うさぎ と 五人目の王様
〜 Daisy Bell 〜
『あのう死神様、ソウルってすぐにデスサイズスになったりするんですか? そりゃもちろん強くはなったけど、それはあくまで私が使ってだと思うんです……あ、いえ、もちろん死神様の為に強くしたんですけど! はぁ……あ、はい。あ、いえいえ、ちがいます! 間違えました! ……はい。はい。もちろんですよ! はい。失礼します』
マカが電話を置いて私を振り返った時、玄関のカギが回される音が鳴った。
私はニヤニヤと手に獲物を持ちながら同じくニヤニヤと笑いが噛み殺せないで居るマカの背を痛いくらい叩いてキッチンのドアを開けさせる。
「よー。お帰り」
そんないそいそ出て行ったらバレるでしょーが、とハラハラしながらもう一つ増えた足音を聞く。
「うぃーす。今日は椿に教わった春巻きなー……って、なんかいい匂いするんですけど」
ソウルがリビングので入口に立った時、彼は絶句して動かなくなってしまった。初撃成功。立て続けに波状攻撃に移る!
「デスサイズ昇進おっめでとぉー!」
パン、とマカがポケットに隠していたクラッカーを私と同時に鳴らした。どっさりの花束とテーブルの料理の山にソウルの顔が釘付けになっているのがおっかしくて仕方がない!
「……ビ……」
『び?』
思わずまだ温かい紙テープが垂れ下がったクラッカーの束を持ちつつ、私達二人が同じ風に反芻した一言は見事にハモっている。
「びっくりしたわああああ! なんだこれ!? お祝いか!?」
しばらくぶるぶると震えていたソウルが大声を上げてマカを振り返ったり私を見たりと大忙しで動き始めた。
「わはははは! やったよブレア! ビビらせた! ビビらせた!」
「一週間も黙ってるの辛かったねマカっ!」
ふたりで手を取り合ってぴょんぴょん跳ねながら抱き合う。大成功! 大成功!
「わー! なになにこれ! うはーすげぇ、なにこれお前らが作ったの?」
「おーよ! 椿ちゃんとパティに教わりまくったサ! いーから座れ! ほら! 鞄置いて!」
頬がピンク色に染まったソウルはテーブルのどこに座ったらいいのか解らずにソワソワとしていてすごく面白い。私はもちろん部屋を一望できる一番いい席の椅子を引き、どうぞ王様お掛け下さいと恭しく礼をした。
「おおおおおー!! やっべ、やっべ……マジで泣きそーなんですけどー!」
するとソウルは何故か礼をし返してから一度席に着き、はっとした顔でジャケットを脱ごうと席を立ち、部屋の隅でジャケットを脱いでからもう一度私の引く椅子に今度はいかにも堂々とした態度で座った。その仕草があんまりにも可愛らしいので思わず抱き締めちゃう!
「キャハハハハ! ソウルくんがこんなにテンションあがってんの久しぶりに見たにゃー!」
ぎゅっと頭を抱っこしても怒らないのだから、相当舞い上がっているなコリャ。
「お疲れさんソウル=イーター! おめでとうデスサイズ! 今日はお祝いなのでアルコールもちょーっとだけ解禁! ほぼシャンメリーだけどねー!」
マカが冷やしたグラスを並べたトレイとシャンメリーを寝かせたワインクーラーを両手に持ちながらキッチンから出てくる。うふふ、こっちもテンション高いのにゃー。
……ありゃ?
「……おーい、ソウルくーん? なーんか目ェ飛んでますよー」
フワフワと夢現顔の前でヒラヒラと手を振ってみるけれど、半開きの口を真一文字に結んだだけでソウルはそれからしばらく黙って、やがて静かに切り出した。
「マカ。ブレア」
「はい?」
「にゃーん」
「……あんがと。あんがと……あんがとう……!」
紅い目がウルウルしておっきくなって見えるのは、たくさん灯しているキャンドルのせいでは無さそうだ。私は何となく対面に座っている女の子も同じような目をしているのだろうなぁと思った。……見てないから何とも言えないけどさ。
「――――――――ソウル……」
想像を裏付けるような揺らいだ声が聞こえたので、私は大きく声を出して両腕を広げ、魔法の呪文を唱えて用意してたレコードに針を落とした。
「ニャハハハハ! ダメダメ二人とも! お祝いの席で涙とか禁止禁止禁止ー! ほら、笑ってっ!」
『あ、パパさん? ブレアちゃんでーす。うん。元気だったよ。昇進祝いで飲んじゃったー。ほら、前言ってたビックリパーティ。うん、今日書類上でも晴れてデスサイズになったのに合わせたの。……あはは。当たり。マカそういうの細かいしねェ。うん。今? 二人とも部屋でまだ喋ってる。なんかイ〜雰囲気っぽいから抜けてきちゃった。あははは。さぁ〜? しーらなーい。でも今日くらいは目を瞑ってあげてよぉ。ね、ブレアからのお願い! ……それともパパが寂しーのかにゃァ? アハハハ。そーねぇ……んじゃ、デスシティの外ならいいよ。どっか連れてってくれるなら人間のカッコして……えっ? うそ! もう? どこ? ……ほんとだ! パパさんって車運転できるの!? すっごい! 降りる降りる!』
〜 Give me your answer do 〜
砂埃の尾を引きながら、黄色い宇宙に一本引かれた線をひた辿る濃いブラウンのノッチバックセダン。
ラジオの音がささやかに流れる夜の街道。
このまま真っ直ぐに行けば、確かダムに出るはずだ。
風は少し冷たくて心地がいい。
デスシティで無駄な事をよく喋るパパさんは、ブレアと二人の時は少しだけ無口でテンションが低い。半分閉じたような瞼の奥で何を見ているのか決して覚らせなかった。
窓に腕枕しながら、笑う月に照らされた真っ暗な世界を眺めている。
風が唸る。
二人で居るのに少し寂しい。
それはちょっとも悪くない。
「……ブレアちゃんはさぁ」
ふとパパさんが思いついたみたいに喋り尋ねた。本当はずっと機会を窺っていたくせに。
「なんであの子達のことそんな気にかけてくれんの」
エンジンの轟き、アクセルが踏まれてゆく。代り映えしない景色。
「ソウルに気があるとか、そんなんじゃないだろう?」
そんな古い話を律儀に覚えてるのかと呆れた。
「猫はね、居心地がいい家につくの」
「……居心地」
「そ。一人で何でも出来るブレアだから、あの家は居心地いいのよ」
「あの二人がギスギスしてても?」
アスファルトをタイヤが際限なく叩いている。
テールランプが夜道に赤い軌道を描くのを想像して、その幻想にうっとりした。
自分で飛ぶのより、乗り物に乗るほうが実は好き。
自分で歩くのより、誰かに連れられる方が実は好き。
機嫌とタイミングがよければね。
「マカがいらいらしてるのって確実にソウルくんが強くなっちゃったのが原因だけど」
不用意に窓を開けると我が愛しのズワンちゃんが飛んでしまうので、後ろの席にきちんと置いてから手回しオルガンのようにハンドルをくるくる回す。
「だけど?」
パパさんの声が急に聞き取りづらくなる。凄い風の音。
今何キロくらい出てるんだろう?
「……質問ばっかりでつまんにゃいわ!」
今日はブレアとデートしてくれるんじゃなかったの? と風に紛らせて言ったら、ぐっと黙ってしまった。
「――――――――ごめん」
歯の奥で擂り潰したような謝罪が聞こえて、軽くため息。
ああなんて可愛そうなパパ! 誰と居ても何をしてても、マカと死神の事ばかり考えて気の休まる間もない!
……ま、ブレアはパパさんの味方だもんね。いいわよ、お仕事しましょ。
「マカはねェ……自分に無い純粋な“力”に憧れて、それが手に入らなくてジリジリしてる―――――そのジリジリでソウルが焦げてるのに気付いてないんじゃにゃいのぉ。
でもまだマカは偉いんだよ、自滅回路に電気走らせないもの」
我ながら他人事にも程があるなぁと笑えた。突き放してるわけでも興味がないわけでもないけれど、マカの近頃の態度はさすがに歓迎しかねたものだから。
風がビュービュー耳元で吹き荒ぶ。
肌が冷えてきて面白い。
ちょっとさみしい夜道に二人きりでドライブ。
誰かさんは焼きもちを焼くかしら?
「マカの精神バランスはソウルが取ってるからな。
宥め賺して背を叩き、腕を引っ張る理想のパートナー……全く生意気で癪に障るぜ」
パパさんがただハンドルを支えているだけの指でコツコツと音を出したらしい。風の音でちっとも何も聞こえないけれど、声の調子でそんな気がした。
「マカは男の子の眩しさを間近で見てて、羨ましくて悔しいのかも。
女だっていつか納得しなきゃいけない、弱さを諦めなきゃいけない。でも納得いかなくて諦めがつかないのに自分を責める事も出来ないから……八当たりを許してくれるソウルに甘えてるのよ」
余所行きの感想をやっつけるみたいにまだ浅い夜の世界に垂れ流した。
うっすら心地よかった酔いが醒めて不満だったけど、珍しく仏心など出してみる。
本当はいつものパパさんの武勇伝だとか、えっちぃ馬鹿話だとか、デスシティに流れてる他愛もない噂とか、そういうのを話して笑ってたい。
パパさんの話は地味〜に面白いから結構好きなのよね。死神様の愚痴にしても、ちゃんと笑える要素を最低二つは入れてくる。……便利使いされそうなタイプでしょ?
だけどそれだけじゃ多分もう駄目。
お酒飲んで、馬鹿な話して、時々頬を擽られるだけじゃ、この人はもう一時の安楽さえ感じられない。なのに調子のいいポーズは相変わらずだから誰も気付いてくれなくて、一人で勝手にどんどん孤独になって行く。
……マカのママはよくこんなアホと13年も連れ添ったニャー。
「ソウルも怒ればいいのに、コンプレックス強いから人に説教したり関わったりするの苦手なの」
まるっきり土壇場で勇気が出ないどっかの誰かさんみたい。
「そこが男武器、女職人の難しい所だな。なんつうか、捩れてるっていうか」
……そーやって一般論にすり替えちゃう辺り、ほんとパパさん腰抜けよねェ……
そんな事だからマカが男勝りになっちゃうのよ。しっかりしなさいよ男ども!
「我が娘ながらあの手の女は厄介だぞォ。空腹な自分が何が欲しいのか解らなくて泣いてる感じ?」
照れ隠しか、気を逸らそうとしてか、アクセルがぽんと踏まれた。
車がマッチ箱みたいにふわっと浮いて代り映えしない景色が黒い線になる。
アスファルトの叫び声。
吹きこむ風の冷たさ。
痺れるようなモーター・ハミング。
窓が帯電してるみたいに車の中がミキシングされてる!
……でもブレアはそんな人間の女用の揺り籠に惑わされるほどウブじゃないのよ。
だから『その小さな女の子が欲しかった物って、それこそ“世界一の自分だけのパパ”なんじゃないの?』と言ってやろうと思った。自分で誘導しといてなんだが、あの子を捩れさせた原因が言っていいセリフじゃないわね。
「なのに泣かない強い子に俺は何をしてやればいいのかなぁ!?」
自分勝手に捨てた訳じゃない。
自分勝手な子供のままだけど。
自分勝手と理解はしている。
「それともパパなんかもう要らない、ポーイって捨てられた後かなァ!?」
馬鹿な人だ。
おろかな人間だ。
世界最強の武器のクセに、他はなーんにも満足に出来ない。
愛するのも愛されるのも不器用で、馬鹿で間抜けで鈍感で……
…………ああ、もう、ホントーに……しょうがない人!
しょうがない、しょうがない。
マカのママも、きっとこんな気持ちでこの人と付き合ってたんだろうと思った。
同情が愛に変化しちゃったのかな。
許せないところを愛しいと思うなんて、なんだかロマンチック。
「でもソウルが強くなったのって自分も何か出来ることを考えなきゃって努力の末の結果だモンねぇ、報われないわぁ」
言いながら、単なる想像に過ぎないことにどんどん枝葉を継ぎ足してゆく。
マカは必ずしも正解じゃないし、ソウルが絶対揺らがないなんてことはない。あの二人はまだ小さな世界でだけ生きている。大人に守られ、友達に支えられ、相手を信じられる、当たり前のビーカーの中で起こる嵐を泳いでいるに過ぎない。
自分があの二人に嗜虐心を随分くすぐられたのを思い出す。遠足の列からはぐれた幼稚園児がふらふらと街中を歩いているような不安。
マカがソウルを信じているのは、ソウルがマカを一度だって裏切ったことがないから。
ソウルがマカを信じているのは、マカがソウルの期待と希望に応え続けているから。
どこかの性悪がビーカーをニヤニヤ顔でひっくり返した時、果たして彼らはあの強く握ってる手をどうするのだろう?
「上司で監査官という立場からすればとっとと仲直りして欲しいもんだが、父親としちゃ……いっそこのままコンビ解消してくれればいいのにと思うよ」
「あら、シビアなご意見」
意外と言えば意外だし、想定内と言えば想定内の台詞に少し驚いたような顔と声を貼り付ける。
「俺さぁ……マカにトラウマ作っちまってるじゃん? その後始末をソウルが背負い込むのは余りに憐れと思うワケで……」
消え入りそうな言葉が暗闇に融けて混じって、いい気分に水を差された。
あーあ、ソレ、言っちゃダメでしょう。いい大人が。いい男が。曲がりなりにも、父親が。
「……まだソウルにマカ取られたのが悔しいの?」
「ぐやじぃ……マカは……マカは……ホントに可愛かったんだよォ……今も可愛いけど……でもほんとに……ううう……」
「―――――パートナー取られたどっかの職人さんみたい」
助手席の背もたれにコロンと転がり、フロントガラスの方を向く。
「……ソレ、どういう意味?」
あら、ダメよそんないまさら怖い声なんか出しても。とびっきりに間抜けなだけだわ。
「因果応報っていうの」
「……もしかしてシュタインからなんか聞いた?」
「ううん。シド先生が誰かと話してた」
あいつ、ハッ倒してやろうか、と思いっきり歪んだ顔に書いてある。
人に歴史あり、男に秘密あり。又聞きの盗み聞きは猫の特権なのよねェ〜。使い魔の象徴である黒く輝く純毛コートとキュートな耳は伊達じゃない。
パパさんは寂しがり屋の癖に冷徹よね。
まるで猫みたい。
気まぐれで居て欲しい時にいつも居ないの。
大抵の子供はね、従順に8割平均で意のままになる犬が好きなのよ。……もっともそれだけで満足できるような人間ばっかりじゃないから、猫も愛玩動物として生き残ってるんだろうけど。……人間ってのはほんっとーにワガママだにゃ〜。
「パパさんは武器と職人があんまり近くに居るのは良くないと思う?」
「……魂が重なり合った快感はいろいろ勘違いを生むしね」
二人で一緒に強くなりたい、武器と職人は二人で一つと唱えて儚い信頼に命を賭けるあの子達は、一体その力を何の為に求めているんだろう。
ブレアには魂をくっつけて凌いでいるだけにしか見えない。
寂しさと、寒さを。
「――――――――例えば、愛、とか?」
言ってからしまったと思った。あまりにも見え透いた上に笑えない低レベルな皮肉は言わない主義なのに。
「本当の愛は近づけば近づくほど見えなくなる、というのが俺の持論」
「でも“本当の愛”ってなにかしら?」
「それが解ったら、離婚されてるワケないでしょーが」
薄闇の中でくっくっくとパパさんが笑う。
ねえそれ失笑? それとも自嘲?
「ブレアは“本当”より、一生続く勘違いの方がいいけどぉ? そっちのがさ、平和じゃん」
言ったら、パパさんは眉を寄せて『つまり俺は嘘を吐くのが下手な正直者ってことかな?』とひと笑い。
……ほんとにもう、なんてダメな人!
「そーいやパパさんはサ、なんでソウルくん嫌いなの?」
これ以上パパさんをいじめても仕方がないと、話題を変える振りをして元に戻した。
「……自分の命を格好よく諦めるような事を職人に言う奴だから」
溜息をつくようにして彼が少し背筋を伸ばす。その仕草がちょっぴりセクシー。そうそう、無理やりでも大人の振りをして。精一杯虚勢と見栄を張ってるパパさんはちゃーんとカッコいいんだから。
「でも武器は職人の決定に従わなくちゃいけないんでしょ? ソウルが出来ることって、マカがいつでも100%能力を発揮するのを信じることだけじゃん。武器の命を言い訳に手抜きするなって意味じゃないの?」
「魔鎌の特性は魂の精密操作! 自分で自分も肯定出来ないから職人にフラフラ影響される。そんな武器の“信じてる”なんて体のいい逃げだ」
フンと鼻息も荒く一刀両断する苛立ち声に、ほんのちょっとだけ同情が混じってる気がするのはブレアの錯覚かしら?
「だからあの二人は一緒に居るんじゃにゃい?」
「……ならソウルは俺の癪に障り続けるよ、一生」
支え合っているつもりで依存しているのはマカも同じだけど、と言おうと思って止めておく。
これ以上パパさんをいじめても仕方がないからね。
武器であるパパさんの理想は解らない。
多分、当のパパさんにも説明なんて出来ないんだわ。
相手と理解し合いたいっていう形のない望み。
武器と職人が一つになることって、なんだか悲しい。心が通じて触れ合う事に名前が付いてるんだもの。
「……共鳴って怖くないの? 自分と相手が混じり合って何か別のものになっちゃうみたい」
「恐怖を振り絞って取り出した勇気じゃなきゃ、力になんないのさ」
「あら、カッコいい」
カッコよくて涙が出ちゃう。
教科書どおりの文句しか言えないのね。
それって自分の言葉で表現できないから? 自分の感情とは別だから?
――――――ありゃりゃ、おかしいな。いつの間にやらブレアが質問ばっかり。
知りたいわけでもないのに、解りたいわけでもないのに、不思議ね。
人間のことが気になってしまう。
手持無沙汰で空を見ると、淡い青色の光がちかちかと瞬きながらこちらへやってきているのが見えた。
ああきっとあの二人だ。
抜け出したのに気付いて追ってきてくれたのだと嬉しく思う。
……依存して、慣れ合って、傲慢な、ふらふら頼りない二人乗りの自転車。
いつか転んできっと痛い目を見る、危なっかしい、と、大人が周りで騒ぎ立てる二人乗り。
――――ねえ、その手を離さないでくれる?
――――誰に幸運を馬鹿にされても胸を張ってくれる?
――――挫けて辛くて恥ずかしくたって、二人のままでいてくれる?
「ねェパパさん、賭けをしない? 馬車と二人乗りの自転車、どっちが勝つか」
「へっ?」
窓を開けて思いっきり怒鳴った。
「マカ競争! ゴールはこの先の湖! 負けた方がお馬さん二人にキスをするのよ!」
パパさんがバックミラーを確認して眉を寄せ、それでも幽かに破顔していたような気がする。暗くてよくは見えなかったけれど。
ぐん、とアクセルが踏み込まれてエンジンが唸り声を上げ、シートまでが戦慄いた。
窓の外から大声でブレアを怒鳴ってるマカが、ソウルを急かしていいのか何だか分らず、それでも車を追いかけてきている! 慌てて窓のハンドルを回すけど、ワクワク踊る胸と緩む頬が止められなくてまどろっこしい!
「大人ってモノをガキどもに教育してやるわよパパさん!」
GO!GO!と囃し立てる私の声に、とっても魅力的にウインクひとつしたパパさんは、シフトレバーを手早く操作し、また一音高くエンジンが咆哮を上げた。
・おわり・
21:39 2010/12/31
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