アネモネ
オイルがユラユラ揺れる。オイルの中に咲く水中花の葉が揺れる、ユラユラ。
どこかのホテルの備品だった。どこの島のホテルだったかもう覚えてないし、ライターに書いてあったホテルの名前ももうすっかり消え てしまっている。
ライターの中にある花の名前を彼女が教えてくれて、何かのはずみのその花の花言葉を知った。それからなんとなくそのライターがお気 に入りだった。オイルを何度か注入して使っている。普通ならオイルが切れたら用なしの使い捨てライターなのに。
チッチッチ、何度か火打石の部分をこすらないと火がつきにくくなっている。そろそろオイルを継ぎ足しても使い物にならなくなるだろ う。だって使い捨てなんだ、何度も再利用するだけの耐久力なんかもともと持ち合わせちゃいない。
愛着があるわけじゃないはずなのに捨てられないでいる。ふと気がつくとポケットからこのライターを取り出している。ライターなんて ほかにいくらだってあるというのに。
「まるで俺だね」
洒落たジッポやイカすダンヒルみたいなライターの足元にも及ばない、ただ火をつけるというだけの価値しかない使い捨て。少し虚勢張 って花を挿せば、それがよりいっそう哀しくさえ見える。
その哀しさを美学とするなんてセンチメンタリズム、貧乏くさくてやってらんないね。ゴミに価値を見出すのはただの価値観の相違、な んてそこまで悟れたらハッピー。人生楽でいいだろうさ。
使い捨てライターのオイルを揺らす、花の茎がユラユラくるくる回転して、花びらがシンクロしてくるくる。決して散らない花、水中造 花。形を模して作られた意味のない生殖器。まるでバイブレータ。いったい何を慰めると言うのか、水をやる手間、虫を取る手間、枯れた ら捨てる手間。
「俺もいつか捨てられるのかなぁ?」
楽で美しいように、全てを慰められるように在るというのに。それでは飽きるとでも傲慢吐き散らすか。センセーショナルと喜んだ目先 が追いつけばすぐに追い越す。造花は死ぬことも出来ずただゴミ箱へ直行。ゴミ箱から先をどうすればいい?
「ボクのこと捨てないで!君の思いのままに全て言うことをきくから!何一つ違反なんてしません、泣いたり怒ったり手を振り払ったり 、タブーは絶対犯しません、だから僕のこと捨てないで!」
言い切ってから忍び笑い、引き笑い、鼻で笑い、最後に失笑。
だってもうそれは一切すべてもうやり終えてしまったもの。俺にはそれしか出来ないんだもの。
ライターには火をつけるしか出来ないんだもの。
役目を終えたライター、虚勢張って花挿したライター。火打石が磨り減って、火花散らせなくなればゴミ箱。その後のライターの冒険や 如何に。
願わくばオイルに造花が溺れませんよう。
22:31 2003/06/26
アネモネの花言葉
はかない希望・恋の苦しみ・真実
はかない恋・見放される・君を愛す
なんだか要領得ない。
臆病が極まって狂ってる。
要領よくゴミ箱に収まった。
残りは無言。それから無視。
愛は尊い、だから燃やすさ。
愛は貴い、だから死ねるさ。
無念。
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