その日マカはクロナとベッドに居た。 ソウルと父親を粘り強く説き伏せて、クロナを自分の家に招いたのだ。 3人で仲良く夕食を取り、ボードゲームなどして遊んで、お風呂に一緒に入って、身支度を整え、同じベッドで瞼を閉じる。もちろんクロナはその間にも色々と消極的な遠慮をぶつぶつと口の中で唱えていたけれど、そんなものを気にするマカではない。 おずおずと隣りに置かれたクロナの手を当たり前のように握り締め、マカは夢の世界へと埋没した。 「ようデスサイズの娘」 声を掛けられて意識が覚醒したマカが声の方向へ振り向くと。 「……ラグナロク!」 筋肉お化けのような黒光りする体と、出来損ないのぬいぐるみのような顔。そして人間の下半身がきちんと成立している、クロナのパートナーがそこに居た。 「いらっしゃいませお客様。ようこそ俺とクロナの世界へ」 まるでホテルのボーイが如く礼をした慇懃無礼なラグナロクの口が目の下まで切れ込んで、肉を引き裂く為だけにあるような鋭い歯がずらりと並んでいるのが見えた。 「……そうか、夢の中で魂の振動数が合っちゃったのね」 「自惚れるない。俺様がわざわざ合わせてやったんだぜ」 ひこひことおかしな笑い声をさせて、マカの身長の3倍はあろうかという大男が身体を折り曲げて噛み付かんばかりの至近距離で彼女をにらみ付ける。 もちろんそんなものに怯むマカではない。これはいい機会だと気を取り直して一歩踏み出した。 「なんであんたクロナを苛めるの?」 「苛めてるんじゃねぇ、コミュニケーションだ」 怖れるどころか更に踏み込んできた小さな女の子の迫力が悔しいのか、烏の濡れ羽色をした身体をいからせるようにラグナロクはグッと胸を張る。 「クロナが嫌がらないコミュニケーションは出来ないの?」 「無理だ。俺とクロナは別物だからな」 ウンザリする、とでも言いたげな表情のラグナロクがかぶりを振った。 「でも歩み寄ろうともしないなんておかしいわ」 マカのきっぱりとした言葉にラグナロクは初めて表情を緩め、皮肉たっぷりに声をひそめた。 「お前は自分の武器の全部が解ってるなんてスゲェなぁ?」 その言葉にマカがぐっと息を飲んだ。 「そういうことだよお嬢ちゃん、歩み寄ろうとしたって無駄なモンは無駄なんだ。人間には踏み込める部分と踏み込めない部分がある。俺もクロナもそういうところが大きいのさ。踏み込めるところが、共有している感情が、『嫌』ってヤツだけなのさ」 ケタケタと高笑いするラグナロクが、大袈裟に身体を揺すってマカにプレッシャーをかける。町のチンピラが無意味に威勢を張るように。 「共有部分なんて今から作っていけばいいじゃない!」 そのリアクションを薙ぎ払うかのようにマカが右手を大きく振った。 その格好を笑うようにラグナロクがゆっくり続ける。 「お前らみたいな俄かコンビと一緒にするなよ。俺とクロナは生まれた時から一緒なんだぜ、これ以上もうどうにもしようがないのさ」 完全に精神的に優位に立ったと確信したラグナロクは、余裕たっぷりに両手を肩の高さに上げて鼻で嗤う。 「いいえ、いいえ、いいえ!違うわ!クロナは変わったもの、あんただって変われるはずよ!」 足を踏み鳴らすようにマカが大声を上げる。意思と鼻っ柱の強さはちっとも勢いを失っていない。 ラグナロクは何故かそれが無性に腹立たしく、同時にひどく滑稽だと思った。 「……はは、はははは、ははははははは!変わった!? 変わっただと!? クロナがかよ!? 笑わせるぜ!こんなのは単に目先が変わっただけのことさ、本質は何にも変わっちゃいない! あいつは生まれた瞬間から一切何も変わっちゃいない、何一つだ!メデューサが突いたって俺が引っ張ったって、お前が手をつないだって、キッドが抱いたって、何にも変わってない! ただ俺に縋りついて夜な夜な泣き言を言うだけのあいつの一体何が変わったんだよ!? 何を変えてくれたんだよ!? それともこれからお前が変えてくれるのか? 孤独な魂を癒してくれるのか? 一人ぼっちのあいつを慰めてくれるのか? ……すぐに死ぬ人間ごときが!」 まったくこの死武専の教えとやらには毎度毎度反吐が出るぜ! 強い調子で吐き捨てられる言葉に、マカがほんの少しだけ怯んだ。ラグナロクがそれを見逃すはずが無い。一気呵成とばかりに更に早口で畳み掛ける。 「俺はクロナを変えてやるぞ、お前ら死武専が得意なお為ごかしの口先だけじゃなく、実力行使の怒りでだ!理不尽さに嘆く閉鎖の先に怒りの開放を用意してやる。うじうじメソメソしてる暇なんか与えてやるもんか!アングリー!アングリー!アングリーだ!全てをなぎ倒して何もかもを破壊させる!それであいつの魂は初めて開放されるのさ!」 猛禽類の羽を思わせる獰猛な両腕を大きく広げ、起こるはずのない風を巻き上げるような大振りでラグナロクがマカを覆い潰す格好をした。 「そんなことは絶対に許さない!そんなの何の解決にもなってないわ!」 それに怖がる様子を微塵も感じさせない大声が立ち向かった。ラグナロクという名の暗黒に飲み込まれんとしているこの小さな少女の根性は、彼女のパートナーが舌を巻くほどに座っている。 「俺は必ずクロナを変えてやる、悔しかったらお前らが変えて見せなお客様。そこまで大見得切るんだ、怒りの部分しか共有できない俺ごときには当然勝てるんだよな? クロナの楽な顔だけ見てれば安心できるお前たちが当然勝てるんだよな? お行儀のいい理想できっとクロナを変えてくれよ、お前たちが死んだ後も人間どもに、魔女どもに、鬼神どもに、自分の愛する死神に追い回される可哀想なクロナちゃんの運命をよ!」 高笑いを残して漆黒の大男は蝙蝠に姿を変えて白く煙る空へと舞い上がった。 「……変えてみせるわよ、クソ武器が!」 強く両手の拳を握り締めて、マカは大声でどこまで続くかも知れない空に向かって叫んだ。 「わたしが引っ張ってやる!クロナの手を引っ張って絶対に連れ出してやる!」 かっと見開いた目の前に、驚いた顔のクロナが居た。 「ど、どうしたの、マカ」 ぱちくりと瞬きを繰り返すクロナの表情は暗くてよく見えなかったけれど。 「……誰がクロナを絶望の世界に落としても、絶対に私が助けに行く。絶対の絶対!約束っ!」 握ったままのクロナの手を、力一杯マカが握り締めた。 「ね、寝ぼけてるの?」 11:47 2008/12/08 第61弾ソウルイーターマカクロ〜。ラグのキャラがどうしても掴めねぇ〜。うちのラグはクロナが好き過ぎて気持ち悪い〜。そして鈴木さんちのネタをパクり杉〜。天誅〜。ラグナロクはグロでクロナを脅したりするけど世界のエグさからクロナの精神を守ってるといいなーと思ってやった。今は満足している。 |
急に彼が彼女自身を慰めていた指を引き抜き、彼女の唇に当てた。 「キレイにしろ」 「う、うん……」 ピチャピチャと音を立て、女性らしさが花開く前の少女が精一杯媚びるように少年の指を丁寧に慎重に注意深く舐め上げる。 「おれは舐めろと言ったのではない」 彼の固い声にビクっと顎を震わせ、だが舌は少年の指から離すことなく、彼女は啜り上げるように指についた唾液と自分の分泌液を舐め取った。 「……随分顔が赤いな」 年恰好にしては端正な顔立ちの少年は少し冷たい笑みを浮かべて囁く。 彼女は解っている。 彼がこのまま自分を置いて部屋から出てゆくことを。 「あっ赤いよ!……いいいいけない?」 少しずつ重さを失ってゆく彼の腕を掴みたいと思った。なりふり構わず、引き寄せたいと筋繊維が上げている悲鳴に頭が狂いそうになっている。 だが、彼女は震える指を伸ばすことはしない。握り締めている指を解く事さえ。 その素振りを彼が見逃す筈も無く、顔に出さないよう細心の注意を払いながら彼は歯噛みする。 おれが抱けば微笑むのに、何故彼女はおれを求めないのか。 「クロナ」 「は、はい」 「どうして欲しい?」 ギクリと彼女の顔から血の気が引いた。それを見た彼の顔からも。 「いいい、言えないよ」 「何故だ」 「……僕は人に優しくされる権利なんかない」 「おれは死神だ」 「――――――なら、なおさら」 力なく笑い、少女は自ら少年の身体からその接触部分の全てを離す。 「行って。もう来ないでいいから」 小さく呟いて少女はシーツを頭から被り、毛布に包まったまま動かなくなって黙った。少年はこうなってしまった人を宥める術を持たないのか、少しの間逡巡した後に衣服と頭髪を整えてドアに手をかけた。 「また明日」 彼の小さな声を聞き、ドアの閉まる音に小さく身を震わせた少女の背が大きく盛り上がった。 「おいクロナ、勝手な事してんじゃねぇぞコラ」 黒い服がゆらりと陽炎のように歪んで見る見る間に膨れ上がり、丸っこくて親しみやすい形の中に言い表せぬ小さな深い不安を潜ませたような人形が言葉を手繰る。 「……もういいじゃないか……」 「そうはイカのなんとやらよ」 不穏な笑い声が部屋に響き、彼女の被っていたシーツと毛布が彼女の手によって取り払われる。 「ややややめてよ!今日はそんな気分じゃ……!」 「テメーの気分なんざ知ったこっちゃねぇっつーの」 彼女の纏っている真っ黒の修道服が顕わになったかならないかに、ベッドの上に大きく広げた足がその修道服を蹴り上げ、細く頼りなげな腿が曝け出される。 「…………やだぁ……」 「何言ってんだよ、死神野郎にいいように弄られたまんまで疼いてたまんねぇんだろ?」 背から生える人形が立派な大男に変化し、その指と来たら彼女の手首よりも太いという有様だ。大男はその身の毛もよだつ様な大きな口を開け、血のように赤い舌をゆっくり彼女の胸の先に延べた。 襟元から生ぬるい大男の唾液が滴り、するすると鎖骨を辿り胸元を進んでゆく雫が心地悪くて彼女は身を捩る。 「やだ、やだ……身体の主導権返してよォ!」 泣きべそをかきながら、しかし少女は自分の秘部に這わせた指を休ませる事はしない。 「自分で弄ってるのに他人に弄られてるみたいだろ? なぁに遠慮するな、思う存分よがれ」 大男がぽたぽたと涎を零しながら赤い舌で修道服の上から何度も何度も少女の胸の突起を嘗め回す。丸太のような腕が鳥の柔毛のような繊細さで大きく開いた少女の腿の付け根を何度も何度も擦っているのは、恐ろしさよりも先に滑稽さが立つ。 「あっ……いやっ……やめてっ!やめてぇ!」 少女の手を無理に退かせ、大男の指の一本が彼女の指が埋まっていた場所をこねくるようにリズミカルに擦り始めたかと思うと、急に少女が大きく声を上げた。眉間に皺を寄せて焦点の定まらない目が忙しなく視点を探している。絶頂が近いらしかった。 「死神野郎に中途半端に弄られてずっとヒク付いてたじゃねぇかよ。イキてぇくせに」 「やだ!やだ!いきたくないよォ!」 必死の抵抗なのか、少女が意思で唯一動かせるらしい腰を捩りながらぽろぽろと涙を零す。 「なんで? 死神野郎にイカせて欲しいのか?」 「やだ!やだ!やめろラグナロク!ひどい!こんなのひどいよぉ!」 「お前が自分でもう来るなっつったんだろ? 来ねえよ!死神野郎はもう来ねぇ!」 「やだ!やだ!やだぁあぁぁぁぁぁ!!」 悲鳴が上がって、瘧のように痙攣した少女がぐったりと大男の手の中で力尽きた。濡れた胸が大きく上下していて、半開きの唇からは涎ともあぶくとも取れる白いものが伝っている。 「……サドの真似なんかおっぱじめるから、吹き出すとこだったぜ死神野郎。解ってねぇ、解ってねぇな……コイツに求めて欲しけりゃこうやって徹底的に虐めるしかねーんだよ」 大男はひとしきりひっひっひっひと細かく笑って、彼女の身体の中へ戻っていった。 16:01 2009/01/15 第62弾ソウルイーターラグナロクに慰められるクロナの話〜。えー虐められてるんじゃないのーと思ったあなたはその素直さを忘れないでいて。おでのラグやんはクロナが大好きなのです。体内にストーカーを飼っているクロナさんマジ不貧だけどモッテモテ。 |
「……あぢいー……」 「こんどソレ言ったら作業交代ね」 かなみがカズマを振り返りもせずにぴしゃりと言い放った。 「だってよぉ〜」 「だらだらしてるから暑いの!ほらほら手が止まってるよカズくん!」 むくれるカズマに取り合おうともせず、せっせせっせと錆び取り剤のにおいの充満した部屋でかなみが床に置いた銀色の板を磨いている。 「かなみー海行こうぜー。海岸で魚とって焼いてくおーぜー……」 「この仕事終ったらオフロ沸かすからしゃきしゃき動く!はい!はい!手を動かして!」 かなみは小さな身体に不釣合いのモップを動かし、汗まみれになりながら歪な形の銀色をした板を綺麗に磨いている。何度も何度も腰を入れてごしごしごしごし。対して汗もかかずに椅子に座り、山羊の皮で何かの部品だろうか? 金属板を幾枚も幾枚も磨き続けるカズマ。 「しっかし地味な仕事取って来たなーお前」 「だって雨の日でも出来るじゃんこういう内職系って」 だったら雨降ってからすればいいじゃねーかよ、とカズマは思ったが口には出さなかった。この風もないクソ暑い日に喧嘩なんぞしたくない。 「これ納期まだあるんだろ? なんでこんな日にわざわざ……」 恐ろしく暑い。ロストグラウンドは標高が高い上に遮る山が殆どないので夏は高原のように過ごしやすいが、そんな場所でもはやり猛暑という奴は存在する。涼しい気温に慣れているロストグラウンドの人間に気温35度というのは灼熱の暑さなのだ。 「だって今日納品したらちょっと色付けてくれるってゆーんだもん」 家計を預かるしっかり者の女の子が唇を尖らせて言った。 「いくらよ?」 「なんと総額が130に!」 「……三日早めてたった130?」 「額面どおり100だったら缶詰5個も買えないもん」 「あのクソ不味い謎の肉だろ。いーよ、いらねぇよ。牧場の木の実パンのがまだマシだ」 ヒラヒラ手を靡かせ、カズマが金属片を何個か机の上に置いて、ごしごし力任せに磨き始めた。 「なによ、コーンと混ぜてバターで焼いた奴カズくん好物じゃん」 「だってアレしか味付いてる奴ねーだろ」 ひっどーい!とかなみが怒る素振りをしながら、ようやく納得が行く出来栄えになった板を手に取り、視線と平行に鳴るまで持ち上げて注意深く磨いた面を確かめている。 「よし!こっちの錆び取り完了!……カズくんは?」 「あとやっつー」 「じゃあそれが終ったらお風呂入ってね。納品に行くからわたし先に入るよ」 「あいよー」 カズマはかなみの背で揺れる汗でしんなりしたポニーテールを見ながらにやーっと笑う。 彼の手の中にある金属片は全てもうすっかり綺麗な鈍く光る銀色に戻っている。伊達に馬鹿力を誇っている訳ではないという事だろう。汚れを拭うより簡単に錆び落としを終えていたのだ。カズマはかなみの前で何も出来ない無能者の振りをしているが、雑なだけで彼は不器用という訳ではない。 ひっひっひっひ、と笑いながら冷蔵庫に向かう。服を脱ぎかけた所に忍び寄って背中に氷を入れてやろうという算段なのだろう。冷凍庫から3つ4つ氷を掴んでバスルームのドアをそっと開ける。 この家のバスルームのドアはこの間壊れた蝶番を替えたばかりなので、このボロ家で唯一音もなく開く。そっとそっと開いて、風呂釜を磨いている女の子の背に近付いて…… 「キャー!な、なに!? なんなの!?」 予想通りに悲鳴を上げた少女の驚き戸惑う表情に、カズマは大笑いした。 「あははははははは!あははははは!あはははははは!」 壊れた笑い袋のようにカズマが文字通りに腹を抱えながら背後で七転八倒しているのを見て、ようやくかなみは自分がしてやられた事を理解した。 「くっ……こんのォ〜〜!!」 顔を赤くしてかなみがシャワーを掴んで元栓を捻った。 「あわわわわ!ば、バカ!つめて!濡れる!床濡れる!」 「カズくんが拭けばいいのよーッ!」 「わぁった!わかったから!悪かったってマジで!だから水止めろ!」 カズマが慌てて風呂場の出入り口のドアを閉め、シャワーをしゃくり取ろうとする。だがそんなものを許すかなみではない。 「人が一生懸命仕事してるのにーっ!」 「なんだよ!罪もないジョークだろ? そんな怒るなよ」 「うるさいカズくんのばか!わたしだって海行きたいよ!遊びに行きたいよ!でもしょうがないじゃん!仕事なんだもん!!お金ないとカズくんと一緒に暮らせないんだもん!!」 うえーん、とシャワーを持ったままかなみが泣き出した。乱反響するバスルームで子供の泣き声を聞くというのは拷問以外の何物でもない。 「…………お前さ、子供なんだからそんなに頑張んなくてもいーんだ」 ぽん、と朝露で薄く濡れたように水滴の並ぶかなみの頭に手を置いて、カズマはぐちゃぐちゃと髪をかき回す。 「だってカズくんお仕事ないし」 ひっく、ひっくとかなみが上擦った声でわたしが頑張らなくっちゃこの家で二人で暮らせなくなっちゃう、としゃくり上げた。 「――――――心配すんなって。お前一人くらいなんとか食わせてやるよ」 カズマがかなみの目線まで腰を落として笑うと、かなみはまた顔を盛大に歪ましてカズマの首に取り付き、泣いた。 「…………暑い……」 15:51 2009/01/22 お久しぶり!スクライドですよー。ロストグラウンドって標高高いっつっても日本だからやっぱ暑い事は暑いと思うんだよね。あんま森とか川とかふんだんにはなさそうだし。カズマとかなみはラブラブにしようとすればするほどキャッキャウフフにしかなんねー。だって1話以前のカズくん(ウチのデフォルト状態のカズマ)が(普段の状態の)かなみに手ェ出すとは思えないし出さないでくれという願望が強くて……。こんなもんで許せ。リクエストくれた人たち、ごめんに。 |
そいつはマカの姿をしてて、マカの顔をして、マカの思考回路で 俺を詰るのが上手い。 息が詰まる。窮屈なスーツ。小さめの靴。音飛びの激しいレコード、シガレットの残り香、仕立てのいい椅子、遠目に見えるグランドピアノ、うんざりする小鬼の声。 何を喋っているのかは大体想像がつくから 俺は全然聞いていない 早く目が覚めないかなとか 明日の授業はなんだったかなとか そういう風に、目の前の事象をすべて白昼夢扱いにする。 「ねぇソウル、わたしの事どうして無視するの?」 憐れっぽい声でダブルのスーツに身を包んだマカが膝を折って傅く。俺は視線を合わせない。 レコードはまだ小さく鳴っていて、好きではないけどもう耳に慣れてしまったフレーズがやってくる。チリチリ細かなノイズ。切れかけの蛍光灯が鳴るような。マイナーコード。昔映画で聞いたようなルフラン。夢を題材にした話で、最後恋人達がキスをし損なうヤツだ。 「この夢から醒めたいのかね?」 ぎくりと身体がふるえ、ヤツに脳の中に進入を許した事がばれた。 「呼んでみるか? 会いたい人の名を」 赤い目に映っているのはマカの顔。 三白眼で牙と角を生やした以外はそっくりそのまま俺の職人。 瞳孔が開いていて、たったそんだけで随分印象が違う。 「高所恐怖症でね、デスシティに落っこちるなんて御免被りたい」 キヒヒヒヒ。小鬼の笑い声。癇に障る。 「会いたい奴なんて向こうに居るのかね? エヴァンス」 即刻脳から追い出さねば。早く意識から外さなくては。今すぐ夢から醒めなくちゃ。 心が急くのに鉛みたいに重たい手足は動かず、指さえ上手くずらせない。 「私が居ればいいんでしょ?」 マカが嗤う。 きれいな髪。綺麗な頬。綺麗な……―――――― 瞳が違う。声が違う。薫りが違う。 こんなの俺の欲しいもんじゃない。そんなこと最初から解ってるはずなのに。 「おいクソ鬼、胸糞がワリィ、やめろその格好」 「いやっ!マカって呼んで!」 ついに声まで似せてきたか。 「何をたじろぐ? お前の思う通りのマカだろが」 陰湿に醗酵してゆく脳内会議。いつ終るともなく、抜け出る為の出口は一つ。 ふと気が付くとテレビの砂嵐のような雑音が辺り一面を埋め尽くしていた。レコードが終ったのだ。 「無理な夢ほどカッコイイ、ってどっかのアイドルが歌ってたぜ」 鬼が胸元のネクタイを緩め、引き抜き。 「偶然に頼っていたって始まらない」 唇を尖らせながらシャツのボタンを片手で器用に開けてる。開いてゆく襟。胸の傷。 「お前はマカじゃねぇ」 「じゃあ押し倒しちまえよ、タマナシ」 「職人手篭めにする武器がどこにあんだ。フザケンナ」 ぬるい下が喉元に這う。マカの重さ。スーツの衣擦れ、軋む椅子。膝に当たるマカの太ももの終点。 「嫌われたくないだけだろう? あの父親みたいに」 解ってるぜブラザー。だからお前はマカに触れられない。指を絡めたいのにポケットに腕を突っ込む。お気に入りのバンダナを外したのはなんでだ? クロナに嫉妬か? みっともないね、ジャンパー着てるよりずっと子供っぽい。……あれ? おかしいな、鬼の唇は動いてないのに鬼の声が耳に煩わしい。 「マカは親父を見返すために俺をデスサイズにするんだ」 「そうだ。お前は兄貴を見返すためにデスサイズになる」 息が掛かりそうなほど近くにマカと同じ造形が目の前に迫る。 「お前の欲しいものは何だ? 叫べ! 怖れるな!」 わなわな震えてくる。 手が 血が 魂が 呼び起こされる。強い衝動と共に、この圧倒的な律動。俺を揺らす俺の中の発狂。黒き部屋が消えた本物の漆黒の中、俺はただただ吠え続けた。意味も無い言葉をただ狂気の示すままに。 『ソウル』 闇の中にぽつんと白くて小さな物が見えた。 そいつは大した力も無くて 瞬間湯沸し機で 口が悪くて そんで 俺のヒーロー。 呼べば必ず応えてくれる、細く小さな女の子。 『いくよ』 闇にボンヤリ浮かんでるマカがくるりと身を翻して光の中に消える。 俺はそれを追う事はせずに、背を伸ばして見よう見真似の敬礼をして元来たと思わしき道を戻った。辿り着いたブラックルームにはダブルのスーツを着たマカもどきが椅子にもたれかかったままオカエリと腹を立てた表情。 「本物って奴はスゲェなぁ、たった6文字で俺を浄化しちまうぜ」 くっくっくと笑って俺は闇へ続く扉を閉める。 「お前なんかがいくらマカの形を真似ても意味ねえよ、だって本物は」 遮るようにマカを真似た鬼が鬼の顔をして、おれの言葉の先を奪い取る。 「おれ達の手には入らない」 高笑いをする小鬼の声に、フーガみたく俺の高笑いが重なっていて、そいつは随分滑稽で見ものだったに違いない。ああその通り、よく解ってるな、さすが俺の脳内だ。聞き分けだけは良くて実に助かる! 16:25 2009/01/19 腰抜けポテンツの自己欺瞞。63弾ソウルイーター。鈴木さんへプレゼンツ。またパクリかよ!パクリだよ!悪いか!この話の元ネタが全部解ったら拍手でコメントを送る事。 鈴木さんが「鬼×ソウル!鬼×ソウル!ソウル総受け!」って言うから小鬼のスタンスを考えるところからスタート。何度やってもラグやんになってしまう……ので、攻ソウルとして設定。あれ、これ意外に面白い……という訳で前編。(まんまと鈴木さんに嵌められるおで |
『ねぇソウル、わたしの事どうして無視するの?』 またこの夢だ。 『呼んでみるか? 会いたい人の名を』 いつから見るようになったのか、全然覚えてない。 『会いたい奴なんて向こうに居るのかね?』 小さな部屋が闇の中に浮かんでいて、私は宙に漂いながらそれを見ている。 『私が居ればいいんでしょ?』 家具とかカーテンがあるとわかるのに、視界を邪魔したりしない。部屋にある全てのものが把握できる。 『いやっ!マカって呼んで!』 私の格好をした誰かと、スーツ姿のソウル。何か言い合いをしているらしかった。 私の格好をした誰かはソウルの身体にしな垂れかかって、媚び媚びの声でソウルを誑かしている。私はいつもそれを見ている。ソウルはいつものソウルじゃなくて、私の格好をした誰かに時々勝って、時々負ける。 「……まぁたやってる……」 飽きないのかしら? 虚しくならないのかしら? 他にする事はないのかしら? 最初の頃はものすごく嫌だった。 自分と同じ形のものが相棒と絡んでるのを無理矢理見せられてるんだから。乗り込んでいって怒鳴り散らして全部ぶっ壊してやると息巻いたけど、どうもここはそういう事は出来ない場所らしい。 おまけに目が覚めたら全然覚えてないし。 起きてるときはここの記憶がすっぽり抜け落ちてる。でもここに来ると記憶が全部繋がるのよね。ヘンで腹の立つ夢だとは思うけれど、もういい加減慣れちゃった。 だから私はボンヤリ見てる。 キスしたり、セックスしたり、殴り合ったり、話し合ったりしながら、ソウルが私の形をした何かにへこたれたり制覇したりするのを。 「ねぇソウル。それって私としたいことをソイツとしてるんじゃないよねェ?」 返事が返ってくるはずの無い問いを、私の形をした不可解にべろべろ舐められて表情を固くしているソウルに向かって投げてみた。もちろん何の変化もなく、部屋の中の時間は私を介さず淡々と流れている。 「もしそうだったら、アンタ最低だよ」 私はソウルを恋愛対象に含めていない。だってそんなの不真面目でしょう? 一緒に暮らしてるのだって、死武専に居るからだし、もっと言えば同じ目標に向かっているからこそ私達は逢えたのに。目的を見失ってまでするほど、私には恋愛ってのが重要とは思えない。 それに、私は恋愛ってのが良く解らない。嫌ってるって言ったっていい。それはソウルも知っているはず。ソウルはその方がいいって言ってくれた。だから私達はパートナーをやっている。 なのに。 それが嘘だって言うなら ホントは私を女の子として好きで その私の形をした何かにしてる事を 私自身にしたいっていうなら 「それは裏切りだよねぇ」 私は見ている。 ソウルが小さな部屋でのたうちながら悲鳴を上げたり泣き喚いたりしているのを。 助けてあげたい、という気持ちが無い訳じゃない。 でもあの部屋の中に居るソウルに触りたくない。 こわい。 吐き気がする。 あそこにいるのは男の子だ。 男の人は嫌い。すぐに嘘を付く。平気で裏切る。あんなに約束したのに、結局破る。 その箱の中に居て。出てこないで。絶対にこっち来ないで。 「こんなの見続けてたらそのうち気が狂っちゃうと思うわ」 そんでそれは目が覚めてる私はサッパリ気付かないんだろうな、と思う。 ふと気付いたらソウルが私の姿をしてる何かとキスをしようとしてた。 ものすごい吐き気。 最高の嫌悪感。 いつも見てるはずなのに、もう慣れたはずなのに。 「こんのォ!クソバカがぁ!」 力の限り叫んだ。全身全霊で咆哮を上げた。 震えるソウルがふっとこちらを見たような気がして一瞬ぎくっとしたけれど、ソウルの視線は私の後ろを見ているみたいに私を通り過ぎていた。 慌てて後ろを振り向いても、そこにはただ闇。何もなく、何も見えない。 視線を元に戻したら、偽者の私とソウルが向き合って笑ってた。 その笑い声がなんだかヤケクソの時の声に似てて、意味は良く解らないけれどほんの少しだけほっとした。 多分ソウルは 信じていい奴 のはずだ。 ……裏切ったらその狂気ごと水に沈めてやる。 10:21 2009/01/20 ブラックルームに捕らわれて逃げられないソマカ。リクエストって素晴らしい!グラシアス!でもきっと希望に全く沿えてない! ソウルは自分で鳥篭の中に入ってるつもりでその実マカに追い込まれてそこに居るんだぜーという割と絶望的な話。鳥篭シリーズ後編。 |
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