ?」
 本当は知ってるけど、ボリボリ頭を掻きながら知らぬ素振りで玄関に目をやる。
 だらんとした灰色の上下スエットをたくし上げ、それ以上する事がなくなった。……く、空気が重い……
 「今日はどしたんだ? どっか遊びに行くのか?」
 俺はもう一度意を決して薄ら笑いで声をかけた。あー……クールじゃねぇなぁ。
 「う、ううん……マカが、その、クッキーを焼くから手伝ってって……べるきん粉ってのが切れてたから買いに行くから待っててって、その、だから……」
 ……ベルキン粉?……ああ、ベーキングパウダーの事か。ハイ嘘決定。この間俺パイ生地作るとき8包入り買ってきたばっかだもんねー。
 「ふーん。なに、そのクッキー誰かにあげンの?」
 言った俺がギョッとするぐらいクロナがギョッとして飛び跳ねた。
 「なななななななんで知ってるの!?」
 「……いや、知らんけど」
 「ヘェッ!?」
 「急にお菓子作るなんつー乙女チックなことマカがするっつーからさ。
 前、俺の誕生日にケーキ焼いてくれたはいいけど、市販のスポンジ粉使ってるにも拘らず卵白に油のついたハンドミキサー突っ込むわ、粉は真面目に篩わないわ、バターは半端に溶かすわでメタクソなの出されたからさぁ、すんげー説教した事あるわけよ。それから俺が家に居る時は菓子なんか絶対作らなくなったもんだから」
 あいつガサツだろ? 料理そんなに上手くねーんだよ。俺がケタケタ笑った。
 「ぼ、僕なんか料理した事もないよ」
 ……くくく、お前にマカのフォローされるたぁ、パートナーの沽券に関わるねぇ。
 「――――――こっち来てみ」
 俺はキッチンの入り口にかけてある自分専用のエプロンと三角巾を身につけて、後をついて来たクロナにマカのエプロンと三角巾を投げた。
 「そこに逆性石鹸あるだろ。それで手首までキレーに洗って」
 「あ、うん……」
 「マカ帰ってくる前にオーブンも温めとかないとな」
 オーブンに火を入れて薄力粉と砂糖、卵、取って置きのグレープシードオイル、塩にバニラビーンズに……と、ざらりテーブルに材料を広げる。  「よし、手はこのナフキンで拭け。最悪でも作ってる間はエプロンで拭くなよ、マカじゃねーんだから」
 「はい」
 「いいかクロナ、これからお前に簡単で美味いシフォンケーキの作り方を教えてやる。砂糖を少なめに作ればパンの代わりにもなるし、ドライフルーツを入れれば立派なお茶受けになる。ケーキの基本中の基本だから覚えて損はない」
 「え、ええっ!? ちょ、ちょっと……」
 「口答えは却下!料理っつーのは手際と段取りだ。まずキッチリカッチリ材料を量る!ほい量り!風袋引きはわかるか? それから俺のことはキッチンに限り師匠と呼べ!」
 「……し、師匠……?」
 「よしっここにマカでもわかるソウルくん特製レシピがある!この通りに量り分けて!レディGO!」
 「……はい……」
 何もかも諦めたのか、クロナは黙って小麦粉を量り始めた。俺はそれを尻目にキャビネットの引き出しからココアパウダーを引っ張り出し、テーブルの上に置くとクロナが声を掛けてきた。
 「……こ、これも入れるの?」
 「入れなきゃどーするよ。キッドにやるんだろ?」
 バレンタインには随分早いけど、ビターチョコを掛けて銀のシュガースプレーかけたらそれっぽくなるからさ。俺が言った途端、随分真っ赤な顔をしてクロナが力なくふにゃっと笑う。
 仲が悪い訳じゃない。
 関わろうとしない訳じゃない。
 拘ってる訳でもない。
 ただ、なんとなく、としか言えない程度に俺はクロナに積極的には話し掛けない。その理由がなんとなく解った気がした。マカがこの笑顔にメロメロなのが悔しくて、そんで俺自身もコイツが笑うとなんとも表現し難くムズ痒い気持ちに、ちょっとなる。
 ……なんか放っておけねーんだよな、こいつ。



 15:14 2009/02/24 第69弾ソウルイーター、ソウルとクロナ。ソウルの趣味はお菓子作り、という設定は公式なんだっけか。このあとマカが帰ってきて二人が仲良くケーキ作ってるの見てしめしめうまくいったとほくそえむ。この二人は嫌な話にしようと思えばいくらでも出来るので自重せざるを得ない。こいつらがマカ抜きで話す事ってやっぱ“自らの定め”話だろJKと思ったが、ソウルがクロナと初対面時のキッド状態で説教をかまし始めたのでやめた。クロナに必要なのは叱咤じゃなく激励だ。宿命から逃げた子は運命と戦わざるを得ない子の苦悩を知っているはず。






盲目の武器

 「ソウルが笑ってるとこ見たことないわ、そういえば」
 唐突にそんな事を耳にしたら絶句するだろ、普通。
 オレはこれで繊細な性格をしてると自負するイチ思春期少年なので、動けないでいた。声の主は……よく知らない他のクラスの女。多分、武器。職人ならそもそも声さえ聞き覚えがないだろうし。
 「やっぱあれじゃん? デスサイズの娘の武器って鼻に掛けてんのよ」
 実際の話、この手の陰口ってのは慣れている。ウンザリするほど叩かれている事実も。だからマカは必死こいて魂集めてオレをデスサイズにして、皆を見返してやるんだと息巻いている。
 で。
 肝心のオレはと言えば、どこか他人事で悲壮感にさえ浸れない。
 面倒くさいなぁとぼんやり思うだけ。
 「自分の実力でもないくせに」
 ギュっと心臓を掴まれたみたいに息が苦しくなって体温が下がった。吐き気がする。
 言葉ってホントに人殺すよ、マジマジ。真剣に勘弁してくれ。
 ああそうですね、マカは成績優秀でトップブリーダーも推薦する血統の良さに加えて運動神経だって勘だって、そんじょそこらの同期入学の奴らなんか太刀打ちできない良く出来た娘さんですよ。おまけに努力家で前向きで性格分類としちゃ明朗な方さ。
 ……やべぇ、なんか冗談抜きで無駄にヘコんで来た……
 オレはよろよろとその場を立ち去り、教室に戻るのを諦めて中庭の隅っこにへたり込んで息をつく。
 「そんなこたぁオレが一番解ってんだよクソッ」
 上手くいかない。本当にうんざりする。
 「女職人と男武器のコンビがどんだけ気ィ使うか知りもしねェくせによォ!」
 武器としてだけ、死武専生徒としてだけの自分でいられれば楽なのに、オレの耳は高性能でうるさい虫の羽音をよく拾う。胸糞が悪いけれど、声高らかに注意するのも殴りかかるのも違う気がする。もちろんスマートに皮肉で返せればいいんだろうが、そもそもこんな事をいちいち気にかけてる自分がクールじゃないにも程があって絶望する。
 「……悔しけりゃマカと共鳴してみやがれ」
 難しいんだぞ、簡単そーな性格に見えっけど案外掴み所がねぇし、すぐ突っ走るクセに結構挫けやすいしさ。上手いことフォローしてやんないとなかなか立ち直んねぇ。何より……
 「――――――よう」
 声に顔をあげたら、チェックのスカートが見えた。いつの間に側に立ったんだ? 気配も感じなかったぞ!NINJAかオメーは!
 「……おう」
 オレはそれでも上手に動揺を隠してつまらなさそうに顔をゆがめて低く呟く。
 「またサボるつもり?」
 「……午後のかったりぃ授業なんか、フケても大丈夫だろ」
 視線を伏せて声が震える前に先に言ってしまうことにした。寄りにも寄って今この時にお前に説教されるのは堪えるぜ。
 「ねぇソウル」
 「あん?」
 顔を上げるそぶりを見せたらグーパンチでブン殴られた。
 唖然、呆然、意味不明。なに? なんだ? 何が起きたんだよ!
 コノヤロー!ふざけんな!チクショー顔が痛ェ!!
 目を白黒させて混乱する頭をそのままに頬を抑えてマカを振り返ったら、目にいっぱい涙を貯めたマカはそれでもまっすぐオレを見てた。
 「そんなんでデスサイズなんかなれるわきゃねぇだろ!しっかりしろクソ鎌!!」
 中庭に降り注ぐ木漏れ日、緑がきらきら光ってて、その中に真っ黒のコートのマカが立ってる。ちぐはぐな夢の中みたいな光景。
 ……きったねぇ言葉遣い。お前、女の子だろ一応。
 「……殴らなくてもいーだろーが……」
 「それはごめん!でもあんた、全部どーでもいいみたいに言うから!我慢なんなかったの!」
 歯を食いしばってマカが言う。袖で頬をぬぐいながら。
 「……それはすまん」
 ジンジン響いて熱を持ち始めた頬とその奥の骨を思いながら、膝を立てた。丁度ケツが冷たくなってきた頃だし、と言い訳をして。
 「んじゃ勉学に励むかね、マカさん」
 ひひひ、と口角を上げたら後ろから背中をドンと蹴られた。
 「妙ちくりんな笑い方すんな!」


 19:41 2009/05/26 丸二ヶ月サイト放置後に書く話にしてこの暗さー!闇鍋第70弾の記念すべき話がコレか俺ー! 武器ってほぼ全員が自分の職人以外にあんま興味ねーよなーという話。俺もマカちゃんに入魂パンチされたい。もちろん性的な意味で。
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