影は付きまとう

 ソウルがあたしの手を掴んで指に付いた苺のジャムをべろりと舐め取った。
 「ななななななにしてんのよあんた!」
 「……あ、つい家と勘違いした」
 椿ちゃんが顔を真っ赤にして下を向いてしまったのだけを覚えている。パティとリズがひゅうひゅうって囃し立てたような気もするお昼ゴハン。その後の授業なんてさっぱり頭に入らない。
 隣に座っているくたびれたようないつもの赤い目が怖くて、でも逸らせない。吸い取られるみたいに、強くあたしの魂を引っ張っている。
 「な、なによ」
 「別に」
 短いやり取りでさえ耳が熱くなる。やだ、やだ、やだ。
 やっとのことでソウルを振り切ってアパートにたどり着いた。全身が筋肉痛みたいに強張っている。
 自室のドアの向こう側で、玄関の鉄のドアがばたんと鳴った。いつもの音がことさらに大きく聞こえて身震いする。
 とんとんとん。軽いノックが3回。いつものノック。とんとんとん。
 「なぁマカ。逃げるなよ」
 ゆっくりした言葉に謎の迫力。ぞくぞくぞくぞく、身体の震えが止らない。
 「あのくらいで照れるなんてマカらしくねぇぞ? いっつも俺のチンポに吸い付いて離れないくせに」
 「それはあんたが!」
 「俺が? 俺がなんだよ? マカの身体を操って無理矢理フェラチオさせてるとでも言うのか?」
 「が、学校であんなことするなんて信じらんない!しかもみんなが居る前で!ブラックスターとキッドが居なかったからソウルの首は胴体とサヨナラしてないんだからね!今度やったらもう絶対承知しない!」
 ドアのノブが回った。慌てて鍵に手をかけようとしたけれど、その前にドアが押し開かれる。
 「ちょ、ちょっと!? ソウル!入らないで!あたし怒ってんのよ!」
 「怒ってる? はん、嘘だね。期待してるさ、こうして力尽くでドアを開けられるのを」
 だから俺がドアの前に来るまで鍵を閉めなかった。そうだろ? ドアの隙間からあの赤い目があたしの目を見据えていた。あたしの自立を奪う、あの燃えるような紅い瞳が。
 ああ、ドアが開く。
 ソウルが身を滑り込ませる。
 当たり前のようにあたしの部屋に侵食してくる。
 「ほら、嫌がらない。本気でイヤなら優等生の職人、マカ=アルバーンにちんけな魔鎌の俺が敵う訳ねぇもん」
 いつもなら死んだって言わないことだ。自分を卑下するようなこと、あのソウルが言うわけない。
 でも今のソウルは普通じゃない。どこが普通じゃないのかあたしには解らないけれど、感じる。このソウルはいつものソウルじゃない、その事実だけを。
 「なあその白くて細い指で俺のチンコしごいてくれよ。ホラ見てみろ、お前にむちゃくちゃに握られるの期待してガチガチになっちまってる。触ってくれよ。いつもみたく握りつぶすみたいにさぁ」
 手首を掴み上げられて彼の股間に誘導される。痛みと感触にびくっと震え上がった。
 その仕草がソウルのお気に召したようで、あのぎざぎざの歯がぎらりと光るように唇の奥から現れ、歪んだ切れ目から重低音の笑い声。
 「いいね。ゾクゾクするぜ、その怯えた目。最高だ」
 あっという間にズボンが引き下ろされて、鼠をいたぶる猫みたいな無垢な顔のソウルが言う。
 「咥えろ、マカ」
 括った髪をひと房握られて、頭を甘く揺さぶられる。決して痛くはせずに、慎重な手筈で。
 「気持ちよくしてくれよ」
 いやだ、やめろ、はなせ。何度この言葉を飲み込めばいいんだろう。後何回飲み込んだらソウルがこんなことを止めてくれるのだろう。答えなんかどこにもありはしない。
 「目ェ逸らすなよ、ちゃんと俺の顔見て『気持ちいい?ソウル』って聞いてくれ」
 ドアの枠に背を預け、ソウルが白い髪を垂らしてそんなことを言った。いつものお決まりの文句。
 あたしは意を決して舌を伸ばす。自分でも素直に言うことを聞くことに違和感はある。だけれどもこうなったソウルに反抗したって何の意味もないことは身体に刻み込まれている。自分の思い通りに行かなくて泣き喚く壊れたソウルを見るのはもう二度とゴメンだ。
 「ホラまた顔そっぽ向ける。なんだソレ俺をじらしてんのか? お前の顔見なきゃイケない俺をイジメてんのか? 俺何か悪いことしたか? なぁ頼むよ、こっち見てくれ、俺の目をちゃんと見てくれってば」
 卑屈に乞う口調とは裏腹に、ソウルの目はこれ以上ないくらいに笑っていて、ひどく残酷だ。
 「そうだ、いいぜマカ。その屈辱的な表情、たまらなくそそる。お前の涙浮かべて唇かみ締めて殺してやるって真っ赤な顔が一番好きだ。愛してるぜマカ、ずっとその顔で居てくれよ」
 ひゃははははは。笑い声が聞こえる。ソウルの乾いた笑い声が聞こえる。
 ねえあんた、ホントにこんなの望んでるの?
 踏みにじって脅して好き勝手にして満足なの?
 あたしにはそう見えないわ。
 だってあんたの魂はいつも泣いてるもの。
 あたしはそれが言葉にならなくて、もどかしい。言ってやりたい。何に怯えてるの、何が怖いの、何があんたを苦しめてるの。
 いつも喉の真ん中まで来ては、精液と一緒におなかの中に戻ってしまう言葉。
 喉に絡みつく精液みたいにその言葉はあたしを毎晩苦しめる。



 23:00 2008/11/18 ゲラゲラゲラゲラ。狂気ソウルのマカ陵辱。言葉責めって難しいな!






彼は、自分が自分であって良かったと、時々思う。

 椿が襖を開けたとき、彼は無言で横たわっていた。彼にしては珍しく鼾もかかずに静かに椿に背を向けて。
 ねぇあなた一体どうなさったのですか
 と、彼女は尋ねたかったのをぐっと我慢して瞳を逸らした。
 蒸すような夏の日に、彼は時々こうなるのだ。全ての思考を放棄して、全ての行動をやめてしまう。さながら路傍の石のように。
 長い髪が彼に掛からぬよう身にまとわり付かせながらひたと彼の側へ座り、彼の名を呼ぶ。暗黒の世界、と。
 「今日は暑いし、お昼ごはんは素麺なんてどうかしら」
 氷水の中で泳がせた白線に、生姜を摩り下ろして軽くあぶった海苔を細切りにして、葱と一緒につゆに落とせば暑さなんかきっと吹き飛ぶ。椿は無邪気にそう笑いかけた。
 「椿」
 「はい」
 名を呼ばれ、簡潔な返事を返す。いつもの通りに。
 しかし彼はいつもの通りではなく、彼女の肩を掴んで力づくで引き倒した。瞳孔を大きく見開き、何事かとうろたえる彼女の唇に無作法なぬるさが這った。
 「ちょ、ちょっとブラックスター!」
 あまりのことに気の動転した椿が咄嗟に唇を離して声を上げた。が、その声もあえなく途切れる。
 「んむっ・・・・!!」
 もう一度彼は同じように椿の自由を唇ごと奪う。
 眉を顰め、それ以上の反抗は無駄と悟ったのか彼の成すがままを受け入れる彼女の肩から力が抜けた。まるで椿の木がその花を落とすように。
 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・っ!」
 頬が真っ赤に高潮している彼の顔は呼吸こそ乱れていたけれど、椿の目にはそのほかに形容のしないような昏い目をしていた。光の輝きのない、そんな目を。
 『ブラック・スター』
 黒い星。彼の名前。漆黒のまなこは椿の全てを引き寄せるかのような引力を発して、椿の瞳を何も語らぬまま見据えていた。
 「俺、へんだろう」
 ふと耳に届く彼の声は彼らしくもなく沈んでいて、低く掠れている。
 「なんでかな、夏になるとこうなんだ。勝手に、身体がこうなる。昔からだ、椿に会うよりもっと前、死武専に引き取られて物心付いた時にはもうこうだった。暑い夏の日にせみの音や照り返す地面の熱さ、むっとする夕立の予感。湿気っぽい空気なんてもうてんでダメなんだ。そういうのに中てられると居ても立ってもいられなくなる」
 頭の中が真っ白になって自分の身体が自分のものじゃなくなるみたいになるんだ。彼が独白のように言って、椿の豊満な胸に額を当てた。
 「椿、お前も、その辺歩いてるやつも、クラスの連中も全部同じになる」
 人形みたいに見えて、躊躇いなく殺したくなっちまうんだ。怖ろしい言葉を吐き出しているという自覚は誰よりもあるのだろう。彼は震える声で何とかそれを吐き出すようにして言ってしまう。
 「やっぱり俺は星族の、人殺しの」
 「いいえ違うわ」
 続けようとした彼の言葉を遮り、椿は彼の頭をぎゅっと抱き潰すように己の胸に沈めた。
 「ブラックスターは私にキスをしたかったのよ」
 そしておっぱいを触りたかったのよ。解ってるわ、エッチねブラックスター。ばつが悪いもんだからってそんな言い訳を並べてもダメよ、私には解ってるんだから。
 「寝転んで拗ねた振りをして構って欲しかったのよね? いいわ、いっぱい構ってあげる。特別にむ、胸を触ってもいいわ。で、で、でも、服の上からだけよ? 優しくしてくれなきゃイヤだからね!」
 彼の手を自分の胸にそっと導き、椿が彼の手の甲に指を置きながらどうぞ、と彼の汗の匂いがする耳元で囁いた。
 「・・・・そうか、俺は椿のおっぱいが触りたかったのか」
 「そうなんでしょ? だから私が厚着してるとつまらなさそうな顔するのよね?」
 「う〜む・・・・確かに椿の谷間が見えてないのはつまらん」
 「今日だけ、特別なんだから」
 優しく触ってね、という椿の声を聞き終えた彼は慎重に慎重に、さらに慎重を規して5本全ての指にゆっくり力を込めた。熟した桃の実をもぎ取るように、そっと、そっと。
 「あっ・・・・!」
 「い、痛いか?」
 「ううん・・・・違うわ・・・・っ」
 「じゃあどうした?」
 「・・・・・・・・・・・・ばか、聞かないでそんなこと・・・・!」
 鼻に掛かるような甘い声であっあっと小さくかすれる彼女の濡れた声が何度も聞こえて、彼はそのたびに薄く指から力を抜く。
 「き、気持ちいいのか? こうされるの」
 「・・・・・・そうよ・・・・ブラックスターに触られてるところが・・・・き、きもちいいの・・・・・・っ!」
 潤んだ瞳が朱に染まったかんばせに二つ瞬いている。彼はそれを認めた次の瞬間には秋の木の実のように真っ赤に色付いた唇に吸い付いていた。
 「アアッ!」
 腰が砕けそうな間抜けな声が途切れ途切れに聞こえて、彼は霞が掛かったようにはっきりしない頭を振り、一度大きく呼吸を整える。
 「椿」
 「は、はい・・・・」
 お前乳首立ってんぞ。素っ頓狂な声を上げてげらげらげら、といつもの調子で笑った。
 「何期待してんだよ、こんな昼間っから。俺よか椿の方がよーっぽどエロエロじゃん!」
 真っ赤な顔で目を白黒させる椿を置き去りにして、彼は台所の方へ歩いていった。
 「素麺だっけ? 俺様がスペシャルなヤツを作ってやっから椿は器とか用意しとけ」
 「わ、私も手伝う・・・・!」
 立ち上がろうとした椿の足がもつれ、畳の上にどたりと倒れ込んでしまったのを台所からそれが当たり前のように彼が言う。
 「おっぱい揉まれた位で腰が抜けるよーじゃー、俺の武器は勤まらんなー」
 ひゃっはっはっはっは!明るい笑い声が部屋に響いて、椿はまだ自分の胸に残るたどたどしい彼の指の軌跡をむずがゆく思い出し、声も出さずに笑った。



 23:36 2008/11/22 椿×★。和風エロスを目指して撃沈。所詮そんなモンよねー!……難しいなぁソウルイーターのエロって……おでんチの★組は性的交渉を持たない唯一のパートナー。★の性的成熟度が小学生並という設定なので。でも小学生だからこそおっぱいに並々ならぬ関心を寄せていると思うなおでは。椿のおっぱいは年頃にしてはホントーに柔らかそうなので実にけしからん。いいぞもっとやれ。






私は永遠に塵なのだ

 ひどい、ひどい。
 何度も何度も呟くクロナの唇と肩が震えている。
 「ひどいよキッド。いっぱい愛してくれるって言ったのに」
 紅赤に光る頬、スカーレットの唇、散切り頭の揺れる額。
 「僕のこと気持ちよくさせてくれるって言ったのに」
 ……ああ、言った。
 言ったとも。
 クロナにな。
 ……だがお前は違う。クロナじゃない。おれが知らないとでも思ったか?
 虫唾が走るわ。
 「痛くしないで?」
 言うな。
 言うな。
 クロナの顔で、クロナの声で、クロナの匂いで、そんなことを言うな。
 狂いそうだ。
 柔らかくつぶれる唇は毒の味がする。しつこく擦り付けられる鼻先に毒の匂いがする。触れる指先で光る爪に毒が光っている。神の身体を、神の頭を、神の精神を狂わせる蠱惑の毒が。
 ラグナロクは知らないのだろう。おれに毒が全く何の意味もないことを。
 クロナは知らないのだろう。おれに黒血ではない毒を注いでいることを。
 「クロナ、起きているんだろう? 声を聞かせてくれ。ラグナロクの操っていない、お前の声を」
 いいさ、お前が望むのならこの身をくれてやろう。お前が欲するのらこの魂をくれてやろう。
 「お前の意思で求めてくれ。……さもなくば、勃たない」
 おれがお前に打ち込んだ弾丸の味は覚えているか? おれはお前に切りつけられた刃の味を覚えている。
 「おれが気付かぬ道理はなかろう。お前は起きている、知っているぞ」
 「……うじゅぅ……」
 小さなうめき声が聞こえた。瞳に陰りが生まれて暗く澱んだいつもの表情。
 「……久しぶりだな」
 「昨日も、引っ張り出されたよ」
 眉を下げて唇を尖らせて、非難めいた細い声。
 「当たり前だ。あいにくとおれは男を相手にする趣味はない」
 「……なんで、久しぶりだなんて言うの?」
 「お前はラグナロクの後ろに隠れてこっちを伺っていたかも知れんがな、おれはお前の身体だけしか知覚できないのだ」
 「魂感知、できるくせに」
 失笑か、照れ隠しか、それともおれの傲慢を嘲ったか、クロナが視線を外した。
 「感知はな。出来る。……それがなんだ? 遠くから魂を見ているだけなんて何の意味がある?」
 胸に額をつけた。胸に頬をつけた。胸に唇をつけた。いとおしい、そこに触れたい。
 「こうして魂が触れ合わないのなら、どんなに深く身体を合わせたって無意味だ」
 「――――――やだよ、くすぐったい」
 まるで痛みに耐えるように眉を顰めて彼女が身を捩る。かわいそうに、ぬくもりが怖いのだな。
 「案ずるな。じきに良くなる」
 「ヘンタイ」
 思わず笑いが出た。まさかお前に変態扱いされようとはな。やはり焼きが回ったのだろうか。
 ……いや、きっとおれが変わったのだ。お前が変わったように。
 「お前に与える選択肢は二つだけだ。黙って図書室から出ていくか、それともこのままおれと夜明けのコーヒーを飲むか、好きな方を選べ」
 屋敷の人間は心配するだろうか。リズは怖ろしい夜中の学校までおれを探しに来るだろうか。パティは眠い目を擦りながら夜中まで起きておれを待っててくれるだろうか。そんな他愛もなく、残酷なことが頭の中をよぎる。
 「僕はお泊り室が嫌でここに居るんだ。……帰る家があるくせに何故ここに来るの」
 夕日に光る彼女の頬は暮れなずむ黄昏の色をしていた。
 「広い屋敷にはたくさん使用人が居て、温かい夕食が用意してあって、あの姉妹が居るじゃないか。何が不満なのさ? 何が足りないのさ? 何が欲しいのさ?」
 おれを責めるようにクロナが語尾を強くする。
 「キミの父親は君に強くあるよう願うだろうね、でも僕はそうしなきゃ母親に捨てられちゃうんだ。命懸けなんだよ。食べる物は全部御褒美で、着る服は全部勝ち取らなきゃならない。寝る場所だってきちんと言う事を聞かなきゃ取り上げられちゃう!」
 すぐゴミになる心配もないのに君は一体何が不満なんだよ!彼女が叫ぶ。震える声で。
 「餓死に怯えた事は? 無音の真っ暗な部屋に一週間閉じ込められた事は? 寝る間もないほどストレスの捌け口にされた事は? 何にも知らないくせに、何にも解らないくせに、僕に近付くな!僕に優しくするな!僕に期待なんかさせるな!!」
 饒舌な彼女。怒り狂う彼女。嬉しい事をどう表現していいのか戸惑っている。……解るぞ、その気持ち。おれもそうだった、リズが何の警戒もせずおれの手を引いた時、パティに無邪気に抱きしめられた時、歓喜する自分の中身が恐ろしくて恐ろしくて……ただただ縮こまるしか術がなかった。
 「そんなのはマカだけで十分!友達になってくれるだけでもう踊り出したいほどだよ!これ以上求めたってそんなの無理なの解ってるのに、キミが僕を甘やかすから、僕を緩ませるから……もう、一人じゃ生きていけなくなる……今までどうやって一人で居たのか解らなくなっちゃうじゃないか!」
 服の裾を離し、スカートがパサリと音を立てて彼女の膝を覆い隠した。立ち尽くす憐れな子兎が恐怖に打ち震えている。
 「そんな心配の必要はもうない。お前は塵ではないし、一人でもない。例え離れ離れになっても、おれ達はいつまでも友達だ。おれはいつもお前の事を考えている。ひと時たりとも忘れはしない」
 指で触れるのも憚られる。伝染しかねない。人に触れる恐怖が。
 「嘘だよ、そんなのは無理さ」
 だがここで怯んでは死神の名折れだ。魂の忠実な農夫たる、死神の。
 「お前がそう思えばな。お前が信じれば必ずおれはお前の側に居よう。闇の中におれを思い浮かべろ。そうすれば声も姿も無いかもしれないが、おれは必ずそこに居る。……約束だ、永遠に」
 バラバラに切られた淡い紫の髪。夕日に照らされて黄金に輝いている切っ先に指を絡めて頬に触れた。涙で冷たく光る肌のすべらかさに、何故か夕餉の匂いを思い出す。
 髪に唇をつける。額を寄せる。魂を添わす。心の湖が鏡のように何の乱れもなく静かだ。
 耳には部屋にある時計の針が進む音。自分の呼吸、クロナの呼吸。自分の鼓動、クロナの鼓動。
 「……思い出すよ、闇の中にその三本線を」
 ぽつりと降参するかのようにクロナの声が聞こえた。同時におれの身体がぎゅっと抱きしめられる。それに驚いて、少しため息をつく。
 「――――――いい子だ」
 頭をくしゃりと撫で、子猫がもっと撫でろと首をもたげる様な仕草を期待している自分がいつか塵に還る日の待ち遠しいことよ。孤独なお前の魂に死神としてではなく、ただの魂として永久に寄り添えるその日を夢見ながら、夜明けのコーヒーのブレンドなどを議論しようじゃないか。

 「何故僕にやさしくするの」
 「……お前に優しくされたいからさ」



 10:00 2008/11/28 第58弾ソウルイーター。好きだ、愛してるって言われるより「いい子だ」って言われる方がらめぇってなっちゃうクロナえろい。ようやく完全新作書けたよ。うちのキックロの時系列で言うとこの後初めてキッドの特別室に行くらしいよ。キッドくんも普通の友達が欲しかった過去があったら面白いなーと思ってやった。反省などという文字はおでの辞書にない。






救えるもんなら救ってくれよ

 もともと希望を真っ先に想像するタイプじゃない。
 悪い方、理不尽な要素、良くない未来ばかりが頭に浮かぶ性格だった。
 根暗っていうのかな。
 そんなに楽しい奴じゃないだろう。
 今考えれば、それだけ子供の頃孤独だったのだと思う。
 一人っ子で家には親もあまり居なくて、何でも自分だけで処理しなくてはいけなかった。見知らぬ町で一人泣いていても何も解決にならないと悟ったのは6つの頃だったと記憶している。
 自分で考えて、自分で乗り切らなくてはならない。
 幸い俺は身体能力が著しく高くて、(道はともかく)物覚えもさほど悪くはなかったし、孤独が苦にはならない性質だったので上手くやっていた。のめり込むタチが武道を齧り始めてよい方向に動いたのもありがたい神の計らいだった。
 だから、俺にとって恨みの対象である乱馬でさえも別段重要な奴ではなかった。
 身体の変化は憎かったけれど、言ってしまえば憎悪でさえも趣味の延長みたいなものかもしれない。俺は精神の焦点や種類に大した執着がなかった。
 怒りも、興味も、興奮も、寂しさも、楽観も、工夫も、到達も、皆同じだった。
 君に出会うまでは。
 最初見たとき何を考えたのか、俺は覚えていない。
 何も考えなかったのだろう。
 ではいつから君を見て心を乱すようになったのか。
 実を言うとそれも覚えていない。
 豚の鼻先にされたキスさえよく思い出せないんだ。
 アレが切っ掛けではあったけれど、ふと朝目が覚めて瞼の裏に君が焼き付いていたのに気付いた。
 それから後の事は周知の通り。
 上手く行かない。
 君のことを考えた瞬間、俺は崩れてしまう。
 まるで違う人間みたいに。
 ……笑うかな、俺は自分で自分を結構シリアスな奴だと思ってたよ。
 薄暗くて、影があって、粗野で、何にも興味のない、面白味のない奴だと。
 事実世界を面白いと思った事なんかなかった。
 欲しい物はなかったし、必要なものは手に入れた。憧れるものも無く、懐かしむ事もしなかった。自分ではそれが少し自慢ですらあったよ。何にも捕らわれない自由な自分が好きだったから。
 君を好きになるまでは。
 今は寝返りを打つのさえ億劫だ。君を想えば想うほど鉛の鎖に縛り付けられて身動きが取れなくなる。身軽で自由を愛していたはずなのに、俺はまた下らない土産を下げている。
 「ねぇあかねさん」
 テントの屋根に君を思い描いて尋ねる。
 「俺が苦しんでいたら助けてくれますか」
 ブタの俺が溺れていたら、きっと君は何も構わずその身を水に放り投げるに違いない。友達の俺が眉を寄せて唸っていたら、きっと君は俺の気が晴れるまで寄り添ってくれるだろう。
 では
 男の俺が君に――――――――――――
 そこまで考え、彼女の性質を思い出して胸糞が悪くなった。
 『私が助けになれる事があったら遠慮なく相談してね。私たち友達でしょう?』
 彼女が言うであろう台詞が完璧に再生できたから。
 俺は想像上の彼女の笑顔があまりにも眩しくて、顔を顰めて笑った。



 14:57 2008/12/05 第59弾らんま半分〜。おでの良牙はミオンしゃんチの良牙よりさらに意気地が無いのでほんともうどうしょうもない。自分では結構固まってきた良牙のおさらい話。どうでもいいけどほんと熱気パクリ杉だおで。






座る場所がない

 「ひでぇな、一日に三本しかない」
 ポケットにそれぞれ両手突っ込んで、ソウルが時刻表を眺めている。
 豪雨で煙っている田舎風景は茶色と灰色と白で埋め尽くされていて、自分の髪の先からぽたぽた落ちる冷水さえ幻想的で綺麗な気がした。
 「風邪引くぞ」
 頭を小突かれてようやく我に返った。ソウルが差し出したタオルを受け取るか受け取るまいかという思いが逡巡している間に、髪を一房絞られる。
 「だからバイクで来ようっつったのに」
 田舎道を二人乗りで遠出なんて、考えただけでお尻が痛い。
 「……ソウルはいいわよね、変身してりゃ服濡れないもん」
 ちょっと意地悪な事を口角上げて言った。
 「仲良くずぶ濡れになったら誰がお前を乾かすんだよ」
 ジャンパーの上着をごそごそやって、ジッポと折りたたみナイフを取り出しその辺に落ちていたゴミだの枯葉だのを集めて古看板を削り、オイルを撒いて火をつける。ソウルの不良七つ道具は遠出する時、毎度役立つなぁ。
 「コート絞って干しとけ。靴下も火の近くで持ってりゃものの10分で乾くさ」
 ジャンパーを投げて寄越しながら、壊れかけて傾いでる椅子に腰掛けたソウルが眠たそうな目でそう言った。
 「ソウル」
 タオルを頭にかけたままの私をめんどくさそうに見上げたソウルの膝の上にどっかり座った。
 「な、なんだよ、重ぇ!どけよ!ズボン濡れる!」
 「椅子汚いもん」
 「……お前シャツもぐしょぐしょじゃねぇか」
 「こんなトコで下着姿になれって言うの?」
 「ジャケット貸してやったんだから着ろよ」
 「やあよ、このジャンパー結構風通すもん」
 ムッとした顔をしたのだろう。無言で椅子に置いてあったジャンパーに袖を通して前身ごろを私の身体ごと合わせて肩に顎を乗せた。
 「……つべたいなぁお前」
 「きびきび温めなさい」
 「……蹴り出してやろうか……」
 パチパチ小枝か何かが爆ぜる音。
 トタン屋根に雨が叩き付けられる音がする。
 古く草臥れた田舎のバス停は自然の音だけがしてとても静かで、どこか遠くでかえるの鳴き声が聞こえる。時おり強くなる雨足がどこか心を不安にした。
 「なぁマカ」
 「なによ」
 「お前、誰にでもこゆ事すんの?」
 「……なにが?」
 「だから……膝の上乗ったり、トカ」
 後ろから抱っこしても怒んないじゃん。ソウルがほんの少し上擦った声でそんなことを聞いた。
 「ん、まぁ、長いことお父さんっ子だったから、同年代の子と比べたらあんま抵抗無いかも」
 「……や、抵抗とかじゃなくて。誰にでもすんのかって、訊いてるんだけど」
 トタン屋根に雨粒の降る音。懐かしい。冷たい雨の匂い。ライターオイルの揮発臭。
 「それどういう意味」
 視線は白く煙る道の向こう側に広がる、田園風景。視界がよければ山里が見えるはずなのに。
 「例えば、ブラックスターとか」
 ソウルの声がらしくもなく低くて、耳の後ろがゾクゾクした。
 「……さぁね。そんな機会なかったわ」
 「じゃあキッドは?」
 「何が聞きたいのよ?」
 「俺がキッドだったら、こうやって膝に座ったかって訊いてる」
 「……職人同士で校外実習なんか……」
 「そんなこと訊いてねぇだろ」
 背中で脈打ってるソウルの心臓が煩わしいほど早くなってて、少し面倒くさい。回りくどいのよ、あんた。
 「座るかもね」
 意地悪がしたかったわけでもないけれど、素直に答えるのがなぜか癪で素っ気無く話を終らせた。
 「なんで? 好きなの?」
 ところがどっこいソウルは終らせてはくれなくて、もういい加減鬱陶しくなってくる。
 「この髪型がシンメトリーで魅力的だって言われたわ」
 適当でどうでもいい風に答える。私にはこの無意味な問答より目の前で散らばる泥を跳ね上げ踊る雨粒の方がずっと面白い。少し黙っててくんないかな。
 「………………。」
 ようやく静かになったソウルがぎゅっと私を抱いてる腕の力を強くした。
 なんだろう。
 背中が温かい。
 雨風が焚き火を揺らす。
 脛が火に炙られて少し痒い。
 空はどんよりと暗くて、レンガとコンクリートで囲われたバス停は薄暗い。足元に焚き火。もう随分小さくなって白い灰が目立つ。
 雨音に掻き消されがちの呼吸。背中の鼓動。腕の力。
 私はぼーっとソウルの温かさを楽しんでいて、昔のことを取りとめも無く思い出していた。
 床のコンクリートが砕けた端っこあたりに、空き缶が一つ転がっている。煤けた水色と黄緑色のストライプ。古いデザイン、少し錆びている感じが物悲しくていいな。
 「マカ」
 ぽつ、とソウルが私の名を呼んだ。
 「なに」
 ソウルの身体に自分からは触れない。ただ後ろから抱かれるままにしている。それがなんだか心地良い。
 「明日死武専帰るじゃん」
 「うん」
 「延ばさねぇ?」
 「……だめよ、もう死神様に報告しちゃったもん」
 「大丈夫だよ一日くらい」
 「あんたTV見るんでしょ」
 「ビデオ録ってる」
 雨の音。
 トタン屋根がさわさわ鳴ってる。
 土の匂い、森の匂い、ソウルの匂い。
 「明日晴れたら、帰るわよ」
 雨だったら?
 ソウルが尋ねるので。
 バイクの後部座席が濡れてたら私座る場所がないもの。
 答えたら、ソウルが笑う。
 「明日も雨なら今日みたく俺の膝の上に座ってくれる?」



 17:17 2008/12/05 第60弾はソウルイーターのソマカ。あれぇ結構エロ展開に持っていきやすいシチュエーションの筈なのに。マカはソウルに興味ないといい。で、ソウルはヤキモキしながら突っ張るんだけど全然上手く行かなくて、いっつも負ければいい。マカはツンツンでソウルがツンデレだといい。続きはエロパロで。(書きません
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