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宵の貴婦人・明けの明星「理科の実験」
サンジとナミの大冒険
「ゆ、許せねェ!!」
「バカなこと言ってないでそれも入れて。」
すっくっと立ち上がったサンジに、ナミは既に呆れもせずにサンジの足下に落ちている親指ほどの大きな瑪瑙のはまった王冠をザックの中へ入れるように促した。
「知りもしねぇ野郎が胸元に手ェ突っ込んだんだぜぇ!?嫌じゃねぇのかよ!」
王冠を握りしめたままわなわなと震えるサンジは、せっせとそこら中の鈍く光る金貨やら貴金属類を自分の持ってきたズタ袋に詰め込んでいるナミに聞いた。
「嫌も何も…もう済んだ事じゃないの。私は気を失ってたから知らないわ。もしかしたら胸元から落ちたのを拾ったのかも知れないじゃない?」
そんなことに構ってる暇が惜しいとばかりに、ナミはサンジの持つカンテラの明かりに照らされてオレンジ色に光っているお宝をかき集めている。
「そんなことよりもっと大切なことがあるでしょ?ホラ、さっさと詰め込む詰め込む!」
ナミは長袖を腕まくりして、だいたいの選別をしながらどんどん袋にお宝を詰めている。
二人はサイロを抜け出して、まず取り上げられた荷物探しがてら、自分たちの位置の確認をする事にした。不用意に動き回らずに情報と状況の確認から始めるのが、計算高く要領のいいナミらしい。
ナミが二連の塔だと思っていたのは酪農用のサイロだったらしく、サンジとナミはその一方のサイロに捕えられていた。確かにヘタな部屋に閉じこめるよりずっと逃げられにくい。
「それにしても何で捕まったんだろ?」
サンジは口が淋しいのか、いつもより饒舌になっている。……ナミと二人きりで、少し緊張しているのかも知れない。
「そりゃ自分たちの根城に近づく不審人物だもん、捕まえるわよ」
一心不乱にせっせと重くかさばる貴金属を避けて、値の張りそうな宝石類に的を絞ってポケットに詰め込むナミ。
「…近づいただけで警戒して襲ってくる連中ってのは…」
サンジの胸に嫌な予感が過ぎる。
「多分この辺に巣くってるお天道様に顔向け出来ない連中。」
こともなげにそう言って、サンジ分担のズタ袋に自分のポケットに入れきらない宝石をザラザラと流し込んだ。
「……ってことは最初っから盗賊のお宝目当て……」
「いやぁ、どうせ盗品だから通報もできないと思って。」
ナミはまるで誇らしげに『ドロボーはここで勝負よ』と、自分の頭を人さし指でつついた。
「……あ…っぶねぇこと考えるなぁ……」
呆れの溜め息とも感嘆の呼吸とも付かない不可解な息を付きながら、サンジはカンテラの火を小さくした。
「…実におれ好みのマドモアゼルだ。」
その小さな声が終わるか終わらないかの瞬間、壁の向こうで微かな物音がする。サンジは息を潜め、カンテラの火を完全に消してナミの口を手で押さえながら耳を澄ました。
どうやら壁の向こうの空間は部屋になっていて、数人の人間が話をしながら部屋に入ってきたようだった。
『で、この地図をおっぱいに挟んでたネズミはどこへやったんだ?』
『東の塔。男も一緒にな』
ナミは自分の荷物が冷たい煉瓦の向こうにいる男達の手の中にあることに薄々感づいたようだ。サンジは「やっぱりあいつらナミさんの可憐な胸元から薄汚ねぇ手で地図取りやがった」と、何度か呟いていた。
『おいおい日が昇ったら死んじまうぞ。夏にあの中に落ちてひからびて死んだ人間がいるって話じゃねぇか』
『この辺じゃ見ない顔だ、誰もさわぎゃしねぇよ。』
『そうだ、そこが問題なんだ。
この辺で見ないって事は船で外から来たんだろう?この辺の人間にだってこのアジトは気付かれてないんだぜ。この地図を一体何処で手に入れたんだ?』
バタンと戸の閉まる音がする。その音に驚いたのか、ナミは少し身体を震わせた。
『だいたい緊急用資金貯蔵地図なんてものを作るのが悪ィんだ。みてみろ、オリジナルと寸分も違わねぇじゃねぇか。抜けた誰かがコピーを作ってやがったんだろうよ。それがどういう経路かあいつらの手に渡ったんだ。』
『今そんなことなじったって仕方ねぇだろうが、いちいち下らねェ言い合いはやめろよ』
「……4人…かしらね」
サンジの手の裏側から、ナミは本当に囁くような声で言った。
「いや、もう少し居る。多分6・7人」
声を潜めながら壁にびたっと張り付いている二人は、目配せでサンジはヤバくならない内に逃げようと、ナミはもう少し話を聞いてみるんだと言い合っていた。
……当然、サンジが折れた。
「知らねぇぞ〜…こういう時に限ってマズいことになるんだ…」
「サンジって意外と保守的ねぇ」
「…さすがに拳銃持ってる連中に蹴りでどうこう出来るとは思っちゃいねェもんで」
「あら、いざとなったらしっかり働いてもらうわよ」
その自慢の足でね、とナミは意地悪く笑った。
『足が付かない内にアジトを変えた方がいいだろう』
『変える?ここの謎解きも終わらないうちにか!?』
『いくらこの辺じゃ見ない顔だと言っても、人間二人が消えるんだ。あんまり長居するのは得策じゃねぇな』
『冗談も程々にしろよ、今まで溜め込んだ宝がいくらここに置いてあると思ってるんだ!それをこれだけの人数で運び出すのか?目立って仕方ねぇじゃねぇかよ』
『だからといって捕まっちゃ元も子もねぇだろう。
この塔の財宝にゃ未練もあるが…謎解きだって全く進まねぇし…』
話の途中で遠くの方から慌てふためいたような足音が聞こえ、二人は身を縮こまらせた。
「…こりゃ見つかったわね…」
「ほらぁ…どんどんヤバくなってやがる。」
『おい!!居ねぇぞ!!ネズミが逃げた!』
『バカ言うなよ、蜘蛛でもなきゃあんな筒を登れるもんか。だいたい鉄格子をどうやって破るんだ、もっと良く探せ!』
『真ん中に穴があいてた!どうやってかは知らんが鉄格子を破ったんだ!』
『……チッ、あの女にも猿ぐつわを噛ませておくんだったな…』
『ほれみろ!お前がそのバンダナさっさと渡してりゃ良かったんだ!
……こう暗くちゃ塔の中に隠れてるかどうかも分からねぇ、一応塔のバルブを開けておけ。万が一地下道に入り込んでやがったら明々後日には海に水死体が二つ浮くが…背に腹は代えられん』
『そんなことしたらこの西の塔にも水が来るじゃねぇか!隣の宝の部屋が水浸しになっちまうぜ!』
『そうだ、いくら何でも乱暴すぎる!
水とあの地下道がこの塔の謎解きに関係してるのは間違いないんだ、みすみす太古の宝を駄目にしちまうつもりか!?』
サンジはまた嫌な予感がして、ちらりとナミの顔をのぞき見た。
ナミの目は
それはそれは
嬉しそうに輝いている。
『太古の宝』という単語に反応したらしい。
サンジは「…とんでもねぇ女に惚れたもんだ…」と今日何度目かのため息を付くのだった。
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