博士と機械

 何故彼女を作ったか?
 理由はもう覚えていない。確か新しい技術か何かが発表されたというニュースを聞いたので、その2分半のニュースだけでどこまで同機能に肉薄できるか、というゲームを思いついたとか、そういう下らない事だったような気がする。
 自分にはたいていの物は事足りていたし、それ以上欲しいものも特になかった。恵まれていたと今でも思う。
 神様が何故人間を作ったのか、という問に対して宗教家ならなんと答えるのだろう。わしもそう答えれば一番納得がゆくのだろうか?
 何故彼女を作ったか?
 退屈だったから。
 暇だったから。
 この我慢ならない平坦と戦ってくれるものが欲しかった。
 「ハカセ!」
 「なんだ」
 「ガッちゃんがね、新しい遊びを考えたんだよ」
 「また家を壊すような遊びじゃないだろうな」
 「クプピプー!」
 夜は静かだった。
 今は騒がしくて落ち着かない。
 「アラレ」
 「なぁにハカセ」
 「お前」
 幸せか?と問おうとして、それがどういう意味があることなのかと考え、言葉が止まった。
 「なぁに?」
 「……毎日、楽しいか?」
 「楽しい!」
 プログラムとシステムの笑顔で彼女は上手に笑う。
 「そうか」
 「それがどうかしたの?」
 人間よりも人間らしいアンドロイドを、わしは何のために作ったのだったっけ?
 「いや、訊いてみたかっただけだ」
 「……変なハカセ!」
 物を作る、ということは基となるものを観察することからはじめなければならない。ふと、笑う彼女の横顔を見て、それがとても上手に出来ていることに気付いた。
 ああそうか。
 わしは寂しかったのだ、多分。
 平坦をやっつける武器ではなく、一緒に戦ってくれる何かが必要だったのだ。
 「アラレ」
 場の勢いでつけた冗談みたいな名を呼ぶ。
 「なぁに、ハカセ」
 彼女は上手に笑って応える。
 「お前の実行目的はなんだ?」
 「タイクツと戦うこと!」
 一秒も間を置かずに元気よく彼女が応える。
 さすが世界一の天才科学者、則巻千兵衛だ!と、ガッちゃん新考案の鉄球ピンポンに興じる二人を眺めながら、わしは大いに笑った。



 ごった煮第一作は消失中の「Dr.スランプ」より。千兵衛さんとアラレの関係ってものすごくプリミティブっすよね。親子でも主従でも男女でも友人でもない。ごく原始的な「他者」っつーか。そこん所を突き詰めた話を昔書いたような気がするんだけれど、まあ無くしたもんは仕方ないのでリメイク。23:05 2006/11/21






強制猥褻罪

 刑法第176条(強制わいせつ)
 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6か月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする(性別は問わない)。

 目の前に突きつけられるレポート用紙にでかでかと躍る文字。
 ……今、俺メシ食ってんだけどな……
 「キミは淑乃を犯罪者にしたいのか」
 本部の休憩室でコンビに弁当を掻き込む俺に、トンマがギラギラした目で怒りも露わにそう言った。
 「未満、だろ。俺14歳だしセーフ」
 「よく考えて返事をしろ。それでは関係を持ったと認めたことになる」
 「人の秘密を言いふらす卑劣な恥知らずを仲間に持った覚えはねーから」
 別にいいよ。言ってサンドイッチを頬張る俺の言葉に続く台詞は無い。
 「……法的に罰せられなければ何をしてもいいと?」
 搾り出す悲惨な苦言。
 「同意の上ならいいんじゃねぇの」
 何をそんなに無理してまで首突っ込みたいのか、こいつは。
 「この年で破廉恥だとは思わないのか!」
 「俺の年齢が問題なのかよ?」
 「……だいたい酔った勢いだなんて、ふしだら極まる」
 明らかに苦し紛れの罵倒。勢いが失せ、しょぼくれたトンマの声に面倒くさいという感想しかもてない。行動に根拠も無く絡んでくるからそうなるんだよトンマ。
 「今日はえらく絡むな」
 「……できれば否定して欲しかった」
 俺の助け舟にあっさり乗り込むんだから、いつもの意気はどうしたのやら。
 「はは、ご愁傷様」
 疲れた声で目の前のパイプ椅子に身体を下ろしたトンマが、うんざりした表情でテーブルに肘をつく。
 「僕は彼女を姉のように思っているんだ」
 「へぇ」
 「例えどんな理由だろうが泣かせでもしてみろ、ミラージュガオガモンをけし掛けて踏み潰してやる」
 おお、こわ。
 どかっとパイプ椅子を蹴っ飛ばして、トンマがせっかく着いたテーブルから立ち上がって自動ドアの向こうへ消えた。
 「……なにあれ。」
 ぶっ!
 入れ替わるように入ってきた人間が呆れ顔でノンキなことを言うので、俺は思わず食っていたサンドイッチを吹き出しかけた。吹き出さなかったのはひとえに行儀を重んじる母さんの教育の賜物といえよう。
 「またケンカ?今度の原因はなに」
 お前だ、お前。
 ……どうも、話は聞かれていなかったようで、セーフ。
 「ったく、ちょっとは仲良くしてよ…………何コレ」
 淑乃がトンマの放り投げて行ったレポート用紙を拾い上げ、視線を走らせて……固まった。
 「ちょ……ちょっと……!」
 「お前泣かせたらミラージュガオガモンで踏み潰すってさ」
 彼女の力の抜けた手から滑り落ちるレポート用紙が、上手に空の弁当箱の上に着地する。
 「なんで、トーマが…知っ…!」
 「……一応当事者だし、あいつ勘いいから」
 俺は心の中で、ついでに鼻も、と付け加える。
 「――――職場に私的なこと持ち込まない主義なんですけど」
 こういうの、すっごい困る。そう呟いた淑乃が深刻そうに口に指を当ててうつむく。俺はそれを見ててなんだかムカムカする。イライラもする。そんで、何故だかムラムラした。
 「淑乃、なんかこの部屋寒くね?」
 ジャケットを脱いで広げ、驚き戸惑う淑乃の肩に掛ける。
 「ちょ、と、なによ急に、寒くないわよ」
 途切れる声。
 しゃっくりの様な。
 ジャケットの両袖は離していない。
 俺は頭が考えるより先に身体が動く性質だけれど、このときばかりは頭が先に動いた。
 両手に握ったそれを手繰る。
 「……っ!!」
 歯があたる。
 ガチッと鈍い音がした。
 ぐっと唇と顎に力を込め、深度を増す。
 嫌がって殴られるかと思ったけど、ジャケットを握っている俺の手を離そうともせずに右腕を両手で支えているといった按配で……すごく興奮した。
 汗ばんでいる淑乃の両手が気持ちよくてゾクゾクする。
 左手を持ち上げて胸に触れようとした瞬間。
 ばちん、と頬が鳴った。
 「ほ、本部で……やめてよね!」
 いつの間に淑乃の唇が離れていたのか、記憶が無い。ただ左頬が焼けるように熱くてジンジン痺れていた。本気で殴られたようだ。
 「今度こんなことしたら、しょ、承知しない。
 ……二度としないで……絶対に、しないで」
 肩が震えているのは、最初から知っていたけれど。
 「……わかった。しない」
 「アグモンが探してるわ。司令室にいる。それ、伝えに来ただけだから」
 踵の音が寒々しく響いて自動ドアが閉まった。
 俺はなんだか全身の力が抜けてまたパイプ椅子にへたり込む。
 「……だったら、目ぇ、つぶったり、すんなっつー、の」
 期待すんだろが。
 ぐったりテーブルに頭を転がして、我ながら思い切ったことしたと、今更ながらに心臓がうるさく鳴り出した。スゲエ俺。映画に出てくるジゴロみてぇ。よくあんなこと出来たな俺。すげえ。
 興奮とパニックでめちゃくちゃに乱れる呼吸が息苦しくてじたばたともがいていたら、目の前の弁当箱の上に落ちてあったレポート用紙が斜めになって見えた。
 数十行に渡って行儀よく並んでいる文字列の後半に、太字のそれが目に入る。

 刑法第178条(準強制わいせつ)
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。


 ……この場合、どっちがこれに引っかかるんだろう。
 俺はそんなことをぼんやり思った。



 第二弾は「デジモンセイバーズ」より。ステキすぎる大淑サイトのお絵かきチャットに混ぜてもらったらあまりにステキな絵が連発されるので早速妄想の翼を広げる迷惑極まりない俺。どうしてあんなラブラブなイラスト見てこんな悲惨な話を思いつくのか自分で自分が解りません。解りたくもありません。ごめんなさい。切腹するので許してください。2:53 2006/11/23






理想を抱いて溺死しろ

 嗅いだこともない薬品臭い締め切った部屋で、眼鏡を曇らせながらアルコールランプに炙られている試験管をゆっくり動かす男の子の背中を見ないふりをして、文庫本を読む。
 もう何時間こうしているか忘れてしまった。
 背中は何も言わないどころか、多分私がここに居ることを気にも留めていない。
 声をかけてみようか。
 ……いや、それがどんなに無駄なことか誰よりよく知っているはずじゃないか。それでもそうしたいと願うのはなんとも悔しくてたまらないけれど。
 「ねぇ」
 折衷案の呼びかける短い声が部屋に散った。
 返事は無い。
 「ねぇったら」
 もう一度呼びかける。
 「ねぇ、キテレツくん」
 今度は名前を混ぜてみる。そろそろ気付くかな。
 「ん、何、きいてるよ」
 「なに作ってるの」
 「……おさらい」
 「おさらい?」
 「昔ね、作ったことのある薬品を記憶だけで再現しようと思って。……どうして僕はあの時ちゃんと研究メモを作っておかなかったんだろ、やっぱり教科書どおりに作ってるだけだったのかな、発明が聞いて呆れる」
 後半は完全に独り言だ。彼の頭の中では話しかけた私の話題とはもう別の事が生み出されていて、彼はそれに夢中なのだろう。
 「……そんなに後悔するならどうして返しちゃったの、大百科」
 「…………さぁ、どうしてだったかな」
 なによ、聞こえてるんじゃない。私は腹立たしくて惨めで、悲しくなった。
 「元に戻っただけよ、元あるべき姿に。
 キテレツ君は一人っ子に、あたしたちは仲良し4人組に。何もかも元通り」
 「そうだね」
 彼の丸まった背中はそれ以上何も言わなかった。
 「まるで抜け殻みたい」
 「………………」
 「今のあなたをコロちゃんが見たらどう思うかしら。失望しなけりゃいいけど」
 文庫本を手提げかばんの中へ放り込む。ばさばさ音をさせてかばんを引っつかみ、ふすまに手をかけた。
 「みよちゃん」
 声が掛けられる。もしかして今日始めて、彼から。
 「なに」
 「心配してくれてるんだよね」
 「そうよ」
 「ありがとう」
 「お礼なんていらないから、さっさと元に戻ってちょうだい」
 「でもね、元に戻るなんて出来ないんだよ。コロ助が居なくなったのは事実だし、僕たちは4人に減ったんだ。変化は誰にも止められない。時間が過ぎてゆくのと同じようにね」
 カッと頬が染まる。誰にでもわかるように噛み砕かれた言葉に。
 「わかってるわよそんなこと!」
 ふすまの向こうへ逃げ出すみたいだ。
 本当は誰より分かってる人に物知り顔で忠告した自分が恥ずかしかった。
 本当は何も分かってない人に理解すらさせられない自分が恥ずかしかった。
 階段を下りる。挨拶もそこそこに玄関の外へ出る。そうすれば安心な気がしたから。靴が上手く履けなくて踵も合わせずにドアの向こうへ急ぐ。
 転がり出てぶつかった塀にもたれかかり、自分の息が切れていることを知った。
 くやしい。
 なみだがでてくる。
 彼にとってわたしは透明なんだろうか。
 そんなことを漠然の頭が考えた。
 「わかってんなら、心配させんじゃないわよ」
 見上げると、白く曇った彼の部屋の窓が二度ゆらゆらと動いた。多分、スモークの向こうからこちらを見ているだろう。
 わたしはそれに気づかぬふりをして、盛大にしょんぼりした格好で家路についた。



 第3弾はリクエストもあったキテ大。キテさんは現実家に見えて理想家ですよね。よい方向に向いてたらこれほど世の中渡りやすい性格もないでしょうが心のつっかえ棒が失せたら何もかも悪い方に転がりそうです。むしろ転がれ。ただキテさんは野比と違って自制心があるので転がりきったりはしないと思います。どっかで立ち戻るけど、それは自分の力でどうにかしたいと考えている。助けたいみよ女史としてはやりにくい男だろうな。あ、因みにコロ助と大百科は江戸時代へ帰ってます。俺設定では。0:13 2006/11/27






水は百度で

 人は何と言うだろうか。
 ふしだらだとか不埒だとか、インモラル・背徳・不義……その他もろもろエトセトラ、思いつく限りにネガティブな言葉を並べ立てればそれが俺を指し示す形容詞になる。
 不逞の輩。誰に誇れもしない不誠実の塊。それでもいいと、それでも偽れぬと突き通す意気地も無い、そういう人間。
 『おめーには覚悟ってモンが足りねーんだよ』
 言うかボケナス。お前がそれを。
 お前に覚悟とか腹とか
 そういうものが決まってたら
 俺だってきちんと……
 ――――――――きちんと、どうしたって?豚。

 夜の森は寒く、虫の音も聞こえない季節の野宿は何度経験しても慣れるタグイのものじゃない。空を見上げても星の読めない俺には、方角はおろか現在地すら解らない。……まぁ、今日は曇り空で名物“萩の月”も出ていないが。
 中学時代から愛用しているホーロー引きのコーヒーポットの蓋がカタカタ鳴る。ずっとこいつが夜の話し相手。
 一人で居ることは別に苦にならない。だからといって好きなわけでは決してない。……側に君が居れば迷路のようなこの世界が闇色でなく、輝き芳しい木漏れ日に染まるような気がしたんだけれど。
 「まるであてつけだな」
 いつも舞い上がって失敗ばかり。彼女の前では言いたいことも言えない。身体が固まって、頭が停止する。緊張と動悸で狂いそう。
 「あてつけだ」
 ワガママ放題で好き勝手ばかり、我慢もせずに何でも自分の思い通りにしなきゃ気が収まらないクソッタレ。
 クソガキだ。
 ああ全く吐き気がする。
 あいつは俺だ。
 俺が目の前に居る。
 なのに何故お前は俺が欲しいものを持っている。
 ばらばら頭上で音がした。
 それを雨と気付いたのは水の音に敏感だったわけじゃない。ただ気が立っていて、筋肉が勝手に動いただけのこと。
 テントの中へ避難して、雨に打たれる焚き火を見ていた。
 雨粒が薪を濡らして火を奪ってゆく。白い湯気がたちまち上がって、沸騰しているコーヒーポットがジュウジュウ音を立てながら笑った。
 水が沸騰する温度は100度。摂氏100度。ろくろく学校に行ってない俺でも知ってるこの世界のお約束というやつ。
 俺の脳味噌が沸騰する温度は、彼女が笑う温度。
 彼女が笑う第一条件は、あの野郎が側に居ること。
 俺の頭を沸騰させる条件は、あの野郎が俺を当てこすりにして彼女に近づくこと。少しでも肉薄せんと寄ろうとすること。
 誰より側に行こうとすること。
 彼女は俺が居なくとも笑う。
 火が消える。
 もうポットに湯気も立たない。
 テントの下のマットにもじわじわ冷たい気配。
 「そら、早く豚になれ」
 豚になって哀れに啼けば彼女が現れる。暖かいタオルで丁寧に身体を拭かれてふわふわのベッドで眠れるぞ。
 ふさぎこんだ俺の頭上から、声がした。
 「やっぱり良牙くんだ。なにしてんの、こんなとこで」
 黄色い傘に浅葱色のスカート。雨の中に佇むのは。
 「なっ何故あかねさんが真夜中の宮城の山中に!?」
 思わず水溜りに手を付きそうになった。
 「ここ、高校の裏庭。それにまだ6時だし」
 彼女が笑って、うちに来たら、と言った。
 俺は卑屈な笑顔を浮かべ、番傘を差す。
 卑しい豚め、と頭のどこかが言った。
 いいや、俺は犬だ。
 頭の沸いたみすぼらしい忠犬だ。



 第四弾、苛酷な良牙の話その1。何故オタは陰惨で不吉な男のポエムしか書けませんカ?(A:定型文だから)個人的に乱馬がアレなので良牙贔屓ですが良牙も大概よねというか。まぁあかねもアレなんですが。アレしか出てこない三角関係ってすごいアレですよね。アレ。……悲惨。ホントはその他かスレに落とすつもりだったけどあまりにも出来が悪いので人目に触れないように改編。もうミオンさんだけ見てくれればいい。そんな開き直り。(迷惑)22:16 2006/11/27






欲(おも)ふはいかに

 「ねぇのび太くん」
 彼がいつものなんとも言いがたく間延びしたあの声で、僕を呼んだ。僕は読みかけのマンガ本をちょっと胸に置いて、なぁにと応えた。
 「ぼくは猫だからさ、そういう日はきっと来るんだよ」
 ゆったりとした夕日の差すこの部屋は、どこからか遠く電車の音と豆腐屋さんのラッパの音とが微かに耳について温かかった。
 「うん」
 僕は彼が何を言いたいのか、察してしまった。長い付き合いだもの、彼の言葉なんて僕の言葉も同じさ。
 「怒らないのかい」
 意外、というのは言葉尻だけで、それが予想済みかのような乱れない語調のまま彼が尋ねるので、僕は少しそのままの体勢で考えてみた。
 彼が来てもうどれ位の年月が経ったのだろうかなんて考えるのも無粋な程に僕たちはいっしょに居て、気が遠くなるほどの時間と目も眩まんばかりの距離を旅して、日常とそうでないものをたくさん過ごしてきたわけだけれども、それでも僕と彼は別々のもので、だからこそ友達で、親友で……こんなにすきなんだと思う。
 「スネ夫んとこの猫がさぁ」
 見上げ慣れた天井は夕日のオレンジに染まっていて、節や年輪に陰影がついていて、小さかった頃、夜寝る時にそれが恐ろしかったことをぼんやりと思い出した。
 「ある日ふっと姿を消したんだって。
 探さないのって訊いたら、あいつは誇り高いから世話になったボクに弱った姿を見せたくないんだろうって言うんだ。
 僕はそれほど弱ってるなら尚更側に居なくちゃと言ったんだけど、それは僕のエゴだと言うんだ」
 あの節や年輪が怖くなくなったのはいつだったかな?単なるいじめっこのジャイアンやスネ夫が無二の親友になったのはいつだったっけ?憧れて眺めてるだけだったしずちゃんと心が通い合ったのはいつ頃だった?
 「今まで君を困らせてばかりいたけれど、たまには僕も君のワガママを聞かなくちゃ」
 瞼を閉じる。
 眼鏡をかけている筈なのに、天井が歪んで見えたから。
 君は僕を変えると言ってやって来た。
 君が帰る頃、僕は変わっているのかな。
 学校で嫌な事があった日も、いい事があった日も、君は変わらずこの部屋に居て、僕の泣き言も浮かれ具合も見ていてくれて、だから僕はどんな目に遭っても孤独じゃなかった。
 どんな不思議な道具より、どんな胸の透く冒険より、それが一番大切な思い出で、それが一番嬉しかった。
 「僕が居なくても大丈夫かい」
 「二度目だね、それを訊くの」
 「そうだったかな」
 「そうさ、一度目……君は帰って来た」
 僕はまだ目を開く勇気がなくて、開いたが最後、みっともなく泣き喚いて行くなと懇願しそうで、言葉が震える。
 「心配するなよ。
 僕はちゃんと、ちゃんと……がんばるから」
 もうそれが限界だった。
 決壊した涙腺のその先が畳に音を立てる。後から後から瞼を押し上げてゆくそれがマンガの影になって彼に見られないだろう事が唯一の救いだった。
 「ああ、それなら安心だね」
 後から思えば、あの時の彼の声もひび割れていたと思う。
 けれどその時はちっとも気が付かなくて、流れる涙を気付かれないようにという事ばかりが頭を回っていた。
 それから彼は2ヶ月ほどいつも通りに過ごしていて、ある日机の引き出しを何の気なしに引っ張り開けたら、そこに在るべき時空の闇は無く、机と同じ色の引き出しの底があるばかりだった。
 「ちぇ、せっかちだなぁ」
 頬杖を付いて窓の外を眺め、いつかこの引き出しがまたひとりでに開いて小学4年生の僕が飛び出して、中学生の僕を引っ張り出してゆく日をちょっと楽しみに待つ事にした。
 大丈夫、心配ないよ。
 君が居なくても
 僕は立派にやるからさ。

 な、親友。



 ハイッ第五弾はドラでしたー。ドラは野比を堕落させに来た欲望の使者で、色んな誘惑を野比に仕掛ける訳ですよ。しかし野比は数多ある欲望に立ち向かい、時に挫けながらも制覇する。それは欲望からの自立。今作はのび恐06のインスパイアであり、変形野比ドラ映画であるのび恐06は人類なら必見。このレベルが維持できるならリメイク賛成派。タイトルは古事記の一首より。12:50 2006/12/04
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