「遠く低く流れる雲が呼ぶ」(或いは「Help!」)
18歳未満お断りバージョン
グルグルとゴムゴム
真っ白な世界。 ずいぶん昔……何かがあった世界……。それは事件。或いは物質。それとも構造? まぁとにかく何かがあった世界だ。 それ(昔の「何か」)が崩れ去って、苔むすほどに時間の経ったまっ白な世界。 まっ白な世界に色が入る。 まずは地面の色。それから空の色。建物の色。レンガの色。木々の色。時間の色。風の色。 誰かが立っている。道に、おれに背を向けて立っている。 ……いや違う。向こう側に歩いているんだ。つまりおれから離れて行ってる。 おれはそれをただ見つめている。何を言う気にもなれない。……何も言えない事に代わりはないけれども、おれはおれの意志でそうしてると思う。……決して、勇気がないのではなく。 目の前に透明な仕切があるわけでもない。もちろん声が出なくなったわけでもない。 そいつはおれに気付いているのか居ないのか、全く振り返る素振りすら見せない。ただ黙々と前進し、どこかに向かっている。そいつの向かう先がどこかなんておれには見当が付かない。 歩みを止めず、そいつは歩いて行く。 どこへ? 何をしに? 何のために? 何故? おれは何も言わず、何も答えを出さず、ただ黙々と歩きながら遠くに消えていくそいつの背中を見ている。 ポケットから煙草を取り出し、火をつけようとマッチを探す。 マッチは、湿っていて使い物にならなかった。 おれはマッチを箱ごと捨てた。 消えゆく背中に、おれは何か声を掛けようとしたけれど…いい文句が浮かばなかった。 あれ?前に似たようなことがあったんだが…その時はなんて言ったんだったかな。 ……ああ、その時はそいつ、振り返ったんだっけ……
xxxxxxxxxxxxx そこで夢が終わった。 「……んだよ…寝覚め悪ィ……」 ゆっくりと体を起こして、ハンモックから降りた。まだ全員眠ってる。……朝の四時過ぎだ、こいつらが見張りの番でもないのに起きてる方が気持ち悪い。 でっかいあくびを一つして、よれよれになったカッターシャツの襟を正す。昨日はなんで服のまま寝ちまったんだっけ?……まぁいい。 耳を澄ますと、遠くの方で低く唸るサイレンが聞こえた。 陸が近いのか、他の船か、何かの動物か…… そんなことを思いながら、ひとりでに引っ張られているように足が食堂に進む。 ……ったく、因果な身体だよ。 我ながら呆れ顔で、東の空がまだ少しも明るくないのを見た。日の出まで、後20分ってところかねぇ。 煙草を取り出して火を付ける。ぼんやりと口の周りが暖かいような感覚が湧きあがった。夏はごめんだなあ、これ。 風を受けて、自分の服の端がはためく。その音がずいぶん乾いていて、なんだか急にもの悲しくなった。 いつの間にこんなに涙腺弱くなったんだか。 涙が本当に流れるわけではなく、ほったらかしにしておいた心のどこかが泣いているような、何か強大な力に押しつぶされるときのような。 そんな、心臓を「ゆっくり締め付けられるような居心地の悪さ」が、体中を駆け回って、背中からどこかへ抜けた。 水平線が劇的に光って、太陽が頭をのぞかせた。 そのまぶしい光に眉をしかめ、細い目で今日の太陽のツラを拝んでみる。 きらきらと光って、光りすぎていて、闇に慣れていた目を灼かれる。灼熱の光が、瞼を突き抜け眼球を素通りし、脳髄も頭蓋骨も突っ切って、まるで何の障害もないようにこの身体の真後ろに注いだようだった。 「・・・・相変わらずヒデェ元気だな、この太陽サマはよぅ」 一言ぼやき、身体を反転させて朝食のことを考え出した頭は、急停止する。 「サンジ、メシ。」 ぼんやりとした顔の船長は、顔も洗っていないのか眠たそうにそう言った。 「・・・・・・・・・・・・・うるせぇ、てめぇの足でもかじってやがれっ」
xxxxxxxxxxxxx 「…………おい、仕事をさぼるのはよくねぇぞ」 「……俺は今ビョウキなんだよ。マッキーに遊んでもらえ、ケンゴー殿に」 ミカン畑の前にうずくまって煙草を吹かしていたおれをめざとく見つけたのは、やはりというか、ウソップだった。……ったく、お節介ヤロウめ。 「メシ作るのがオマエの仕事だろーがよ。」 「うるせぇ、毎日毎日五回も六回もメシばっかりつくってられっか。おれは正当な休暇時間を要求するものであるぞチキショー」 一気に喋ってしまってから、また煙草を吸う。 吸い込む唇が微かに痺れているような気がした。 これはおれが一人で居たいときのシグナル。 「……なに一人でキレてんだよ。拗ねんなよな、いい大人が。」 ウソップは呆れたようにすとんと腰を下ろした。……こいついったんこうなるとメチャメチャ腰が重くなるから嫌いだ。 「別に。」 一言素っ気なく言う。 長っパナはそれで理解する。器用で頭のいい奴だから。 「…まぁ、いいけどさ。」 鞄をごそごそとやり、何かの糸の束を取り出してそれをおれに渡す。…糸巻きでも手伝えってか? 「おい、ハラマッキーに手伝ってもらえ。おれはまったりオヤスミしてぇ」 糸の束をぽんと投げると、すぐにまたぽんと投げ返ってきた。 「……ウソップ。」 「いいじゃねぇか、持ってるだけなんだからよぅ」 そう言って、ウソップは糸(って言っても毛糸くらいの太さはあるかな)を巻き始めた。 麻色の糸は、ゆっくりとしたスピードでウソップの方に巻き取られていく。 おれは諦めて、その糸をほぐしてはウソップの方へと糸が引っ張られていくのを、殊更つまらなそうに見ていることにした。 しばらくそうしていると、甲板の一番先に人影が見えた。……まぁ、誰かはよく分かってるけど。 「……ウソップ、やっぱりパスだ。ここは寒い。おれ部屋行くわ。」 ひょいと立ち上がろうとしたおれを、ウソップは気軽な視線を向ける。 「…みっともねぇなァ…五つのガキじゃねぇんだぜ。どんと構えてな、戦うコックさんよ。」 その声に、おれは…………言葉を失った。 「…ちっ!」 どすっと音がするくらい荒っぽく座った。その拍子に煙草の灰が床に落ちる。 その灰が風に弄ばれて、カタチが消えていくのをおれは見ていた。 どこも見ることが出来なかったから。 「……ナミは来ねぇって。さっき女部屋でビビとなんか喋ってたから」 ぽかんとウソップの方を見て、急に極悪のおれがむくっと底の方から起き出した。 「ウソーップ、美しくねぇなぁ?そういう変な気の回し方はぁー?悪いのはこの鼻かー?んー?」 「はがががががが……ほいっ!はんぎっ!もげるっマジもげる!!」 ウソップは、両手をぱたぱたと振り回して空中を泳ぐような格好をした。 その様子を見ていたのか、船首に居た奴はミカン畑前のおれ達に手を振った。 「…………この際だから腰据えて話し合ってみねぇの?」 気楽な声で他人事な意見を吐き垂れた馬鹿の頭を、おれは一応殴っておいた。
xxxxxxxxxxxxx 「?……なんだ、珍しいツーショットだな。」 ゾロはそう言いながらタオルで汗を拭きつつ食堂に入ってきた。 「メシメシ言うからな。牛乳もうヤベェからちょっとしたデザートを・・・」 「この寒さでか?」 「古いんだよ……っておい、オマエばかばか酒空けるなよ。海水飲んでろ底なし!」 おれはつかつかと歩み寄り、ゾロからワインの瓶をぶん取った。ゾロの手がむなしく空を掻く。 「……ケチケチすんなよな、酒の一本や二本。」 ブー垂れるゾロに人差し指を突きつけながら、おれは説教を始める。 「オメェな、一日一本ペースで空けられたら買い出しにいくおれの負担が増すばっかりなんだよ!ボケ! しかもこりゃ祝い用の高けぇ奴なの!女性用なの!ナミさんとビビちゃん用なの!てめぇが飲める値段のもんじゃねぇの!分かったら海水たらふく飲んどけっつーの!」 呆れ顔になるゾロを放っておいて、またワイン棚にそろっと瓶を寝かせた。……まったく、この船は金庫にでも入れとかなきゃおちおち料理もできねぇのかヨ。 「おいサンジ、まぜ終わったぞ。次は?」 「何回言ったら分かるんだよ、帽子取れって。クリーム飛んでそこから腐るぞ、麦藁は」 つまらなさそうな顔をしてゾロは椅子に座り、頬杖を付いて誰を見るでなくボーっとしている。……狙ってやがるな、こいつ。 渋々と帽子をテーブルの上に置き、また泡立て器を握ろうとするルフィの手を、おれは素早く止めた。 「洗え。食中毒になったらどうする」 「…なんだそれ、おれの帽子が汚ねぇってことか?」 ルフィがじろりとおれを睨む。 「当たりめぇだ。年がら年中かぶってんだろうが。オマエそれちゃんと手入れしてんのか?たまには洗えよ。大切なんだろ?」 言いながらおれは子供の手をそうするように、ルフィの手を水道口に持っていって洗った。 その様子を、ゾロが疲れたような目でじっと見ていた。 「麦藁洗うのか?カタチ崩れねぇか?」 「水に浸けてごしごし洗うんじゃねぇよ。濡れた布で叩き拭きすんだよ。」 「タタキブキって何だ?」 「あーもーうるせぇな、後で教えてやるから手ェ動かせ! 今度はそこのシナモン入れ…だー、それ違う!そりゃコショウだバカっ!!」
xxxxxxxxxxxxx 夕食を食べ終わり、それぞれが思い思いにクソ寒い甲板でくつろいでいる。 ビビちゃんはウソップの実験みたいなヤツの嬉々とした説明を聞かされてる。イヤな顔一つせずに……一生懸命この船に馴染もうとしてんだなぁと、煙草に火を付けた。 ゾロはいつものように目をつむって腕組みをしながら眠っているように見える。なに考えてんだろ?田舎にでも残してきた恋人のことか? ルフィはいつものように船首にへばり付いて、空に浮かぶ白い月を見上げている。頭にはいつもの帽子がない。さっき陰干しをするとか言ってたから、どっかへ置いてきたんだろう。 ……と見回して、ナミさんの姿が見えないのにやっと気付いた。 「…部屋かな…」
片手にはグラスが6つ。 片手にはワインクーラーに収まっていない葡萄酒が一本。あと、軽いつまみがちょっと。こんなに寒いから暖かい物にしようかとも思ったんだが。 普通はあんまりこの部屋には来ない。 何故かと問われても自分でもよく分からんけど、なんとなく避けているような気もする。 でも今日は珍しく自分から足を運んでいる。 ビビちゃんが部屋に居ないのが判ってるからかね。……まぁ、別にどうでもいいけど。 両手がふさがったまま床のドアをノックする。……自分の器用さにオドロキだぜ。 「…はぁい、何?」 「ナーミさん、チョット飲みませんかー?いい月が出てますよー」 しばらくして、ドアの向こうで「まだ部屋にいたいの」と聞こえた。 「航海日誌ですか?じゃあ……」 早く上がってきて下さいね、そう言おうとする前に一言、言葉が耳に飛び込んでくる。 「入って待っててちょうだい。鍵開いてるから」 おれは躊躇して、一瞬どう断ろうかと思案して、細く深く息を吸い込み、嬉しそうな顔をして“サンジになった”。 「ナミさーん!」 ドアを開けると暖かな空気。バーのテーブルにグラスとワインを置き、つまみの入った皿にナフキンを掛けてナミさんを見る。 一瞬、とても疲れたような風に見えたが、それはすぐに霧散すると同時にいつものナミさんが現れた。 「ハイ、サンジくん」 「ハイ!ナミさん」 小さく手を挙げて、何でもない挨拶をする。 この船の清涼剤みたいな、何でもない仕草。 おれはドアを開ける前の名前のない不安なんて吹っ飛んじまったね。ナミさんのドアを開ける前はいつも少し憂鬱になるけど、開けさえすればこんなにも満たされるのに。 「……日誌?」 おれはナミさんの後ろに立ち、彼女の書き込んでいる本に視線を落とす。 「そーよ、日誌。みんなの健康状態から何から全部。…全く、ウチのキャプテンほど気楽な商売もないもんだわ」 「…………………… ……あんまりやりすぎると身体、壊しますよ…」 むき出しの肩を抱くと、ほんのり温かな肌はうっすら汗ばんでいた。 「…?ナミさん……」 「うらっ!何さりげに触ってんのよッ!」 ミゾオチに裏拳が決まる。おれは少しせき込んで、彼女の頬が少し赤くなっているのに気付いた。 「体調、悪いんですか?顔が赤いですよ」 少しぎくっとなったナミさんは、ゆっくり笑うと意地悪するときの口調で言った。 「そりゃ、部屋に男の人と二人っきりなんですもの」 彼女は笑い おれは釈然としないまま 彼女の笑顔を見ている おれは何かを言おうとして 彼女の目を見ると 彼女は何も物言わず ただおれに笑い掛けている ただおれに笑い掛けている おれが役立たずだから 彼女はおれにただ笑い掛ける 微笑みが 鋭く牙をむいて おれを斬りつける 彼女の笑う目の前で おれはあっという間に死に向かう 彼女に笑い掛けられたまま彼女の前で彼女のせいで ああなんて幸せなおれ なんて幸せなおれなんだろう ゆっくりと瞬きをすると、彼女はにこりと笑うようにして、囁くように「襲われちゃうよ」と言った。 「……あなたに襲われるんなら本望だ」 そう囁き返すと、彼女は少しひるんで瞳の奥に翳った光を燻らせた。 おれはたまらず おれはとまらず おれはひるまず 彼女に襲いかかる。 彼女に両手を伸ばして、彼女の腰を抱き、彼女の湿った首筋に唇を這わす。 彼女は昔からそうして欲しかったことを知っているから。 おれは彼女と出会った瞬間からこうしていたいと思っていたから。 ベットに広がる彼女の濃いオレンジの髪。 おれをまっすぐに見つめる大きな瞳。 細く温かで、おれを引っ張る柔らかくて力強い腕。 クラクラと引き寄せられるように彼女の胸に顔を埋める。懐かしいような、興奮する香りでアタマの中がクレイジー。 髪がくしゃりと掻き撫でられて、ゆっくりと髪を手で梳かされた。 「サンジくんの髪ってさらさらね。どのシャンプー使ってんの?」 彼女がゆっくり聞く。彼女がゆっくりおれの顔を上げる。彼女がゆっくりおれにキスをする。 おれは、さらに、クレイジー。 嬉しくてたまらない。 涙が浮かぶほどに身体が震えてくる。 でもおれは知ってるんだ。 これは、彼女の同情だって。 これは彼女の罪滅ぼしだって。 だから 嬉しくない はずなのに 身体が ひとりでに 反応しちまう。 嬉しくて、嬉しくて。 好意が嘘でも彼女がおれにキスしてくれた行為は本当なんだ。 そこに上手く騙され続けるしかおれには方法がない。 彼女が欲しいなら。 彼女の側にいつまでも居たいなら。 おれは彼女を抱きかかえて、ベットの真ん中に移動させる。彼女の身体がベットの上で弾んだ。 「…んもー、もっと優しく扱いなさいよ」 「うそ。乱暴な方が好きなくせに」 「……………………」 複雑な表情をして、おれの皮肉を聞いている。 おれの言葉は恋と嫉妬と皮肉と愛でいっぱいだ。自分でも鬱陶しいくらいに。 微笑んで、おれは彼女の首筋にキスをする。本当はキスマークを付けたいけれど、おれは常識的なのでそんなことはしない。 ……怒られちまうし。 彼女がおれの手を誘導する。 彼女の柔らかい肌に。 「サン…ジ…」 おれの名前を呟いて、おれのシャツのボタンを外し始めた彼女を、おれは止めなかった。 「ナ……ナミ…」 彼女の名前を途切れ途切れに呼んで、彼女の体を隠しているシャツの上から柔らかな二つの膨らみを手で覆った。 「あ…」 彼女の唇から艶っぽい吐息が漏れる。 シャワーを浴びるのを忘れていたことを思い出した…が、今更止める気もなかったので、冷や汗をかいて汗臭いだろう自分の体の事を忘れて、彼女の唇に自分の唇を重ねた。 「ん…んん。」 キスはどんな味って訊かれても、「唇の味」としか答えようがねぇな。 そんな味だった。…強いて具体的に答えるとするなら「ナミさんの味」だろうか。 柔らかくて、不思議な感じだった。とても気持ちよかった。 他の誰としたキスよりも。 もう他に何も考えられなくなってくる。 唇を離すと、彼女の上気した顔がおれの顔の前にあって、それだけで興奮してしまった。 いつもは強気な彼女だから、余計にそう感じる。 紅みの差した少し恥ずかしそうな顔の彼女は、とても綺麗で可愛かった。 「…っ!」 彼女の体に覆い被さるようにして、自分の体重を掛けてベットに押し倒した。 自分でも大胆だと思った。上には連中が居るのに。 もう一度唇を重ねて、そのまま彼女の胸を揉む。 「った…!」 「っ!だ…大丈夫ですか?」 「……こら、敬語はナシよ。」 ぴしりと指でおれの額を弾いた彼女の顔は、いつもよりずっと…… 震える唇で3度目のキスをした。 今度のキスは、自分から舌を積極的に差し入れる彼女に気圧された。 『お、おれに…ナミさんが……』 快感だった。 口の中で彼女の舌が動きまわっている。 僕の舌と絡ませて、彼女の舌がおれを求めている。 …いまは、おれだけが彼女の全てだ。 辺りの景色が、おれにとっては結界のような部屋が、ぐにゃぐにゃに曲がってしまうくらいに気持ち良かった。 下半身がズキズキいい出した。 ……ま、普通だわな。(…………よかった。緊張でダメんなんなくて) 彼女の顔を両手で掴んで、彼女を押し倒すように彼女の口を好きなだけ吸う。彼女もおれの背中に手を回して、おれの口を好きなだけ吸う。 くちゃくちゅと、静かな薄暗い部屋に唾液の混ざる淫靡な音だけが響く。おれはそのシチュエーションだけで、もう完全に興奮していた。 彼女がおれの首筋に唇を移動させていく。おれの首筋は、彼女のキスでいっぱいになっていく。 彼女の頭から、何とも言えない良い香りがする。香水やなんかとは明らかに違う『ナミさんの匂い』だ。 おれはいっぺんにこの匂いが好きになってしまった。 彼女がおれの胸に舌を這わせた。 ゾクゾクと快感が背筋を駆けめぐる。 「…ふ…っ…」 思わず声が出てしまう。 …っかー!みっともねぇっ!女みてぇな声っ!(さすがナミさん!テクニシャンだぜ!) しかし彼女はそれが面白かったのか、何度も声を出した辺りに舌を這わす。 「…うあっ…あ…う…っ…」 おれは自分の顔が真っ赤になっていくのが判る。 自分の声がまるで女の喘ぎ声みたいだったからだ。 「ハァ…ハァハァハァ…ッ」 「……ふふ、サンジって敏感なのね」 囁く彼女に、もう声が出ないくらいに虐められたおれは、主導権を取り返そうと彼女の肩を押さえたが、体勢的に無理があったのかすぐに逃げられてしまう。 ついに彼女の舌攻撃は、下腹部に到達してしまった。 そこには当然、今までの事で興奮してしまった結果がそそり勃っていたのだが(ったく、男って悲しい生き物だなオイ)、彼女にまるで当たり前のように、白魚のような細い指で『ソレ』を包み込まれてしまった。 「…うわ…」 普段から見慣れていた『ソレ』が、彼女の綺麗な手と一緒に在ると、たちまちグロテスクな汚物のように思えた。 「な、ナミさん、触ったら…き……」 『キタナイ』と言おうとした次の瞬間、もっとすごい衝撃がおれを襲った。視覚と感覚の両方で。 おれ自身を、彼女のさっきまでとろけるようなキスしていた唇が、ぱくりとくわえ込んだのだ。 「はう…っ」 爆発的な快感と、沸騰寸前の血液が頭の中を走った。 「くちゅクチュくちゅ…」 アイスの棒を舐めるような仕草の、彼女の温かい舌がおれ自身に絡み付いた。 「ぅはぁ…ッハァ……あっ!」 手を変え品を変え、自分の勃起を弄ぶ彼女の舌と口に、情けない話でリミット寸前だった。 「な、ナミさん!…は、離れて…」 危ないと言おうとした時には、自分ではもうコントロール出来なくなっていた。 びゅく!…びゅびゅ…びゅ… 今までの快感の代償を吐き出して、頭の中が真っ白になった。 彼女が口を離した数秒…いや、数コンマ後の出来事だった。おかげで綺麗な彼女の顔は、おれの吐き出した白濁色の液体でベタベタになっていた。 それが……ヘンに綺麗で美しかった。 「…ッはぁはぁはぁはぁ…ハァハァハァハァ…」 全部の力が一気に抜けていくような、気持ちの良い脱力感と虚脱感がおれの体を支配した。 「ひっどーい……セーエキって髪に付いたらなっかなか取れないんだからっ」 「ナ…ナミさん……」 顔に付いた精液を丁寧に拭いながら、彼女はまたおれに手を掛けた。 さっきあれ程白濁液を吐き出したおれのアレは、怒涛の感覚の嵐を受けた後で、異常に敏感になっていたらしく、彼女の手の感触を感じてすぐに大きくなり始めた。 「サンジ…私も…」 彼女……ナミ……はそう言うと、おれの緊張で硬直した手を自分の胸へと誘導した。 すべすべで、白くて、すごく柔らかかった。 「ン…は…ぁ……!」 薄く開けられた口から漏れる、意図的に出したのではない切なげな声が、更におれの劣情をかき立てる。 「あっ…あはぁ…!」 ナミさんが、おれに触られて興奮してる…! 妙な喜びだった。 ナミさんの人形のように白い顔は、今や真っ赤に染まっている。 『すっげェ可愛い』 『もっと可愛い顔が見たい』 『おれより気持ちよくなって欲しい』 次第に固くなってゆく彼女の乳首に、自分の唇を当てたのはそうした思いからだった。 「…っあん!」 口の中で、かき回すようにナミの胸を舐めた。彼女の表情が更に恍惚としていく。 それだけで胸がいっぱいになりそうだった。おれの舌はエスカレートしてナミの乳首を優しく転がした。吸い上げたり、唇で挟んだり、胸の膨らみを頬ですりすりしたり。……あんまりマニアックな事すると怒られるしな。 おれが何か行動する度に、ナミは吐息を弾ませて頭をしっかりと掴んでくる。この感覚のお返しが嬉しくて、もっともっと気持ち良くさせたいと思った。 しかし、彼女はおれから身を離し、上半身を起こして一息付くようにして、呼吸を落ち着かせた。 「サンジ…私…もう…」 泣きそうな声だった。 何かに責めたてられているような、そんな切羽詰まったそそる声だ。 「…うん」 それが何を求める声なのか、想像するだけで鼻血が出そうになる。 ゆっくり、期待を押さえ込むように、自分の手をナミの秘部に伸ばした。 そこは…ヌルヌルでベタベタだった。 『な、ナミさんたら……かぁわいい!』 またさっきの妙な高揚が、動悸を一段と早くした。 「優しくするから…な」 そう言って湿やかなスリットに指をあてがった。 くにゅくにゅと、胸とは違う別の柔らかさが、おれの指をつかんで離さない。 すぐにおれの右手はベタベタに濡れてしまった…が、そんなことなどどうでも良く、むしろ嬉しかった。 「あん!…アん…あはぁ!……ふぅっ…ふぅぅ!」 出来るだけ声を上げないように、必死に耐えているのだろうか。逆にその方が色っぽい艶のある声色で、聞いてるだけで勃っちまいそう。 ふと手を止め、ナミに初めて自分から性器を突き出した。 「ナミ…おれも…」 彼女は、薄く口の端を持ち上げ艶やかに笑って、身体をひねり、シックス・ナインの体勢に持っていく。 おれが舌をスリットに差し込むと、ナミの動きが一瞬止まる。ナミがおれの「えてもの」をなぞるように舐めると、おれはイってしまわないように下腹部に力を込める…といった具合に、肉欲のシーソーゲームはいつ終わるともなく続いた。 少しして、ナミのあそこにすごく感じるらしい場所を見つけたおれは、面白がってそこばかりを責めたてた。 …いっとくけどおれにテクがねェんじゃねぇぞ。彼女が多彩な角度からおれを攻めるもんで、押されてて手がまわらねぇだけだ。 竿を口に含んで、何度も何度も息を吐き出したり、ナミの技の多さには驚かされる。お陰で何度か爆発寸前まで追い詰められたが、何とかギリギリ持ちこたえているといった感じだった。 『そろそろ、な…』 そんなことを夢見心地で、なおも執拗におれを愛撫するナミの顔の方へ体勢を変えた。 ナミの顔は、ベタベタに汚れていた。多分おれの顔も同じように汚れていただろう。 何も考えずに、ナミにキスをした。 口の中に変な味が広がる。数秒してからやっと自分の精液の味だと理解した。 「優しく…する。」 おれができるだけドキワクを隠しながらそう言うと、ナミはにこり…と極上の笑みをもらした。 性欲や何もかも全てを無視して美しい…一層胸が苦しくなった。 そろりとナミの身体に侵入する。 「……っあぁ…」 しかしナミは声を上げる。 「い、痛かった?」 「…ち…がう…感じて…!まだ、動かないで…」 『ナミがこんな事を言うなんて思ってもみなかった』それがおれの偽らざる感想だ。 白くて細い手を握っている両手に、自然と力がこもる。 「ゆっくりするから」 そう言って、腰をスライドし始めた。最初はゆっくりと。 「ひ…!」 ナミの目が大きく見開かれた。その目から真珠のような涙がこぼれ落ちる。 その涙を見ないフリをして、ナミの体を揺らし続ける。 ナミの体は最高だった。自分の手で沸き起こる快感とはまた別で、しかも彼女の愛液のヌルヌルとした感触と一緒ごたになって、先の方からとろけそうだ! 何度抱いても最高の身体。 体を揺らす度、ナミが切なげな声を上げる。 声が上がる度、おれ自身が締め付けられる。 じわじわと追い詰められていく自分の持続時間に、少しだけ腰のスピードを緩めてみた。 「ああ…止めちゃ…!」 何かに責めたてられたように、自分から腰を揺らす彼女をいじらしいと思った。 …クチュ…くちゅっ…じゅっぷじゅぷぷ…ぷちゅ… キシキシと軋むベットの音を遠くに聞きながら、まるで耳元で騒いでいるような、いやらしい液体の演奏を続けるおれ達は、ついにラストスパートに入った。 二人とも最高の快感を求めて、お互いの体をむさぼる。 「あっあっああっ……あっあんあっぁぁっ」 「…………………いくぞ……………っ!」 ついに我慢の限界に来たおれは警告を発し、体を離そうと動いた。 しかしナミはソレを阻むようにして、体を僕にピッタリとくっ付ける。 「まずっ、中に出る!ナミっは…離さないと…!」 「だめ…」 泣きそうなような、イタズラじみたような、そんな不思議で悩ましい表情でおれを見る。 一気に、おれの中の強烈なヤツが出てくる。 「……じゃぁ…中に出してやるよ、おれの濃いヤツ」 耳元で囁く。熱っぽい声で、精一杯いやらしく。 「ああっ…ン、そんな…ぁ…」 「ナミの中に、おれのセーエキいっぱい。赤ちゃん出来ちまうぜ? すっげぇ可愛い女の子がいいなぁ。女の子産んでくれよ。 ルフィのヤツ、どんなツラしやがるかなぁ? ほら、出るぜ。濃いから絶対ニンシンしちまうよ。オクの方にいっぱいだ……」 体を離そうとするナミに、両腕でつかんで離れようとしないおれ。そっとナミの柔らかい唇をおれの口で塞いだ。 「…ぅん!」 …………………………だく……っ! 快感と呆然で、おれ頭の中は真っ白になった。 ナミの中にそそぎ込まれているだろう自分の白濁液の事を思うと、完全に我を忘れて快感に身を任せることは出来なかった。 薄れゆく意識の中で、それが残念だった。
目を覚ますと、そこには静かに寝息を立てるナミの顔があった。 ナミの顔は、何かがこびり付いていて、がぴがぴだった。 「顔…洗うヒマ無かったもんなぁ…」 そう誰ともなく呟いて、彼女の髪に触れる。 意気地のないおれは、こうすることしか出来ずに、ただ彼女の身体を抱く。彼女はおれの身体を抱き、親切なことに心には触れてくれない。 心に触れることがとても残酷だという事を知っているから。 彼女はおれが手を伸ばすと、いつもこうやって手を握りしめてくれるから、おれは彼女を愛しているんだろうか。 いや、それよりこれは愛か? そんなつまらないことを考え、おれは冷たい空気から彼女を守るように・彼女に守られるように、手近にあった彼女のコートを彼女に掛ける。 下着を穿いて、シャツを着て、ズボンを穿いて、上着を羽織って、靴を履いて、髪を直して。 「暖かくしてな、何か暖かい物でも食べれば、すぐに良くなるから」 何か持ってくる。優しいふりを言い残しておれはそこから逃げ出そうとした。一刻も早く。 「……何がそんなに怖いの、サンジ君」 ひくりと肩が震えてしまう。 おれは、強く目を閉じ、細く息を吐き出し、深く息を吸い込んだ。 ゆっくりと微笑みながら言う。 「…食中毒かな?」 階段を上り、丁寧にドアを閉めて自分のしたことを思い出して息が詰まった。 本当に怖いのは……自分だ。 おれは“おれ”をコントロールできないから。
xxxxxxxxxxxxx サンジがナミの部屋を出ていく。 おれは別に気にしねェさ。 ナミが望むなら それでいいと思うし おれは何も言わない。 ナミがそうしているのには 多分意味があるんだろうから おれには解らない ……意味が。
サンジがそうしなけりゃいけないなら そうすればいいと思うけど この船の誰かを泣かすような そんなことをするなら おれは そいつが誰だろうと許さない 例え 「サンジ」でも 「ナミ」でも 許さない。
こうしている自分が、ずいぶん怖いような気がする。 おれはただ二人が二人分以上に寂しいことを知っている。 それは、おれの寂しさとは違う。 ウソップの寂しさとは違う。 ゾロの寂しさとも違う。 ビビの寂しさとも全然違う。 あの二人の寂しさだけが 共通している。 それを、おれは少しだけ羨ましいとさえ思う。 ……たぶん、こんなこと思ったら天罰が下るんだろうけど。
xxxxxxxxxxxxx 「おいキャプテン、昼のババロア冷えたぞ」 船首にいたルフィをキッチンから呼ぶ。 どうしても出来上がったココアをナミさんの部屋に持っていくことが出来ず、結局ウソップに頼んだ。 おれはまた逃げるように、ババロアにデコレーションをしながら何度か自己嫌悪に襲われる。 きれいに装飾されていくミルク色のババロアに乗ったブルーベリーソースが、殊更ゆっくりとババロアの斜面を流れていくのをじっと見つめていると、ずいぶんと寂しい気持ちになる。 ……ったく、楽しんで作れねぇ食事ほど嫌なもんはねェな。 嫌気が差しながら、ソースを掬っていたスプーンを銀製のコップに投げ入れた。小気味いい金属音がする。 「ノロロアーーーー!」 勢い良くキッチンのドアが開いて、ルフィが入ってくる。帽子はもう被っていた。多少はきれいになっているようだ。 「……ゾロじゃねぇよ」 怒る気力もなく、おれはそう静かに突っ込んでルフィに皿を差し出す。 「……ビビちゃんとその他大勢は?」 「ビビ風呂。ゾロ寝てる。ウソップナミんとこ。」 銀のスプーンがババロアに吸い込まれていく。 それは雲に突入するロケットのよう。 呆然とそんなことを思いながら居ると、急にルフィがババロアにスプーンを突き刺したまま口を開いた。 「おまえ、こういうの不器用だなぁ」 「ああん?完璧じゃねぇかよ」 きれいに着飾ったババロアは、味も保証付き……まぁまだ口に入れてねぇけど。 「不器用っていうか……不自由だな。」 そう言って、ルフィはババロアを口に入れた。 冷たくて美味い。 そう言って笑った。 「ほら、あれみたいだ。」 「……アレってナンだよ」 「雪」 ルフィは何もかも見透かしたようにそう笑った。 ルフィが何を思っているのか、何を考えているのか、その言葉に何の意味があるのか、おれには結局解らなかった。 ルフィが何を言おうとしていたのか解るのは、遠くの雲が随分低く重くなってからだった。
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