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駅は今、朝の中
サンジ
駅は今 朝の中
くもる蒸気 抱きしめて
ぼくは今 さよならを 右の頬だけで
陽が昇る プラットホーム
青いベンチ 光る足
とどかない きみの手に ぼくは微笑を
悲しいのかな 愛されたら
ふりむかないよ これ以上
駅は今 朝の中
くもる蒸気 抱きしめて
ぼくは今 さよならを 右の頬だけで
ぼくの首には きみの犬歯が
うずいているから えりたてて
ぼくは卑怯で 臆病者で
きみの中には いられない
朝は今 汽車の中
大あくび 窓を破る
きみのこと 好きだった
「よう。」
「ゲラゲラゲラゲラ」
「……壊れたかな」
「ゲラゲラゲラ」
「狂ったんでしょ。」
「アハハハハハハ!!」
曲がった指が、引き金を引く。
ズドン!
結構小さな音。
ズドン!
跳ね返ってくる衝撃が軽い。
ズドン!
これは儀式。これは比喩。これは愛と殺傷。
ズドン!
たった4発の連射。弾は跳ね返らない。弾の代わりに入っているのはネジ。
肉に食い込む。
憂鬱な溜め息。
少年が意外そうな顔をしてその場にへたり込んだ。
女は何も言わない。
おれは笑い続けてカシャカシャとトリガーを引く。
大慌てで足下の床戸が揺さぶられる。
「何事だ!開けろ!上にいるヤツ!どけ!」
激しくドアが叩かれる。くぐもった怒鳴り声が足下から立ち上る。おれはまだゲラゲラと笑い声を上げながら弾の入っていない銃を向けている。
「…なんでこんなことすんの?こんなことしたって無駄だってことを知っている癖に」
やっと口を開いた女がつまらないことを言った。
足下のドアから殺気が立ち上ったので、ネジを打ち込んだ少年をドアの上に投げ飛ばして、女の口を押さえてキッチンに走った。
背後で、乾いた音がした。
多分男部屋のドアが斬られたんだろう。
おれは大きな声を出す。
「キッチンに傷一つでも付けたらテメェら千切りだ!」
その声を掻き消すようにウソップの「血だァァ!!」という叫び声が聞こえた。
「籠城?船の上で、馬鹿げてるわ」
トリガーが、ひどく軽くてカシャカシャと乾いた音を立てる。
ああこの引き金はこんなにも軽かったのか。引いてしまえば何て事無かった、何の感慨もわかないし、想像していたよりも面白くない。なによりも、もっと手が痺れてショックを受けるかと思ったのに。なんてくだらない。
トリガーは何度もカシャカシャという音を立てては重い金属特有の擦れる音がした。
「引き金を引いて満足?あのバカを殺して幸せ?」
遠くで鈴の音がする。鈴の音は何度もひどくおれに訊ねているようだけれど、おれは答えなんて無い。
何故撃ったのかだって?このグランドラインで一番クソくだらねぇ質問だ。
撃ちたかったからに決まっている。それ以外何があるんだ?大笑いしながら背中に隠し持った銃で撃つ。銃弾は込めずに、数個ネジを。螺子を小さな革ひもで巻いて、弾の代わりに詰め込むのさ。滑りをよくするグリセリンを忘れないように。
そして撃つ。ゴムの身体めがけて、ズドン・ズドン・ズドン・ズドン。
たった四発のねじ。螺子を身体にぶち込む。丸い弾じゃ跳ね返されちまうから、身体に食い込むするどい螺子で。
「殺して何になるの?
どうせあんなじゃ死なないわ、だってあいつはバケモノですもの
腕のいいドクターも乗り合わせてる。絶対に死なない。
掛けてもいいのよ、ねぇサンジ」
血が赤いのは不思議だと思う。おれを好きだと言った彼女の唇に流れている血と色と同じ色なんて。撃たれたルフィの血も、撃ったおれの血も赤い。今までさばいてきたマグロの血も赤い、牛の血も赤い、鶏の血も赤い。
「気が狂ったコック、一体あなたは何処へ?
操舵室も乗っ取った、兵糧攻めにだって出来る。唯一の航海士の人質。船の王様は何をお望み?」
「船長の死を、航海士の愛を」
焼けたグリセリンの匂いが微かにする銃口を向ける。中には火薬も弾も詰め込まれていない銃を向ける。撃鉄を引き起こす、ギリギリギリ、あとはこの軽い引き金を引くだけ、ズドン。
「愛ですって?馬鹿馬鹿しい。ああなんてオロカな言葉。」
そう彼女が言うと、おれは軽い引き金を引いた。その言葉を最後まで聞いたのは、おれがお人好しだからさ。
ズドン。
乾いた音がする。ガチャリ。撃鉄が弾かれた音。
「殺せば?……手に入らないわ、絶対に。だから殺しなさいよ。
思い通りにならないルフィを撃ったんでしょう?その銃で。なら同じわたしを殺せばいい。」
傷が付くだけの銃で殺せばいい。死なない程度の場所を何度も撃てばいい。
彼女がそう言ったので
おれは
銃口を額に当てて、撃鉄を起こしてすぐに引き金を引いた。
ズドン
シリンダーに込められた最後の弾が発射された。
銀色の聖なる銃弾、破邪の銃痕。
脳髄をぶちまけたおれは
ようやく引き金を引いてくれたサンジに感謝した。
良くやったサンジ、おまえは世界一のコックだ。
隠し味は誰にも教えないで
銀色の隠し味は、誰も知らなかった。
題・詩:ムーンライダース
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