インセスト

 半身だと思っていた。
 誰に侵されることもない関係なのだと。
 強さや大きさなど意味を持たない、絶対の絆なのだと。
 だってそうでなければ、あれは遊びになってしまう。
 いつもしている馬鹿なオフザケ。
 子供の頃に出来なかった復讐。
 あれがそれと同じだなんて、耐えられない。
 ねぇ、あんたもそう思うでしょ、零。

 「あ、チャコさんおはよーございます」
 「おはよう受験生、日曜だってのに朝から掃除?えらいわねーうちの健一にも見習ってほしーもんだわ。
 零、いる?」
 「まだ部屋で寝てますよ。はい布団たたき」
 一堂家の良心がさも当たり前のように籐の布団たたきを手渡して箒がけを再開した。さすが根性座ってるわねー。
 古めかしい借家の間取り。何度この階段を上り下りしたんだったか。ぎしぎし律儀に全ての板が軋む悲鳴すら心地よい。
 その襖の前に立つと、途端に笑い声がした。
 「零、起きてんの?入るわよ」
 「おーチャコも来たのだ。今日は朝から千客万来だな」
 襖を滑らせるとそこにはパジャマ姿の零と鈍と、たまに見る牛乳屋さんがいる。そういえば小学校の同級生とか聞いたような。
 「あらお邪魔かしら」
 「いえいえ、俺の用事は済んだんで!じゃあな」
 笑いながら牛乳屋さんが入れ替わりに襖を閉めると、どたどた階段を下りる音がして、表でガチャガチャ騒がしい自転車が遠ざかる。
 「お久しぶり」
 「うー」
 私はまだ立っていて、壁の前で膝を抱えて藪にらみの男に挨拶をした。彼は返事とも独り言とも取れない奇妙な声を上げて今まで牛乳屋さんが座っていた座布団を差し出す。
 「へぇ、あんたらでも携帯電話なんて洒落たもの持ってんのね」
 座布団の隅に引っかかっていた赤色の携帯電話が引きずられたのを見ながら腰を落とし、拾い上げて二人が唖然とした顔をした。
 「な、なに?あたしなんか変なこと言った!?」
 「あのバカ!また忘れていったのだ!」
 「れい!はしれ!今ならまだ間に合う!」
 「わ、私はまだパジャマなのだ!鈍くんがいくべきだろう!」
 「“おり”のトロさをわしゅれたのか!」
 うううう、としばし唸って零がジャンパーを引っつかんで部屋を飛び出していった。
 「相変わらず落ち着かない家ね」
 「家人が家人だからな」
 ぐるりと埃っぽい部屋を一瞥して、私は勧められた座布団に座る。春もすぐそこだというのに部屋の空気はシンと冷えていて、とてもさっきまで男3人が居た部屋とは思えない。
 「鈍ちゃんは何で来たの?」
 滅多に二人で居ない人間と閉じ込められた居心地の悪さに急かされる様に口火を切ったのは私の方だった。
 「ひ、暇だったから」
 急に声を掛けられて上擦った声を上げた彼の視線は忙しなく動き続けていて、相変わらず挙動不審な男だと思った。
 「チャコは?」
 「ここなら珍しいオモチャもあるしね」
 「みんな同じこと考える」
 くっくっくっ、笑ってるんだか企んでるんだか判断に困るような声がして彼の肩が揺れた。きっとあの牛乳屋さんも同じことを言ったのだろう。
 「何だかんだ言って面倒見いいもんね。
 ここ居ると小さい時から退屈だけはしないし、癖だわ」
 そう、ここに居ると寂しくない。どんな時もどんな日も、零は新しい遊びを考える。鈍ちゃんと私の参加する余地のある、そういう遊びを。
 「ねぇ、あんた仕事なにしてんの?」
 「なんだ、急に」
 「あたしはOL。受付とかね、誰でも出来る仕事。
 毎日つまんないんだ。同じことしか言っちゃダメなのよ。
 丁寧に挨拶して言われた事に頷いて電話するだけの地味な仕事」
 「仕事なんてそんなモンだろ」
 「零は違うでしょ、新しい商品探してお店に飾って人と喋る。毎日楽しそうじゃないの、あーゆーのを天職っていうんだわ」
 羨ましい限りだと足を伸ばした時に外した視線が、彼の声で止まった。
 「零が楽しそうなのは、あいつが楽しもうとしてるからだ。
 “おり”も不思議だった。何故あいつはいつも笑ってんのか?どうして“おり”やチャコみたいに独りにならないのか?
 あいつはずっと離れて見ている。最初から独りなんだ。あいつの世界には幸福しかないのだ。だからこれ以上独りにも不幸にもならない。
 幸福しかない世界で生きてくために零は人と関わる道を選んだ。“おり”たちはそれを理解するのが零よりずっと遅かっただけだ。
 だからチャコと“おり”は独りなんだ」
 舌っ足らずで独特のイントネーションが長々と続き、私は彼が何を言ってるのか半分も理解できなかったけれど、わかった風になるほどねと頷いてみた。そうすると本当に解ったような気になってくる。
 「わ、解ってないだろ“おり”の言うこと」
 「解ってるわよ、解ってる解ってる」
 そうか、と短く呟いて諦めたみたいにまた体育座りになった彼は、まだ口の中でぶつぶつ何か言っていたけれど、その中身を私に聞かせる気はないようだ。
 「つまり零が笑ってるのは周りに人がたくさん居るからってことでしょ?そのくらい解るわよ。解ってるわよ」
 「や、やっぱり」
 解ってない、と彼が低く唸り声を上げた。
 「あたし達が独りなのは笑ってないからってことよ」
 その唸り声を聞かない振りして私がそのまま続けると、彼はぐっと黙ってしまった。顔を膝に伏せ、身動ぎを止める。
 「零が居なきゃあたしもアンタも今でもきっとあのままだった。
 そんで、きっとこれからも」
 そう、私は零が居ないと笑えない。独り立ちしてからもずっと。
 「れ、零は、自分を助けに行った。もう帰ってこない。
 でもチャコがチャコを救いに行かないなら、“おり”が救いに行ってやる。心配するな、チャコは零のおまけじゃない」
 そう言えばこいつとまともに喋るのはこれが初めてかもしれない。零以外とこんなに喋ってるのを見るのも初めてかもしれない。
 「……あ、あんがと」
 やっぱり私は彼が何を言ってるのか半分も理解できなかったけれど。
 「いやー、見事にアタシひとり出遅れてるわねぇ」
 兄弟の気遣いが嬉しくて、照れ隠しに笑った。

 半身だと思っていた。
 誰に侵されることもない関係なのだと。
 強さや大きさなど意味を持たない、絶対の絆なのだと。
 それは今でも信じている。
 あれも含めてあたしたちの歴史。
 立ち上がるのは相変わらずトロいけど、ボチボチ歩いてりゃそのうち鈍ちゃんが喋るくらい物珍しい事も起きるかもしんないし。
 そしたらちょっとは気が紛れるわよね、零。



 遅れまして申し訳ない16弾鈍チャコですよー。…スマン。近親相姦の話。零チャコ鈍の3人組って兄弟ですよね。3つ子というか。鈍ちゃんの清水の舞台からの大ジャンプをチャコちゃん分かってません。で、チャコちゃんの大ジャンプも零くん分かってません。だって俺ら兄弟じゃん、みたいな。当初の予定通り零チャコでこれ書いたら激しい鬱に見舞われたのでなかったことになりました事をこの場を借りてお詫び申し上げます。またいずれ折を見て。……スマン!16:34 2007/01/15






衒学

 「星を見に行かない?」
 珍しくもないデートのお誘い。わたしは二つ返事で頷き返す。
 冬は空気が澄んでいて、土手みたいに辺りが暗い場所なら東京でも星が見える。太古の大空や昔の中国の夜ほどの豪華絢爛さはないけれど。
 「今日は月がないからよく見えるわね。
 ほらのび太さん、あれが有名なオリオン座。」
 昔の人が勇者のベルトに見立てた3つの連星が弱々しく瞬くのを指差して、眼鏡の恋人を振り返る。
 「うん」
 きれいだね、と彼が言った。
 冬の土手は気温が低くて、午後七時だというのにすっかり星が冴え渡っていて、マフラーを持ってくれば良かったと後悔した。
 「しずかちゃん」
 不意に彼がわたしの名を呼んだので、ふと顔を上げた。
 「ほら、あれ、あの星座なんて名前だっけ?」
 彼の指の先にはきっと星が瞬いている。
 けれどわたしはそれがどれだかちっとも分からなかった。指し示される指先の近くには青星。
 「おおいぬ座のこと?だったらもうちょっと左よ。オリオン座の近くに見える一番明るい星を目印にすると見やすいでしょう?あの星はね、あんまり明るくて目立つもんだからギリシア語で焼き焦がすものって意味のシリウスって名前をつけられちゃったそうよ」
 「へぇ、さすがよく知ってるねぇ」
 「こないだ本で読んだの。地球から見える太陽以外の恒星で一番明るい星って」
 「あれ、明けの明星って、シリウスだっけか?あれが一番明るいとか聞いた覚えがあるけど」
 「のび太さん、金星は惑星よ」
 「あー、そっか」
 「因みに恒星ってのは自分で光る星のことね。そういえば金星にも月みたいに満ち欠けがあるんですって。ちょっとしか見えない星なのに良く見つけたと思わない?」
 「こんなに見えるんだったら星見表でも持って来るんだった」
 冴ゆる空を仰ぎ笑う彼に向かって。
 ドラちゃんが居たらスグに出してもらえるのにね。
 寸でのところでその言葉を飲み込めた自分には、まだちゃんと理性というものが働いてるらしい。
 「……わたしもマフラー持ってくれば良かったと思ったところよ」
 わたしはみんなが思ってるほどいい子じゃない。
 さほど頭も性格も良くないし、別に整った容姿ってわけでもない。行儀だってあんまり褒められたもんじゃない、と自分で思う。
 実はわたしはあんまり自分の事が好きじゃない。特に嫌いでもないけど、好きか嫌いかで分けたら、やや気に食わない。
 「ねぇのび太さん」
 ……彼のように優しくなりたい。
 「うん?」
 誰の気持ちにもなれる優しい人に。
 「わたしのこと、好き?」
 素直に笑い、心から泣ける優しい人に。
 「うぇえぇ!?」
 「ねぇ……好き?」
 「ど、ど、どうしたの、きゅ、急に」
 狼狽する彼を尻目に腕に絡み付いて、もう一度たずねる。
 「ねぇ、どう?」
 「な、な、な、なにを言うんだよ、しずかちゃん、ヘンだよ」
 どぎまぎ可愛い仕草はきっと顔が赤くなってて、だからこっち向けないんだろうなと思った。ダッフルコートの襟元から覗く首筋が随分遠いような気がする。……やっぱ、背、伸びてんのねぇ。
 「どれくらい好き?」
 「いや、その、なんだ、えーと」
 「何番目に好き?」
 「あの、あの、うで、離して、あた、あた、当たってる…から…」
 ばかね、当ててんのよ。もっと力を込めて腕を抱きしめる。
 「好きだよ、一番」
 ふっと一言それだけ言って、うっかり力が緩んだ隙に掴んでからかってた腕を取り上げられる。こういう時だけ素早いのね。
 「ど、どれくらい?」
 我ながら決まらない切り返しだわ、と思った。
 「君が困ってたら、世界中探してもきっと助けに行くくらい」
 腕を掴んでたままの格好で一人固まってたわたしの肩に『秘密道具を使わなくてもね』という声と共にダッフルコートが掛けられる。
 「それ、また今度返してくれたらいーから」
 「の、のび太さんが寒いじゃない!」
 「さっきので暑くなっちゃったからさ、持っててよ」
 小走りに駆けてく後姿。今日は躓かない。……あんな人に一番好きなんて言われちゃ自分のこと嫌いになってる場合じゃないわね。
 夜空を見上げる。
 名前だけ知ってる星々が降る様に輝いていて綺麗だという感想を持ったが、それを彼みたいに素直に口にすることはやっぱりない。
 彼の匂いのするダッフルコートが些細な自己嫌悪を和らげてくれたのが堪らなく居心地が良くて、まずいなという独り言が星空に砕けた。
 イマイチ素直になれない自分は気に食わないけど
 あなたが好きって言ってくれるなら
 言い続けてくれるなら
 わたしも好きになれるかな、いつか。



 学識を誇り、ことさらにひけらかすこと。ペダントリー。17弾は薀蓄小悪魔しずかと天然照れ野比。野比しずは間違いなく静香のほうが惚れている(力説)。そんな静香の一番のライバルはドラ。静香はそう思っちゃう自分が嫌です。でも野比はどんな静香も許してくれるといいなと思った。ところで二人は幾つくらいなんだろうこの話。恋人って言ってるくらいだから付き合ってるよな(決まってねーのかよ1:07 2007/01/16






言わせてみたいもんだ

 「さすがの悟空さも雨の日くれぇはウチに居るんだな」
 チチが皮肉っぽく笑って窓辺で胴着を縫っている。
 「近頃はちゃんと帰ってっぞ」
 「結婚して何十年経つと思ってんだぁ。平気で何ヶ月も何年も家空けるだけならまだしも気軽に死んだり生き返ったり。
 おらは世界で一番不幸な嫁っこだぁ」
 浮気しねぇおらの忍耐力に感謝して欲しいだよ、まったく。言いながらチチは華麗な魔法のような手つきで淡くなった山吹色の胴着をひっくり返したり伸ばしたりして繕ってゆく。
 「浮気かぁ、してもいいけど」
 「あと20年早く言って欲しかっただ。」
 「たぶんしねぇよ、チチは。いや、できねぇ」
 「なしてかね」
 「オラよりいい男なんて宇宙中探したってそうそう居ねぇ」
 「……はは、すげぇ自信だな」
 あきれ返るチチがふと手を止めて、遠い目のまま言った。
 「ほんと、ろくでもねぇ男に惚れたもんだよ」
 窓を叩く雨の音。
 今日は家に誰も居ない。
 そう言えば家に二人だけで居る事なんてあんまりなかったかな。いつもこの家には誰か居て、いつも賑やかで、例えオラが居なくてもチチは笑っている。この家はいつもそうだった。いつ出て行くときも、いつ帰ってきても、般若のよーに怒り狂っても最後はいつも笑ってオラを送り出し出迎えた。……悟飯関係以外は、大体。
 「居て欲しい時にいっつも居ねくてさ、全然自由になんね。
 居ろっつったって居ねぇし、どうやったって出てくし。
 今度生まれてくる時は、地球を救ったり神様と戦ったりしなくていい人を好きになるだ。おらの側にずっと居てくれる人を好きになるだよ」
 ちらほらとチチの頭には白髪が混じっている。結婚したての頃は炊事も洗濯も裁縫も、てんでダメだった。今となっちゃ悟飯さえ信じないけど中華なべの使い方チチに教えたのオラなんだぞ。
 「……ああ、そうだな」
 「――――――い、いいんだべか?」
 「いいぞ」
 「ふん、相変わらず薄情な男だ」
 「何べん生まれ変わってもどうせチチはオラに惚れるしな」
 「――――――すげぇ自信だ」
 チチが溜息でもつくかのように笑う。
 草木を叩く雨の音に耳を澄ますと、まるで幼い頃に育った爺ちゃんの家に居るようだと思った。
 誰かの息遣い、暖かい空気、乾いた服と椅子とテーブル。
 クリリンに笑われた事がある。
 俺は愛妻家だから嫁さん放って旅に出るとか信じらんねぇ。お前は心も世界一強いのな。あのベジータでさえトランクス生まれてからふらっと出てくなんてしないのにさ。お前いつかチチさんに刺されるぞ。
 「オラは色んな星で色んなヤツと友達になって色んな所に行ったけどやっぱ家が一番だ。おめぇの側が世界で一番だ」
 思いついたまま口に出して言ってみた。
 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてチチが一瞬目を白黒させたけれど、すぐにふっと口角を思いっきり持ち上げて鼻で笑う。
 「そんなこと言いながら雨でも上がってみろ、ウーブ連れてまたふらっとどっか行くに決まってるだ。……もう慣れっこだよ」
 『オラが居ないと寂しいか?』
 訊ねようとして、やめた。
 「約束する、もう黙ってどっこも行かないって、ほんとに」
 「何日もつか賭けてもいいだよ。」
 素直に寂しいって言ってくれればいいのに、とすっげぇ罰当たりな事を思った。……チチをここまで突いても引いても平気なくらいに強くしちゃったのってオラなんだよなぁ。
 「悟天が学校行くのにまだ筋斗雲使ってんのか?」
 なんだか急に罪滅ぼしがしたくなって。
 「いいや。ジェットバイクっつの、こないだブルマさんに貰ったとかで喜んで乗ってってるだ」
 なんだか急に喜ぶ顔が見たくなって。
 「んじゃ、久しぶりに雲の上でもデートすっか」
 オラの言葉にチチが窓の外を見上げた。
 「……どした」
 「いや、槍でも降ってくんじゃねぇかと思って。
 そもそも嫁を泣かす悪人を筋斗雲が乗せてくれんのかねぇ」
 「言ったな」
 「賭けるだか?」
 「おうよ、もしオラが乗れなかったら一週間チチの言う事聞く!」
 「よーし、言っただな。その言葉忘れねから」
 ウキウキしながら縫いかけの胴着を机に置いて玄関に向かうチチの後姿に、これからはちゃんと家に居よう、と思った。



 18弾悟チチ一丁上がりでーす。うーん好調。ラブ期か俺。大体ネコ魔人辺りの設定。悟空さはダメ男。精神じゃなくて生活態度が。世界最強のヒモ。旦那死亡、子供行方不明になっても狂わないチチはホントに偉い嫁だと思います。そら夫飛び越して息子心配するわ。破天荒すぎるよこの夫。全部終った後は静かに平和に夫婦水入らずで罪滅ぼしすべきです悟空さ。15:27 2007/01/16






せかいはまわっている

 「あ、光った」
 ナイロンとポリエステル、あとアクリルで出来た毛布が輝く。
 「ほら、光子郎くんみて」
 青白い光を放ちながら彼女のパジャマの袂が滑る。
 「すっごい。静電気って見えるんだね」
 「部屋を暗くするとセーター脱ぐ時も光りますよ」
 「へーすっごーい」
 彼女が面白がって何度も何度も毛布を擦るのを僕はただぼんやり見ていた。
 「……ごめんねーまさか始まるとは思わなかったもんだから」
 「何も謝らなくても」
 「だってなんか機嫌わるそーだし。」
 「な、何てこと言うんですか、それじゃまるでアレだけが僕の目的みたいじゃないですか!し、失礼な。失礼ですよ、ほんとに、もう」
 「……えらい焦るじゃない」
 「ちっちがいますよ!ほんとですよ!絶対そんなことないです!」
 「へーん、どうだか。」
 わざとらしく臍を曲げる素振りでミミさんが僕に背を向けた。
 僕はどうしていいか分からない訳じゃなかったけれど、なんだか声を掛ける気にはなれなかった。どうしてだか、振り向かせたり抱きしめたり、ベッドから起き上がって言い訳したりする気にはなれなかった。
 目を閉じると思い出す。
 夏の日差しと輝く空。
 寒さ、暑さ、寂しさと乾き、飢え。
 生きていた。あの日も。
 空を飛び、世界は繋がっていた。成り立っていた。
 今は?
 今は?
 満ち、満たされ、安楽な平和。
 生きている。少し寂しいこの世界で。
 繋がっている?世界はちゃんと繋がっているの?
 抑止と支配と圧迫感。でもその正体は誰も知らない。
 足りないものばかりのこの世界で僕は本当に満ちているのか。
 「本当はね、セックスなんて必要じゃないんです。
 特に僕らには本来まだ資格がないと思うんです。
 でも僕はあんまり喋るのが得意じゃないし、他にどうしたらいいのか解らなくて。
 だからもっと違う形で一つになれたらいいんですけどね」
 男とか女じゃなくて、もっと君の側に居れたらいい。それこそデジモンみたいに自分の心の形を映してくれるインターフェイスが在ればいいのにと思う。はっきりと目に見えるものなら、確信できるものなら、こんなにも苦しくはないのに。
 「なによそれ」
 「い、いや、だから」
 「あたしはね、こーしろーくんとすんの好きよ!頭が溶けちゃうみたいになるのとかすっごーく好き。偏執狂みたいにあたしの身体を舐める舌が好き!止めてって言ってるのにゼッタイやめてくれないアソコとか触る指が好き!声が出なくなるくらい後ろから――――――」
 「わっわー!わー!わー!!」
 な、何を言い出すんだこの人は!!
 「何一人でセンチメンタル気取ってんのよ!あたしだって折角帰って来たのにこーしろーくんとえっち出来なくてすっごい残念なんだからーッ!一回出来ないくらいで凹むなバカー!!」
 ……ああ。
 冬の寒さと毛布の暖かさ。君の素直な怒鳴り声。
 「――――――今日は手をつないで寝ていいですか?」
 「な、なによ急に」
 「回りくどく膨れるのは僕の悪い癖ですね」
 ミミさんが振り向いた。
 「……パソコン部の後輩が見たら幻滅するわ、きっと」
 僕はその言葉に少し胸が痛んだけれど、上手に笑えてたかな。
 間の抜けた僕の頭をミミさんが小突いて笑って
 僕はようやくホッとするのだった。



 ラブ期なので砂糖口に押し込んだみてーな話を。19弾はデジアド02突発光ミミで。また予定ぶっ飛ばした!小学生時の着かず離れずのこっ恥かしい話とかスゲー書いてみたい。どうせいつも通り腐れるんでしょうが。何でボクチンの光子郎は受け体質ですか?もっとガンガン責めろYO!11:38 2007/01/17






男ってバカだよな

 目が覚めたらそこは自分の家で、隣を見ると『瞼開いたまま寝るからコワ〜イ』と、知香が小学校の家庭科の時間に友達が鍋つかみだのポシェットだのを作ってる隣で縫ってたらしいキルト地の特製アイマスク(我が妹ながらすげぇ度胸だ)をかけて眠りこけるアグモン。
 「……家……」
 そりゃそうだ。
 昨日ここで寝たんだしな。
 「しかしなんつーリアルな……」
 こう見えて俺はずっと硬派で通していたのだけれど、近頃は我が事ながら通報されかねないエロガキぶりで、しょっちゅう淑乃のケツを見ている。一度アグモンに白眼視されてからものすごく気を付けているつもりだが、はっと気付くとあの太ももを見ている。
 無駄に露出した足。制ジャケットで見えない意外にデカイ乳。そして女子隊員だけハーフスパッツ!しかも色がよりによってピンク!
 「〜〜っ……あ、あの性的過ぎる制服が悪いんだーッ」
 トンマも見てるに違いねぇ。あのケツを絶対に見てる!凝視してる!俺にはわかる!だって俺すら見てるもの!夢にまで!
 ……やべぇ、改めて思い返して死にたくなってきた。
 俺をエロガキにしてしまった張本人と言えば、恒例の金曜飲み会をすっぱり止めて、ララモン曰く“慎ましやかな週末”を送っているらしい。本当かどうかは知らないが。
 一番最後にあの身体に触れた日、俺は至極都合のいい記憶システムをお持ちの女の首筋に印を残した。目に見えたら、もしかして思い出すかもしれないと思ったわけよ。……まぁ、思い出したところで状況が変わる事もなく、全く無意味な足掻きだったんだけど。
 腹立つんだよ、自分から仕掛けといて無視を決め込むあの態度。大体手をつなぐより先にフェラチオって何だよ頭沸いてんじゃねぇのか。ちょっと乳がでけーからってナメんなよ、お前なんかな、お前なんか全然好きとかじゃねぇよ、やりたい盛りの青少年の欲望の捌け口だ馬鹿め、ざまぁみろ変態女。いつかそのエロいスパッツ破いてだな、もう考えも付かないような犯し方で日がな一日ズコバコと――――――
 真っ黒な笑顔で真っ黒な笑い声を上げながら陰湿な妄想に酔う俺の耳に響いたのは、あっけらかんとした涼やかなダミ声。
 「まだ中学生とゆー若い身空で制服フェチとはまたでっけー十字架背負ってんなぁー。さすがだぜアニキー」
 「うっ……!」
 いつの間に起きたんだ、と声を上げる間もなくアイマスクを外したアグモンがのそのそ部屋から出てゆく。
 「でも知香には聞こえないよーにやれよアニキー」
 俺はドアがバタンと閉まる音と共にベッドの上を転げ回った。
 ちっちがーう!俺は!アグモンそれ違う!違うんだったら違う!!俺は制服が目的なんじゃねー!つーか起きたんなら起きたって言え!最近性格悪いぞお前!もはや俺のこと全く尊敬してねーだろ絶対!

 「おはよ。珍しいわね、アグモンがデジヴァイスの中なんて」
 「……あー……」
 ……そうだ……今日はこいつが迎えに来るんだった……
 家の前に止まってる派手なカラーリングの車、俺はなんだか機嫌のいい女の助手席に座る。
 「喧嘩でもしたのォ?」
 「最近態度悪いから教育的指導中」
 ぶすったれた声を出してなんて可愛くない俺。噛み付いてくるかと思いきや、ふぅんと一声上がっただけで車は動き出した。
 DATSに着くまでの間、俺は顰めっ面で声を上げないし、淑乃もラジオのボリュームを少し弄っただけで何も話し掛けてはこなかった。
 だから余計に淑乃の太ももとか胸元とかシャンプーの匂いとかが朝見た生々しい淫夢と重なったままで動かない。それが無性に腹立たしく、当たり所を探してイライラしながら窓の外だけを見ていた。
 『俺と同じキモチを味わえ。そしたらそんな平気な面なんか』
 そんな恨み言の一つも出てしまいそうで口をきくのが怖かったのでは断じてない。念のため。
 車を降りる時、淑乃がにこーっと笑っておれに言った。
 「黒崎さんね、夜勤明けなの。そんな顔して司令室入ると余計に疲れちゃうでしょ、だから無理してでも笑うの、ほらこうよ」
 すごい笑顔で淑乃がもう一度めいっぱい笑った。
 ……悪魔かこいつは……
 このキモチがなんなのかとかは別にいい。ただ振り向いて何の気なしに笑ってる顔を見ると腰が砕けそうになるだけのことだ。
 いやこれ普通の事なんだぞ?知香だって笑うとにやける程可愛いし。
 何のことはない。
 ……ないよな。うん、ないない。

 その後本部で引継ぎの書類を受け取る時、黒崎さんに「何かいいことでもあったの?」と不思議そうな顔で訊かれたのは言うまでもない。



 好調に予定をぶっ飛ばす俺。20弾はデジセイ大淑でしたー残念でしたー(特に出来が)。だってあるみしゃんが大淑を書かなきゃ漫画描かないって脅すから(風説の流布:犯罪)。淑乃のせいで怒ってた。淑乃のせいで無理矢理笑ってる。俺って馬鹿よな。ほんとにね。じゃあ次は頭に傷ネタで!(グルグル書けっつーの17:28 2007/01/23
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