じょうずなおわかれ

 「お兄ちゃん」
 「やぁ、ドラミか」
 ぼんやり窓の外を眺めるドラえもんに声をかけたのはいつもの心配性からではなく、ある種の予知からだった。ドラミの高性能AIに超神秘的な力が宿らないとも言い切れない、ここは22世紀のトーキョーシティネリマブロック。
 「セワシさんが博物館に行きませんかって」
 返事はない。
 ドラえもんが20世紀から帰ってきたのはもう数週間前。そろそろ旅行ボケも治って貰わなければ困る頃合いだ。タイムテレビで見る彼の方がよほど元気というのはいかがな物か。
 ドラミはこの家でタブーになっている彼の名前を持ち出してでも、ドラえもんに正気に戻って欲しかったが、彼女の頭の中のセワシがそれをどうか勘弁してやってくれと懇願するので出すには至らない。
 「お兄ちゃん!セワシさんが――――――――」
 「いや。ぼくはいいよ」
 ……重症ねぇ……
 「重症だねぇ」
 溜息を全部吐き出すより前に背中で主人が唸った。
 「重症なのよ……」
 ドラえもんが居る部屋のドアを閉め、ドラミの頭にあごを載せたままのセワシがドラミよりも深く溜息をつく。
 「最初から分かっていた事とはいえ、胸が痛むよ」
 「でもみんな通る道だわ。」
 クールに言い切るドラミの背で、セワシが溜息混じりに言った。
 「割り切れない心は悲しむもんなの。おじいさんだってそうさ、昼間は明るい顔してるけどアレで結構繊細なトコあるから」
 セワシは時々ドラミがびっくりするほど冷徹な言葉を発する意味を知っている。ロマンチストの野比一族にはリアリストが必要なのだ。
 「ねぇセワシさん、お兄ちゃんが12歳以降の彼に会うことは不可能よね。でもじゃあそれ以前、つまり彼の元にまだ居た時間に彼に接触するのは非合法とは言え不可能ではないわよね?」
 「……ドラミちゃんって、時々凄いこと言うよね。……でも、まぁ、してるんじゃない?ここより未来のドラえもんは。」
 とてもお手伝いロボの発言とは思えない過激なセリフに内心びくびくしながらも、セワシは口ごもりつつ返事をする。
 「そう思う?」
 「それまで電池が持てばね」
 「……セワシさんって冷たいわ」
 眉をひそめたのだろう、非難を少なからず含んだ口調でドラミが口を噤む。その様子をホッとした顔で見た彼が、これ見よがしに続けた。
 「みんな通る道なんだろ。この世界は万能じゃないし、楽園じゃないし、過去だってそうさ。君たちはいつか壊れ、おじいさんが死んで僕が居るんだ。そんなこといくらポンコツだってドラえもんが解らないはずないよ。だから会いに行かないし、ドラえもんは今を生きて……」
 「ないから困ってるんでしょう?」
 「……ほんと、困っちゃうねぇ……」
 付き合いは僕の方がうんと長いのに、妬けちゃうな。セワシがおどけたのを見咎めるようなドラミが浅く溜息をついた。
 「ドラやきなんか見せたら泣いちゃうかなぁ?」
 ドラミの表情を伺いながらにセワシがドアを見て言った。
 「セワシさんて時々凄く大人なのかなって思うことあるけど、そういうとこは子供よね」
 「君たちの教育の賜物だよ」
 「……また人のせいにする。よくないわよそういうの」



 26弾はセワシ×ドラミ。ええっデキてんのこの二人。デキてます。ドラの話を直接的には書けないことが脳内会議にて判明したので語り得ぬ事の輪郭を掴んでみる試み。ドラの思念は不可触なる神の意思であり、故に如何なる二次元創作もこれを侵してはならない。セワシくんもドラやドラミといつか別れる日が来る。でもそれを予感できるほど彼はまだオトナじゃない。いつかドラミの置き土産に彼も気付く。彼の祖先がそれを乗り越えたように。19:22 2007/07/10






水は百度で

 「信じられるものがないのよ」
 いいじゃないか。俺なんて信じられるものは始めから何一つ持ってなかった。それでも信じたいと願うものに、あなたに、今まさに裏切られんとしている。これ以上の不幸なんてあるだろうか?この世に神も仏もないことは知っていたけど、まさか気のいい悪魔さえ居ないとは。悲惨だ、まったくもって悲劇的過ぎる。
 爪が、桜貝の爪が背中に立てられた。
 ガリガリと引っかき傷、夢心地。
 たわむベッドのスプリング。耳元で不意に軋む音が、沈むマットレスが、引っ張られるシーツが。
 白い肌が闇夜に弾んでいる。
 胸が泡立つ。
 たまらない、鼓動が喧しくて気分が高揚すればするほど恐ろしい気がした。艶めかしい真綿で首を穏やかに締め上げられている。
 「好きな男も信じられないのに」
 勝手に終ってしまうのが怖くて俺はよくこうする。自分から可能性をぶん投げて終らせる。悪人や加害者になったほうがずっとましだ。
 「どうでもいい男に身体を任せてどうするんです」
 俺はどうしたいのか。これを望んでたんじゃないのか。それとも何も望んでいやしなかったのか。
 「あてつけか、復讐か、ヤケクソか。どれでもいいんです、どれだって嬉しい。ただ俺の人格の存在くらいは信じてほしかった」
 ぶん投げてやる。
 ぶん投げてやる。
 何も言わないまま消えたりするよりましだ。いつも見たくに、黙って君の前から居なくなったりするよりましだ。
 どんな形でもいいから君の心に居たい。
 例え憎まれ蔑まれていたっていい。
 「…………。」
 腹の上に湯が垂れた。ぽたぽたと熱い雫。
 窓から差す街灯の光に照らされて輝く彼女の頬を、醜いとさえ思えない。悲劇だ。悲劇だ。悲劇だ。
 熱い涙が降る。
 俺の身体に降る。
 ああ、身体が変化する。
 賎しい豚から、醜い人間に。餌をねだる事はもう出来ない。

 自分は何が欲しいのか、俺にはそれでも見当すらつかなくて、あの薄らバカを嘲えない。
 俺は沸き立つ涙に苛まされながら、力の抜けた彼女の手を握る。



 27弾らんま半分ー。やっと終った良あか。明らかに3話で十分片が付いたよねコレ。シンデレラを元ネタにした筈なのに欠片も読者に思わせない手法は賞賛に値するよね。もしくは斬首。13:44 2007/07/10






reprise

 ぼくにはお父さんが二人いる。
 目の前のお墓に手を合わせているお父さんと、目の前のお墓の下にいるお父さん。どちらもぼくのお父さんだ。
 「守、彼女の事、ちゃんと報告するんだぞ」
 お父さんがぼくの名前だけで呼ぶようになったのは中学生になってからで、それまでずっと“守君”と呼ばれていた。
 別に気遣ってる訳じゃなくて、単に照れくさかっただけなんだと15の頃に言われて知った。息子が出来て恥かしかったんだと。
 「わ、かってる、よ……!」
 ぼくは今まで18年間、良い子だったと思う。元々母子家庭だったから出来るだけそう努めてきたし、生来の気質も手伝って特別それに不自由も疑問も抱かなかった。
 ぼくにはお姉ちゃんがいる。もうお嫁に行って家には居ないけれど、お姉ちゃんがいる。苦労性でお父さんに似て心配屋だけど、明るくて優しいお姉ちゃんだ。
 そのお姉ちゃんがお嫁に行く前の晩、偶々リビングで二人きりになったとき、ぽつりと言った。お父さんはね、守のお父さんだからちょっとくらい困らせたっていいのよ、と。
 ぼくはその時それがどういう意味だかよく解らなかったけれど、頷いて笑った事は覚えている。なんだか照れくさくて笑った。
 「……お父さんは、何を報告するの?」
 「お母さんと、典子と、守と、今度生まれてくる孫のことだ」
 「……素直に北野家のことを報告すればいいのに……」
 溜息吐いてぼさぼさ頭に黒縁メガネ、くたびれたスーツと使い込まれた女性用の珊瑚の数珠(お姉ちゃんのお母さんの物らしい)を持って一心に目を閉じるお父さんの横顔を見た。
 お父さんがそこに入ってもう何年目だっけ。隠れて付き合ってた女の子の事がお父さんにバレてつれて来られたのが5月だから、そんなには経ってないけど。そっちは元気?こっちはまぁ、元気にやってるよ。彼女も元気。ちまちま喧嘩したりするけど概ね仲良くやってるから心配するような事は無いよ。お母さんは夜勤で遅れて来るけど、ちゃんと今日中に来るからね。明日からサッカーの合宿で練習試合あるから、見ててよ。あと、お姉ちゃんのお腹の赤ちゃんが無事に育ちますように。
 その横顔に倣うように僕も目を閉じて線香の香りに巻かれながら日常の報告をした。いつものように。
 「守、行こうか」
 目を開いたぼくを確かめるように、お父さんはバケツとひしゃくを持って背を向けた。
 「ねぇ、お母さんの方も行こうよ」
 「あ……ああ、い、いいよ。守、疲れただろう」
 「いいじゃん。行こうよ。」
 そう言うと照れくさそうに振り向いて、花屋に寄らなきゃならんぞとちょっと早口で言った。
 「若いのと行った方がおっきい花束買い易いじゃない」
 「……親父をからかっちゃいかん。」
 ぼくにはお母さんも二人いる。
 会った事の無いお母さんだけど、ぼくの家族。



 リプライズとは再演奏、反復。つーわけでお父さんは心配性。誰がわかるんだ。よく考えたら両方共死別の再婚なんだなぁと。光太郎は安井さんの夫とどんな話をするんだろうかなと考えたんだけどわからない。多分光太郎も最初そんな気分だったろうと思うのが関の山で。でも家族だから時間をかけて、溶け合っていくといいよねわだかまりも何もかもが。北野とお父さんの話は両方子供なので前に進まない。進まないけど、その二人が子供でいられるのはお互いの前だけなので、それはそれで一つの家族の形だと思うのです。それにしても頑張れ北野君。11:10 2007/07/5






予定調和的物語

 大はアグモンになったのだ。
 淑乃は大きく頷いた。
 あの世界にたった一匹のイリーガル、そういう異質に彼自身が望んでなった5年前の分岐点を淑乃は改めて確認している。選択肢を辿りながら物語を再認識する作業は、もはや趣味になりつつあった。
 リアルワールドにアグモン一匹残すより、自分がデジタルワールドでたった一人の人間になる方を選んだのよね。
 でもそれって寂しくないの?
 淑乃がこの煮詰まりがちな思考実験を繰り返すのは、忘れないため。大の思考をトレースすることによって、ララモンのおかげでこの世界と繋がっていられた自分の過去を忘れないため。
 ララモンもこんな事を考えたのかしら?
 ララモンが私に逢う為にデジタルワールドからやってきたみたいに、大はアグモンに逢う為に人間世界から飛び出してったってだけよね。何も私が気に病むこっちゃないじゃん。
 「―――ないんだけどさ。」
 逢いたい誰かの為に全てを捨ててもいいと飛び出せるほど淑乃は恵まれても、世界に絶望して過去にも未来にも見切りを付けられるほど貧相な日常生活を送ってもいなかった。この世界が自分の生きる世界だと確信して生きていたし、ここで何を成すべきかはまだわからないけれど、全てをリセットできる度胸も根拠も必要な性格ではない。
 淑乃は実世界が好きだった相棒の受け売りがスタートではあったけれど、彼女なりに生活を満喫し世界と折り合いをつけながら生きてゆくのは楽しいと思っている。
 だからもしあの時、大が手を伸ばして『行こう』と言ったとしても、淑乃は変わらず今ここに居るだろう。
 だが万が一それがララモンだったら?
 「我ながら未練がましいわねー」
 あの時、大のように自分は何故大泣きしてララモンに帰るなと言わなかったのか?その答えの輪郭はやけにぼやけていて、頼りない。
 そのぼやけ朽ち果てんとしている答えを今具体化するとすれば、淑乃の全身の中で終ってゆく物があったのだ。それは演算であったり、混乱であったり、放浪であったりした。
 淑乃はあの時の自分は直感的に知っていたのだろうと回想する。
 『自分はデジタルワールトでは生きてゆけない。大が人間世界では生きてゆけないのと同じ理由で。』
 ……手を差し出さない愛情に涙も枯れちゃったわよ。
 少年期とでも呼ぶべき物が終る最後の瞬間にデジタルゲートが閉じ、淑乃はリスタートを切った。大がデジタルワールドで“アグモン”としての生を受けたように、淑乃は現実世界で“人間”としてもう一度生まれたのだ。
 だからこれは予定調和の物語。
 現実世界は人に、デジタルワールドはデジモンに返された。
 ここで淑乃は溜飲を下げなければならない。安心してこの物語を納得しなければならない。
 だが彼女はいつもと同じようにこの物語を終らせなかった。
 予定調和は予定調和のまま終らねばその定義に反するとするのなら、“デジモン達”もいつか帰ってくる。いつか必ずこの世界に戻ってくると信じている間はこの物語は終らない。
 孤独なのは私なのかしらね。
 淑乃はこの世界でしか生きられない。故にこの物語を終えられない。
 何故ならば物語を終えるには必ず幸福のうちに幕を閉じなければならないと淑乃が願うからだ。
 ララモンが帰ってきたらあたし絶対婚期逃がすんだわ。
 「……願って叶えば話も早いんだけど。」



 ボキの書く淑乃はちっとも可愛くない。ひねて斜に構えて人を見下すのが大好きで、幼稚で単純で孤独な子供。大やデジたちを嫉む自分を取り繕うのは上手だけれど、そんなことでどうにかなるわけないことは知っている。何だこの……イヒヒ!二度目は範囲指定して読むと吉。スッカリ落ち着いたけどまだララモンを待ってる。特異点として生き続けるアニキと特異点を辞めた淑乃。未練がましいなんて言わないでよ、だってあの世界は無理矢理閉じた目が覚めるほど強烈だった。15:21 2007/08/02






初恋地獄編

 やーねぇ、泣いたりして。
 冷ややかに見ていた。眺めている自分を眺めるように。
 テレビのドラマ、クラスの女子の半分が見ている。素敵な作り事と立派な贋物。それに敵意を示している訳ではない。
 ただ、空港で別れる恋人未満の男女が、なんだか先輩とお姉さまに似てるような気がして癪に障って八つ当たりしているだけだ。
 そりゃ先輩はあんなに背ぇ高くないし美形でもないし、気も回らないわよ。お姉さまだってあんなに地味じゃないし控えめでもないけどさ。
 あ、だめだ。頭が死んでる。
 何かにつけてあの二人を思い出す。
 ああ京さんはワルイ子ですねぇって叱ってホークモン!
 まるで
 まるで
 果てしなく続くデジタルワールドの平原みたい。
 壊れかけて空虚な白と黒の砂嵐舞う孤独な世界。
 テレビのドラマはわたしの七転八倒など素知らぬ顔をして物語を進めている。愛を囁いたりはしない。ただ約束を取り付ける術も持たぬ恋人になりそこねた二人は、黙って時間が過ぎるのを待っている。
 「つまんないドラマねェ」
 お姉ちゃんがアイスを齧りながらテレビを一瞥して新聞のテレビ欄に視線を落とした。
 「まだ見るの京?」
 一応私に確認をとるけれど、その手には既にリモコンが握られている。それに不平を唱えようとした時、机に置いてたDターミナルの呼び出し音が聞こえ、しぶしぶと子供部屋に引き上げる事にした。
 「いいよもう」

 Dターミナルには予想に反して賢くんの名前が表示されている。
 『引退試合会場が決まりました。地図と日時を送ります』
 相変わらず愛想も何もあったもんじゃないと呆れていたら、点滅しているカーソルで次のページがあることに気付き、ページを送ってみた。
 『もし良かったら打ち上げに京さんも参加してください』
 「……やぁよ、知らない人ばっかの打ち上げ会なんていくら私でも入ってく勇気ないっての」
 図らずもDターミナルに向かって突っ込んだ。こういうところが賢くんは妙に抜けている。本人は良かれと思ってるんだろうけどさ。
 ふっと溜息とも笑いとも付かないものが漏れて、椅子に座った。
 もう一度電子アラーム。
 んもう賢くん、そんなにわたしに来て欲しいのぉ?なんて、今度はニヤケ面を無理に顰めて画面を見た。
 “泉 光子郎”
 何故だか顔が強張ったような気がする。
 ……ほらあれよ、好きなドラマの最終回を見る前の感じ。盛り上がってて楽しみなんだけど、だからこそ見たくない気持ち分かるでしょ?
 すごく嬉しいはずなのに頭の機能が停止する。感情がフリーズする。わたしには過剰だとか破損だとかそういう理屈じゃまだ片付けられないエラー。CPUの使用率が100%になるみたいな。
 画面を開き、カーソルをメールタイトルに合わせて確定ボタンを押すまでにたっぷり13秒以上かける。まどろっこしい自分のしぐさが、はがゆくておっかない。
 内容はいつもの業務連絡。今後の予定と、お遣い、それから……
 『近頃PC室以外で会いませんが、受験勉強は忙しいですか?』
 最初、何かの間違いかと思った。わたしの私生活を気にかけたことなんて例えメールの結び言葉でさえ今まで数えるほどもない泉先輩が送ってきたとは信じられなかった、と言っちゃさすがに悪いのかしら。
 <めずらしい!先輩がわたしのこと心配してくれるなんて!>
 『人を何だと思ってるんです。後輩の事くらい気遣ってますよ』
 <だったらたまには勉強くらい見てくださいよぅ>
 『人に教えるのは苦手なんです。大体京くんは物理系ですから、分野違いが下手を教える訳にはいきません』
 四角四面、木で鼻をくくったような冷たさに、それでもわたしは首筋がくすぐったくて、勢いメッセージを入力する指に力と速度が篭る。
 <先輩情報処理系だけど科学全般詳しいじゃないですかぁ>
 『高校に学科がないから仕方なく理系に籍を置いてるだけです』
 <受験生にする言い訳にしたって贅沢過ぎ!こちとら参考書の見すぎでお風呂に入ってても目の前に明朝体が踊ってるってのにィ〜>
 Dターミナルの向こうで、泉先輩があの強張らない笑顔で声を上げているような気がして調子に乗ってしまった。
 『あれっ?一乗寺くんの顔じゃないんですか?いろいろ噂は聞いてるんだけどなぁ。彼もたまには息抜きも必要だってミミさんに諭されてましたから、その内お誘いが来るかもしれませんね』
 「――――――なんだ。おねーさまの差し金、か」
 あたしはすこしだけ平静を取り戻せた。
 そうだ。泉先輩はヒドイ人だった。期待さえ持たせてくれない、そういう情けも容赦もない人だったんだと思い出せたから。
 <んもう、賢くんとはそんなんじゃないって何度言ったらわかってくれるんですかーっ!!>
 「わたしが追っかけてるのは先輩だけよ」
 届かぬ言葉も虚しい。
 送るメッセージの空々しさも哀しい。
 おどけるしか方法が無い選択肢をぶん投げたい。
 そういう選択肢がたまには出たっていいじゃないねぇ?
 <今は泉先輩の制服の色を目指して目の前が青一色なんです!目を逸らしたら視界が真っ暗になっちゃうほど一直線なんだから!>
 今は、なんてちゃんと送信直前に足すあたり、そんな選択肢が出たところで選ばないんだろうけどさ。己のピエロ体質に頭痛がするわ。
 『それは補色残像現象ですね。同じ色を見つづけているとその色に対して鈍感に、反対の色に対して敏感になる現象です。つまり何を見ていても、目に入る映像が停止していれば色、明度が無くなって、すべて灰色の世界になります。2〜3分同じ点を見つづけることができれば、視界が灰色の世界を体験できるのでやってみると楽しいですよ。』
 ……ほら、これだ。
 解ってるの?解ってないの?……解ってる、解っててそら惚けてることくらい、先輩の言葉尻一つで解っちゃうんだから。わたしが何年先輩の助手兼お遣いをやってきたと思ってんです。
 厳酷な内容にすら慣れてしまった自分がもはや誇らしくさえあった。わたしは無慮たるそのあしらいに怯むことなく返事を送る。
 『先輩のおねーさま一色の世界も灰色で楽しいんですか?』

 だからこのメールに泉先輩からの返信がない事くらい、解っちゃう。
 解っちゃうから、おどけ続けるしか方法がない。



 光子郎は鬼。京しゃんはどうやったら救えるのですカ?賢と大輔にしか救えないんだろうなぁっつーか。旧子供はデジにしか救えない“外部への掛け橋”が欠けてるけど、新子供は人間にしか救えない“内部構造の欠損”があると素敵よね妄想。ヒカリは京しゃんを救わない。遠くから目は逸らさずただ一人覚えている、そんな役回り。タケルは仲の良い他人で伊織は内包された他者。京しゃんは意外にガードが固いといい。大輔に引き続き、賢のターンダメージ30。10:27 2007/08/08
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