遊馬崎ウォーカー と 狩沢絵理華
どんな逸れ者が集まるコミュニティの中でもさらにその中で爪弾きになる……それが多分本来の俺。
そいつには結構自信がある。なんつーか、“魂の波長”的なものがコミュニティに埋没しきれない程度に特殊なのかも知れない。年頃の男ならエログロナンセンスなんて文化の極みにハマって当然でしょ、なんて顔を俺は押し殺して押し殺して生きてきた。押し殺し過ぎて見事に捻くれ上がっちゃってエライ事に……と、男の過去なんか詮索したって面白くもないし、読者が望んでないことは俺くらいのレベルになると判っちゃうので述べるのはよしましょう。
「ゆまっち!ゆまっち!」
「はいはいなんすかァ?」
「ゴイスーだよ! 一泊4880円の癖にCS映るここ! カトゥーン・ネットワークいっとく?」
四方八方にいい顔して流されるままに流れ着いた場所は糞のような結果をもたらしたけれど、俺はそれを否定はしない。それを経て今がある訳だし、今は結構シアワセだ。
「朝日チャンネルも見れたり?」
ソンケーする人も、同じ趣味の人も、仲間も、怖いものも、面白いものも、楽しい事・辛い事・悲しい事……何でも周りに在るなんて、こんな恵まれた環境はちょっとない。
「あー、流石に有料系はナイなァ」
一つ贅沢を言うならばここに“敵”が居ればパーペキなのだけれど、そこまでは幾らなんでも望みすぎと解っているから言わない。平和が一番。荒くれ者との抗争でも始まってみろ、オチオチまんだらけで同人誌も漁れない。
「今藤子アニメ回顧月間なんスよ〜。エスパー魔美とか、プロゴルファー猿とか」
「ウチら生まれる前じゃん! シブいねー」
「いや〜フラッシュ信者だった俺が言うのもナンですがエースも中々侮れませんよォ」
「あたしはアナーキーよかファンキー派だなー。あの無駄な夢一杯さ!これぞ児童向けの決定版ってカンジがイイよね」
「本質は真っ黒けですけどねF。未来も夢もあったもんじゃねー」
TVのリモコンをザッピングする彼女に背を向けて上着をハンガーに掛ける。鞄の中にどっさり詰め込んである“戦利品”を一瞥してお楽しみはシャワーを浴びてからと思い直して首に掛かってあったイヤホンをくるくる手繰ってポケットに突っ込んだ。
しかしこの“戦利品”って呼び方もオタク独特の文化だよなー。なにと戦ってんだか。
「あー、先にシャワー頂いていっすか?」
「じゃあ何か読んでていい?」
「どぞどぞ、お好きなのを」
鞄を指差して訊ねた彼女が帽子を取った。髪を解いた彼女は仲間内でもなかなかレアで眼福であるが、愛でてデレてる間も惜しい。
シャワーだけで済ます程日本人をヤメていない俺は、湯を張りつつ服を脱いでふと鏡に目をやる。……我ながら相変わらずスゲー髪の色だ。本当はドタチン(こう呼ぶと彼は怒るので俺達は余計にそう呼ぶ)みたいな色が好きなんだけれど、自分の顔にすごく似合わないことは脳内シミュレートに散々打ちのめされたのでこのまま。
「黒髪ロングは一種の最終形態だけど、こう……攻撃力に劣るんだよなぁ。所詮“神聖な飾り物”みたいなイメージ?」
言い訳をそのまま口にするのは憚られたのでオタク論に挿げ変えて言ってみた。風呂場に乱反響する御託が他人事っぽくてグー。
その後もブツブツ言いながら髪と身体を洗って湯船に浸かる。俺は一応東京人とゆーことになっているが、風呂だけは関西風の方が理に適っていると常々思う。……ま、それこそ文化と生活様式の違いというものだが。
バスローブを身に纏い、タオルで髪を拭きつつベタに「あーさっぱりした」の一言と共に部屋に戻ると、ベッドの上に散乱する漫画だの妙に薄っぺらい冊子だのCDだのが百花繚乱という具合だった。
「なんかイイのありました?」
「あーダメゆまっちアタシをとめてェ……まだ3巻読んでないのに4巻が面白すぎて止まらないよォ〜」
ジタバタ足を交差したり広げたりしながらうつ伏せに枕を肘置きにした彼女が唸り声を上げていた。……アメリカ映画みたい。
「あー、それ冒頭で出てくるキャラの行動原理が3巻読んでないとイミフっすよ」
「ギャー! なんでそんな重要な3巻だけ品切れ! 世界のアキバの名が泣くわ!」
言いながら尚もページをめくろうとする彼女の読んでる本を取り上げる。
「はいオシマイー。あと2ページ進むと3巻のネタばれが思いっきり出ますー」
「あーんお代官様ーっ!お慈悲をーっ!」
「ええいならぬ!ならぬ!」
本を高々と揚げて彼女の位置からでは手が到底届きはしない所で扇のように煽り出す。
「さ、姫様もとっとと風呂に入る入る。その髪乾かすの時間掛るんスから」
「ちぇー。じぃは口うるさいなーっ」
頭をかしかし掻きながら、ロンスカのお姫様がずるずる鞄を引きずって洗面所のドアをくぐったのを見終え、ベッドの上の本を片して鞄に放り込んだ。服も手早く畳んでおく。これは別に俺の育ちがいいとか性格が細かいとかそーゆーのではなく、イザという時の用心が必要だった頃の単なる癖。
40分ほどぼんやりとTVを見たりホテルに入る前に買ったブリックパック(フルーツは至高だよね)をチューチューやったりしてたら、ふっと部屋の電気が消えた。
何事かと身体を起こしたら、小さな豆球の光がうっすらと反射した髪の長い女がそろりそろりとこちらへやって来るではないか。一瞬お化けだと言おうとしたケド、なんとなくそんな雰囲気でないよーな気がして黙る。
「……あー……もしかして……今、いや〜んなカンジ、っすか?」
目だけをあらぬ方向にやり、出来る限り声を絞ってそう尋ねると女の黒い影はこくりと頷いてその場でぴたりと止まった。
「……だめ?」
「――――いや、いースけど……」
いいす。いいっす。全くもっていいのだけれど……なんかこの所毎回じゃないか? 前は指一本でも触ったら舌噛んでやるって感じだったのに……一線って超えると怖いなー。
「髪、乾かさないと風邪引くっすよ」
彼女のトレードマークである帽子で隠れてる髪は普段アップにしなければならない程度には長い。俺は彼女のうなじが結構好きなのだけど、いつも見とれるくらいキレーなので剃って貰ってるのかなーと、松笛的な誰かを想像してしまう。(あ、松笛ってのはディスコミュニケーションって漫画の主人公の男の子ね)
俺が彼女の髪を乾かすのと同じように、彼女のうなじに剃刀を当てる誰かが居るのかなーと、下らなく退廃的な事を想像する。
俺と彼女はこーゆーホテルに一泊して行為に耽る程度には仲がいい。けれどそれは恋だとか独占欲だとかとはちょっと違う。誰も解ってくれないけれど、これは相互関係なんだよね。少なくとも俺達二人の共通認識は。
だって俺、彼女がドコ住んでるかとか別に興味ないし。恋人がいるとか居ないとかも、お互いどうでもいい。そんな事よりもっと重要な事が多過ぎて、俺達はそういう物で繋がっているだけでもう充分なのだ。それ以上は要らない。
「……ま、いっか。おいで」
「わーい! だからゆまっちってスキ!」
身体が弾む。ベッドが軋む。枕が落ちる。
こういう関係になって暫くした頃、昼間の彼女が俺の事をベッドヤクザと評したことがあるが、この夜の彼女の豹変ぶりこそを読者に問いたいね俺は。
「お風呂入っててエロいこと考えちゃったんスかぁ? 狩沢サンはほんとエッチですねぇ」
「やっ! 違う違う、人肌が恋しくなったんだよ。ラブコメ読んでるとならない?」
「なりませんよー。実はエロ漫画読んでたんじゃないんですか?」
露骨な半目になってそんな事を言ったら、彼女が天井に視線を持ち上げて唸った。
「ん〜……ワンピースの最新刊読んでて、ゾロがしばらく出てないなーと思ったら急にドタチンが恋しくなったって感じ?」
笑って彼女がそう言う。『私たちは“同じもの”よね?』と。
……うん。
うん。……だから、まあ、そういうこと。
別に嫉妬とかないんだけど。だって俺もドタチン大好きっ子だし。むしろドタチンになら抱かれてもいいと思ってる程、俺はドタチンをリスペクトしている。そしてそれは彼女も同じという事は既に並列化済みなのだ。……あ、因みに俺ノーマルです。抱かれてもいいというのは言葉の綾、親愛の最上級形容詞ですからね、念の為。
「三次元に二次元を当て嵌めるのは最悪のオタ行為って言ってばっちゃが言ってた」
「だってあの帽子といい、目つきといい、ガタイといい……似てない?」
尚も彼女がこの話題に食い下がるので、俺は仕方なく乗る事にした。
「んじゃ、俺はさしずめサンジってとこですかね。ぐるぐるマユゲ描かなきゃー」
本当は渡草さんの方がキャラ的にも身体特徴的にも似てるんだけれど、なんとなくコメディリリーフであるウソップや、マスコットキャラクターのチョッパーと言うのは負けたような気がするので、お調子者のコックに名乗りを上げてみる。……何考えてるんだか分らない主人公なんて柄じゃないから。
「わーイタい。その発想はイタい」
「あれっ!置き去りとかヒドい!」
バスローブの結び目に彼女の指が差し込まれ、ゆっくり解れて自分の胸元に少し冷たい濡れた髪が一房、二房落ちてきた。空気が張り詰める。息苦しくて、胸がドキドキした。
「――――下着……着けてないでしょ」
だって、代えはさっき森永ピクニックフルーツと近藤さんと一緒に買ったあれ一枚だし。
「パンツじゃないから恥ずかしくないモン」
くくく、と笑って腹の上に乗っかってるオケツを掴む。おー、相変わらず素敵な弾力ですね。今時流行りのお尻の小さな女の子。
誰かさんに比べれば胸は小さいけど、スタイルは悪くない。むしろベタな巨乳ちゃんよりはこのくらいの手にちょびっと余るくらいの……具体的に言うとCカップくらいのおムネが好きですよ俺は。彼女が実際何カップかは知らないけど、イメージで。
最初は押せ押せだった彼女。今はもうその影もない、従順な子猫さんです。……何だかこの発想がベッドヤクザと言われる所以のような気がしてきて自己嫌悪……
「あ、あ、あ……」
ほらね。両手首掴んだくらいでこんなに照れる人イマドキ居ないっしょ?
「や、やだ……ゆまっち……!」
声もはやトロけてますよ狩沢サン。
指を組み合わせて掌が触れる。そんだけの事で彼女が真っ赤になったのが解る。はいはいツンデレツンデレ。……この状況にもっと決定的得点力のある形容詞はないものか。
「体温、上がってる」
ぼそっと低い声で言ったらビクっと震えるのがスゲー……クる。キますそれ。
おー。ぷるぷる震えて来た。もう一押ししたら泣いちゃうなコレ。
……泣かせましょう。
「こっち向いて」
ひっくと声が出た。シャックリみたいという感想と共に彼女が痙攣してるのが解った。……ホントにこの人可愛いなもう!
「……今、軽くイッたっしょ?」
へらっと笑ってそんなこと言ったらバスローブの襟首を掴んで詰め寄られた。
「きゅ、急にあんなこと言うから!!」
俺一切18禁的な台詞使ってませんヨ!?
抗議の暇も惜しいので、浮き上がったオケツに“ついで”の手の甲を這わせた。ぞわぞわーっと泡立つ肌が面白い。敏感だなぁ。
「ぃひやぁぁあぁ!」
多分、嫌、と言ってるんだと思う。けど聞こえません。今の俺には理解できない。
俺が背を預けている壁に肩までべたっと張り付いている彼女の体勢を思うと若干心苦しかったりするけれど、仕方ないよね。こんなにエロい恰好して男の上に乗ったらそんなのもちろん前提だから安心! ふしぎ!
「やだやだやだ! ゆまっちやだ! この格好は恥ずかし過ぎ! お願いフツーにしてェ!」
じたばたと、可能な限りの余裕を全部使い果たして彼女が暴れる。
あー……かわいいかわいい……っ!
「よござんす。普通にしましょう」
そのままガッシリと彼女の腰を掴んで、自分の重要拠点へ誘導着陸させようとした。
「ふ、普通っていや……そ、それは……」
お、抵抗するか今更。
「壁冷たいっしょ。シェイクして温めてあげましょう。なんて優しい遊馬崎くん!」
言ってぐっと力を込めた。
「あ、ああああーっ!」
必殺『騎上位で手添えなし一発挿入』!コツは両脚を支えに起立の角度を保つこと。
ちょっと触っただけでびしょびしょになっちゃうよーな淫乱サンにだけ有効。素人がやるとちんこ折れるので良い子は真似しない。
彼女は新しいワザを披露すると絶対面白くていいリアクションをしてくれるのでネタ仕入れるのが楽しくて仕方ない。……こんな事ばっかするからベッドヤクザって言われるんだよ……でも楽し……かゆ……うま……
ささやかなおっぱいが揺れる。顔を両手で覆いながらも、指先から声が漏れている。きっと顔は真っ赤で泣きながら涎とか垂らしてるんだろーなー。女の子の体液を舐めるのが性的だってのはすごく解る。次はきっと鼻水ブームが来るね。……こないかな、流石に。
彼女の洗い髪が胸の先端を隠してるのを詳細に想像したらなんかすごい事に。腰が。
「電気つけていい?」
「いやっ! 絶対にイヤ!!」
「身体と顔見たい」
「つけたらエスカリボルグ!!」
「……なんで? エロい顔見たい」
「こんな顔見せたらもうあのワゴン乗れなくなるもん! だから絶対だめ!!」
俺の身体の上で弾んでる彼女が悲鳴みたいにそんな事を言った。
いつもピカピカに輝くワゴン。
移動式の我らが城に控えるは目つきの悪い肝の据わったママと、心配症で運転上手のパパ。俺達迷える子羊の帰る場所、居場所、避難場所。
……そうだった……そうでしたねェ。あそこに居られなくなるなんて、今の俺達には地獄でしたっけ。
俺は時々忘れてしまう。俺だけがうっかり抜け落ちちまう。こうしてあんたを抱いてると、他をみんな投げ捨ててしまえそう。
―――――実際できるかと訊かれれば、否と言うのだけれども。
「いいじゃん、ドタチンと三人でヤる日だって来るかもよ?」
……うお、自分で言ってて大ダメージ。痛い痛い痛い胸が痛い! 激痛激痛激痛心臓に痛! 死ぬ! 死ぬ! 死んじまうゥー!
「無理無理無理無理ー!そりゃギャグ! もう忘れて! 若気の至りよぅ!」
「あの計画書まだ持ってるっすよ、俺」
「ギャー! スグ捨ててーっ!!」
今までとは別の意味で顔を真っ赤にしてるだろう彼女がジタバタ悶絶している。顔を両手で覆い、いやいやと身体を捻りながら。
「えーとなんだっけ、ドタチンは結構ウブだからー、最初俺が隠れててー……」
「やーっ! やーっ! ごめんなさいーっ! 何でもするから許してェー!! 忘れてーっ!」
……よし、言ったな。やっと言わせたぞ。
にやーっと笑って俺はぐっと起き上がり、座位に持ってゆく。
「んじゃ、キスしてくれたら黙る」
「うぐっ……!」
彼女はキスが嫌いだ。なんでかは知らないし興味ない。でも俺はキスが好きだ。なんでかは言わないし、教えない。
「今日一日キスしてくれたら忘れる」
「……ひ、卑怯な……!」
ぐぬぬ、と歯噛みする彼女に俺はさらに追い込みを掛けた。どんどん追い詰めて追い詰めて……この好機、絶対逃がしてなるものかと。
「これからもキスしていいなら、計画書持ってきて目の前で燃やしてもいいっす」
両手を組んで目を閉じる。……ここでラブコメとしてはビンタを食らうのがお約束とゆーものだが、組んだ手にそっと暖かい指が触れて、掌で覆われ小さく可愛らしい声が……
「……これでいい?」
わー……ちーさな唇っすねぇ……
ヤッバ。電気つけてなくて本当に良かった……! 耳どころか首まで赤くなってるのが自分でも解る。燃えている。何もかも全部、瞼も口も舌も目も、ひどいスパークに焼け爛れそう!
「ごめん、勃っちゃった」
既に挿れててその上。
……若さって怖い……
これより後は慈悲の心があるなら読まないで頂けるとありがたいデス……羞恥的&俺の社会立場的な意味で……
息もさせぬ勢いで首根っこ掴んで揺すりましたよそりゃ……座位でもイけるんだなって初めて知った。……どうでもいいですかそうですか。彼女がそのまま抜くなっつーからイった後も硬度が落ちないソレでぐじゅぐじゅやってたら初めて彼女が自分で腰を振ってくれました。イくから見ててとか言われちゃいましたよ……あのゆっくり弓形に撓る姿態とラインを思い出せば、俺しばらくオカズとか要らないと思います。
――――――――この辺でそろそろリア充死ねとか言われそうなので落ちを。
「ゆまっち マジ ベッドヤクザ」
「えええー!? あんなに頑張ったのに!」
「腰しぬ。まじしぬ」
「うそーん! 絶妙のタイミングでこっそり避妊具着けてたのにこの言われよう!」
「罰としてここオゴりね」
「わーヒドい! 五千円くらいいけど!」
「朝ごはんもオゴリね」
「……いーもん。元取ってやるから」
無理やりキスしたらぶん殴られました。
……ま、こんな程度には悉く爪弾きだった俺は結構シアワセですよ、過去の俺。
・おしまい・
15:49 2010/03/26(表現追加10:06 2010/04/09)
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