一番素晴らしい人生
剣豪とコックのはなし
なぁ、あんた。一番いい人生ってどんなモンだと思う?
おれには想像つかねぇよ。どんな人生が一番いいんだろうな。おれか?おれは……世界一の剣士になるこの人生は結構嫌いじゃねぇよ。最近は随分賑やかだしな、考える暇もないくらいに。
遠くに居るあいつが……時々霞むのが悲しいけど、そういうのも吹っ飛ぶぐらいに滅茶苦茶やってる。いつかあいつのとこに行くときに……デタラメみたいな話をたくさんしてやるんだ。その時は世界一の剣士として。大剣豪として、恥じないように約束を果たしてから。
おれはだから、幸せなんだと思う。多分。
何故なら誰の手にも届かない場所に一番大切なものがあるから。
可哀想な奴は……目と鼻の先にソレがぶら下がっていて、手を伸ばすことも許されない。長く伸びる手がその宝物をゆっくり連れ去ってくのを、黙って笑いながら見てるしかねぇ。
おれだったら……もしおれが同じ立場だったりしたら……どうしてるだろう。……早々と狂ってるかな。
時折波が少し高く持ち上がってはゆっくりと午後2時半の船を揺らす。
ここがあのデタラメな世界だという事を忘れたかのように、「何か」が別の性格をしている。その「何か」は形のない魔物みたいなもので、その魔物は船を弄ぶだけではなく、人間の心をいいようになぶるのだ。
船という小さな世界にいるおれたちは、6人と一匹がバラバラに切り離されている。心のどこかが、或いは海にいる姿無き魔物に食いちぎられ、或いは船に降り立った精神をかき乱す風の精のいいオモチャにされている。
そう、ここはデタラメな世界。
ウソップのホラ話のように、突拍子も理性も根拠もまるで無い滅茶苦茶な世界。
決して優しくない広い広いデタラメな世界。
何が起こったって、不思議じゃない。
考えつかないことが何でも起こりうる……デタラメな海。デタラメな世界。デタラメな人生。
サンジの近くに寄ると、消毒薬とか、医者の匂いがする。サンジから医者の匂いがするわけじゃなくて、医者にかかっていた匂い。……そうだ、入院患者の匂いだ。
当然医者に掛かってるわけもなく、ビョウキ一つしない健康体なんだが…目を閉じると、あのダブルの黒スーツからは、細菌を殺す薬品の匂いがする。ちょっとした細菌も生かしてはおかないような、厳しくて張りつめたもの悲しい香り。それはサンジがいろいろクスリを持ってるから。そのクスリは大抵物騒な効力を発揮する奴で、よくルフィが同じ匂いをさせながらフラフラした顔をしているのを見る。…昨日もした。オキシフルの匂いがこの船内をぼんやりと漂いながら旋回している。
それはまるでサンジの身体からわき出る絶望のようだ。……なんてな、おれって詩人。
おれはぼんやりと空を眺め、ナミが少し離れて鼻歌を歌いながら日誌を書いているのを視界のはしに留めていた。…なんとなく、機嫌の悪くないナミを離れて見ているのは好きだ。……すこし…彼女に似ているからだろうか……
ビビはウソップと話している。少し笑いながら。…ウソップはホントに気ィ使いだよなぁ。あんなに周りばっかり気にしてて疲れねぇのかね。…ま、ソレで持ってるところもあるけどな、この船。
ルフィはフラフラと焦点の定まらない顔をしながら、時々思い出したように頭を振っている。まだクスリが残ってんのか。全く、貴重な戦力を削ぎやがってあのバカ。何かあったらどうするつもりだ。
そして色ボケ。あいつの姿が見えない。……また怪しい睡眠薬でもいじってるのかねぇキッチンで。
おやつが終わって三時間ほど経った頃、格納庫の前を通りかかると、いつもの癖の強い煙が漂っていた。何の気なしにドアを開けると、そこには突っ伏すようにダレた格好をしたコックが横たわっていた。
「……おう死体、こんなとこで地獄に旅立つな」
大砲用の小窓から差す夕日に照らされて真っ赤になっている黒いスーツの男は、おれの軽口に何のリアクションもせずに、ただ死んだように寝そべっている。
「ああ…?…クソ剣士か…」
掠れたような酷い声で、こちらも見ずに返事だけをする。
「ヒデェツラしてやがんな、オイ。そろそろメシの時間じゃねぇのか?」
おれがつまらなさそうにそういうと、随分してから遅れて返事が返ってきた。
「…ああ……そうだ、メシだ…メシ作らにゃ……今日は…ヒラメのホイル焼き……」
ブツブツと、まるでここにおれが居ねェみたいに呟いて、苦しそうな呼吸の音を残して、後は黙ってしまった。
ヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッ……
風邪を引いた奴が出す声みたいに、熱に浮かされた言葉を途切れ途切れに囁いてはだまり、囁いては詰まって、おれには意味の通じないことをそれからも少しの間ブツブツと呟いていた。
ヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッヒューッ……
いつもと様子が違うので、おれはまた奴の顔をのぞき込んでみた。
顔は紅く照らされ、頬には陰影が付いていて本当に死んだような顔をしている。
その途端に、ぴたりとヒューッヒューッという、独特の呼吸の音が聞こえなくなった。
ふと、おれは嫌な気がしてサンジの放り投げられた手を軽く蹴ってみた。
…反応がまるでない。
物騒な予感がする。うずくまって頬に触ってみる。
ほんのり汗を掻いていて、冷たかった。
おれは知っている。コイツはヤベェ冷たさだってことを。
この冷たさになった人間に、おれは二度会ったことがない。
大声でおれはビビを呼んだ。誰を呼べばいいのか解らなかった。ついさっきすれ違ったビビが頭に真っ先に思いついた。
……本当は、ナミやルフィを呼びたくなかっただけなのかも知れない。
…………なんとなく。
呆然としながら突っ立っているおれの背から、ビビの足音がして声を掛けられた。
「ど、どうしたのミスターブシドー。急に大声で…」
サンジを一目見たビビは薄く鋭く息をのんだ。
「サ……サンジ…さん?」
「…死んでねェか、コイツ…」
おれが呟くと、ビビははっとした顔でサンジに駆け寄った。頬を触ったり呼吸を確かめたりしている。
「…なんてこと…
急性の薬物中毒だわ!水…いえっ…ミルク持ってきて!吐かせなきゃ!タオルと桶も!!早く!!」
弾かれたようなビビの声に、おれはようやく覚醒して走り出した。
……ウソップは疲れて寝てしまった。ルフィに頼んでキッチンに連れていってもらい、今日は二人にそこで寝てもらうことにした。
ナミにはただの風邪だと言って、会わせないようにしてくれたようだ。ルフィは何度も男部屋を覗こうとしていて、その度にウソップは何だかんだと言いくるめていた。
「…万が一の事がない限り、あの二人には何で倒れたのか言ってやらねェようにしてくれねェか…」
サンジが飲んだのはジアゼパムとかいう抗不安薬らしい。
どうやらずいぶん昔から服用していたようで、ストレスがピークに達しでもしたのか一気に二日分ほどを飲んだようだった。牛乳で白く濁った唾液と共に、続々と溶けかかった白い錠剤が吐き出されていた。
ビビはサンジの喉に指を突っ込み、必死になってダランとしたサンジの首を押さえて吐かせていた。
おれはソレを見ながら、起きてりゃこいつが泣いて喜ぶ体勢なんだがなぁと、どうでもいいことを痺れた頭の奥で思っていた。
「ビビ、もういい。早く着替えて寝てこい。疲れただろ。
後はおれが見てる。何かあったらすぐ呼ぶから、ちょっとでも身体休めてこい」
おれは諭すようにそう言って、憔悴したビビを部屋に帰らせた。
「くれぐれも、少しでも何か起きたら呼んでね。目を覚ましたらたくさんお水を飲ませて上げて。多分軽い脱水症状起こしてるから」
何度も疲れた身体を振り返らせながら、気丈にもおれに言い聞かせてバスルームに向かった。
「…ホラ見ろ、お前のことみんな心配してんじゃねぇか」
ソファの上でぐったりと目を閉じているコックは、ビビが出ていった後も、一時間以上目を覚まさなかった。
おれはその間じっと目を閉じて部屋の端っこで眠っていた。
そばに寄っているのもヘンだし。
……そういやこの船もたいがい居場所ねェよなぁ。共同スペースばっかで一人で考え事する場所がない。
だからコイツにゃ悪ィが、久しぶりに静かな時間が手に入って少し嬉しい。
おれはじっとうずくまって、小さな点になる。消える寸前の小さな点になる。
何もかも忘れるように頭を空っぽにして、ぼんやりと勝手に浮かんでくる思い出を眺めていた。
そこは寒くないか
そこは寂しくないか
そこは暗くないか
そこは悲しくないか
おれは一人の夜になると、そんなことばかりを考えるようになる。
砕け散ったあいつの夢はおれの夢になった。
おれが手を伸ばそうとすると逃げてゆく夢。
世界一という途方もない夢。
本当は世界一なんてどうでもいいんだ。ただ、夢を見ただけで逝ってしまったあいつの小さな手や細い首が思い出される度に、憂鬱になる。
ああ、何処にも居ないんだな、と。
こんなに大きな憂鬱を吹き飛ばす為には、「世界一の剣豪」くらいのキツイ『抗うつ薬』が必要なんだよ。
……我ながらヒドイ女に引っかかったもんだ。
「…はは……」
「チッ、なに笑ってやがんだ」
苦々しそうな、本当に鬱陶しい感じの声が小さくした。
目を開けてそちらの方を向くと、うっすら頬のこけた金髪のぐるぐる眉毛が身体をソファから浮かせていた。
「…んだ、起きたのか」
「起きちゃ悪ィか?永遠に寝てろってか?…ハッ」
「……なこた言ってねェだろうが。
そこに水あるからそれ飲めってよ。二杯がノルマだそうだ。」
フウーッと大きなため息を付きながら、サンジは銀色のコップに入った水を一口飲んだ。あんなに吐いたんだ、のどは随分渇いてる筈なんだがな。
「あんま…飲みたくねぇ」
「飲ませてやろうか?サンジチャン」
自分でもぞっとそるような裏声を使ってからかう。するとサンジは薄く不適に笑ってコップから離しそうになった手を戻して一気に水を飲み干した。
「ルフィじゃあるまいし、オメェに『飲まされる』なんて御免だね」
このバカが何をいわんとしているのかは解ったが、それにいちいち突っ込むと切りがないのをおれは知っていたので、受け流すことにした。
「そうかよ」
「…つまんねぇの。
そういやお前さ、男にも女にも興味ねェのな。何か別の変態かヨ?
アルゴラグニアとかネクロフィリアとか?」
「あ゛?なんだよそりゃ」
口調からすると、どうやらホモなんて目じゃねェくらいの変態らしいことは解るが、それ以上のことは解らない。……どうせろくな意味じゃねェな……
「……アルゴラグニアっつーのは、屈辱とか苦痛を愛の営みにすり替えた変態のことだ。
で、ネクロフィリアってのは死体を性的対象としてオシャレに昇華させる変態のこった。」
おれはそのまま黙ってしまう。…元気なら蹴りの一発でも入れてやるんだが、さすがにそうもいかねぇしな、アレ見た後じゃ。
「ケケケケ、なんだ常識あるんじゃねえか。病人にツッコミ無しは基本だな。
……いいこと教えてやろうか、おれってA.C.-D.C.なんだぜ……」
その言葉が何を意味するのか解らず、きょとんとするおれを見て、色ボケコックは逆にきょとんとした。
「…ホントになーんにも知らねぇんだな…」
呆れたように、つまらなさそうに、サンジはソファにまた横たわった。ランプの光だけが唯一の光源で、そのランプがゆらゆら揺れるのを黙って見ている。その横顔にはしなくていい苦労の跡が色濃く刻み込まれている。
しばらくするとポケットをごそごそやり、煙草とマッチを探しているようだった。
「ねぇよ。クスリとどう反応するかわからねェから煙草吸わすなってよ」
おれは腹巻きに挟んでおいたくちゃくちゃの煙草を取り出して見せた。それをちらりと掠め見て、呆れた声を絞り出す。
「死にゃしねぇよ。あのクスリおれがいつから飲んでると思ってんだ。あの手のショックはもう慣れっこなんだ」
疲れたように目を閉じ、さっきまでおれが飲んで側に置いていたジンの残りを飲みたいと言いだした。
「もう随分ぬるいぞ」
おれはコップとジンを差し出し、サンジに渡した。
「かまわねェよ、お前も飲め」
何処から出したのか、その手には料理用の銀コップがあってそれにジンを注ぎ、逆におれに差し出した。
「いらねぇよ」
さっきさんざん飲んだ、そう言いながら受け取ろうとしないおれを睨んで言う。
「いーや、飲め。」
異様な雰囲気に圧倒され、おれは渋々とコップを受け取る。ランプの光で照らされても深い闇色をした液体は、船と同じようにゆらゆらと揺れていた。
「あー、うめぇ」
一気に酒をあおったヤツは、早く飲めよ白けるじゃねぇかと言った。
おれは少し躊躇って一気に飲んだ。
自分でも何故ためらったのかよく解らない。
後から思えばおれの本能か何か、そう言う感じの説明できない危険回避能力じゃねぇかな。
……だったらもっと強く働いてもらわにゃ、意味ねぇよな。
少しさっきと違うクスリの匂いがするなと思っただけで、その臭気そのものに酔ってしまい、かなり早い段階で異常に気付いた。
「お、お……なん…ちょ……っ」
目の前が軽く歪んだ。
おれはあわてて立とうとするが、全身の何処にも力が入らない。
力が抜けていく感じがする。自分が骨のないタコになったような最低の気分だ。
四苦八苦するおれを見て、目の前のバカはにやにやと笑っている。
「煙草は気を付けても流石にこれは何だかわかんなかっただろ?」
手には"ロートエキス"と殴り書きされた小さな小瓶が握られていた。
「こいつはなー、目薬に入ってる薬品なんだよ。目薬でラリらせてヤっちまうって話よく聞くだろ?ラリる成分100%だよ。指でコップの縁をつーっと触っただけでもクるだろ?
あんまり飲んじまうと錯乱しちまうからな」
いやに饒舌なサンジの目はかなりヤバイ。スッ飛んじまってるようだ、理性が。
じゃなきゃおれを抱こうなんて思うはずがねェ。自分でもヤだぜ、こんなごつい野郎。
脳味噌のどこか大切な部分が…そう、運動神経とかそんなところ…完全に麻痺している。痺れた感覚と火傷のようにひりひりとする感覚が波のように交代交代で襲ってくる。
舌が痺れてものが喋れない。
視線を動かすこともできない。
もちろん身体をひねる事なんて出来ない。
床の上で押し倒される。
ヤバイ目つきをしたコックが、おれのシャツに手を掛けた。
「ルフィには結構気を使ってんだぜ?ちゃんと記憶を失うくらいの分量入れてさ」
脱がせられないと思ったのが、今度は下から手を差し入れた。肌の上をサンジの手が滑っていく。
気持ち悪い。吐きそうだ。背筋が凍りそうになる。肌が粟立つ。
「結構優しいだろ、おれって」
忍び笑いなどを張り付けて、優しく、まるで女にそうするように首筋にキスをした。
「でもお前は優しくしなくても良さそうだな…ん?どうだ、声も出ねぇだろ?
嫌だって言えねぇだろ。止めろって殴れねぇだろ」
お前はそれでいいんだ、なぁ剣士…そう呟いてサンジはおれの胸に刻まれている傷をゆっくりと触った。ミホークに切られた世界一の刀傷。
おれは身体を硬直させながら、早く終われ、早く終われと祈っていた。
のどが渇いている。
目が乾いている。
闇が占めている。
船内を。
ぼんやりとそんなことしか思いつかない。サンジがおれをうつぶせにして、ズボンに手を突っ込んできた。おれは為す術もなく呆然としている。やつはおれのPenisを何度も執拗にいじっていた。
「あははは、生意気!これ以上おっきくしてみろよ、オイ。死ぬぜオメー」
おれはもちろんそんな気になれるわけもなく、声も出せずにその感触に耐えている。
体の自由が利かないというのが、こんなに最低な気分だとは思わなかった。
犯される女の気持ちが良く解った。やったことねぇがこれからも絶対女を強姦すんのはよそう。
「ほら、どうだよ」
しゅにしゅにしゅにしゅに……
しゅにしゅにしゅにしゅに……
しゅにしゅにしゅに……
いつまで続くとも知れない拷問が終わる。
チッ……男の手でイカされるとは、海賊狩りのゾロも地に落ちたモンだぜ……反吐が出る。
息もやっとの事で乱せる程度ぐらいしか体の自由が利かない。
霞む視線の先に、自分のザーメンが散らばっていた。
「へっ、キッタネェな」
そう言ってサンジはおれのPenisを触っていた手をおれの顔になすりつけた。青臭い匂いが鼻を突く。
ふと、いつもの煙草の香りがした。
「…この部屋に隠してんだよ、予備ぐらい」
そう言ってまだ少ししか吸っていない煙草をおれのザーメンの水たまりに投げ捨てた。
ジュッと音がして、嫌な匂いが微かに立った。
それから、サンジが嗚咽をあげるおれを二度ほど犯したような気がするが、あんまり覚えていない。
多分、サンジは泣いていたんだと思う。
おれはどうしてやることも出来ない自分の不器用さが、クソコックを泣かしているような気さえした。
少しだけ、意味不明な罪悪感に囚われた。
……クソ……こりゃクスリのせいだ……
朝起きると、おれはきちんと服を着ていて、顔についたザーメンも何かで綺麗にふき取られていた。
床に吐き出されていたやつも、キレイに無くなっていて匂いすらしなくなっている。
ただ部屋にはジンの香り。
ただ部屋にはジンの香り。
微かに、本当に微かにみかんの匂い。
ほんのりと煙草の匂い。
おれは頭のどこかがまだ痺れているような感覚がしたが、体はちゃんと動くし、喉が痺れて喋れないなんて事もない。ルフィよりはクスリの量が少ないなんて言ってたっけ、そう言えば。
ボーっとしながらキッチンに行くと、ルフィはまだ寝ていて、サンジが作った朝食をみんなで食っていた。
「あらゾロ、やっと起きたの。もうハム無いわよ」
「その手はなんなんだナミ」
ナミがウソップにそう突っ込まれながらおれの皿からハムを取っていった。……なんて品のねぇ女だ。
「ミスターブシドー、昨日はごめんなさいね、先に休ませてもらってしまって。
でも良かったわ、サンジさんが元気になって」
ビビは笑いながらそう言った。
いや、先に寝てて正解だったぜ王女様。
「ビビちゃんの献身的な看病のおかげだよ。このクソ剣士はごろごろ横になってるだけだったしー」
……テメェでごろごろ横にならせた癖によく言うぜ。
「駄目よ、コックなんだから健康には気を付けないと。」
「ハーイ」
目をハートにしてうきうきした顔でナミにそう返事をする。
「全くだ。染すなよ病気。」
「るせぇ長ッパナ、はよ食え」
ウソップの頭をぽこっと叩いてそう不機嫌そうな顔をした。
……こうしてみると、こいつのこういう仕草とか態度が、随分白々しく感じる。
いつもああやって一人で耐えてるのだろうか?
…付き合わされちゃたまんねぇよ…
おれはいつも通りに無言でハムの乗ってないサラダを食った。目玉焼きもポテトサラダも美味かった。
おれは女二人に代わる代わる愛想をついている男を見ながら、食パンをかじっていた。
ああ、つくづく不運な男だ。可哀想に。
願わくばこの不運で不幸な男に、一番素晴らしい幸せが訪れますように…ってか?
A.C./D.C.=直流/交流。意訳として「両刀遣い」
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