この先を別れて

 時々、本当に時々なんだけれど、おれから外に行こうかと誘うことがある。
 その時一瞬変な顔をして、次に眉を顰め、それからようやっとぱあっとした表情でうん、と元気良く頷くのだ。その過程が面 白くて、時たま、本当に時たまだけれど、見たくなることがある。
 自転車に乗ったり、テクテクその辺り素散歩したり、繁華街にも行くし、ゲームセンターにも公園にも妙な店にも、一度だけ だけれど遊園地にも行ったことがある。海にも山にも連れて行った。
 ……こう考えると俺は結構いい奴なんじゃなかろうか。
 あいつは空が飛べる。おれ一人くらいなら抱えて結構な高さとスピードで飛べる。あまり長い時間は無理だけど、高度約1q (コレは別に計ったわけではなく、セスナの最低高度が大体それくらいで、ぶつかりかけた事があるからの推測)、時速だと多 分80キロ位だろうか、乗用車並のスピードで20分くらいならおれを抱えたまま飛べる。
 ので、あいつがおれを連れて行く場所は、妙な場所ばっかりだ。
 看板の裏、鉄塔の先っぽ、足の踏み場も無い路地の向こう。多分誰も見たことのない風景を見せに、あいつはおれを抱えて飛 びまくる。
 お陰でおれは友引町を俯瞰図で覚えてしまった。
 ……あと……抱えられると当たるんだよ……その、背中に。まさか女の背に乗るわけにもイカンだろ?だからこう、必然的に 、羽交い絞めみたいな格好でおれはぶら下がっている訳だけど、それが格好悪くて、何度も何度も抗議をするんだけど、逆を向 くのはもっと嫌だし、手を引っ張られるだけってのは恐ろしくて更に嫌だ。
 だからおれは出来る限り空は飛びたくない。便利だけど。
 「飛んでるとダーリンが『うちが居なきゃ死んじゃう!』ってしっかり掴まってる感じが好き」
 当たり前だっつぅの。実際空中で手を離した事あるお前がゆーな。
 「アレうちのせいなの!?……ダーリン結構自暴的で破滅願望とかあるっちゃ。見張られてないとダメなヒトだっちゃ」
 ……うるせぇな。
 出かけた先で話すことはたかが知れている。稀にドキッとする事を言うけれど、基本的にあいつバカだからおれの言う事はど んなに下らない嘘でも鵜呑みにした。
 最初の頃はそれがおかしくて随分アホなことを教え込んだものだが、近頃は別段そういう事はしない。いっぺん痛い目を見た からな。バカの癖に物覚えが妙にいいからなかなか忘れないんだよあいつ。
 「ねぇダーリン、うちのこと愛してるっちゃ?」
 で、これを半年に一回ぐらい、不意におれの顔を覗き込んで尋ねる。
 おれはその度に心底嫌そうな顔をしてナンとかカンとか言い訳してはぐらかしたり逸らしたり有耶無耶にするんだけれど、こ の頃はあいつも慣れたもので、そのやり取りそのものを楽しんでいる節がある。
 おれが苦し紛れに出す言葉や、心底困った風に唸るのを眺めるのが嬉しいらしい。……腹立つ。
 そんな風に日々をのらりくらりと過ごしていると、ふとこいつが居なくなったら自分がどうなるのかな、という想像の先が全 く無いことに愕然とする。少し前までちゃんと頭の隅にあったはずの想像の限界が、ぽっかり消えてしまっている。
 つまりこれって一人で生きていけなくなってるって事じゃないのか?
 やばい。
 まずい。
 自覚したら流石に肝が冷えた。
 そんなことがあいつにバレたら何と言うかすぐ想像できる。
 「うちの勝ち」
 いや、ちょっと違うな。
 「うちのこと愛してる?」
 ……そうだ。これだ。そんでおれを普段はしない理で追い詰めて、ついに吐かせるに決まってる。
 空虚でがらんどうで薄っぺらでどーでもいい言葉におれを押し込めて悦に入るだろう。そして勝ち誇った顔で何度も何度も同 じ事を尋ねるに違いない。
 考えとこう、あいつが居なくなったらどうやって生きていくか。



 36弾うる星やつら〜。ダーリンのノロケ話。ダーリンは最早ラムが居ないと生きてけない身体だ よねー。でも絶対それを認めないあたりカワイくていいよねー。ダーリンの愛ラムの愛の倍くらいキツそう。失ったら崩壊自滅 すんじゃねえのって意味で。で、ラムは言語化以前に薄々それに気付いてる。道が分かれたらラムは何とか生きていくけど多分 ダーリンは精神が死ぬ。そんなイメージ。10:42 2007/12/20






ラグノス

 「突っきとか〜気合とか〜」
 ……無視。
 「最初にやり出したのは〜」
 ……くっ……負けるか。
 「ラオウなのかしら〜駆け抜けてゆくー(駆け抜けてゆく〜)」
 ……コーラス自分でやるな。
 「北斗の『ウァチャァ!』メモリア〜ル」
 「声まで変えるなよ!!」
 「うるせーなぁオタクは」
 「そんな古いMADアニメ知ってるお前に言われたくない!」
 コントローラーをぶん回しながら振り向くと、ニヤァとばっちい笑顔でグゥが笑った。ギザギザの歯が見えて、かまぼこのス ライスを逆さに向けたような目の奥がいつもみたいに空虚に光っている。
 「構え」
 一言そう聞こえたかと思うと、彼女の口が特殊メイクのクリーチャーよろしくグァパと顎の辺りまで切れ込んで開いた。…… ああこういう状況に慣れている自分が恐ろしい。
 「今日は二人で留守番してろって母さんに言われただろ。アメも居るんだから飲み込むのはやめろ。だいたい、グゥがラスボ ス戦が見たいっつぅからコレやってんだぞ?」
 「アメもこんな湿気だらけでジメジメした家に転がされてるより、からっとした場所でたくさんの人間に囲まれた方が喜ぼう というもの」
 「やっと寝たんだから起こすなよ」
 TVに向き直ってダンジョンに再潜入する。オレの魂は再びゲームの中に捕らわれて、戦士になったり僧侶になったり、ロー ルプレイングを繰り返す。
 「ハレよ」
 「……んだよ」
 「グゥ様はヒマだぞ」
 「だからパズルゲーでもやろうつったのに、グゥがこれやれって差したんだろ。」
 「雨だからという理由で家に引きこもって機械に自ら繋がれるハードSFのデストピア民みたいなノーフューチャーゆとり教 育の犠牲者になる趣味は無い」
 ……イチイチ嫌味ったらしい言い方すんなぁ……
 「赤ん坊が寝てんだぞ?トランプかゲームか、本でも読むより仕方ねーじゃん。他に何やるんだ」
 「恋人ゴッコってのはどうだ」
 ……こいつの手はもう解ってる。こういう話にオレがすぐ動揺するのを知ってて、弄って遊びたいのだ。あたふたして赤くな ってオロオロするオレを見て楽しみたいのだ。
 「もうしてるだろ」
 だからオレは深呼吸して頭の中をCOOLに保つ。
 「同棲して6年目のダレた恋人ごっこ」
 言ってやった言ってやった。声も震えなかったし、視線だってTVから離さずに、素っ気無い風に返してやったぞ。
 会心の笑みを浮かべながら言葉に詰まったであろうグゥの返事を窺っていたが、しばらく経っても何のリアクションも返って 来ないので痺れを切らせて振り向いた。
 あの薄ら寒い美少女の顔をして、いじらしい素振りでもぢもぢとスカートの端を弄っている。
 「……あ、……ゥ」
 喉の奥から変な声でた。
 それを機にグゥの顔がいつもの無愛想で無機質で無関心に戻る。
 「好きな人に告白してその返事を待つ美少女ゴッコ」
 ニヤァ、と口角を上げて汚い笑顔を見せて
 「粗末な企みだな」
 ゲラゲラ高笑いを残し、グゥが台所の方に消えた。
 ――――――くっそォー!!!



 37弾ジャングルはいつもハレのちグゥ。本当はその他用に長い話の導入として思いついたが、グゥ はドラ張りに行動原理が不可侵なのでハレを動かすしか方法が無いボキの(妄想)力不足によりハレとグゥにセクロスはミリ故の再利 用。ギリシャ語でラグノス=快楽。サドマゾや友情や愛情じゃないよなぁハレとグゥの関係は。あえて例えるならやおいか。 12:36 2007/12/20






君にヤキモチ

 少しだけドアが開いている。
 沈静化した暗がりの広がるドアの向こうには、暑くも寒くもない平坦な深い紺色に占められた世界が手招きをしている。
 あの隙間に身体を滑り込ませれば、この寂しさが消えなくとも塗りつぶされて気にならなくなるのだろうか。
 仮にそうなのだとしたら、それは少し魅力的だ。あの寒くて暗いぼんやりと不安な世界が懐かしいくらいなのだから。

 ミミちゃんと別れたんだってね。
 彼女がイの一番にそう切り出した。僕はそのあまりに無体な直球にぐっと詰まってしまい、頷くより仕方ない。
 「ミミちゃんから丁寧なメール来たわよ。あの調子じゃ相当ヘコんでるだろうからよろしくお願いしますー……ってさ」
 「……はぁ。」
 空さんがふっと困り顔で笑ったような気がした。僕の視線は相変わらず膝の上の二つ並んだ握りこぶしに固定されていて、動 かない。
 「――――――ねぇ光子郎くん」
 オープンカフェのテラスに置かれている白いテーブルは端のほうが煤汚れていて、ちょっと据わりが悪くて、空さんが少し動 くとゆらっとプラスチックカップのコーヒーごと揺れた。
 「どうしてヤマトの誘いを振り切らなかったの?」
 彼女の問いの真意を計り知れなくて、思わず顔を上げる。
 「い、いえ……ヤマトさんが強引に……」
 「嘘ね」
 きっぱりと、それでも静かに断言する彼女が不思議だった。黒目がちな先輩はしっかりこちらを見据えて、意志の強そうな眉 はぴくりとも動かない。
 「迷ってるんでしょ?」
 真顔の空さんに向かって、僕は何を、だなんて逸らせなかった。そこで逸らしてしまったら、持っていた何かを捨ててしまう 気がして、何もかもに嘘をついてしまうような気がして……恐ろしかったから。
 「迷い、というか。躊躇いと言うか。
 怖かったんです。約束とか、誓いとか、未来とか、そういうものが」
 まるで縛られてゆくようで。
 頭の中になにも浮かんでこない。真っ白な平原にぽつんと立っているかのように、どう表現していいのかサッパリ思いつかな い。
 それでも何とかそれなりに整形して話してはいるけれど、全く全然、自分の意思とはかけ離れている。こんな事を思っている わけじゃない。もっと、もっと、違う何かのはずなのに。
 「それは一人で立ち向かえるもの?」
 僕のメチャクチャな台詞に輪をかけて抽象的な表現で、空さんが再度僕に尋ねた。今度は少し優しい調子で。
 「……わかりません。
 でも、少なくとも、ミミさんは巻き込まないで済む分、楽です」
 恐怖に携えずに済む。嫌な感情を分け与えなくて済む。苛立って喚き散らして八つ当たりをしなくていい。それだけで十分幸 福だと思う。
 「ミミちゃんは多分、そういうのも全部ひっくるめて光子郎くんと付き合ってるんだと思うけど。人と付き合うって、そうい う事だってちゃんと知ってる子だもの。……ちょっと過保護過ぎない?」
 「いえ」
 「や、だって、光子郎くんはミミちゃんのヤな所も含めて好きになれたんでしょう?だったらミミちゃんだって……」
 「いえ、そうじゃなくて。自分の嫌な所が彼女と居るとすごくすごくハッキリ見えて、その嫌な所が、その、つまり……何と 言うか……
 ミミさんと居るの、しんどいんです。」
 言葉にして、脳味噌を通らない感情を口に出るまま言葉にして、我が事ながらはっとした。随分遠回りして、辿り着いてしま った。
 決して辿り着きたくないから、考えないようにしていたのに。
 「――――――そう、なの……」
 哀れむような声がした。痛々しいものを見るような目で、多分僕を見ているのだろう。急に耳が回りの音を拾い始めて、ざわ ざわ雑踏のなかに自分が居る事を思い出した。
 「空」
 背中でヤマトさんの声がした。振り向くとバスケットにサンドイッチやらポテトやらを満載させている、いつものくすんだ金 髪が見えた。
 「お前の分も買ってきたけどポテト食うだろ?」
 にっこり上手に笑ってヤマトさんが席に着くと、なんだか無性にほっとしたのか、全身に漲っていた力が一気に抜けたような 気がした。
 「おごりだからって遠慮すんなよ。食え、光子郎」



 38弾デジアドシリーズ。光子郎と空のターン。この話マジ闇鍋向きじゃねえな!だが長いと書かな いのでここに押し込める。次で終るのか。京ちゃんの出るスペースはあるのか。それは俺にも解らない。ダメじゃん。13:55 2007/12/20






戻れない明日へ

 「マサル」
 「おお。久しぶりだなぁララモン」
 腰掛けていた岩の天辺から太陽を背にしてピンク色の茄子がふわふわ降って来くるので、おれは手に持っていた竿をちょいと ずらして、竿先で支えるみたいにララモンを受けた。
 「昼食?」
 「まぁな」
 てひひ、と妙な笑いで竿の角度を鋭くしてララモンを滑らせると、急に足場を取られて動揺したのか、あっという間にララモ ンが捕まった。
 「ちょっとぉ!物みたいに扱わないで頂戴!」
 てひひひ。おれはまた妙な風に笑う。
 水面がキラキラ反射していて、釣り糸が少したわんでいる。そよ風は青い草の匂い、むっとする土の湿気が都会育ちのおれに さえなんだか懐かしく感じられた。
 「アグモンは?」
 「肉の担当」
 釣竿をじっと見つめたララモンが一応、といった風に訊ねる。
 「……野菜は?」
 「ララモン」
 ハァー、っと大きな溜息が聞こえてあとは静かになった。
 さらさら梢が鳴っている。気の早いセミが鳴いている。平和だけを留めた時間が永遠に続いている。まるで夏休みの7月が何 度も繰り返すような夢の世界で、おれは王様になった。
 釣り糸を垂れ、疲れたら眠り、雨の日には草笛を鳴らして、晴れの日には大空を飛び、仲裁や喧嘩や決め事の采配、困りごと の相談なんかを請け負いながら毎日を暮らしている。時々紛れ込む人間の子供や、迷子になった幼年期連中の面倒を見るのもお れの仕事で、たった一つ見つけたリアルワールドへのゲートの管理もやってる。忙しくものんびりした退屈で刺激的な王様の仕 事。繰り返しめぐる季節を数えながら目一杯に手足を伸ばす仕事。
 「帰らないの」
 ララモンが聞いた。水面を見つめたまま静かな声で。
 「帰ってどうすんだ?」
 おれは何となくララモンがそんな事を訊くだろうなと予測していたので、呆れ半分会心半分で竿を左右に少し動かした。波紋 が広がって消えるのを眺めながら。
 「淑乃とセックスすれば?」
 「……お前な」
 あまりと言えばあまりの返答にガクッと肩を落とすおれの隣でララモンが続けた。
 「そんでここに二度と来ないで」
 水面から目を離さないようにしてララモンが硬い声を無理に上げる。
 その調子がさも正論だとでも言わんばかりに放たれた事が、なんだか寂しくもあり悲しくもあり、軽い憤りの感情すら禁じら れない。
 「無理無理。おれがDWに何年居ると思ってるんだ?もはや社会復帰なんか出来る訳ねーじゃん。淑乃がこっち来る方がよー っぽど現実的」
 てひひひ。それでも大きく取り乱すこと無く笑い声を上げ、しかし顔が笑わない事への指摘は無い。それがおれの限界だとお 互い良く知っているのだ。何故ならばおれもララモンもそーゆー『自分に嘘をつくことに慣れてしまった哀しい生き物』だから 。
 この世界を選んだ瞬間、道が分かれると薄々解っていた。そしておれはあの日あの時、彼方の世界と此方の世界に例えゲート があった所でもう繋がったりはしない未来を選んだ。
 「でもあいつは来ないだろ?つまりそーゆー事だよ」
 夢の世界で王様をしている。
 多分おれはこの世界でそうやって暮らすだろう。
 父さんみたいに帰る事なく、あちらの世界に未練を残さないよう慎重に可能性を潰して廻りながらこの世界で朽ちてゆくだろ う。それを快感と信じ込みながら日々を過ごすことは多分、あちらの世界で苦痛と空虚と焦燥感に炙られ続けるよりはずっとま しのはずだ。
 心残りはもうなくなってしまった。
 幸せはどこにも転がっている。要はそれを拾い上げるかどうかって事だ。
 「フラレ組って惨めね」
 てひひ。
 おれはまた妙な声で笑う。その声がちっとも卑屈でなかったので、やっぱり自分はこの世界の一部になってしまったんだと改 めて悟った。
 「仲間に入れてくれんのか」
 竿を左右に動かして波紋を作ると、ララモンが出来るだけ平らな声を作って言った。
 「だってアンタ行くトコないんでしょう」
 まあな。
 てひひひと妙な声で笑う前に遠くから相棒が呼ぶ声が聞こえた。耳を澄ましてそれを聞くと、自分の選んだ未来の幸福に思う 存分浸かっている事を実感する。



 39弾デジセイバ。5年後の5年後くらいかなー。アニキは大分整理がついて、ララはアニキと顔を合 わせられる位には落ち着いた頃。ループする幸福の輪に閉じ込められたDWへ逃げ込んだアニキのバッドエンドは今日も平穏で す。15:21 2007/12/20






本作品に登場する
人物、団体、事件等は
全て架空のもので
実際には存在しない

 この空とあの空は繋がっていない。
 今この瞬間だって、地球上のどこにも居やしない。
 光の粒になって消えてしまった。
 どこにも、なにも、残っていない。
 DATSも表向き解散してしまって、同時にゲートを開く権限を失ったあたしは普通の警官になった。一応IT関係の部署所属で はあるけれど、当然デジモンに類する案件には一切関われない。だってそういう事件全然ないし。
 知香ちゃんとイクトはよく見る。仲良き事は美しき事哉。あいつが見たら怒髪天を突きそうだけど、上手くやってるらしい。
 あの頃の資料は殆ど廃棄されてしまった。何故か部屋の片隅で部外秘のハズの自分で書いてた最後の業務日誌と、提 出しそびれてたデジモンのデータだけがあれが夢じゃなかったのだと主張していた。
 大の書いたミミズがのたくったみたいな始末書。
 何枚も何枚もウンザリするほど書かせたレポート用紙が、書き損じた一枚だけが業務日誌の最後のページに挟んであった。
 『始末書 一昨日のデジタマ回収作戦での独断専行はすべて己の不徳の致す所で大変遺憾に思います ごめんなさい 大』
 小学生でももうちょっとマトモに書くわよ!と怒鳴り散らして清書させたのを、昨日のことのように思い出せるけれど……最 近はこのファイルを開く事もなくなった。
 意識的にそうしている訳ではない。もう多分必要がないんだ。
 帰って来いと最後に願ったのはいつか忘れてしまうほど、あの日々が掠れて行くことに無頓着になっている。
 トーマにそんなことを漏らした時、ほっとしたと笑われた。あの時間が身体に染み込んで、思い出して手が止まらなくていい くらい淑乃さんの一部になったんですよ、と。
 その時はどういう意味か理解できなかったけれど、今なら解る気がする。悲しさや腹立ちに掻き乱されることなく、今なら納 得できる気がする。
 あたしは立ち上がって、前を向いて、歩き出して……過去にしてしまった。それが悲しくて苦しくて罪悪感に満ち満ちていて 、ずっと引きずっていた。重くて辛い荷物を背負っていた。本質を見たり確かめる為に思い出す事さえ怖くて、前を向くことは 捨てる事とばかり思っていた。
 それでも嫌々ながら新しい仕事を始めて、少しづつ案件を任されるようになって、色んな人に会って、色んな事に触れて、泣 いて笑って怒って楽しんで……生きる事に取り組み始めたら、違うんだと気付いた。
 この空は繋がってないし、地球上のどこにも居ないけど。
 残ってる。
 この胸に残ってる。
 一つ一つの言葉は思い出せない、その換りに。
 あたしの魂がここにあるってことは、ここより前に、今より昔に、ほんの少し後ろに、過去がある。それはいつもあたしに繋 がっている。
 守る必要もないくらい確かに、強固に、そこにある。
 例え忘れてしまっても。
 手を伸ばしても届かない場所を睨んだりしないでいい。
 それはもうあたしの中にある。
 だから業務日誌はもうずいぶん開いていない。

 あんたは架空の世界へ行ったけど、あんたは架空じゃないわ。
 だってあたしがここに居るもの。



 40弾デジセイバ。「戻れない〜」のB面……デジタルモノでよくもまあこんな悲しいオチを付けたも んだな俺。そんな攻殻・電ノコ好き的にBADEND。いやでもホラ、淑乃は生身だから。ネ?……何がネだ。幸せな記憶を糧として 生きて何が悪いんだ。大丈夫悲しくなんかないって!マジで!……マジで!(強調文 16:54 2007/12/20
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