『おかしをくれなきゃ電気を消すぞ』
ヘンタイソウル と ヘンタイマカチャン
ベッドで寝る準備してたらドアが開いてシーツ被ったソウルがそんなこと言った。
パンプキン・パイ作ってあげたじゃん。
髪をほどく。今日は少しきつく結びすぎたかな、頭皮が引っ張られて痒い。
シーツおばけが廊下の電気を消した。もうリビングもキッチンも電気を消してしまったらしく、シーツおばけの背後が真っ暗闇になる。
トリック・オア・トリート!(おかしか? いたずらか?)
いい年こいてバカみてぇ。
呆れて化粧箱の蓋を閉める。ベッドの下に仕舞い込んでいたら、ふっと電気が消えた。窓から差し込む街灯の明かりを頼りに、ベッドの中にもぐりこむ。相手にするのも面倒臭い。
明日学校ないからってはしゃぎ過ぎ。キモイ。寝ろ。
毛布を頭から被って目を閉じた。
足元がひゅっと寒くなって、すぐに温くなった。……何考えてんだお前。
「ソウル。いい加減にしろ、ぶっ飛ばされたいのか」
ムッとしてきつい調子で言ったら、胸元から赤い目のかぼちゃマスクが現れる。
なにあんた酒でも飲んだの?
マスクをむしり取ってやる。白い髪、浅黒い肌、見慣れた赤い垂れ目。
イタズラするぞ。
パジャマの胸元に埋まっていく顎がくすぐったい。面白いような少し怖いような不思議な感覚。ゲシュタルトが崩壊してくみたい。自分の感覚が侵されてゆく。
こういうイタズラはもうされ飽きた。
ごつごつ頭を殴る。器用にパジャマのボタンを唇で開けられているのに気が付いたから。もう、もう、やめなさいよソウル。私眠いのよ、今日いっぱい料理したし、明日片づけしなきゃいけないの。
んじゃ、今日はトリック・スペシャルコースで。
にゅ、と襟元から見慣れたくすんだ銀色の柄。
……あんた、そーゆーマネも出来るんだ。
部分変化が刃だけだと思ったか?
くっくっく、ソウルの忍び笑い。楽しそうでいいわね。私は悩ましげに辿るソウルの右手が太ももを擽るのをまんじりともせずに天井見上げて我慢している。
ドキドキする胸が恥かしくてやだなぁと思った。15秒前まで眠くて仕方なかったのに、もう全身の細胞が飛び起きて次の刺激を待っている。こんなのに慣れてくなんてちっとも健全じゃない!
「ねぇソウル」
なに。
答える代わりにキスをされて、口の中でそれを聞いた。
ああもう、都合悪くなるとすぐこうやって力づくで押し切るんだから。
柄、触らせてよ。
鼻先で見せびらかされる触り慣れた柄をせがんだ。馴染む太さ、握りの良いグリップ、踏み込み易い重さ。私専用にカタマイズされたソウルの身体。
ぞる。舌を這わせる。ぞり、ぞり、ぞり。痛そうな音。唾なんか付けてあげない。猫の舌に舐められるみたいにざらざらしてる。ソウルの柄にはパッと見では分からない細かい凹凸がある。つるつるだと滑るから。
……やばい、それ。
にやっと笑う。それみたことか。
すげーいい。その目、スゲーそそる。ゾクゾク来るぜ。
片手で口から舌を覆って目を逸らしながらソウルが頬を赤らめる仕草が嗜虐欲を煽る。ホントあんたって変態よね。つくづく思うわ、マゾッ気があるんじゃないの。
ざり、ざり、ざり。乾いた音に続いて、歯を立てる。ガキッ。思い切り、噛み付く。
うわっ……ビ、ビッた……
どーせ違う柄舐められてる想像でもしてたんでしょ。お見通しよ馬鹿。
唇を当てる。フルートを吹くみたいに。少し強く吸う。ハーモニカを鳴らすみたいに。
ぴちゃぴた唾液を塗りつける。自分の体温が上がってゆくのが分かる。涎がドロドロに糸を引くから。くすんだ鋼色から鉄の味がする。ソウルの味がする。
白い眉を顰めている。睫毛も白い。光に当たると消えちゃう白い髪が薄闇にボンヤリ浮かんでいて、暮らし始め何度か夜にリビングで鉢合わせして悲鳴を上げた事を思い出した。
「……何笑ってやがんでぃ」
ぐしゃぐしゃに髪を掻き乱されて、不思議に照れくさい。
冷たい柄に唾液が滴る。てるてろ舐めまわる銀の棒がびっしょり濡れているのを確かめて、手で拭う。滑る形と擽る強さ。
「……ッ、変化、途中だから……感覚あんだよ……!」
頬を赤くして目線を逸らすソウルの仕草が愛らしい。
知ってるわよ。
胸の中で呟いて、舌をもう一度唇と共に這わせた。ぞくぞくぞく。見開くソウルの瞳孔が見える気がしておかしい。
「なぁ、マカ……柄ばっか、ずるい」
足を挟んでいたソウルの腰がグッと押し付けられて背筋とこめかみに悪寒に似たものが同時に走った。引き攣った舌が柄から離れて涎が胸元にぽたりぽたりと落ちている。
ぢゅるちゅるじゅるじゅるじゅる。啜り上げて一息ついた。少し息が上がっているみたい。
「ずるいって、なに?」
ため息と同時にそう尋ねたら言いにくそうに息を詰まらせながらソウルがガチガチで、痛い、ともう一度腰を摺り寄せた。上気している彼の足がじっとり汗ばんでいるのが判る。なんだかその必死さが楽しくなってきた。
「トリックスペシャルコースってのはセルフなワケ?」
ニヤニヤ笑ってゆっくり身体を起き上がらせて、胸元のボタンがすっかり開いてしまっていることを確かめる。寒いかと思ってスリップ着ててよかったなぁ。
「……ここまでやっといて、そう来るか」
悔しそうな声が背中でして、大層いい気分。ふふんだ、あんたなんかいつまでもそうやってびくびくしてればいいのよ。みっともなくてカッコ悪くてパッとしない地味ーな奴で居ればいいわ。
「俺を怒らせたらどうなるか、この凹凸のない身体に教えてやるぜ」
呆れた、そんな使い古しの憎まれ口が精一杯なの? 鼻で笑って首の後ろに手を回して髪を跳ね上げる。折角櫛を通したのに、また癖がついちゃうわ。
伸びやかに反る私の身体に、闇色の手が毛布の中から突進んできた。上手にパジャマの裾を開いてスリップに潜り込む。
「お前ブラジャーしないの?」
「寝るときはしない。型崩れするもん」
「……崩れるほどねーじゃん」
一瞬殴ってやろうかなと思ったけれど、それも面倒だし、乗せられるのも癪なので普通に返してやる。
「ブラの話でしょ?」
思ったとおりテンポを外されてぐっと黙るソウルがおかしい。ちょいと頭を差し出す格好を見るたびにこいつは本当にマゾだなと思う。なに突っ込み待ってんのよ。
「……なに余裕たっぷりでせせら笑ってやがる」
ひっひっひと笑ってる私に突っ込みが入った。ムカッとした顔しちゃってさ、かわいいわねボク。
「べぇつにー。ソウルって大口叩くワリに大したことないなと思ってるだけー」
そうやってすぐ顔に出すの、みんなの前でもやればいいのに。COOLとか言っちゃってさ、バカみたい。似合ってないよそんなの。あんたCOOLなんて柄じゃないくせに。
ドン、とベッドに引き倒されてぐるり身体が回転する。枕にうつ伏せで息が苦しい。右手が背中に回されて腰のあたりに凄い力で押し付けられちゃった。
「そうね、あんた私に勝てるの腕力だけだもんね、ヘタレ!」
手の平でコロコロコロコロ転がされてるソウルがいよいよスピンし始めたみたい。私は胸がドキドキしてくる。ガッカリさせないでよ、失望させちゃいやよ。頭の中で黄色い声援。
背中を強く押えられて柄に変化したままの左腕がズボンに押し付けられている。ゆっくり突き立てられる銀の棒がゆるゆるヒップの稜線を辿った。
「俺を侮った事を後悔させてやるぜハニー」
低い声。ビリビリ痺れる。いやらしい触り方!
背骨、支点になるはずのポイントを右腕ごとガッチリ押えられて、私はまるで俎板の鯉。暴れる事も出来やしない。もちろん口汚く罵る事も出来ない。……快感で。
無機質な冷たさがパジャマのズボンのゴムを引っ張った。ごりごり骨を伝って響く音が妙に身体の心を揺さぶる。尾てい骨を過ぎて、太ももと太ももの始まりに支点を決めて、棒が起き上がった。ずるずる引っ張り下ろされるズボンと下着。
「おいおい、なんか既に濡れてますよ職人さん」
棒が細かくグリグリ前後左右上下、縦横無尽に動く。ばか、やだ、変態くさいことすんなよ!
口を開こうとしたらずるっとスボンが下ろされた。小さく悲鳴を上げてしまいそうになる。
「やぁ、だって。カワイイねヘンタイマカチャン」
「な、なにおう!?」
殺したつもりの悲鳴を馬鹿にされた事よりも、変態と言われた事に腹を立てて振り返ろうと上半身を捻ったら、目の前に突き出された銀色の向こうでソウルがギザギザの歯をちらつかせながら笑っている。
「まだ身体触ってもねぇのにビチョビチョとか、普通ねぇよなァ? マカ」
痺れる。耳が痺れる。まるでそれを予測したように再度柄の宛がわれた。やめて、その場所が痙攣するのが分かっちゃう!
「……お前、名前呼ばれるのほんと弱いな」
くけけけけ。品の無い笑い声。やぁだ、やだ、やだァ〜!
「マカ」
あの声、低く絞られた。呼ぶの。私を、マカって、呼ぶのよ!
「マカ」
耳元で暖かい空気が爆発する。ソウルが湿った声で、私の神経をズタズタにする!
「名前呼んだくらいで感じるなよぉ……マ〜カぁ〜」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
耳を舐められて、鼓膜のすぐ向こう側で、ソウルがねっとりした声で私の名前を呼んだのが最後。もう我慢が出来なくて、身を縮こまらせて快感に打ち震える。左手でシーツを掴んで、眉間に皺を寄せる。快楽に押し流されないように。
「うははは!おい、笑わせるな、なに軽くイッてんだ!早すぎるだろ常識的に考えて!」
頭がおかしい。息がおかしい。心臓がおかしい。全身に巡りまわる乳酸が身体をずしんと重くした。もう考えるのが億劫で、荒い息で窒息したい。
はっきりしない頭がぐわんぐわん鳴ってることに気を取られていたら、腰の辺りをもぞもぞ辿るソウルの指を止めることが出来なかった。
「!!」
スリップを引っ張り下ろされて、お尻の上に伸ばされる。
そしてソウルはそのスリップ越しにゆるゆる鉄の棒をこすり付けるのだ。
スリップの生地から生まれるもどかしい振動が、スリップに広がって行く冷たい感覚が、肩のストラップが少し突っ張る感じ、スリップが肌に食い込む圧迫感、どれもこれも新鮮でたまらなく恥ずかしい。
「あひ、ぃ、ぃやぁ……!」
「目がトんでますぜお客さん」
柄もシュミーズもすっかりべちょべちょだと嗤うソウル。わざわざフランス語なんか使うな、気取り屋め!
スリップが捲り上げられてお尻にほんの少しだけヒヤッとした感じ。
…………ち、ちょっとまてぇええぇぇ!!
「ヤダ馬鹿そこじゃない!」
「ほら、なんたってトリックス・ペシャルコースだから」
更なる圧迫感。
「嘘!? 本気なの!? やだ!やだっ!やだぁ!!」
重い手足をジタバタ懸命に動かして、ソウルの身体から逃げようと試みるのに。
「マカシャワートイレ好きじゃん。キレーキレー」
ソウルの力点はずらす事も出来ない。完全に作用点を殺されている。
「そんな問題かぁ!つーか私のお尻の心配をしろォ!」
「大丈夫大丈夫、マカの涎とラブローションで十分濡れてるから」
ず、ず、ず、ず、ず。
何かを探るように、柄先の飾りの凹凸が私の身体の中に侵入してくる。凄い圧迫感。息が止まりそう。
「あ”あ”あ”……っ!…やぁ……っ!」
痛い。熱い。苦しい。最悪の三重苦。おまけに身体も動かせない。あんたの顔も見れない。背中にソウルの胸の傷の凹凸が滑っている。
「……嫌ってわりには、結構するする飲み込んでるぞお前」
枕に思う存分噛み付いて、息を細く吐き出す。苦しい、苦しい、苦しい!
「俺のφが約18oなんだけどさ……結構行くねぇお客さん」
ゾク!ゾク!ゾク!内壁が伸縮してる。冷たい鉄の棒。形の変わらないものが自分の中に入っている嫌悪感。排斥しようと動く身体、どうしょうもないくらい熱くなる頬。
「はは……すげぇよマカん中……グニュグニュ、動いてる……」
乾いた笑い声。なによアンタにだって余裕無いじゃん!
「ばかぁ……は…く…!抜、いて……」
浅い呼吸で枕が濡れてしまっている。もしかしたら涎なのかもしれない。そんなの全然分からない。全身全霊の注意は、全てソウルが独占してしまっているから。
「きもち、いー?」
「ごめん、あやまるから…っ…もう、ゆるして……!」
「きもちいーのか?」
「二度とヘタレ言わない!言わないからぁ!ソウル馬鹿にしないから〜!」
「きっもっちっい・い・で・す・かぁ?」
ずっずっずっ!小さく揺すられ、引き抜かれ押し込まれ、感覚がおかしくなる。
「いい!いいです!いいからやめてェ!おかしくなるぅーー!」
思わず口走った内容すらもうどうでもいい。とにかくこの圧迫感から逃れたい一心で全てのチェックボックスがYESになった。ああ、もう、なんでもいい!何でもいいから柄抜いて!
「うわー。オシリに棒突っ込まれてきもちーとかマカチャンマジヘンタイ。MMH!MMH!」
馬鹿馬鹿しいテンション。阿呆らしい囃し言葉。いい加減にブチ切れてやろうかと思った矢先に、耳に飛び込んできたのは悪魔の軽やかな台詞。
「ねぇヘンタイさん、さっき焦らしてくれたもう一本、面倒見てよ」
狂気だ。
正気の沙汰じゃない。
クレイジー!
気が違っている!
「やだあああああああ!!!!!」
大声上げて本気100%フルパワーで恐怖に凍る肢体を振り回した。背筋に冷たいものが走る、頭の中に交錯するシッチャカメッチャカの思考、なのに心臓が躍り狂う!なにこれ!なにこれ!?
「あははは、無理。動けねぇってマカ。関節決めてんだから」
「うそ、うそよね? 嘘でしょ? 冗談よねソウル!ソウルはそんなひどい事しないよね?」
「オイラ、ジャックランタン!イタズラが大好きさ!」
けたけたけたけた。甲高い作り声で高笑いのソウルがゆっくり柄を引き抜いて、あたしの顔が埋まってた枕を引っ手繰り、腰の少し下に押し込んだ。お尻が高く持ち上がる。
「いや、イヤ、嫌よソウル!イヤ!ほんとにしたら絶交!パートナー解消だから!」
「オイラ、ジャックランタン!恨みはその場で晴らすタイプさ!」
ごそごそ衣擦れの音がして、熱いソウルの肌がびたり自分の肌に吸い付くように重なった。汗でずるずる滑って、火傷しそう!
「……なぁマカ」
「やだぁ〜やだぁ〜お願いカンベンしてぇ〜!」
「おい、静かにしろ、聞けよマカ」
「やめろばか〜!ぶっ飛ばすぞーッ!」
「……ブレアに聞こえるぞ」
ヒュッと喉に冷たい空気が入ってきた。濡れた鼻先が冷えているのにもようやく気付く。
「――――――えらいえらい」
満足そうにソウルの気取った声が聞こえて、ぜぇぜぇと自分の荒い吐息。穏やかなソウルの声。
「本当に嫌なら止めてもいい。その代わり……そうだな、食事当番と洗濯当番、ずーっとマカ」
「なによソレ!?」
「そのくらい魅力的な交換条件ならってこと」
「馬鹿にしてるわ!」
「……その程度しか嫌じゃないってワケだ。なるほど。なるほど」
「何でたった一回のエッチで一番きつい当番が永久継続なのよ!」
「じゃーいーじゃん。たった一回、二本差しくらいどーってことないよな、ヘンタイマカチャン。……あー、それともー、待ってるのかなぁ?」
「ふざけんなぁー!」
「……ふざけてねぇよ。本気の本気。鎌の俺と人間の俺が同時にマカのもんになるのさ。何たるロマン」
「××××!!××!!×××××!!×××!!」
「ンー、いいね優等生から悪口雑言を聴くのって。最高にゾクゾクする!」
言葉も終わらないうちに、冷たく硬い棒と、熱くて硬い棒が、私に宛がわれて。
「ひ……ぐぁっ……!」
「――――――色気のねぇあえぎ方……」
のる、のる、のる。そうとしか表現しようのない感覚がお尻を伝う。
にゅり、にゅり、にゅり。他にどう表現できるのかわからない感覚があそこに生まれる。
思い切り引き伸ばされて
思い切りゆっくり押し込まれて
思い切り優しくいたぶられている自分の身体が
私の精神を壊す。
「あ・あ”・あ・あ”・あェ…………!」
喉の奥、そのまた奥から出る声は、まるで自分のものじゃない。こんな低い声出し続けてたら喉が潰れちゃう。目いっぱい見開いた目からは涙が零れている。唇が裂けるほど大きく開けた口からはヨダレがぽたぽた落ちていく。すごく恥ずかしい。私の中の全部が丸ごと出ちゃってるみたい。
「うぅわ、すっごいぞマカ。これスゲェ。動かなくてもイキそう」
マカの身体の中どっちもすげー動いてる。ぴくぴくしてて、ちょーきもちいい。ソウルの馬鹿みたいな感想。ああもう絶対お前泣かす。生まれてきたことを後悔させてやる!
頭の隅っこがそんな風に怒り狂ってるのに、頭の大部分が命じる。ソウルを急かせと。
「そ”う”る”……!く”る”し”い”……!」
息が出来ない酸素が足りない肺が軋んでいる。押さえつけられている腕が無感覚になるほど痛い。そして身体がカアっと熱く燃えている。どうなっちゃってるの、私。イカれちゃってるの、私。
「どうしようマカ、ずげー気持ちいい……変な声出る……っ」
背中にソウルの顔が乗っかってるのか、汗まみれのそこがボンヤリ温かくて変な感じ。じりじり高まっていく身体の中の熱よりずっと低いはずのその暖かさにホッとする。……いやいや!そんなのん気な場合かよ私!
「ちょっと、まて、そうる!あんた、ごむは!」
ぜえぜえ痛みを紛らわせる呼吸法を編み出した私が低く唸るような声で抗議をすると、見えないはずの背中でソウルが、とびっきり悪い顔して笑ったのが判った。
「愛してるから、0.03ミリ離れない」
ぞおおおおお!血が引く。全身から熱が引く。冷や汗が吹き出して喉が一瞬でからからになった。
「ちょっとあんたばかじゃないの!やめろばか!あかちゃんできたらどーすんのよ!」
「生んでよ、赤とやらを」
「ふざけんな!!ぶっころされたいの!」
「マカに? それとも親父さんにか?」
「やくそくでしょ!ぜったいごむするって!さいてー!そうるさいてー!しねゲロやろう!」
「わー汚い言葉ー。ボクちゃんがっかりしちゃう」
「ほんとちょっとやばいって!シャレになってない!やめろバカ鎌!へたれインポヤロー!クソガキ!」
「……あーマカが必死になって汚い言葉で俺を罵ってる〜ヤッベェ〜マジでめちゃめちゃ快感なんですケドぉ〜」
揺するなバカ!
動かすんじゃない!
ゾクゾクするだろォオォォォオォ!
「あーっ!あーっ!ああぁぁぁあぁぁぁあぁあぁああぁぁ〜〜〜ッ!?」
あたま まっしろに なる
わかる そうる うごいてる
私の中でソウルが鼓動している。どく、どく、どく。魂の拍動。左足にだけびりびり電流が走っていた。右足の指が開いてゆく。お尻が熱い。もう意思の力じゃどうにもならない圧倒的な衝動。
「あはは、出ちゃっ……ぁ……」
まだしつこく腰を動かすソウル。ねちっこい音がしている。にゅちにゅち粘液がかき混ぜられる音。そのたびに衝動が全身に走る。頭が狂いそう。胸がはちきれそう。いやらしい声が出そう。ジンジン煩いあそこが波打つみたいに激しく動いてる。
「くそ、やろう……!」
負けたくない。ただその一身で憎まれ口を叩く。エグられ足りないのに。
「マカだってイキてーんだろぉ、ぎゅーぎゅー締め付けるくせに」
「それは!あんたが力一杯突くから」
「魂開放しろよォ、どーせもう出しちまったんだ。取り返せねぇモンは楽しんだ方が勝ちだせ?」
「〜〜〜〜ッ!」
「ケツの穴パクパクしてんのだってわかってんだよ。強がって我慢するよか流されちゃえ、ハニー」
必死の形相で、最後の力を振り絞ってソウルのほうを振り向いた。
「言えよマカ」
昏い目。
「イかせてくださいってお願いしてみせろ。狂わせてくださいって言ってみろ」
深い影。
「さぁ、ハニー。こいよ、こっちへ!暗黒の世界へ!」
どうしてそう悟ったのかはよくわからないけれど、私は合点がいった。知ってる。知ってる。黒い部屋であんたがのた打ち回ってたときと同じなのね、今。
「いやよ!いや!死んでも嫌!目を覚ませソウル!狂気に飲まれてんじゃねェよヘタレえッッ!」
助けなきゃ、と一番に思った。二番目は狂わないで、と思った。
「……………………お前な」
一瞬驚いたような顔をしたソウルが、ため息をついた。
「はぃ?」
にゅりゅん、と身体の圧迫感が消えて、息が出来る。血が通う。全身に。
「……ほんと、呆れるぐらい健全ですねお前は」
「??? そ、ソウル?」
「ジョーダンだよ。ほれ」
ソウルの手の中にはショッキングピンクのゴム。中には白濁した精子。
「ちっとも騙されねーんだもん。つまんねぇ」
あたまのどっかで何かがブッ千切れる音がした。
「むぁあああぁあああぁかぁあああぁぁぁぁチョーーーーーーーーーップ!!」
がっぎぃいいいいんと、鉄と鉄のぶつかる音。目覚まし時計vsソウルの柄。
「いってええぇぇぇぇぇえぇぇ!!?」
くるくる回りながらベッドに落ちてく壊れた目覚まし時計がスローモーションみたい。バネと歯車と文字盤、それから螺子と金属盤と謎の針金。
「ばばばばば馬鹿かテンメェェェエ!!死ぬよ!普通に殺人未遂だぞこれ!俺が片手変化解除してたら死んでたか腕一本もってかれてたよ!」
噛み付くみたいな顔のソウルが真っ青で私に迫った。
「うううううううわぁあぁぁぁぁっぁああぁぁあぁ!!」
もちろんそんなモンが怖かったんじゃないけれど。
「バカ!馬鹿が!クソが!ボケ!アホ!ほ、ほんきで、私、ほんとに……!!」
「……な、なんだよ、マカ……」
「ソウルがまたおかしくなったかと思って、あだじ、あだじ……!」
泣いてやる。泣いてやる。盛大に、ここぞとばかりに、あんたが一番困るタイミングで泣いてやる!おお泣きしてやるぅぅぅ!
「…………ごめん」
「許すかアホォォォォ!!詫びろ!謝れ!土下座しろおおおおおお!!」
縋り付いて胸の中で怒鳴り散らした。汗だらけのソウルの薄い胸板。せわしない鼓動がくすぐったい。傷が赤くほてっているのに気づいて、すごく舐めたいと思った。……しないけど。
「ごめん。やり過ぎた。すんません」
「許さん!許さん!絶対に許さん!!!!」
「ごめん、ごめん、ごめんなさい。許して、許してマカ」
こわばる身体にキスの嵐。途切れることなく、鎖骨に、頬に、手に、唇に、おなかに、乳首に。
「やだぁ……許さない……ゆるさない……乙女の純真よくも弄んだなぁ〜」
「だってタマには強気に出たかったんだもーん。マカをヒーヒー言わしてみたい男心〜」
まだキスは降っている。腋に、指に、目尻に、おでこに、二の腕に。
「ううううるせぇ〜バカヤロウ〜!謝罪と賠償を要求してやる〜〜!」
「……おうよ。何でもするぜぇ。掃除か? 洗濯か? ディナーの当番だって代わってやる」
私のおでこを全開にして、ソウルがそこをぺろんと舐めた。ホントはほっぺたに流れる涙を舐め取りたかったんじゃないの? ……まったく、あんたって臆病者ね。
「――――――しろ」
「……ああ?」
「ちゃんとしろ!」
「……なにをよ?」
「もっかいちゃんとしろ!!」
ぽっかーんとしていたソウルがはっと気づいたのか笑って耳まで切れ込みそうなほど口角を上げる。
「もちろんお姫様、ご存分に」
ソウルが私の肩を抱く。
「私がイくまで何回だって、しろ!いつもみたいに途中でやめるとか絶対許さない!満足するまでよ!」
ソウルが私の腰を摩る。
「仰るとおりに仕えますとも」
ソウルが私の肌を吸う。
「変な声出ても笑うな!いやらしいこと無理やり言わせるな!そ、それから、それから……!」
「ンン?」
「……さ、さっきの、お尻の、ちょっと良かった。もっかい」
言ってしまってからしまったと思ったけど、もう遅い。
赤い吸い跡がついた胸元からヨダレを巻き上げながらソウルがちょっとだけ眉を下げて顔を上げた。
「今度はもっと素直に気持ちいいって言ってくれよ。泣かれると正直、ホントは凹むんだから」
知ってるわよ。
私ソレが見たいんだもん。
思いっきり滴るベロで、水糊みたいに長く途切れないヨダレを傷に塗り込めてやる。にゅりにゅり指でこねくりまわす縫合跡。
頭の上で間抜けな声が聞こえたので
声には出さず言ってみた。
『イかせてくれなきゃイタズラするぜ!』
19:57 2008/12/11
| |