肆時
=サンジ=
ぼんやり空を見上げている。キラキラ輝く銀のラメ。波の音、チャプチャプ。吹き上げるタバコの煙。まだ少し残っているアルコール。みかんの木々が揺れる音、自分の静かな鼓動。
「寂しいんだ。こんなに寂しいのに、時々ナミさんのことをただ可愛いなって思うだけだったり、ちょっとヤダなーって思ったり、一歩引いて見ちまうんだ。
今までだったら絶対に考えられないくらい、自分が冷静なのが解るんだ。
それが恐ろしくて、悲しくて、でもちょっと嬉しいんだ。だから寂しくてたまらないんだよ」
俺の後ろには、あの子が居る。
真っ黒で、ボロボロで、何も言わない女の子が。
夜空に突き立てられたメインマストに垂直に立ち、俺の背中をじっと見ている。
その女の子に向けて俺は弱音とも懺悔ともつかぬ言葉をだらだら吐き散らす。
「キミのママが大好きなんだ。
俺の人生でもうキミのママ程好きな人は出てこないよ。
なのにナミさんに、返事が出来なかった。あたしはもう要らないんでしょうって言われて、マトモな自分の言葉が出て来なかった。
――――――最低だ……俺は最低だ……
何度ナミさんを傷付けたら気が済むんだよ……クソッタレ……クソッタレ……!」
今まで好きで好きでたまらなかった自分が見てたのは、妄想で膨れ上がった彼女の張りぼてだったんじゃないだろうか、と恐ろしい脳の暴走が止まらない。いやだ、いやだ、いやだ!
ああ!神様とやら!居るなら今すぐ俺に雷でもぶち当てて殺してくれ!この罪深く許されざる汚らしいクソ野郎を捌いてくれ!三枚におろして頭をぐちゃぐちゃに潰してくれ!
「恋なんて辛いことばっかりだ!苦しくて嫌なことばっかりだ!」
涙が出てくる。こんなに辛いのにただ涙しか出ない。
悲しいのに、涙しか出ない。
もう首にナイフをあてがったり、ヤケクソになって薬を探したりできない。
今まで出来なかったこと。悲しみと向かい合うこと。今まで知らなかったこと。逃げずに闘うこと。
「ああ、嬢ちゃん、俺はどうすればいい?どうすればいいんだ?
愛を囁いても俺の言葉は彼女には届かない。もう彼女を抱くことなんか出来ないんだ。
ならどうすればいい?彼女が俺にとってこんなにも必要で大事だって、どうやって伝えればわかってもらえる?」
こんなに愛してるのに。
初めてこんなに辛くて悲しいのに、手段がない。
本当の言葉を彼女に渡したいのに、君は一人じゃないって、俺が居るって、分かって欲しいのに。
今までテキトウで粗末に扱ってたものに逆襲されている。愛に復讐されている。
もう祈りしか出来ない。
念じるしかない。
ナミさん、俺はあんたを愛してる。世界中の誰よりもあんたの幸福を優先する。
例え世界が滅びるかあんたに会うかを選ばなきゃならないことがあったって、きっとあんたを選ぶよ。
「なんだ、また喧嘩したのかァ?」
ウソップが釣竿を肩に担ぎながら船尾のマストの下でジャガイモなどをちまちま剥いている俺に声をかけた。
「喧嘩なら話は早いンだがなー。俺が謝れば済むから」
ひひひひ、と忍び笑いをしてウソップが釣り糸を手繰って針に餌を掛ける。この間網を作って捕ってたオキアミらしい。ピチピチ元気に跳ね回る透明な桜色の小さなエビに、背の曲がり具合に沿って銀色に輝く釣り針を刺される。ビチビチビチ。オキアミがまるで声無き悲鳴のように大きく喚いた。
「まあお前が冷静なのが俺にとっては救いだけど」
ビュッ!見事なキャスティングに、俺は煙草を咥えていなければ小さく口笛を吹いただろう。
「……やっぱり、俺、変わったのかねぇ?」
「さすがに親父になってもまだガキンチョじゃあ、娘に申し訳が立たねぇもんなァ」
ニヤニヤ笑いながら…それでも俺からは視線を外して…ウソップが気楽に笑う。
「格好いい親父になれよ。それが供養ってもんだ」
ウソップは俺の娘に名前をくれた。墓も無く、回向の時に呼ぶ名も無いんじゃあんまりにも可愛そうだと。俺はナミさんにその名を娘に付けたいと申し出て、三人だけが知る名前が娘についた。
「ゴッドファーザー、うちの娘は天国にいけたかな?」
あの真っ黒な少女のことを思い出して、居ても立ってもおられずにそう訊ねた。
「俺が名前を付けたんだ、神さまんトコまで顔パスよォ!」
わははははとウソップが笑うので、俺は涙が出そうになったけれど、ぐっと我慢して笑った。
「うちの狙撃手は世界一だぜ!なんたって神さまのハートまで打ち抜くんだからな!」
俺の声にウソップは一瞬眉を顰めたけれど、すぐに破顔してそうだ、その通りだと嬉しそうに笑った。
「……俺は自分の脳味噌のウカレ具合はどうしようもないもんだと思ってた。
薬を飲むのも、ハッパをやるのも、煙草を吸うのも、仕方が無いと思ってた。そうしなきゃ自分が壊れてみんなに迷惑を掛けるから、自分を上手に騙す為にはそういうモンは必需品なんだと思ってた」
思えば遠くへ来たものだ。
見たこともない世界へ、考えたこともない世界へ、知り得なかった世界へ。強大な壁と弱く小さな自分、それから初めて出会った愛するあなた。
山も谷も泥沼も平原も抜けて振り返る感傷趣味よ。
ああ、風が吹いている。いつも通りに、船が進んでゆく。
「そんなのは単なる卑怯な誤魔化しだったってのに、その事実からも目を逸らしてサ」
この胸はまだ痛んでいる。思い出すだけで吐き気がして涙が滲むくらいだけど、そいつを否定しなけりゃ息も絶え絶え……なんて事はなくなった。
それだけでも、結構な進歩だろう?
「追い詰められて、追い詰められて、もうどうしようもなくなった時、ウソップが逃げずに戦って乗り越えてるのを……本気で尊敬したんだ。ああ、なんてカッコいいんだろうって。
だったら俺もカッコよくなりたいじゃん?……腹決めたよ、お前に恥かしくない野郎になろうってな」
半分皮を剥いて手が止まったまま、ぬるいジャガイモが掌の中でじわじわ乾いている。
握りがボロボロのナイフ……銘の入るべき所に聖書の一説が打たれているナイフも、ジャガイモのでんぷんが乾いて浮き出てしまって、真っ白になっていた。
ウソップの釣竿は動かない。
俺たち二人はそれ以上何も話さなかった。
伍時
=ナミ=
「おはよう」
わたしが声をかけると、驚き訝しがりながら籠を抱えているゾロが低く返事をした。
「珍しいわね、あんたがお掃除とは」
聞こえるか聞こえないかくらいの唸り声の尻に噛む様に突っ込みをしたら、不機嫌を軽く振り掛けたようなさらに低い声が聞こえる。
「汲み上げ機と濾過材洗えっつったのはお前だろ」
「覚えてたなんてますます珍しい」
鼻を鳴らし、ゾロは我関せずといったように汲み上げ機のある部屋のドアをあけた。ドア附近に立てかけられていたブラシやバケツやモップや雑巾の入った背の高い木箱がガラガラ音を立てて倒れてくる。一昨昨日の当番は確かルフィの筈だ。
「……っの野郎……」
ぶつくさ言いながらゾロが掃除用具を整理し、バケツで海水を汲み、床を磨き始めた。
「そこは金属が多いから、しっかり拭かないと錆びるわよ」
「何年やってると思ってんだ」
言うだけあって、ハンドブラシで手早くパイプの中に溜まってた水を掃き出しながら磨いている。床に錆色の水など流れていない。水の管理にわたしよりうるさい監視員が居るからかな。
私は何とはなしに近くの樽に腰を下ろし、それを観察することにした。天気もいいし、朝ごはんが出来るまで暇だったから。
「ナミ、柄の長いブラシ」
口を尖らせながらゾロの後ろ手に渡してやると、真水を溜めているタンクに直接じゃぼんと突っ込み、ガリガリごしごしと洗い始める。
「ちょっとあんた!そんなことしたらせっかくの真水が汚くなるでしょうが!」
「うるっせぇなぁ……また汲み上げたらいいじゃねぇか」
「濾過材洗うのだってタンク洗うのだって真水でしなきゃ意味ないって何度言わせるの! 勿体無いことすんじゃないっ!」
「……お前小姑みたいだな……」
「言うこと聞けっ!」
へぇへぇ、と生返事でブラシを引き上げコックを捻り、濾過材を蛇口ごと引っ張り出してまたコックを捻る。
「ホラごらん、乱暴な事するからズボンべしゃべしゃ」
鼻を鳴らしながらフンと語調を上げていい気味だという顔をしてたら、静かにゾロが口を開いた。
「身体はもういいのか」
……なんなの急に。訝しんで眉を寄せたところで、はたと気づく。そうかそうか、こいつと差向って喋るのは随分ぶりだもんな。ゾロなりに気を揉んでいたのかも知れない。
「おかげさまで本調子とは行かないけどそれなりに戻ってきたわ。時々男部屋で上がる夜の悲鳴さえなけりゃもっと早く治ってる位よ」
イヒヒと皮肉っぽく笑ってやった。……ちとワザとらしいかなと一瞬思ったけれど、まあいい。
「そうか。それはなにより」
ゾロがそう言って後は黙る。
そうして、丹念に丹念に濾過材を洗っている。まるでシルクの下着を洗うみたいにバケツの中で揺すり、何度も水を変え、濾過材を絞り、またバケツの水の中で揺する。私が教えた通りをなぞるように。
その丁寧な仕事は、とても人殺しの所業とは思えない。
……まあ、わたしの人殺しの手だって、編み物ぐらいするけれど。
「なにあんた、落ちてる物でも食べたの?」
「……………………」
ベタな誹りにも眉一つ動かさず、まるで心の澄み切ったお坊様のよーな心安らかとしか言いようのない顔のゾロは、濾過材をゆっくりと振って水気を飛ばしている。
わたしはその様子が癇に障った訳ではなかったけれど、一応の礼儀として(或いはさっきの続きとして)皮肉を続けた。妙なハナシの流れにしてしまったのは自分なので、後始末は責任を持たねばならない。
「それとも、一度でも抱いた女が孕むってのはやっぱ思うところがあるのかしら」
「ナミ」
「……なによ」
ゾロが濾過材を脇に置き、まるで騎士が剣を脇に置いて姫に跪いているみたいな格好で言った。
「お前はいい女だ。乳も腿もぱーんと張って、ケツもでけぇ。頭も回るし切り替えも早い。なにより女って性別に誇りを持ってる。そいつはすごい事だ」
「――――――――あんたって……女の誉め方をまっっったく知らないのねェ……」
膝に肘を置き、立て肘の上に顎を置いて背を丸めているわたしがものすごーく大きなため息を殊更に強調して吐く。ああ、ほんとにこいつと来たら剣以外一切興味がなく、剣を取ったらほんとにボンクラ以外の何者でもない。
「お前はいい女だから、また機会が巡ってくればきっといい母ちゃんになる」
X字の鋭角に落ち込んだ頭が、目が、唇が、急に全部飛び起きて張った。
ゾロのいつもの声。
あの低くて、太くて、シビれる、何とも言えず心地の良い、あの、声が、耳に張り付いて何度も頭の中をハウリングした。
唖然。
「……なに、それ……」
やっとのことで絞り出したその声が震えて擦れてひび割れて、まるで自分の声じゃない。
「女はスゲエよ、そのちっせぇ腹の中で人間作るんだから」
彼は続ける。大したものだ、偉いものだ。
「その授かり物を! あたしは引きちぎって! 捨てたのよ!」
意識せずに、でも悲鳴が上がるように、声が出た。
震えている。手が動かない。足が覚束ない。勝手にそこかしこがぶるぶる痙攣している。……こわい。
「違う」
「違わない! 自分が助かる為に、せっかく来てくれた子を……あたしは……」
頭を抱えたままもうそれ以上何を言おうとしたのか忘れてしまった。……いいや、もしかしたら、怖くて、言葉にするのが恐ろしくて、無理やり飲み込んだのかも知れない。
「…………」
「でもあたしに何が出来るのよ……あの子の父親どころか、自分さえまともに愛せないあたしに、子供なんて無理よ、無理なのに、あたし、あたし……どうすればよかったの……」
「なぁナミ、お前はがめつくて遠慮無しで損得勘定が上手いだろう。だから自分を許すのが下手なんだよ。
――――――――どうもしなくていい。ずっと懺悔し続けるのも思う通りにやったらいい。がまんするな、背中くらい向けといてやる」
波と、ブラシが貯水タンクを擦る音。
自分のすすり泣き。
ゾロの身じろぎと所作のノイズ。
頭が痛い。
頬に流れる水が暖かい日差しを受けて蒸発する。痒い。
「都合のいい時だけあんたを便利に使うような女を泣かせてどうすんの」
「行きずりの女が泣こうが喚こうがどうでもいい」
鼻をすすってため息とともに言い捨てた。
「ずるい男」
すると男は振り向きもせず、ブラシを続けてごしごしやりながら、同じ調子で言い捨てた。
「ずるい女にゃ似合いだろ」
陸時
=ナミ=
「寝たのか」
「起すと悪いから今日の書き取りは採点だけにしてもらえる?」
キッチンの長いすで海図の清書をしているわたしの膝の上で、チョッパーが寝息をたてている。食事を終えて身支度が済んだ頃、いつも字の練習を始めるルフィがあたしをキッチンに尋ねてきた。
この頃わたしは自分の部屋で海図を書かない。日誌も、出来るだけキッチン…とりあえず誰か居る場所…で書く癖がついた。
「今日は何を写すの?」
私が訊ねると
「ウソップがくれた本」
赤い背表紙に真鍮の補強がついた古そうな本を誇らしげに見せ、いいだろう、と彼が笑った。
「なんていう本?」
海図に視線を落とし、線を引く。インクがすうっと伸びて長い長い影のように一本の海流となった。このペンで作る海の風景は頭の中に鮮明な形でしまってある。だからつまり私はそのインデックスを作っているのかも知れない。豪華で綺麗で整然とした、記憶のしおりを書いているのかも知れなかった。
「これから読む。ナミの本は専門書と地図ばっかでつまんないってったらウソップが古本屋で買ってきてくれたんだ」
ほくほくと嬉しそうな調子でそうっと、でも大仰に本の表紙を開いた。
「おうじさまのほし?」
読み上げる声に眉をひそめ、それが大体何であるかを類推してからため息をついて言った。
「星の王子様、でしょ。サン=ティグジュペリか……ウソップらしいわね」
「知ってんのか?これ」
真っ黒でクリクリと大きな瞳が興味深そうにわたしの中身を覗く。それが随分長い間怖くて怖くてたまらなかった。今もまだ少し恐ろしいけれど、随分慣れたようにも思う。
「聖書の次に読まれてる有名なオハナシよ。あたしは夜間飛行のほうが好きだけど……あら、これ原書じゃない。わたしの本棚に小さい頃読んでた児童用に訳されたのがあったはずだから後で探しといてあげる。その本はもっとあんたのレベルが上がるまでとっときなさいよ。あたしも原書じゃ訳するのが面倒だわ」
なーんだナミにもわかんないのか、と眉を顰めて唇を尖らせるルフィがパラパラと読めない本を捲る。古い紙の匂いが鼻孔をくすぐった。
長いセリフを言うのは好き。長ければ長いほどいい。そしてそれに意味も理由もないのがベストだ。黙って大人しくしているよりも、人はベラベラと喋る奴の方に好意を持ちやすい。喋り過ぎるのはいけないけれど、適度に謎めかせて、ある程度バラして、本当の事は2・3個。あとは当たり障りのない誰にでもある事をちょっぴり刺激的に味付けして喋れば、それでうまく世界は廻るのだ。
「ウソップなら読めるかもね、あいついつだったか辞書片手に医療専門書訳したくらいだし」
その匂いにかすかな過去の記憶が呼び覚まされるか掻き消えるかの寸前で瞼を伏せる。じわじわ背筋を巡る血の循環が少し早まった気がした。
「ああ、あの模様の時か」
でもこの船じゃ、こいつの前じゃ、そんなトークスキルがちっとも役に立たない。
「…………今日は書き取りしないの?」
羽ペンの先がたわむほど紙に押し付ける。ガリガリガリガリ。少し線が歪む。
「しようと思ったけど、写すもんないしなァ」
きょろきょろとそこら中を見回して、調味料棚に貼り付けてあるラベルを見つけたルフィはあれでも写そうかな、と指差した。
「いいじゃない。読み上げてあげるから書いてみたら?最初はコショウ。綴りは……」
だからわたしは逸らす術ばかりが上達する。罠を張って、そこへ誘導して、落ちた人間を嗤う、そういう魔女みたいな事ばかり上手くなる。
「馬鹿にすんな、ペッパーくらい分かる!」
「書けてから威張れ!」
上手いとは言えないが丁寧な字で彼はpepper、とノートに綴った。
「塩、干し棗、酢、砂糖、鷹の爪、胡麻、七味……」
船員にイーストブルー出身者が多いので味付けはそれが主体で、調味料も香辛料もイーストブルーの色が濃い。特に意外や意外に味にうるさい剣士さまが、どっかの島国の味である薄い味付けが好きなので、みんながそれに合わせている。味付けが濃いとゾロが拗ねるから。船上では楽しみが食事くらいしかないので、他の事にはほとんど一切文句を言わないゾロに唯一してやれることがそのくらいだったから。
でもたまにはホワイトソースにたーっぷりサーモンぶちまけて新鮮な卵を落としたチーズどっさりタバスコびしばしのカルボナーラもいいわよねー……ま、太るから食べないけど。……ああ、ダメダメ。夜にこんなこと考えたらおなかすいちゃう。
「なぁ。ナミ」
「んー?」
「サンジがさぁ」
その名前にギクリと心臓が跳ねた。何でもないその名前。なににそんなに驚いているのか。
「サンジが、どうしたの」
その名前を口にして、ようやく浮上してきた雰囲気が一気に消化された気分。目先を上手に変えて、頭の中を幸せなことでいっぱいにして、自分もそれと気づかず上手く気が紛れてきた頃だったのに。
「あしたパイを作るんだってさ」
「へぇ。おやつ?」
興味なさげな声。ああ、なんて可愛くない。
「リンゴとか杏とかじゃないんだぞ、ジャガイモのパイを作るんだって」
「ふうん。じゃあきっと朝ごはんね」
拗ねた子供じゃあるまいし。
「甘くないパイっておれ食った事ないからさ、どんなんだろう」
「おいしいわよ。半熟卵を乗せてカリカリのベーコンと一緒に口に入れたら、もう天国だわ」
笑い顔はきっと歪で声が変だと思っているのだろうな。
「そう、なんか、おかず上に乗っけて食べるんだって、説明するからおれもう楽しみで楽しみで」
「あんたほんと、食べてれば幸せでいいわねぇ」
溜息をついて小馬鹿にしたような態度を取ってやった。こうして囲っていれば一安心だった頃の癖。……もう、こんなことしたって無駄だって解ってるけど、抜けないの。
「簡単で解りやすくていいだろう? おれの幸せはそれでいいのさ」
――――――――ほらね。
こいつはこーゆー奴なのよ。わたし如きがどんなに一生懸命強固な藁の家を組んだって、一瞬で吹き飛ばしちゃう。そして哀れな子ブタは泣くしかないの。
「……あやかりたいものだわ」
「幸せなんか、簡単なんだ。明日を思えばいい。楽しい明日を思えばいい。難しくねぇだろ」
ルフィがノートに“Hayppe”と書いたのを見ながら、わたしは無言で“Happy”と海図の端に落書きした。
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