der Pirat・HEIM
船長と航海士2
「なかなか釣れないな」 「……アンタのこと常々バカじゃないのかと思ってたけど、どうやら違ったようね」 「じゃあなんだよ。」 「究極のバカだわ」 ナミ心底あきれた顔で船尾に腰を据えて釣り糸を垂らしているルフィに言った。 「そうかそうか」 その言葉に動じないルフィにナミは更に呆れた。 「どんな魚が高速で動く船から垂らされてる餌に気づくの。もうちょっと考えてから行動しなさいよね。ほら、いい加減にしないと竿が折れてウソップに怒られるわよ」 ひょいと竿を支え、その竿が妙に軽いことにナミは驚き、釣り糸の先を視線に辿らせてまた呆れた。 「……どこに脳味噌置いてきたのよこのバカ。 空中に浮かんでる餌をどーゆー魚が食べに来るの!……ったくもー、暇なら夕食の用意でも手伝いなさいよね」 「暇じゃねぇよ」 「……あのね、あんたの田舎じゃどうだか知らないけど、世間一般じゃ獲物のかかるはずもない釣り糸を垂らしてるバカは暇人ってゆうのッ!とっとと手伝いなさいよっ」 一気にまくし立てるナミに、ルフィは平気な顔をして「となり座れよ。空いてるぞ」と言った。 「人の話を聞け!」 目くじらをたてて怒鳴るナミの服の裾をちょいと掴んで、ルフィは少し強引に自分の右隣にナミを座らせた。 ナミは無言でふくれっ面のまま座った。 「まったく呆れて物も言えないわ。仲間の女王様が大変なときなのに呑気な海賊も居たもんよね」 皮肉たっぷりにそう言ってやる。……堪えないとは分かっていても。 「まぁまぁ。気ばっかり焦ったって船は進まんさ」 それはナミにも分かっている……というか、ナミが一番よく知っていた。しかし他の連中はマイペースとは言え、多少は気を使ってビビに接しているというのに、この船長はそんな素振りさえも見せない。大物なのか間抜けなのか、判断に窮するところだ。 「……んなの、分かってるわよ」 もっともな言い分を受けてナミはますます膨れ面になった。ルフィに正論で諫められるほど情けないこともない。 「それになぁ、辺りの全員が同情した目つきで居てみろ。 …ナミはそんな船に居たいか?おれはイヤだ。居心地悪くて仕方ねぇもん。」 まっすぐ釣り竿の先端を見つめながら、こともなげに言う。 ナミは驚いて声も出なかった。 ……正直な話、ルフィがそこまで考えている等とは夢にも思っていなかったのだ。そもそもそんな繊細な気遣いが出来る人種だと認識すらしていなかった。 『…知らないうちに世界がひっくり返ったのかしらん…』 そう、あさってなことを考えながら、ナミは自分の選んだ船は思いの外大きかったことを改めて思い知った。 『いい買い物したわ』 くすくすと隣で忍び笑いをしているナミに気付き、ルフィはオレンジ色の髪が細かく揺れるのを不思議そうな顔で眺めていた。 「…なにがおかしいんだ?」 「へっへっへー、何でもないわよーだ」 舌を出して意地悪そうに微笑むナミを見て、今度はルフィが膨れ面で「へんな奴」と呟いた。 「ナミさーん!ビビちゃーん!ディナーのご用意が整いましたヨー! ついでにへっぽこ共!飯だ!」 サンジのよく通る声が船中に響きわたる。 「あーあ、ついに夕食作るの手伝えなかったわねぇ」 言いながらナミは立ち上がってスカートを叩いた。 それを見ながらルフィはあたり前のように言う。 「いいじゃねぇか、サンジはおれのナミをしょっちゅうつまみ食いしてんだからよ」 しばらく呆れ果てて惚けていたナミは、その言葉の意味を理解したとたん顔を真っ青にして・真っ赤にして、ルフィの頭を麦わら帽子ごと殴った。 「わたしはアンタらのおつまみかっ!!」
der Pirat・HEIM=海賊たちの家
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