さもなくば滅びよ
サンジとルフィとナミ
男は
少年に背負われた少女を見て
その紅潮した肌をそっと撫でようとし、
自分の手に触れた雪が
溶けもしないのに気付き
ゆっくりと
手を引っ込め
ミトンの手袋をはめ直した。
「どうしたサンジ、行くぞ」
少年は気でも違ったような素足にサンダル履きのまま
深い雪を漕いで
先に進んで行く。
男は少年が自分の手の行方に気付いたのではないか
と
気になったが
そんなことを気にしている自分を嘲った。
「おい、ナミさんに雪が積もってんじゃねェか、ちったあ気にしろ!」
風が強く吹いて、少女の帽子の上につもっていた粉雪が
吹き散らされ
また薄く積もった。
こうやって続いて行くのだろうか
少女と自分と少年の関係は。
少女の頭に降り積もる粉雪は
少年に身を任せている限り
高く積もる事はなく
全て溶け消えることもない。
ただ
ただ
薄く
うすく
降り積もりながら
彼女の熱を上げ
(或いは下げ?)
自分はそれを眺めている。
手の届くところに彼女は笑い
指を伸ばせば少年の何気ない仕草がさえぎる。
男はぼんやりとそんなことを考え
吹き付ける極寒の雪を切り裂いて聞こえる
女の叫び声のような風の音に身を任せている。
「二人を祝福せよ・祝福せよ」
「さもなくば・さもなくば…」
男はきつく瞼を閉じ、強い風に身を縮めた。
少年はその背中に背負う少女を
少し持ち上げ直して
男を振り返った。
「大丈夫か?」
男はその言葉に勝手に悪意を感じ取り
「お前こそ疲れたんじゃねぇのか?
いつでも変わってやるぜ」
といつもの調子で軽口を叩いた。
男は、突き飛ばした少年と少女が
雪崩に巻き込まれない場所にいることを視界の端で見ながら
『滅びるさ』
と、笑った。
そして気が付いたのがクスリの臭いのするベッドの上で
男は
「……ダメか……」
と、また笑った。
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