明日世界が終わるとしても、今日は話をしていよう
ソウルとクロナとラグナロクと椿 のはなし
その日はちょっと不思議な日だった。
マカは職人限定の宿泊カリキュラムの為に通常授業を休んでいて、ブラックスターはシド先生の部隊の訓練実習に見学に行き、キッドはいつも通りトンプソン姉妹を連れて校外授業を受けにデスシティを出て行ってしまっている。
なので、いつもの教室にはソウルの隣りにクロナが居て、その隣りに椿が座っているという、めっぽう不思議な席順だったのだ。
「珍しいメンバーよね、この三人って」
椿がぼけっと天井を見てるソウルに話し掛けたのは、授業の終わりのチャイムが鳴った頃。
「うるせぇのが両方居ねーからよく眠れたぜ、なぁクロナ」
「え、い・いや、その、ぼ、僕はマ、マカに頼まれてノート取ってたから……」
「オイ椿!俺様は無視かよ!いい度胸だな!」
急に話し掛けられて相変わらずの挙動不審を披露するクロナと喚くラグナロクのコントラストにに少し笑い、椿は良かったら今日はうちで夕食を食べない?と持ちかけた。
「訓練実習に付いて行くなんて思わなかったから、普通に食材を買っちゃったの。ブラックスターって大食いでしょう? 一人じゃ処理しきれなくて困ってるんだ」
「おー椿の料理食えるなんて宿泊カリキュラム様々だぜ」
「え、えと、ぼぼ僕も行っていいの? ラグナロク結構食べるんだけど」
「もちろんよ。腕によりをかけて作るわ!」
「ぐぴぴぴ。味見なら手伝うぜ」
ソウルが家に帰ってブレア秘蔵の果実酒を持って来る間、クロナとラグナロクが料理を手伝うという算段をして、各々別れたのが6時ごろだった。
「これってなに?」
「春巻よ。春雨と豚肉と韮ともやしを炒めて小麦粉で作った皮で巻いて揚げてるの」
「す、すごいね、お店みたい」
今日はクロナとラグナロクが手伝ってくれたからいっぱい作り過ぎちゃったわ!と嬉しそうな顔で椿が悲鳴を上げた。ソウルはそれを見ながら、凝った料理作るなーと感心しながら甘くて柔らかな鳥と白菜の煮つけに舌鼓を打つ。
「和食いいなぁレシピ覚えよっかなぁ」
ソウルが器用に箸を使いながら、あダメだウチ炊飯器がねーわと牛肉と細切りこんにゃくの和え物を口に運ぶ。
「あら、お鍋でもご飯は炊けるのよ」湯飲みを傾ける椿の向こうのちゃぶ台は温かく柔らかな湯気を上げて、遠くに聞こえるどこかの家のテレビの音が楽しそうな笑い声を上げていた。
「だ、第三図書室に、和食のレシピ集が置いてあるよ。借りてこようか?」
「へぇ。俺図書室いかねーしな。んじゃ、鍋で飯炊く方法とか載ってるやつ頼むわ」
「うん、初心者向けの特集の本を見たことあるから月曜日にでも行って来る」
クロナは少しホッとして、教わったばかりの覚束ない箸使いながらも大根の妻の上の刺身を取り上げた。
「俺様は煮物よか焼き物だな。パーティん時持ってきてただろ、なんかちょっと塩っ辛いタレが付いてた奴。あれなんだ?」
「えーと、いわしのツミレの事かしら? あれ、お魚よ。磨り潰してお団子にしてお湯に潜らせて串に刺して炙って塩だれを掛けるの。あの時は確か梅も入ってたと思うわ」
「うげぇ!なにその手間の掛け方!普通の単なる一品料理だろ? 和食ってそんなメンドクサイの!?」
「だってブラックスターが釣って来るんだもん。そのくせ生臭いの嫌いって言うから……!」
「……お、お母さんみたい……」
「スゲェよ椿。マカなんかシチュー外したら大体30分以内で作れる料理ばっかだぞ」
あいつ電子レンジねーと料理できないしな。温野菜はまぁそういうテクニックとして納得するにしても、パスタまで電子レンジで作るからテーブルひっくり返しそうになったぜ最初。言うに事欠いて食えればいいじゃんとか言いやんの。飯食うのに手抜きすんなよなぁ!ソウルがひょいと右隣りに話を振ると、小さく肩幅を狭めるクロナがぼそりと言った。
「ぼ、僕、料理した事すらない……」
「テメーは箱入り過ぎんだよ。ちったー世間に触れやがれってんだ」
頭の上でボリボリと空豆とごぼうの金平を噛みながらはっとした顔でラグナロクがソウルの顔を見た。
「ソウル。そういやお前酒持ってきてたな」
「あー? アルコール控えめの果実酒ばっかだぜ。二人が飲めそうなのって基準で選んだから」
「けー、良い子だねぇ!キッドとブラックスターの野郎も下戸か」
「……ブラックスターは焼酎が好きで、キッドは洋酒なら何でも。二人とも然程酔わないからあんま面白くねーんだけど。俺は日本酒とビールなら割と。苦いの好きでさ、でも葡萄酒は苦手」
ソウルは少しむっとした顔で自分の鞄を引き寄せ、緑色のきれいな蝋封がしてあるスグリの沈んだビンと、濃いオレンジ色の奇妙な形をしているビンを2本引っ張り出した。
「ソウルくん……未成年の飲酒は……」
「まあそう堅いこと言うなよ、年に数回なんだから。んで? お前は?」
アルミキャップを引きちぎる手捌きを珍しそうに見ているクロナの視線に、おかしな優越感が沸くソウル。
「クロナが酒弱いからな、飲むとヘロヘロになっちまうから一人で飲めねーんだよ。ワイン・ウィスキー・紹興酒何でもござれだがトンと飲んでねー」
「はは、そりゃご愁傷様。電気ブラン持ってきてやればよかったな」
「電気ブラン? 何かの道具?」
椿が空になった皿や茶碗をてきぱき盆の上に避難させ、部屋の隅に追いやりながら尋ねる。
「酒の銘柄。カクテルらしいんだけどデスサイズが置いてってさ。ブランデーキツいから料理に使ってもあんま減らねーんだこれが」
「よしクロナ、次はマカん家行くぞ」
ちゃぶ台の上にある残りを大きな皿に移し替えていたクロナが急に話を振られて声を上げた。
「えええええ!? お酒飲みにだけいくの!?」
「それが格好悪いんなら今日椿に習った料理を作りに行くって言えばいいじゃねーか」
「て、手伝っただけで僕なにも……!」
手の留守になっているクロナから箸と小皿を取り上げ、勝手知ったるなんとやらでいつの間にかソウルが持ってきていた氷の入ったグラスに注いだカシス・オレンジのカクテルを椿が事も無げに渡した。
「それはいい考えだわ!お料理は作らないと身に付かないしね!」
言う椿の反対の手にはいつの間にやらたっぷりオレンジ色の液体が入ったグラスがあったりして。
「おー、んじゃクロナの初料理と椿レシピの発展を祝ってかんぱーい」
「わーい乾杯〜!」
「ギヒヒヒ!諦めろクロナ!カンパーイ!」
「えええええー!」
※ソウルくんの夢の話※
なー、お前らってパートナーの夢って見る?
見る? やっぱ見るよなぁ。
マカに言うなよ。絶対言うなよ。おいラグナロク笑ってんじゃねぇよ。
魂の共鳴した日とか、ものすげーバッチリはまる日ってあるじゃん。なんつーの、相手の手足が自分の手足で自分の思考が相手の思考で、って、そんな日。
あるよな。うん、武器にはあるんだよ。たまったまそんな日が3ヶ月にいっぺん位。
でそういう日に絶対見るのな。パートナーの夢を。
クロナは厳密には職人じゃねーけどさ、やっぱあるだろ? だよな。
俺は、その、ほら、あれだ。
男だからさ。うん。まあ、なんだ。見る訳よ。そーゆーのをさ。
……ホントに言うなよ。絶対言うなよ。お前ら口が堅いと見込んで言うんだから。
「もったいぶるなよソウル。色夢か?淫夢だな?エロい夢だろ?」
うるせぇな。黙ってろよ。
お前らマジで言うなよ!ブラックスターとかキッドが知ってたら俺泣くからな!
「言わない、誓うわ」
ようし、その真摯な瞳を信じるぜ椿。
「ぼ、僕も言わないよ、絶対」
いいだろう。信じようじゃないかクロナ。
「ぐぴぴぴ。これで誰かが知ってたら俺様が漏らしたって事になるんだろ? いいぜ約束だ」
……男と男の約束を違えるヤツに容赦しねぇぞ俺は。
「信じろ、俺様は楽しい事は好きだがそれ以上に約束って響きが好きでね。お前が俺を信じるなら俺はお前を裏切らない」
――――――いいだろう。お前の任侠ってやつを信じるぜラグナロク。
夢を見るんだ。
マカの夢をさ。
おれはバイクに乗っていて、マカをシートに乗っけてる。時期は冬だ。
古い道路をずーっと走りながら会話はない。
俺は皮の手袋をしていてゴーグルをつけてる。後ろのマカはコートに素手。
そしたらマカがこう言うんだ。
ねぇソウル手が冷たいわ。
俺はハンドル握ってるから摩ってやるも握ってやるも出来ない。
だからちょっと惜しいけどポケットに突っ込んどけって言う。
皮ジャケだから風を通さないし、身体を離さなくて済むだろう。名案だ。
そしたら冷たい手がサ、皮パンのちっこいポケットに無理くり突っ込まれるの。
「きゃっ!」
そうそう、そういう風に飛び上がりそうになるのをグッと堪えてハンドルを握る両手を確かにする。こけて大怪我なんて洒落にもなんねぇ。
オ、オイなんだよ!ズボンのポケットなんか入らねぇだろ考えろ!
俺が声を上げるとマカがこの、ホラ腰骨のちょっと凹んだトコ。この辺をじわーって触りながら言う。
いやねソウル。なに変なコト考えてるの? ポケットに手を入れてるだけよ。
「……マカ言いそう……」
でさ、男でもこの腰のあたりって柔らかいじゃん。その辺を冷たーい指でなぞるみたいにツーって触るんだ。もうくすぐったいやら痒いやらで足とか腰とかジンジンしてきてさ、限界に達したのよ。
「ゲヒャヒャ。皮ズボンなんか穿いてりゃそら辛いわなぁ」
おう、判るか。そりゃあもうお前らには絶対わからない苦痛だ。無感覚になるまで我慢しようとしたけどそんなことすれば運転が疎かになって絶対クラッシュする。
しかもマカが背中にピッタリ身体を寄せるもんだから、背中が温くてさ。
夢だからジャケットとかコートとか間にあるはずなのに、あのペタンコの胸が背中に当たってる感覚がそりゃあもう生々しく感じられて、理性ぶっ飛ばしてモーテルん中にバイク突っ込んで
「お、押し倒したの?」
……押し倒しました……
「よし、それでこそ男だ!」
目が覚めるまで無茶クソに犯しまくりました。
「……うわぁ……」
でもさ、ほら、夢じゃん。そんなのマジで出来るわけねーしさ。他愛もない話だろ。
流石に起きて10分くらいベッドの上で転げ回ってたけど、夢だしって納得して洗面所行って顔洗って服着替えて飯作ってーってやってたら大分落ち着いてきてさ、マカ起こしに行ったんだ。
ドアをノックする。
おいマカ、7時半だぞ。飯出来たから起きろーってな。いつも通りだ。
でも返事がない。いつもなら7時には起きるマカが。
なんだろなと思ってドア開ける。
ベッドで寝てるマカ。珍しいな、寝坊だなと思って揺すったら
『だめよソウル!わたしたち武器と職人なのよ!こんなのダメよ!』
……っつってデケー声でさ、俺と同じ夢見てやがる。
多分共鳴しちゃったんだろうな。たまたま。
「……そ、それでどうしたの?」
走って学校行ったよ。100メートル5秒で走ったよ。
俺は思ったね。
やっぱ夢じゃなきゃデキねーよあんなの。
※クロナさんの夢うつつの話※
ギャハハハ!なんだよ、現実でもやっちまったのかと思った!
「お前な、あのマカだぞ。最中はいいけどその後が恐ろしいだろ!」
お前ここぞと言う時にダメだな。その点キッドは積極的だぜ、なぁクロナ。
ちょ、ちょちょっとラグナロク!なにを言い出すのさ!?
馬鹿だなクロナ、俺様はソウルの男気に心動かされたんだよ。男気には男気で返すのが筋ってもんだ。
「おっ!ラグナロク話がわかるぜ!」
あああ煽らないで!ダメだよ!恥かしいよ!やめてよラグナロク!ソウルの話に心動かされたんなら自分の話をすればいいじゃないか!
クロナ、俺様の話はお前の話、お前の話は俺様の話だ。
「ひ、ひどい……」
やだやだやだやだ!絶対やだ!やだぁー!!
えーとあれはー、二・三週間前のことだったかな、クロナ。
いーやーだー!!止めてもうお願いしますごめんなさい言わないでー!!
椿、クロナの口押さえとけ。邪魔だ。
「ご、ごめんなさいね、ちょっとだけね」
「……結構ノるなぁ椿……」
諸君も知っての通り、このクロナとキッドは恋仲っつーか肉体関係っつーか爛れた性生活を送ってるベタベタのエロエロのもーどーしょーもないセックスジャンキーなんだがな。
「……なんだろ、関係者からモロに言われるのって結構胸にズーンとくるな……」
身体中ベロベロ舐めまくってそこら中に指を突っ込みまくって腰振りまくってるのにさ、服を着たらやれ手が触っただの身体がぶつかっただので一喜一憂するんだよこいつら。いまだに。笑えるだろ?
やややめてよー!やめてー!
おい椿、しっかり押えてろって。ええとどこまで喋ったかな、そうそう、裸の時はズブズブにエロいことするくせに服を着たら“死神が変わった”みたいにシレッとしてやがるキッドが俺はどーも信じられなくてな。
うううそだよ!き、キッドは服を脱いでも紳士だから!ラグナロクの言ってるの嘘だから!
……ほー。じゃあこないだの日曜、お前寝てる時のこともっかい喋ってみ?
やだよ!何でだよ!
この二人に聞いてみようぜ、俺様の主張とお前の主張とどっちが正しいか。
ううううううう……!
ほらどうした。自信がないのか? キッドは紳士なんだろ?
い、言うよ!言うさ!二人とも信じてくれるよ!絶対キッドはそんなことしない!
それはこいつらが判断する事だ。そら、喋ってみな。こないだ俺様に言ったようにな。
ぼ、僕、部屋で寝てたんだ。……キッドと一緒に。土曜日の夜、泊ったから……。えと、それで……
朝の6時くらいだろ?
うん、ボンヤリ目が覚めたんだけどまだ朝早いから目を閉じてじっとしてたの。そしたら顔の前に、ほら、冬、暖かいものの近くに行くとぼやーってその部分だけ湿気っぽくなるじゃない。あんな感じになったから何だろうなって薄目を開けたんだ。
で、目の前にチンポがあったんだよな。
もーっ!ラグナロクうるさい!違うって言ってるだろ!顔だよ!
視界一杯に肌色のもんがあるのに顔な訳ねーじゃん。あいつの目黄色で髪が黒なんだから。
じゃあ手だ!
顔が湿気っぽくなってるのに? どんな汗っかきだよ。冬だぜ今。な、どう思うお前ら。
「……あの、キッド君は何をしようとしたの?」
「寝てるクロナに咥えさせようとしたんだろうか……チャレンジャーだなキッド……」
この話には続きがあってなー。
わー!わーわーわーっ!!
ほっぺたとか唇とかにベタベタぬるぬるするもんがナメクジの通り道みたくついててー
きききききキスだよ!キスをしたんだよ!
クロナが我慢できなくて目を開いたらキッドのやつ息が上がってたんだよね。
キスだよ!キスしたのー!
ズボンのボタンが外れるってどんなアグレッシブなキスだよ。
「……あのノーブルなキッド君がそんな深刻な性的倒錯者だったなんて……」
「残念ながら男って結構こうゆうモンですよ?」
ちがうー!ちがうのーっ!
何にも違わないだろクロナ。観念しろよもう。お前の恋人は絶望的な変態だっつーの。
ちがう〜……違うのに〜……!
俺様一言もお前が説明した内容と異なることは喋ってないぞ。憶測は喋ったけど。
「あー、ラグナロクは見てないのか、その瞬間」
見てたけどコイツが信じねぇんだもん。思いっきり顔に跨ってハッスルしてたぜ。
「や、やめて……!もうキッド君の顔見られないわ……!」
※椿ちゃんの弄られ体験の話※
「さぁて、残るは椿の話だな」
ええええ!? わ、わたしも!?
「そ、そうだよ!みんなのを聞かなきゃフェアじゃない!」
で、でもそんな、ないわ!わたしブラックスターとそんな関係じゃないし……
「ぐぴぴぴぴ。ここまで来てそれが通ると本気で思ってないよな?」
だ、だってないものは喋れないでしょう!? 本当よ!何もないのよ!何もしてくれないもの!
「……はっはぁ〜ん。そーかそーか、つまりだ、椿はされたいわけですね何か」
ちっ!違うわ!ちょっとソウル君なんなのその解ってますって顔は!
「ズルイよぅ、僕の間抜けな話聞いたのに〜」
んもう、クロナまで!……解った!解ったわよう!喋ればいいんでしょう!喋れば!
「ぎゃはははは!椿!お前は顔はマズイけど気風は気に入ったぜ!一発みんなが引く位のをぶちかませ!」
な、ないわよそんなエピソードは!……〜〜もう、だからお酒っていやよ。
ああん、もう絶対秘密よ!喋ったらただじゃ置かないんだから!
……彼ってね、外に居るときと家に居るときじゃ全然性格違うのね。
「うははは!彼と来たか!」
「しっラグナロク!」
今は冬だからそれぞれの部屋で寝てるんだけど、見ての通りこの茶の間にしか窓が二つある部屋が無いの。だから風通しが良くないから夏はここで布団を敷いて寝るんだけど。
今年の夏、すごーく蒸し暑い日があってよく眠れなかった。
何度も目を覚ましてお水飲んだり扇風機を弄ったりして、夜中の二時前かな。
やっと風が出てきてやれやれって落ち着いたの。
で、うとうとうとうとしてたら、彼がむくっと起きた。
あれっまだ寝苦しいのかな? と思ったんだけど眠かったからほっといたの。
トイレだろうなーと思ったし。
実際水流す音が夢うつつで聞こえたから気にせずまたうとうとしてたわ。
5分くらいかなー。
もっと経ってたような気もするけど。
とにかくもう彼が寝床に居ないってことも忘れた頃、なーんか頭の上に居るの。
目を閉じてて暗くても、なんとなく判るときってない?
人の気配っというよりも……こう、なんか“いる”って漠然と判る感じ。
もうそのときにはすっかり夢の分量の方が多いから気にしなかったわ。
でもそのプレッシャーが10分も15分も続いたらやっぱり起きちゃうじゃない。
面倒くさいなぁって目を開けようとしたときにね、フッて空気が動く感じがしたの。
風が降って来るって言えばいいかしら。
ちょっと驚いて、でも目は開かないで様子を伺ってた。何事かしらと思って。
そしたら、唇に触れるものがある。
「おー」
でも硬いの。すぐああコレ指だわってわかったけど、まだ我慢してた。
彼、よく寝てる私の顔弄ったりするからそれだと思ったの。
ほっぺた引っ張ったり、鼻つまんだり、まぶた押したり。
でも口ってあんまり触られたこと無かったからちょっと驚いたんだけど、寝てると思ってるからかなって。
そしたらね、たぶん親指だと思うんだけど、口の中に突っ込もうとするのよ!
「おおー!」
もう私ビックリして思わずぐってチカラ入れて口を閉じちゃったわ。
ああ起きてるってばれちゃったって思ったんだけど、力が弱まらないの。
ぐいぐい押し込もうとするからパニックになってきてね。
なんなのなんなのって言おうとするんだけど口押さえられてるじゃない。
んーんーって言うことも忘れてムキになって口閉じてたら……親指で頭を揺すられるって解る?
こうやって寝てるじゃない。
で、親指で頭のどっか一点を押さえながら揺さぶる。
そうそう、ラグナロクがクロナにやってるそんな感じ。
それを唇でやり始めたのね。
頭がくがく揺さぶられるし、ごしごし擦るから唇がジンジンしてきて、息も出来ないでしょ?
自分の顔が真っ赤になってくるの解るの。
もう恥ずかしいやら気持ちいいやら苦しいやらで頭クラクラしてきちゃって。
「うははは。気持ちいいのか」
そうよ!気持ちいいの!頭揺さぶられ続けてごらん? ポーッとしちゃうんだから!ほんとよ!
そいで息が続かなくなってきちゃってもうダメ!って思った瞬間。
「しゅ……瞬間?」
ふって揺さぶるのやめたの。
で、ドキドキしてたら隣の布団にばさーって寝転ぶ音がしてね。
そのまんま。
んもう私、心の中でなんなのよーっ!って怒鳴ったんだけど寝息すーすー言い始めて。
そのまんま。
朝までそのまんま。
こっちは眠れるわけないじゃない!?
次の日ものすごく睡眠不足で授業受けたわ。
……ほんとアレなんだったのかしら……っていう話。
普通でしょ?
「………………えっろぉい……椿ちゃんえっろぉい……」
えええええっ!? なんで!? どこが!?
「つつつつまり、ブラックスターって、何してたの?」
えっ、いや、単に私の顔で遊んでたんでしょ?
「……椿よぅ。それ、もっかい自分でやってみ? 頭揺する奴」
はぁ……うん、だから、えーっとこうやって寝て、頭を指で押さえて……こう。ゆする。
これだけでしょ?
「気付いたか?クロナ」
「……うん……」
えええええ!?なんなの!?なんなの!?これなにかヘンなことなの!?
「あーえーと、椿さん。それ、他に実演できる人がこの場に居ないんだけど……そうだ。手鏡ある?」
あ、うん、そこの鏡台の引き出しに……
「じゃあ俺もつね。椿はそこに寝て。クロナ、頭揺すってやって」
「ええええっぼ、僕が?」
「俺にやれって言うのかよ」
「……ううう……」
???ど、どういうことなの?ねえ、教えてよ。解らないわ!
「まぁまぁ。じゃあクロナ揺すって。どう?見える?」
……………………? だから、なにが?
「自分のおっぱい」
!!!!!!!!
「うははは。もんのすげー揺れてんなー。鼻血でそー」
ううううううううそ!うそうそうそ!!
「うん。たぶんブラックスターこれ見てたんだと思うよ」
き、キャー……!うっそぉ〜〜……!
「あいつものすごいむっつり助平だな。どっかの死神の方がまだハッキリしてるぜ」
その後飲み会は夜半過ぎまで続き、3人と一匹の友情は無駄に深まったり深まらなかったりしたそうな。
因みに、次の日帰ってきたマカとブラックスターとキッドの職人三人組が居残り組にしばらくの間ものすごくよそよそしくされて頭にハテナマークを出しっぱなしにするのだが、それはまた別の話。
どっとはらい。
13:05 2009/02/14
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