悪魔とワルツ

                カズマ × かなみ

                1  この家は隙間風が多くて冬はすごく寒い。だから診療所跡に住み始めた最初の年の冬、ベッドには二人で寝ていた。家中のシーツと毛布、麻袋やビニールシートなんてものまで全部引っ張り出さないととても眠れたものじゃないくらい寒かったもんだから。
                 「大丈夫か?寒くねぇか?」
                 「暑い……」
                 「バカ言うな、夜中はこんなもんじゃねぇぞ」
                 「家だいぶ修理したし、いざと言う時はストーブもあるのに」
                 「ダメだ!去年の大風邪を忘れたとは言わせねぇ」
                 ……アレはカズくんの寝相が悪くて毛布取っちゃったんじゃん……と、かなみは反論しない。人を追い詰めるようなことをしない心根の優しい子なのだ。
                 「あの頃は食べ物悪かったし、ちっちゃかったから」
                 「……今だって満足に食わしてる訳じゃねぇし、ちっこいだろ」
                 後ろ頭を掻くしぐさは決まりが悪い時の癖。カズマは実際、かなみを飢えさせたことはない。何だかんだと言ってちゃんと最低限の日々の糧は持って帰ってくる。……貯蓄とか栄養バランスという概念がないだけで。
                 「とにかく、お前に風邪引かれるとおちおち仕事にも行けねぇんだよ」
                 猫みたいに首根っこを引っつかんでかなみを布団の中に押し込めたカズマの手を、まるで最初からそうされることを知っていたかのような身のこなしでかなみが受け流し、カズマの背後に滑り込む。
                 「ぎゃははは!かなみっヤメロ!わき腹は反則だテメェ!」
                 「人のこと物みたいにしたぁ!」
                 「ゴメンナサイもうしませんイヒヒヒちょっ、おまっ!ヤメレ!そんなとこ弄ったら勃つだろアホ!」
                 「なによーっ!風邪でも引かなきゃ碌に家いないくせにーっ」
                 「スイマセンスイマセンこれからなるだけ早く帰ってきますからっヤメーッ!」
                 じたばたもがきながらカズマが身を捩り、ようやく捕らえたかなみの一掴み分の服を引っ張っては七転八倒する。
                 「絶対ー!?絶対うそつかない!?」
                 「やくそくー!やくそくーッ!」
                 わざとらしくハァハァ息切れの真似なんかしちゃって、といった表情でかなみが一睨みすると、案の定うそっこの荒い息を静めたカズマがため息を一つ。
                 「――――――何度も男の体を気軽にさわんなつっただろうが。オレじゃなかったらギャグじゃ済まねーんだぞ」
                 「カズくん以外触らないから大丈夫」
                 「……どーゆー理屈だヨ……」
                 「ふぅ〜ン……じゃぁカズくんの理屈ってどんなの?」
                 「――――――な、なんの話だ?」
                 「わたしが知らないと思ったらおーまちがいだよぉ」
                 「だ、だからっ……な、に、が」
                 カズマの体にぎゅーっと抱きついたかなみは着古しのアンダーウェアをゆっくり捲り上げながら、古傷だらけの肌に舌をあてがい、臍の少し上をぺろぺろ舐めた。
                 「〜〜〜っ!!?」
                 背筋が蕩けるんだか粟立つんだか総毛立つんだか、ともかくカズマは声にならない悲鳴を上げて全身がフリーズしてしまう。
                 「なんだよーせっかく帰ってきたのに寝てんなよ〜相手しろよ〜」
                 それに追い討ちをかけるように、かなみは唇をカズマの肌に微かに当てたままでそう低く絞った声を出し。
                 「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
                 ついに口どころか喉まで引きつって呼吸すら儘ならないカズマの腹を舌でくすぐり続けた。
                 「このまま寝たら怒るかなー怒るよなーぬくいなーさらさらだなーむにむにだなーきしょくえー」
                 「〜〜〜ぃっ…!!」
                 「あーぐりぐりぐりぐり〜」
                 ちなみにこの『ぐりぐり』というのは顔を全部腹部に押し付けて左右に頭を振るしぐさをしながら喋っているため、かなみの声はかなり間延びした間抜けなものになっている。

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                 「……って、よくやってるよね。お酒のにおいさせた日に」
                 顔を上げたかなみがもう一度にこっと笑ってカズマに問いかけた。
                 「これってわたしの『カズくんなら触っても大丈夫』って理屈と同じじゃないだ?」
                 じゃあどういう理屈でやってるのか教えて?かなみが脂汗をたらしながら顔面蒼白になっているカズマに詰め寄るような格好で乗り出している。
                 「あ、あ、あ……」
                 「あ?」
                 「だからぁっ……だから…!…そのっ、……まぁなんだ!と、とにかく落ち着けっ!なっ!」
                 頭の中から一切の言葉の抜け落ちたカズマが意味のわからない事をとにもかくにも声に出してなんとか宥めようとするが。
                 「落ち着くのはカズくんだよ」
                 当然地雷を踏んづけて盛大に負傷しているのはカズマだけなので、取り付く島もないかなみの言葉に継ぐべき反論などあろう筈もなく。
                 「――――――すんません――――――」
                 「謝らなくてもいいよぉ。どういう理屈でカズくんがぐりぐり〜ってやってんのか知りたいだけだもん」
                 進退の窮まったカズマの渾身の謝罪にすら、かなみは言葉尻を可愛らしく持ち上げてうふふと笑うだけ。
                 逃げ場などない。
                 (先ほど『人を追い詰めるようなことをしない心根の優しい子なのだ』という不適切な表現があったことを謹んでお詫び申し上げます)
                 「……いや……だから……なんつーか……」
                 「なに?」
                 「夜道長いこと歩いて帰ってきてサ、かなみ寝てたりすっと……なんちゅーか……起こすのもナンだし」
                 「うん」
                 「……ちょこっと寝てるかなみいじって遊んだりしてました!無断で!すんませんでした!」
                 もうヤケクソになったのであろうカズマが悲鳴を搾り出すようにして、ベッドの中で土下座をした。
                 「それって他の人にもしてるの?」
                 「するかっ!…………っ!」
                 にやーと笑った少女が声にならない声を必死で押し殺しながら、ちょっと首をかしげてカズマの顔を覗き込む。もちろんしてやったりという意味で。
                 二の句どころかリアクションすらする術のないカズマが歯軋りとも照れ隠しともつかない不可解なしぐさをなんとか押しとどめようとしているが、元々の不器用が祟って全く何の意味も無い。そのしぐさがなんとも言えず、かなみには嬉しいのだろう。
                 「……さわっていい?」
                 返事も聞かずにカズマの懐に潜り込んだ。
                 カズマはだらしなく緩みそうになる頬を引き締め、何とか苦虫を噛み潰した顔を探し出すのに苦労している。
                 「なんでカズくんにぎゅーってしたらだめなの?」
                 不意に胸から篭ったかなみの声がして、カズマは薄く息を呑んだ。……理由をどう説明したものか。どう教えたものか。
                 もちろん誤魔化すという選択肢も思い浮かんだ。だがこの聡明な少女を上手に騙し切る自信もなかったし、なによりもどう誤魔化して良いものだかさっぱり見当もつかなかったカズマは、仕方なくのろのろと口を開いた。
                 「……ワリィ。オレ、かなみのことがどうこうっつうんじゃねぇの。
                 子供自体がさ、スゲー苦手なんだよ。悲鳴とか涙とか我慢してる顔とか謝ってる素振りとか、そういうの見ると吐き気するんだ。
                 お前のそういうの、考えただけで胃がムカムカする。だからあんま、触りたくねぇ。……どう触っていいかワカんねぇし」
                 ぼそぼそと低いかすれた声がかなみの頭の上に降っている。カズマの、声が。
                 「……んでも、寝てるかなみはなんつーか……泣きはしねぇからさ、触っても平気なわけ。……や、起きてても触ったくらいじゃ泣かねぇのは知ってっケドよぉ。
                 小さいカタチが動いてるのがダメなんだわ。なんか、思い出す。――――――気持ち悪くなる」

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                 「…………ちっさい子、泣いてるとこ、みたの?」
                 「知ってんだろ?昔から多いんだよ、この辺」
                 「可哀想だったんだね」
                 「…………。」
                 「カズくん、かなみに触るの、こわい?」
                 「――――――自分でもよくわかんねぇ」
                 カズマの後ろ頭を掻く動作を見逃さなかったかなみが、その手を掴んだ。
                 手首のちょっと上、掌の下半分にも満たないかなみの手がカズマの腕をベッドに押し付けている。
                 「じゃあ、わたしがカズくんに触るのもダメだったらどうしたらいい? 隣りに一緒に居るだけで我慢しなくちゃだめ?
                 そんなのやだよ……さみしいもん……」
                 「………………。」
                 バンダナの解かれた長い髪がカズマの肌に流れていて、その冷たい髪を彼は触りたいと思った。小さな手で封じられている腕を振りほどいて、何の意味も無く引っ張りたいと。
                 「……そんな顔すんなよ」
                 結局カズマはかなみの手を振り解きはせず、手を掴んだまま腕を広げた。短いかなみの腕がぴんと伸びて自重を支えることが出来なくなり、結果としてかなみはカズマの胸の上に倒れ込む形になってしまう。
                 「胃がキューってなる」
                 二人は何も言葉を発せず、そのままの形でカズマはかなみの髪の隙間から崩れてすす汚れた天井を見ていた。かなみはカズマと自分を結んでいる手の先にある、窓から差し込む鈍い星の光が作るひび割れた床の四角いスポットを見ている。
                 空気は張り詰めたように冷たくて、息を吸い込むたびに鼻先が痛んだ。瞼や耳たぶも冷たく乾き始めたカズマは、それでも微動だにしない。
                 「かなみ」
                 「……なに」
                 「お前オレが怖くねぇのか?」
                 「全然」
                 「……ふぅん」
                 「カズくんはわたしのこと怖いんでしょ?」
                 「……さぁな」
                 「――――――――――――怖くなくしてあげる」
                 腕の戒めを解き、かなみが上半身を持ち上げてずるずるカズマの頭にまで上り始める。普通ならやめろとか面倒くせぇとか文句の一つも言いそうなものなのに、黙ってされるがままのカズマにかなみは訳もなく少し胸が痛んだ。
                 「ね、こわくない。こわくない」
                 小さな女に子に頭を抱かれ、後ろ頭をぽんぽんと軽くなでられるというのがこんなに恥ずかしいものだとは知らないカズマは、カッと頭に血が上るのにも似たような気分。しかしそれは彼によくなじんだ怒りや憤怒などではなく、どこか懐かしく甘い寂しさを連れてくるものだった。
                 『女ってのは……』
                 それから先は単語にすらならなかったが、カズマはその崩壊した言葉の先を探すことをしない。
                 「かなみ」
                 「……なに」
                 「そおゆうのは、あと5年経ってからやってくれ」

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                 「――――――悪かったって」
                 「知らない。」
                 「だってよぉ……」
                 「なによっ!カズくんが泣きそうな顔してたからよしよししてあげたのに!もーいいもん!カズくんなんかきらい!あっちいって!」
                 完全に臍を曲げたかなみはあからさまに背を向けて丸まってしまった。こうなるともはや手の施しようがないことをカズマはよく知っている。可憐で丁寧で親切な外面とは裏腹に、このムスメは頑固で一途でおまけにカズマに感化されたのか、意外に気分屋なのだ。
                 「どーせ胸ないよっ!」
                 「いや、そういう意味で言ったワケじゃ」
                 「カズくんの巨乳マニア!いやらし星人!エッチ三等兵!」
                 意味はよく解らないが罵倒されている事はよくわかる。ちっとも腹が立たない上に、あまりにも馬鹿馬鹿しい単語がポンポン出てくるので逆に笑いそうになるだけだが。
                 「……すんません……」
                 なんだかさっきから謝ってばかりだな、とカズマが苦笑いを噛み殺した。実の所、彼はこういうのが好きだ。頭ごなしに怒鳴られるのはもちろん勘弁願いたいが、かなみに拗ねられたり怒られたり叱られたり注意されたりされるのをいつも悪くない気分で聞いている。
                 「心から謝ってない」
                 ふん、と鼻息も荒くかなみが背を向けたままきっぱり言った。
                 「ごめんなさい」
                 眉を下げたカズマはただただ畏まった声を出すしかない。
                 「……すっごい傷付いた……」
                 丸まっていた身体を解いたかなみが顔だけをカズマの方へ向けて、絡まった髪の隙間からぽつりとそう零す。
                 「遺憾でス」
                 それに気付かないカズマは同じ調子で知りうる限りの謝罪の単語を頭の中から探している。
                 「……なぐさめて」
                 その言葉にカズマは初めてギクリとなった。
                 声の調子、言葉の種類、イントネーションのテンポ。その辺の女が『いいこと』を自分に誘う時と変わらぬ言い方。
                 背筋が嫌な具合に痙攣している。とても恐ろしいものを見たときのように。
                 少女が手に触れた瞬間ビクッと大袈裟に驚いた。本当に何の予想も出来なかったのか、カズマは思わず飛びのく動作までしてしまう。それが結果的に単なる動作で終ったのは重たい布団の恩恵でしかない。
                 「……そんなにや?人に触られるの、そんなに気持ち悪い?」
                 「――――――ちっげぇよ!」
                 「じゃあ、どうして……」
                 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!……笑うなよ……絶対笑うな!」
                 「えっ…………あ、うん。笑わない」
                 人間、あまりに唐突で突飛な事が起きると精神状態の落差により普段なら絶対に笑わないような場面で吹きだしてしまう事がある。
                 「かなみのイロっぽい声で……勃った。」
                 「ぶはっ」
                 かなみにしてみれば普段見たこともない真剣な表情のカズマが真顔のまま少し俯き加減で告白する場面で、まさかいつもの使い古したシモネタを放つとは思わなかったが故のことだろうが、カズマにしてみれば言い出しにくいことをやっとの事で話したというのに、あまりに無体なリアクション。
                 「わ、笑うなっつったろうがーっ!!」

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                 「ごめーんカズくーん」
                 「知らん」
                 「機嫌直してー」
                 「……あっちいけ」
                 カズマがこういう見え透いた拗ね方をするのが珍しいので、かなみはどうしても笑いを止める事が出来ない。くすくす笑いが混じった声で様子を伺えば伺うほど逆効果。余計にカズマの機嫌を損ね続けている。
                 「だってぇ……いきなり笑わそうとするんだもんズルいよぅ」
                 「……約束したくせに」
                 「いつものギャグで笑うなとか無理だよ」
                 「…………じゃねぇ」
                 「はい?」
                 「ギャグじゃねぇっつって――――――」
                 はっとカズマがそこで言葉を止めた。
                 かなみが両手を頬に当て、言葉にならない言葉を目で訴えていたから。
                 「……それ……、カズくんわたしにドキドキしたってことだよね?」
                 薄暗くて寒い部屋のベッドの中。
                 「――――――そぉだよ。悪ィか」
                 埃の匂いと、女の匂い。
                 「…………嬉しい……」
                 カズマは随分久しぶりだなぁと思った。殴りあいだの私刑だの化かし合いだの、血生臭いこと以外でこんなに胸がどきどきとうるさいのは。
                 「笑われて傷付いた。慰めろ」
                 「……うん」
                 胸を触るとどきどきしている。服の上からでもその鼓動は驚くほど力強くて、確かな存在感を放っていた。手を通して自分の全ての細胞に刻まれてゆく小さな女の子の生命の音。尊い音楽。心地良い振動。
                 カズマは小さな胸に耳をあてるように伏し、目を閉じる。うるさいほど聞こえる血のビートに自分の中のコントロールできない焦燥感を煽られている気がして、かなみの手を探り出して握った。
                 「お…………ムネ、なくて……ご、めん、なさい……っ」
                 ユデダコのよーに真っ赤な顔をして、処理速度の限界を突破してしまったかなみがようやく言えた言葉などカズマは最初から聞いていないのか、それを受けてのことなのかは本人にもきっとわからない。
                 ただ胸のところ、つまりおっぱいにカズマが服の上から口をつけた。
                 「〜〜〜〜〜っ〜〜〜!?」
                 かなみの声にならない悲鳴にも負けず、執拗にちゅーちゅーちゅーちゅーと音がするまで吸い続けるものだから、そこのとこだけ濡れて色が変わってしまっている。
                 「や!やっ!やぁ〜!」
                 「んぁ」
                 我慢の限界に達したのだろう。かなみが必死にカズマの額を片手で押し上げて自分の胸からぬるい唇を引き剥がした時、ピンク色のTシャツには濃い水玉模様が出来上がっていて、そこからカズマの舌まで伸びる唾液の筋が一瞬だけ光って途切れるのが見えたような気がする。
                 「……ちくび、たってる……」
                 ぼそっとカズマが独り言みたいに、濡れた部分に人差し指をあてがいスイッチを押し込むみたいに指の腹を沈ませて言った。
                 「エロッ」
                 「ばかああああああああ!」

                6
                 ぶるぶる小刻みに震えるかなみの肩が身を捩って悶えているようにも思える。もちろんそれは単なるカズマの希望的欲求から生まれた妄想でしかないのだが、この状況で冷静に観察・判断しろというのも無茶な話だ。
                 「ふ、普通キスからじゃないの!? なにイキナリおっぱいって! 意味わかんない!」
                 「やー、口は割りと頻繁にヤッてるからー、普段触れない所をー」
                 「ヤッてるとか言わないで!」
                 「……顔赤ぇな」
                 「赤いよ!いけない!? ……き、きもちよかったんだもん!」
                 「――――――気持ちいいのに何怒ってんだ?」
                 唇を塞ぐ。小さな唇がびくびく蠢いているのを、カズマは少しの違和感と説明できない鼻腔をくすぐる甘ったるい匂いに飲み込まれながらも感じていた。
                 思えば自分からこうするのはいつ振りだろう。自発的にこうしたいと思ったのはどのくらい前だったか。
                 彼は彼女とキスをするのは別にこれが初めてというわけではない。もちろん頬っぺただとかオデコだとかというかなみの歳に相応しいキスをカウントしないで、だ。おそらく両手両足の指で足りないほどはこなしているが、その殆ど全てといって遜色が無いほどかなみから一方的にされるものだった。
                 『やべぇ……』
                 吐きそうだとカズマは思った。身体が言うことを聞かない。胸はムカムカと気持ちが悪いのに腰に鈍い痛みまで走るほどズキズキ猛っている。上半身と下半身がばっさり切り取られて別々に動いているかのように。
                 「んん……っ」
                 ちゅくっと小さな水音を残し、かなみの唇からカズマの唇が離れた。
                 「……もう、寝ろ。オレももう寝る」
                 背を向けてそっけなくそれだけ言うと、彼は眉を顰め必死に吐き気をなだめようと細く深い呼吸を数度繰り返した。少しでも身動きすれば胃の中の物を全てぶちまけてしまいそうになる。
                 「――――――カズくんっていっつもそう。
                 わたしの身体、ちょっと触っただけで気持ち悪くなっちゃうんだよね。
                 ほんとは触りたいのに、ほんとはぎゅってして欲しいのに……怖いんだ」
                 背中で篭って聞こえるかなみの声は柄にもなく低く沈んでいて、カズマはそれがひどく心地悪かった。自分がそうさせている事実と共に、胸を掻き毟りたい。
                 「……そうだよ。ダメでクズでウスノロの根性なしカズマですよぉーだ」
                 「意気地なし」
                 昔、少なくともこの少女に会うずっと前なら、カズマはきっとここから逃げ出すか、もしくは力でかなみを黙らせただろう。
                 「あァ怖いね!……お前なんか大して力入れなくても捻り殺せんだよ、オレは。……ツブせるんだよ、人間を!」
                 だがカズマは君島と出会い、かなみと出会い、穏やかに生きてゆくことの難しさと喜びをもう知っている。そして、かなみが自分を大切に思い、自分もまた同じだということも。
                 「よかった」
                 「……ハァ?」
                 「わたしが怖いんじゃないんだ……よかった……」
                 安心したような笑顔のかなみに向かって盛大に眉を歪ませたはずなのに、カズマの口角は引きつりあがって頬がだらしなく緩んでいる。もちろんこれを渋い顔、などとは呼ばない。普通は泣き笑いと表現する。
                 「――――――怖くないよ」
                 筋肉で締まった左肩を力強く押し倒すかなみの濡れた目は、いくつも修羅場をくぐったカズマから見ても揺らがぬ強い意志が存在していた。
                 「カズくんのこと怖くなんかない。全然、ちっとも、怖くなんかないもん……だから、にげないで……」
                 たどたどしい唇が祈るようにカズマの尖った唇に重なった。しばらくうっとあごを引いていたカズマだったが、かなみが少し深くくちづけしたのを契機に自ら力を入れて少女の口内に侵入した。

                7
                 泣いている少女の目というのは、どうしてこうも男の本能を著しく揺さぶるのだろう。
                 かなみが真剣なのは解っている。もちろんその真摯な態度によってカズマは性根を据える覚悟をしたのは間違いない。
                 「な、泣くなよ……ほんとに、ソレ、だめなんだっつったろ……」
                 「だってぇ……カズくんがぁ……」
                 可哀想だと言いたかった。不憫だと言いたかった。でもそれは言葉にはならず、してはいけないような気がした。だが、言葉を飲み込めば飲み込むほど涙があふれ出てくる。
                 「だぁあぁ!泣くな!」
                 目じりに溜まりとめどなく流れる涙に噛み付くがごとく、カズマはかなみのまぶたに口をつけた。一瞬こわばったかなみの身体に全身が軋む。
                 舌が小さな頬に這う。ぬるい温度が冷たい肌に軌跡を作った。
                 途切れ途切れの吐息がかなみの耳に届く。はぁ、はぁ、と短い呼吸を繰り返すカズマの様子は、今まで見たどんな彼よりも重苦しく、昏い目をしている。
                 怖ろしい。かなみが震えるのも無理はないのに、小さな少女は彼の目に映る自分の顔が歪まぬように必死に笑い顔を作った。
                 「カズくん……カズくん…っ…!」
                 突き動かされるような本能に比べ、なんと弱弱しい理性だろうか。だがカズマは初めてソレに縋りつきたい、しがみ付きたいと心から願う。荒れ狂う衝動ではなく、頭の隅に縮こまっている理路整然とした理由で行動したいと心のどこかが欲していた。……もちろんそんなことを的確に表現できるような脳みそは彼にありはしないが。
                 「かなみィ……覚悟はあるか?
                 これからお前の身体を全部まるごとオレに預ける覚悟はあるか?
                 痛いのキライなお前が……明日も明後日もその次も、もっとその先も……イタイのを強いるオレとずっと顔を突き合わす覚悟があるなら」
                 オレはお前を抱く。
                 カズマが呼吸を整えてから断言した。視線はまっすぐで、どこにも迷いがない。
                 「覚悟がないならもう寝ろ。オレも寝る」
                 「……ずるい」
                 静かにかなみが続けた。
                 「カズくんはある?……わたしが泣いても、怖がっても、わたしを放さない覚悟はあるの?」
                 凛とした声は震えもせず、胸や頭を貫いてなぎ倒すような衝撃をカズマに与えた。その衝撃に驚く暇も与えずただただ血の気が引いてゆく。
                 「わたし、カズくんが怖いからとか、守ってくれるからとか、助けてくれたからここに居るんじゃない。強いから、かっこいいから、優しいから……そんな理由でカズくんと一緒に暮らしてるんじゃない。
                 ちがうんだよ。……わかってるよね?」
                 徐々に崩れてゆく声が、どんどん歪んで震えている。たまらなく、切ない。
                 「嘘つきでも、約束破りでも、不真面目でも、生活能力ゼロでも――――――」
                 「オッケー解った。それ以上は言うな。……心が挫ける」
                 「だめ!ちゃんと聞いて!わたしはカズくんが――――――」
                 それ以上は無言。
                 無音。
                 彼女がそれ以上何を言おうとしたのか、彼は知りたくない。カズマの言葉を借りるならば『心が挫ける』からだ。萎えるのではなく、ぶれるのではなく、挫けてしまう。
                 小さな守るべき被保護者を性の対象とする。たった一人の大切な家族を欲望の対象とする。数少ない心開ける人間を非日常の対象とする。
                 そんな恐るべき結果を連れてくる行為を、それでも欲している自分の心が挫けてしまう。
                 好きだなんて、聞いたら。
                 だからカズマはかなみの口唇を塞いだ。唇と、舌と、唾液……そして体温で。
                 不思議と吐き気は感じなかった。ただ少し、心臓の奥の方がシクリと痛んでいる。

                8
                 後ろめたい気持ちと、捨てきれぬ罪悪感、まだ燻っている吐き気。カズマは必死にそれらを無視し、目を見開いて確信の漲る全身の手綱を引き締めていた。
                 ピンク色のパジャマに包まれている小さな身体は温かく、少し痩せてはいるけれど子供らしい柔らかさと少女らしい優しい匂いに満ちていて。布団の中でカズマが組み敷いている人間は紛う方無き女の形をしていた。
                 「……髪の毛、踏んづけるから……頭上げろ」
                 いつものように髪を一まとめに持ち上げる。
                 「アァ……っ」
                 鼻に掛かる甘い悲鳴に耳がこそばゆい。ぞくぞくっと首筋に悪寒とも興奮ともつかぬものが走った。
                 「な、なんだ……?」
                 「……なんでもない……!」
                 のぼせたような赤い顔のかなみがぎゅっと身を縮めた。カズマの指が触れている首筋を隠すように。
                 「………………。」
                 カズマは不思議そうにその様子を見て、人差し指をコの字に曲げて第二間接の背で薄い産毛の首筋を撫でた。
                 「いや……っ」
                 もう一度。
                 「やぁん!」
                 せっかくなのでもう一度。
                 「だ、めぇ……!もうっカズくんわざとやってるでしょう!?」
                 流石のかなみも涙目でキッとカズマをにらみ付けた。そこに鋭さはなく、せいぜい子猫が威嚇している程の迫力しかない。
                 それが悪かったのだ。
                 それこそがいけなかったのだ。
                 「気持ちいいと目ェ閉じるんだな」
                 一言それだけを残してカズマはかなみの首筋に唇を近づけて舌を伸ばした。ザラザラとした感触と、強い弾力が舌に未知の感動を与える。かなみの肌はひどく美味そうで、やたらに唾液を誘う。
                 「ひやぁぁ〜!」
                 耳元で啜り上げられる水音と微かに当たる硬い歯が交互に迫っては鼓動を狂ったように早める、カズマの荒い息。全身がビリビリと震えてどうにかなってしまうそうだ。頭の先から足の爪まで、どこもかしこも緊張と快感で弾け飛ぶんじゃないだろうか!
                 「は、はずかしいよぉ……あた、まおか、し……あひっ!?」
                 情けない叫びとも我慢が出来ない喘ぎともつかないかすれた声が暗闇に広がっていく。
                 ゾクゾクゾク
                 ざわつく背筋のおかげで、カズマはようやく全身が統一されたような気がした。頭も、心も、身体も、そして魂も、全てがこの少女に焦点が合う。奇蹟のような、当たり前のような……カズマには珍妙で不思議に思えた。
                 『かなみを抱くなんて、考えた事もなかったな』
                 冷静な頭の中がそうカズマ自身を嘲う。だが彼はその自らの嘲笑にさえ胸を張った。
                 「目ぇ……ちゃんとこっち見ろ」
                 枕代わりのタオルの束の上に一まとめにした長い髪、それに隠れる事も出来ずに両手で自分の顔を彼の視線から遮るかなみに、カズマは少し強い口調で言った。
                 「オレを一人にするな」
                 胸が破れるかと思った。喉が裂けてちぎれるほど歓喜の叫びを上げたい。なのに身体は言うことを聞かずにガクガク揺れて涙だけが溢れていく。
                 「……うん……!」

                9
                 「はひぃ……んぁぁっ……!あっ……いっぅ……ぅン……」
                 ぴた、ぴた、ぴた。ひたひたに潤った右の乳房を口で、左の乳房を右手でカズマが執拗に愛撫している。ピンクのパジャマは左肩がまろび出るほど無理矢理にめくり上げられ、乱暴に脱がそうとしたのか、固まったパジャマの布でかなみの右腕は殆ど動きが取れないほど固定されていた。
                 動かないほどパジャマが絡まった右腕と何とか自由になる左腕で必死に紅潮した顔を隠そうとするかなみを、カズマは熱心に舌と指で愛撫し続ける。
                 「きもちいいか?」
                 意地が悪い、とかなみは泣きたくなった。いつもの彼なら彼女が少しでも嫌がることはしない。それが当り障りのないことであっても。だが今のカズマは違う。かなみが一番困る質問だけを選んで一番答えにくいことだけを聞きたがった。
                 「いっ……い、い、よぉ……きもち、いいで……す……ぅっ」
                 「どれくらい?」
                 「――――――もっと……してぇ……!」
                 満足そうに口元を歪ませて、カズマはぷくんと立ち上がっている赤く腫れ濡った先端を放し、ぬるぬると滑る舌を肌から放さぬまま、ゆっくりと腹の方へ移動させた。
                 そして彼自慢の右手はそろりそろりとなだらかで木目の細かいウエスト・ラインを柔羽で擦るかのような慎重さで滑ってゆく。そこにいつもの粗暴さも荒々しさもない。価値の高いガラス細工でも扱うかのようだ。
                 「ぃアッ……!?」
                 思わずかなみが嬌声を上げた。臍にカズマの舌が到達したのと同じくして、滑っていた右手が下着ごとパジャマのズボンをずり下げるようにして肌を伝ったのだ。
                 「あひぇぇ〜!!あだ、あやぁぁ!やぁあ!」
                 パニックに陥ったかなみが必死で右膝を持ち上げてズボンがそれ以上下がらないように阻止する。……が、それに関しもせずカズマの右手はしっかりとかなみの左の尻肉を掴みながら、舌で臍のくぼみを弄んでいた。
                 水音がする。
                 くちゅくちゅと擦れるような小さく他愛無い音。
                 だがそれにかなみは戦慄し、カズマは更に興奮する。
                 「いひぃ……あぅ、あう、くぃぅゅぅー!あハぁぁぁ〜っ!」
                 もうだめだ。頭が狂ってしまう。もうこれ以上はどうにかなってしまう。くすぐったいのだ。こそばゆいのだ。たまらなくむず痒いのだ。……そういう事を伝えたい。それをもたらす手や舌を押しのけ振り払ってしまいたい。
                 そう思っているはずなのに、とかなみは荒く短い呼吸の中で何度も言い訳のように思っている。だがその燃えるような紅い唇には崩れて意味をなさぬ獣の鳴き声にも似た音しか乗りはしない。
                 いとしい名前すら、彼女の口は紡げなかった。
                 恐怖と快感と名も知らぬ多幸感、高揚するのに何処か頼りなく、混乱している筈なのに何故か正気のままこうしている。ただ、ただ、彼の体温が、素肌が、行為が、嬉しい。カズマが貪るように自分を求めていることが誇らしく、いとおしかった。
                 背中、わき腹などは下から上へ滑らせるように慣れた手つきで擽り続けていた。極力重さやスピードを控えて、つるりとしたボディ・ラインを何度も行き来するのはとても楽しい。ぴくぴくと無意識に腰を跳ね上げ身を捩りながら痙攣するかなみの身体は、薔薇色を遠に越えて珊瑚色に妖しく輝いていた。
                 ぬるぬると自分の唾液にまみれた身体は強烈にカズマの劣情を刺激して止まない。荒い呼吸に合わせて上下する薄いバストさえも今の彼には過去に見たどんな妖艶な女性よりも魅力的に違いない。
                 女性はなまめかしい仕草こそ相応しいという持論を変えねばならぬとカズマは心のどこかで笑った。
                 ぎこちなく縮こまるかなみのなんと美しい事か、……なんと離し難いことか。

                10
                 つややかな肌の全てをこの目で見たい。贅沢は言わない、月明かりでも星明りでもなんでもいい。この目に焼き付けたい。
                 普通の男ならそういう欲求はあって当たり前だ。もちろんカズマに在っておかしい理由などどこにもない。だから彼はそうしたのだ。誰がそれを責めらりょうか。
                 「……だ、だめ!」
                 もはや掛けていたとは言い辛いほど押しやられていた布団を、カズマは全て引き剥がしてしまった。辛うじてかなみの顔や下半身を覆っていたものが取り上げられて、もはやかなみを守るものは身に付けている乱れた衣服だけ。
                 「はぁっ、はぁ、はぁ……」
                 「……さ、さむいよぅ……」
                 鮮やかな色彩ではなかった。部屋の中は暗く、窓から差し込む月光からは遠く離れている。
                 それでもカズマはどうしようもないほど全身が震え、昂ぶり、狂う。
                 荒い息に塗れたかなみの周りは白く濁っており、この部屋がどれだけ寒いのかを初めてカズマに知らせた。それに似合わぬほど紅く火照るかなみの頬や顎、鎖骨や額の何処にも玉の汗が浮かんでおり、いく筋かはシーツに垂れている。
                 髪はまるっきり乱れ絡まって額や顔に張り付き、涙と涎で輝くかなみの顔は絶頂に達した娼婦のそれよりもカズマの平常心を激しく揺さぶった。
                 『だめだ やべぇ これ以上は 潰れちまう オレが 狂って壊れてしまう』
                 見え透いた言い訳だと自分でも思う。安い狂気だとも思う。呆れるほど下らない本能だとさえ。
                 かなみには向けたくなかった。……いや、己の中にある事を知られたくなかった。
                 カズマは別に本能の虜という訳ではないし、自制心がないわけでもない。だが己のどことも知れぬ奥底から沸きあがって来る昏く澱んだ感情は、確かに自分の原動力の一つではあったのだ。それに抗い、逃れ、反逆することこそが彼を彼たらしめていた。
                 だからこそ彼女には向けられない。
                 なのに、今はこのどうにもならない猛り狂った衝動をぶつけたい。このちいさな少女に。弱々しくふるえるかなみに。
                 ゾッとする。同時に血が踊った。そんな自分に忘れていた吐き気が戻ってくる。
                 そんな茫然としたまま跪くカズマの表情をかなみは焦点が合いそうで合わない歪んだ視界で捉えていた。少し呼吸を整える時間があったことも幸いだった。
                 細く白い腕をやっとの事で伸ばして、かなみは言う。
                 「……カズくん、一人にしないで」
                 解っているとは言わない。けれど彼女は知っている。目の前で泣きそうな顔で力なく佇む彼を。カズマを。
                 甘えた声ではなかった。泣き声でも欲求でもなかった。命令ですらなかった。それが彼を救う。かなみの声が破壊衝動に溺れかけたカズマを救う。
                 「……するわきゃねぇだろ」
                 精一杯の力で吐き気を飲み込み、笑った。そうすることでせめて彼女と形だけでも対等でありたかったから。
                 自分に伸ばされた白い手を取り、少し力任せに引っ張り上げて冷たく濡れたかなみの身体を抱きしめた。力を入れて抱きしめれば抱きしめるほど不思議な温さが増し、安堵する。
                 そしてたまらなくドキドキとした。さっきの血の気の失せる心臓の脈動とは違い、胸が赤い血の温度で掻き混ぜられているようだとカズマは思った。
                 「――――――ほんと?信じていい?これから絶対、ちゃんと家にいてね?」
                 かなみの少し調子外れに笑う明るげな声が、深く深く耳の奥に沈んだ。たまらなく心地良い刻印だ。
                 「――――――善処、しまス」
                 んもう!拗ねたような呆れたような、そしてどことなく満足げな溜息が二人の顔をほころばせた。柔らかく笑うかなみの唇に、なんの衒いもなく純粋に欲求に任せて深く口づける。
                 むねが、どきどきする。ただ素直に、狂おしいほど。

                11
                 随分前から裏腿のあたりまでずきんずきんと痛みのように血液が滾り巡っていた。もういい加減我慢の限界というやつだ。ここでズボンを脱いでもこの流れ上なんらおかしくない。はずだ。つーかもうダメ、はっきり言って壊死する寸前。幾重も弁解を巻きつけた手をカズマはズボンの金具にかけた。
                 かけた。
                 が、手が動かない。
                 我ながらアッパレだぜ、この極限状態でもまだチンケな自制心が残ってやがるなんざ。
                 彼の大雑把な性格を知る人物は意外に思われるかもしれないが、カズマという男は風呂でもない限り家で上半身を裸にするのさえ躊躇う。怪我の手当ての為にかなみの前で胸をはだけるのすら嫌がるのはもはや異常とも思える。尋常ならざるほど、カズマはかなみに裸を晒すのがキライだ。
                 アレだけいたいけな少女の身体をいいように弄り倒した男の思考回路とは到底思えない。……だがどうにもダメなのだ。どうしても彼女の目の前で自ら服に手をかけることが出来ない。自分の戒めを解くことに恥じらいを越えて恐怖すら感じる。
                 それでも、それでも同じくらいかなみを求めているカズマが、中断することを許さない。
                 かなみはズボンの金具に手をかけたまま固まって動かないカズマの意図を察した。それはかなみにとってある種の追体験に近く、自分と同じようにされたがっている、と理解したのも彼女の年齢はさておき、自然とは言えまいか。――――――否、言わざるを得まい。
                 だから彼女はそうした。
                 驚き戸惑う固く結ばれ錆付いたように動かないカズマの手をかいくぐり、ズボンの金具を外す。
                 それが最後の封印とは理解しないまま。
                 「――――――っっ!!」
                 「ズボン、脱ぎたいんだよね?ボタン外してあげる。
                 それから――――――どうするの?どうして欲しい?……カズくん」
                 跪いたままの格好で膝までズボンを容易く下ろされ、下着と捲れ上がったアンダーウエアだけという、きょうび三歳児でももうちょっとまともに着るだろうにという間抜けにも程がある格好でカズマの顔面はめでたく蒼白に彩られてしまう。
                 なに?なに?何が起こっちゃってンの?
                 その混乱の極みに、感情の錯綜に、肉体の限界に、ついに最後の審判を下した。
                 カズマが自らの力と意思で。
                 「……触ってくれ。手で、ここを……」
                 せめてもの抵抗だったのだろう。かなみを胸に掻き抱いて視界を限定し、カズマは白くか細い腕を掴んだまま自分の硬く直立する器官に誘導してゆく。
                 かなみにちんこ触れってなにオレ?バカなの?変態なの?しぬの?
                 柄にもなく真っ赤な顔のカズマは自分のセリフに目を廻しかねない発狂寸前。
                 ≪どうするの?どうしてほしい?カズくん≫
                 アレはもしかして脅し文句だったんだろォか。カズマはどうにもならないことに思考を向けて我が身の望んだはずの事態から目をそらすのに全力を傾ける。
                 そんなことを気にも掛けない少女は、初めて与えられた自分の仕事に目を輝かせて言われたとおりに遂行した。
                 「お、おいっ!か、かなみ!」
                 小さな手が下着を伝いその中に差し込まれ、花弁のように可憐な人差し指でそっとその剛直に触れる。ぬめぬめと粘つく粘液がかなみとカズマに橋を架けているのが解る。
                 「……ぬれてる……」
                 「〜〜〜〜〜〜〜ぃっ!!」
                 「熱いね……」
                 まるで子供が発熱した時のように火照るカズマの肉体はこの部屋の寒さすらものともしないほどだ。だがそれを踏まえてもかなみの触れている部分の熱量は異常ともいえた。

                12
                 カズマにしてみればいきなりチョクで触られるなどとは全くの予想外。絶対に躊躇うか、さもなくば嫌がるか、最悪泣かれるものと思っていたのだ。なんたって自他供に認める“汚いとこ”だから。下着に触れさせるのさえ大きな賭けだったというのに。
                 「…………あー」
                 「なに?」
                 「…………べつに」
                 カズマがもうどうとでもなれという表情とは裏腹に、諦めきれぬ頭の中で何度も何度もみっともなく悲鳴を上げていた。
                 確かにちょっと触ってとは言ったけど、誰も直接扱けなどとは言ってない。……言ってないよな?……うん、言ってない。言ってない。
                 ≪どう触ったらいいの?≫
                 ≪……だから、こう、手で、擦る≫
                 ズボンを下着ごと脱ぎ捨てて実演している間抜けなカズマを心配そうに見守るかなみ。
                 ≪だ、大丈夫?そんなに強くして痛くないの?≫
                 ≪ちょっと強めにする方が、その、なんだ……イイんだヨ≫
                 カズマはつい3分ほど前に交わされた短い会話を思い出しながら、せっせと言われた通りに小さな両手で自分の局部“一番ココチヨイトコロ”を弄るかなみのつむじを見ている。
                 もうオレはだめかもしれんね。
                 上手いのだ。気持ちいいのだ。熱心なのだ。たどたどしいおっかなびっくりの手つきではあるが、自分の腿と腿の間でダンスを舞うかなみの手はじれったくて慎重で引っ込み思案で……非常によい。
                 全身が一つの鼓動に統制されて動いているみたいだ。ありとあらゆる皮膚に甘痒くも強烈な電撃が逐一走り抜けてもう何も考えられない。激しい頭痛にも似た眩暈だけがカズマの神経を支配していた。
                 「…ァ…うぁ……うっく……!」
                 聞いたこともないような艶めいた声が彼の口から漏れている。
                 ぬめぬめと粘つく感触がドンドン増え、握っているそれは最早かなみの手には余るほどに膨張していた。
                 『……指が……もうどれも届かない……』
                 最初は中指と薬指の感触が親指にちゃんと感じられていたのに、今はもう親指と人差し指の間の水かきが引き伸ばされているくらい。かなみは不安だった。一体この状態は正常なのか?異常なのか?
                 幾度声をかけようとカズマの顔を覗き込んだろう。だが、かなみは結局一度も声を掛けなかった。……掛けられなかった。
                 カズマの貴重な赤面シーンに水を差す気になれなかったし、唇を食いしばって必死に何かに耐えている彼の表情は何物にも替えがたく――――――いとおしい。
                 きもちいい?
                 そう訊ねられたら、どんなにか良かっただろう。困った顔でいいよ、と答えてくれたらどんなに満たされたろう。
                 八歳の少女にそんな娼婦的悦びを理解できる筈もなく、説明の出来ない満足と把握できない欠乏に喘ぐその表情はカズマの庇護欲と嗜虐欲を同時に誘う。
                 「かな、み」
                 「なっ……なに?」
                 「――――――口でしてくれるか?」
                 「く、くち?」
                 「舐めてくれ、かなみ」

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                 倒れ込む背中にベッドの軋む音を聞き、カズマは咄嗟にかなみが突き立てた手でへこむ枕の感覚を耳元でくすぐったく思っていた。
                 覆い被さる真っ赤な顔のかなみの腹部には突き刺さるように己の肉体が存在している。まるで、これから行なう事を予言しているかのように。
                 「んぁぁ……!」
                 後頭部を盗み取るような俊敏さで押えながらかなみの唇を塞ぐ。何度も何度も丁寧に、ドロドロの唾液を塗りつけるが如くプクプクの唇を舌で擦り上げた。すべすべで熱い粘膜が擦れ合って鋭敏になってゆく。
                 にじり寄ってくる悪寒、衝動、精神薄弱。押し流されてどうにも止まらない。
                 「……ぷゅ……」
                 ゆっくりと唇が離れ、しばらくしてカズマの顎と胸の上に一本の冷たい感触が生まれた。途切れない涎が道を作ったのだろう。
                 小さな手がゆっくり、ゆっくり、カズマの身体の周りをなぞるように下がってゆく。
                 そして急にひどく冷たいものとやたらに熱いものが同時に性器を覆った。
                 「っ!?」
                 手だ。冷たいのはかなみの手の平と指。じゃあ絹のようにすべるこの熱いのは……
                 温かく柔らかい口内にヌルっとくわえられる感触。鈴口に無遠慮なほど強く押し付けられているザラザラした舌の襞さえ明確にイメージできた。
                 「い……ヒっ!」
                 声が出た。思わず声が出た。止めようとか我慢しようとか思う前に裏返ったアホ声が出た。
                 「ひ、ひらかっひゃ?」
                 「くっ咥えたまま喋るなーッ!!」
                 「が、がえんなひゃひ……」
                 「っぉおぉぉぉ……!」
                 脂汗がだらだら出て背中に焼け火箸でも突っ込まれたみたいな顔のカズマが思わす腰を跳ね上げる。
                 たまらない。蕩けるとか力が抜けるとかそーゆーレベルじゃない。即出そう。
                 ひとしきりのじれったくも絶妙な刺激でギリギリチョップ(古語)になっていたカズマの男性器はもはや安全装置どころか撃鉄は起こされ、トリガーの遊びも極限まで引き絞られたよーな状況だったのだ。それをなんとか騙し騙し我慢できていたのは、かなみの不慣れな奉仕技術のほかには。
                 根性。
                 それ以外にない。
                 子供、しかもかなみにあっさりイカされてたまるかという見栄だけがカズマの忍耐の理由だった。
                 なのに、ああなのに。何故斯くも世の理とは無慈悲なのだろうか。
                 かなみの眉が思い切り顰められて、瞼は固く結ばれている――――――それを見た瞬間、カズマの中で彼が必死に隠してはぐらかしてきた物が牙を剥く。
                 「ふ……ゅーっ!?」
                 かなみの髪を掴み上げて乱暴に大きく揺する。なんども、なんども、なんども。
                 息を吸うことも出来ない激しい揺さぶりはかなみの唇や舌、喉さえ強く押し付けて犯し、嬲る。そして辛うじて押し付けていた唇に急性的な痙攣が伝わり、舌先に今までとは比べ物にならないような圧力が生まれたかと思うと、掴まれていた髪から手が離れたのか、頭がふっと自由になった。
                 これ幸いとかなみが慌てて頭を振り上げるようにカズマの性器から逃れた瞬間。
                 どろりと糸を引きながら、独特の臭気を巻き上げてかなみが今まで見たこともない粘液がさっきまで口に含んでいた部位から吐き出されていた。

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                 「ぇほっげほっ……げほ、げふ、げふ……」
                 「ぁっ……はぁ、ハァっ、ハァっ……!」
                 暗くよどんだ空気の部屋で、二人がそれぞれに胸を大きく上下させて嘔吐いている。かなみの咽るような吃音に頭の中が今だ真っ白なカズマが弾ける栗がごとく身体を動かした。
                 「わ、ワリィ!すまん!かな、み、かなみ!」
                 「えほっ……えほっ……」
                 「ごめん、ごめん、ごめん……!」
                 小さく折りたたまれたかなみの背を何度も何度も摩りながら、搾り出す声でカズマは狂ったように謝った。
                 しばらくそれだけが続き、じきにひゅー、ひゅーという風を切るような虎落笛が聞こえ始め、真っ青になったカズマがかなみの肩を掴んで勢いよく持ち上げた。カズマはこの嫌な音を知っている。喉が詰まったりして、呼吸が出来なくなった時に聞こえる音だ。
                 「くひゅひゅひゅひゅ……」
                 「……はへぇ?」
                 だが、そこにあったのは両手で口を押さえて一生懸命に笑いを堪えているかなみの顔。
                 「ぷはっはははははは!もうだめ!もうだめぇ!!あはははははははははははははははははは」
                 いつものえへへへとかうふふふとかじゃない。イヒヒヒヒ、というような見たこともないかなみの大爆笑。しかも性の悪そうな。
                 カズマが呆気に取られて茫然としている間に、彼の手から抜け落ちたかなみはベッドの上を七転八倒の大騒ぎで転げ回って笑う。
                 「カズくんが、カズくんが、すっごい困ってる!」
                 「……てっ……てめぇ!こらかなみィ!!」
                 今日のベスト3入りするような真っ赤な顔でカズマは吊り上げたての魚のように暴れ回るかなみの身体を捕まえようとした。が、目の前がふらついて思うように身体が動かない。当たり前だ、かなみに体力値を著しく低下させられた直後なのだから。
                 「はぁ、はぁ、はぁ……ねぇ、きもち……いかった?」
                 ようやくかなみの両手を押えて身動きが取れないように捕まえたカズマが、腹立ち紛れて口を開こうとした隙を突くようにしてかなみが悪戯っぽく訊ねた。出鼻を挫かれ、言葉を失い、カズマは複雑な表情を浮かべながらもまるで罪を告白するかのような神妙な面持ちで述べる。
                 「〜ぅ……っ!……あ、ああっ!気持ちよかったっ!最高に、頭がおかしくなるかと思ったっ!腰が思いっきり浮いたぜ!!」
                 「……怒ってる?」
                 「怒ってねぇよ!情けなくて泣きてぇだけだ!」
                 「……怒ってるよぅ……」
                 「怒ってねぇ!断じて怒ってねぇ!これは……ぅその、なんだっ!照れ隠しだっ!」
                 普段のカズマなら或いは気付いたのかもしれない。かなみの泣き顔には散々振り回された彼の事だから。しかし今の彼は半ばヤケクソで大部分が錯乱状態といって差し支えない状況だ。半笑いでうそっこ泣きのかなみの仕草の差異など気付こう筈もない。
                 「ほんと?」
                 「嘘なんかついてどーする!」
                 「でもカズくんすーぐ約束破るし〜」
                 「ウソじゃねぇよ!怒ってねぇし…………とにかく信じろ!」
                 「じゃあ、わたしのことあいしてるって言って?……そしたら信じる」
                 所謂、王手、という奴だ。

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                 「うぐっ……!」
                 「言ってくれたら頭を掴んでおえってさせたのも、ベトベトしたのいっぱい掛かったのも、ぜーんぶゆるしたげる」
                 ねっ?と可愛らしく首を捻る顔にはそこここに“べとべとしたもの”が付着したままだ。鈍く光る床に反射した外の明かりで微かに把握できるかなみの姿は、髪はぐしゃぐしゃ、服はめためた、顔はドロドロ。どう見てもレイプ後です。本当にありがとうございました。
                 「……言って?」
                 なんという迫力。凄まじい覇気。出来る事なら逃げ出したい。
                 「――――――言ってくれないの?」
                 眉を思いっきり下げて、かなみが手に入れたての無敵スキル、うそ泣きの体勢に入った。彼女にしても別にカズマを脅そうとか強制しようという意図はない。ただ、いつも踏ん反り返ってワガママ放題の彼をちょっと困らせてやろうというささやかなイタズラ心だ。
                 この要求には流石のカズマも絶句してしまった。ただし、唐突な命令そのものにではなく、頭の中では答は出来上がっているのに身体が言う事をきかないという状態に対して。
                 あんだけ好き放題やったのに許してくれるってんだ、なんだよ、一言ぐらい二秒で済むじゃねぇかよ。ナニ固まってんだよオレは!
                 「あー……あー……あ、あ、あ……」
                 喉の奥、胸の奥、腹の奥から限界ギリギリの力で押し出すように必死な面持ちでカズマがあーあーと唸る。
                 かなみは知っている。カズマがとんでもなく恥かしがり屋な事を。なにせ人前で愛称を呼ばれるのも嫌がるぐらいの筋金入りだ、例え簡単な文字列と解っていても“あいしてる”だなんてコッパズカシイ台詞を言うはずがない。
                 それでも何とかその苦手な言葉をかなみの為に形作ろうとしている様子だけで、彼女は十分に満足だった。少し意地悪をし過ぎたかも知れないと、破顔してカズマの手を握った。
                 「もういいよカ――――――」
                 カズくんごめんね。かなみが言おうとした言葉に被せるように、カズマが喉の奥から小さな掠れるような声を引っ張り出した。
                 「……あ、いして、る」
                 「ふぁ?」
                 「愛してる!」
                 今度は割りと強めに、はっきりと聞こえた。
                 「――――――――――――あ、わ、わたしも……ああ、あいしてる!」
                 ベッドの上で下半身素っ裸の男と、ベロベロに伸びたパジャマ姿の無残な少女が手を取り合って愛してると叫び合っているというのは実にシュールな光景だ。一歩間違えればコントと笑われても文句は言えなかろう。
                 幼い二人に愛など理解できる筈もない。かなみは小耳に挟んだ聞きかじりの言葉として、カズマは行きずりの女が使う簡単な言葉としてしか愛という単語を知らなかった。その意味さえも。
                 それでもその短い言葉は二人の胸にあった不安と翳を砕き、か細くはあったが、光をもたらした。
                 「あいしてる」
                 「うん」
                 「あいしてる」
                 「うん」
                 「あいしてるから」
                 「……うぇ?」
                 「続き、やっていいだろ?」
                 にやーっと笑ったカズマの顔には、先ほどの神妙さなどさっぱり残っていない。罪悪感のきれいに払拭された傍若無人な口元にはいつもの不敵な笑みが浮かんでいる。
                 「……カズくんってほっっんとーに……デリカシーないよねぇ……」

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                 少量の酒か、風邪薬、もしくは発熱による酩酊によく似ている。フラリ、フラリと目の前が揺れているところなんて、実にそうだ。
                 「あんっ……あぅぅ……!あっ!?あっあっ!」
                 首の後ろと背中に必死にしがみつく少女の力加減が不安定でちょっと切ない。
                 彼はぱんつの中にいきなり手を突っ込む彼女ほど、度胸はない。ないから、遠慮がちに布の上からこすってたらなんか指がぬるぬるになってきた。……いや、触る前から布は湿っていたのだが。
                 コットン100%の子供用ぱんつ。吸水性に優れ、生地も厚いし余裕もある。それが、カズマの指が動く度にくしゅくちゅと音をさせるというのは、彼の経験上相当な潤沢でなければありえない。
                 『……ガキがこんなに濡れるモンなのか?』
                 かなみは推定八歳前後である。当然生理もまだ始まっていないし、毛なんぞ影も形もない正真正銘の“こども”だ。人並みには経験があるとはいえ、カズマだってそんな年令を相手にしたことはないし、興味もないのでこの状況が正常なのか異常なのかは分からない。
                 『こんだけ濡れてりゃフツウ簡単に入るんだが』
                 カズマもそれが容易だとは考えなかった。バカにでも理解できる身体のサイズの違い。かてて加えてこの年令差。おまけにかなみが経験豊富などとはどーしても思えない。厄介に厄介が重なったその上に立つ困難が、佃煮になってカズマの脳内にずらりと並ぶ。
                 『……どう考えても突っ込んだら泣くな……』
                 想像するだけでゾッとした。ただでさえ大の苦手なかなみの泣き声を聞くのがよりにもよってベッドの上、しかも自分が下半身裸で彼女を押し倒している状況で、ときたもんだ。……この格好のまま窓をぶち破って宛てもなく走り出すのも吝かではない……カズマは冗談でも何でもなくそう思う。
                 そんなカズマの苦悩など知る由もなく、両手をカズマの首と背中に食い込ませたかなみはと言えば、ズボンと下着の間で繊細で大胆に動く三本の指の虜となっていた。
                 ずきん、ずきん、と煩わしいほど鼓動するそこは、未知の感覚でかなみの脳味噌を撹拌し続けていて、その暴走する自分の身体に甘い鞭を入れるがごとく煽る三本の指。変化自在に強さを、角度を、深度を、動きを変えて蠢き続けるのをやめない。
                 そして何よりかなみをワナワナと震わせているのは、下着だ。粘液によってずるずると粘膜を滑る布の肌触りさえも操って、かなみがどんなに身体を動かして逃げようとしても三本の指は執拗に一番痺れる突起を追いかけてくる。
                 「か、かじゅく、ん、も、だめ……らめ、めへぇ……」
                 「……だめってなんだよ」
                 「やなの、おかしいのぉ……おしり、とか、こしとか……へんになっちゃ…うぅ…」
                 「かまわねぇ。なっちまえ」
                 「やだぁ、やだぁ……!」
                 「――――――ヤならヤメとくがよぉ……」
                 腕をズボンから抜き取とったカズマが、ぐっしょり濡れてうっすら湯気の立った左手をかなみの鼻先に突き出した。
                 「指、ふやけちまってっケド?」
                 指と指の間にいくつもの泡が弾けずに残ったままつり橋になっている。ヌメヌメと鈍く光る指をカズマがかなみの目を見ながら舌で舐めて見せた。じゅる、と音をさせて吸い付き、舌が指を伝う。
                 「……嫌ってンじゃねぇな。早くってツラだよ、そりゃ」
                 じんじん痛痒く痺れる腿の内側の余韻が、カズマの意地悪げな三白眼を見た瞬間に震えた。ブルブルと細かだった振動が何かに揺すられているみたにがくがくと大きくなって全身に伝播してゆく。
                 「やめ、ないでェ……!もっといっぱい、カズくんの指でこすってください……っ!」

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                 「お―――お前、自分でナニ口走ってるか分かってる……?」
                 「だってカズくんちゃんと言わないとしてくれないんだもん!」
                 自分で言わせたはずのカズマの動揺は、無理に言わせられたはずのかなみのそれとは比べ物にならないほどデカい。やはり度胸勝負はかなみのほうが一枚上手のようだ。
                 「……もっとこう、恥じらいをだなぁ……」
                 グローブ付きの右手で顔を覆ったカズマが溜息に近いセリフを吐き出した途端、左手にぬるりとした感触が帰ってきた。
                 ……何処で育て方を間違ったんだろーか……女の子っつーのはだな!お淑やかで、優しくて、控えめで、はにかんで静かにうっとり笑う――――――
                 身勝手で押し付けがましい割りにどこかで拾ってきたような理想論を展開し始めた高潔な脳内とは裏腹に、かなみに誘導されたカズマの指はちゃっかり動いている。
                 『なんかさっきと感じが違う』
                 動かす手の不自由さに、カズマは自分の左手の行く先に視線を走らせた。かなみの両手に支えされて消えてゆく闇のトンネル向こう側。
                 そこは、下着の中でした。
                 「うぉわぁああぁ!」
                 「くあっ……あァぁ……ッ」
                 力加減を失敗して思わず指を握るように折り曲げていたカズマの中指の在り処について深く問い質しますまい。
                 わーすげぇ。あわ立ってる。
                 突然の訪問者にうろたえる様子もなく、かなみは唇の奥で聞き取れぬほど小さな何かを呟きながら、カズマの最後に残った衣服であるアンダーウェアに取り付くようにしがみ付いていた。その格好が弱々しく、なのにどこか扇情的で、鳴りを潜めていたカズマの男性を揺り起こしてしまう。
                 『ハハ……ゆ、指がちぎれそう……』
                 事故で突き刺さった第一間接までが締め上げられ、とてもこの先に余裕などあるようには思えない。だがカズマはそのまま全神経を集中させてそろりそろりと中指を押し通らせる。
                 「ひ、ひたぁい……!かずっ……ひた、イタイぃ!」
                 「だろーな」
                 「やだ、やだ、もっとゆっ……痛!ゆっくりしてぇ!」
                 悲鳴に近いかなみの嬌声だというのに、彼女の彼を見据える涙のいっぱいに溜まった目がカズマの下半身をスケベのことしか考えられないようにしてしまう。
                 「――――――痛くされたくねぇんなら……んなエロい顔でこっち見んな……」
                 蠱惑という概念そのものが固まったような碧色の大きな瞳はうるうると揺らめいていて、赤く腫れぼったい瞼や目尻は涙の跡でキラキラ光ったりなんかしていて、力加減なんか出来ない。男を誘う術を生まれながらにして持ってる女というのに歳は無意味なのだそうだ。誰かが酒の席で言ってた意味が今わかった。
                 「なぁ、まだ痛いか?」
                 「痛いよぉ……カズくん爪切ってないでしょ?」
                 「……はィい?」
                 「つ・め! 引っかかれるみたいでスッゴイ痛いんだよ!?」
                 …………………………指が入ってるのはいいのか……
                 喜びとも渋いとも呆れとも愉しみともつかない複雑極まりない表情のカズマはしばらく無言でかなみの中身をぐりぐりと弄っていた。これは別に安心感の為に口が利けないほど感激している訳ではない……と本人は言うだろう。さもなくば、かなみの声のけしからん色っぽさに夢中だったとすら言い訳するかもしれない。

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                 「ヤダッ!あっヘンな声あッ……んっ!で、でちゃあ……んッ!……うっあいっあいっあっあっ!」
                 苦しそうに眉間のしわを深め、圧迫感を吐き出そうとするかのようにてらてらと光る舌を唇から垂らすかなみの表情はもはや未経験者のソレではない。最初のうちは痛みと恐怖からか厳しく眉を吊り上げていたというのに、今では虚ろな目でここではないどこかを彷徨っている。
                 「あぅ!あっあっあっ!なんか!スゴいっ……スゴいぃぃ……なんかスゴイぃよぅ〜!」
                 カズマが喘ぎ疲れて抵抗をやめてしまったかなみの身体に、生肉を与えられた肉食獣がごとくに貪りついていた。もはや性欲から離れてしまっているのではないかと言うほどただ無心に、無邪気に、かなみの性感帯の発掘と仕込みに余念が無い。
                 「コドモの癖に中で感じるたぁナニゴトだよお前は」
                 中指をかなみの秘所の内部で折り曲げ、そのゆるいカーブを維持したままに軽く揺すってやる。時々指の腹でまさぐる緊張した膣の内部はピンと張っていた。
                 「カ、カズくんも随分とお上手じゃないっ!」
                 反論にもならない蕩けた声はその言葉の内容とは裏腹にカズマを乞うていることは明白だ。
                 「バッ!馬鹿にすんな!……オレぁこれでも街行きゃあ、ちょっとしたモンだぜ?」
                 演技でも強がりでも反射でもなく、かなみに向かって本来気まずがるであろう本音が出てしまった。……全く、不覚にも。
                 「あーっ!帰りが遅くなる時ってそういう……!?」
                 目の動きでソレを察したのか、少女が身体を浮かしてカズマの目を覗き込む。
                 「……金出してまでゲロ吐く程マゾじゃねぇよ……」
                 フン、と鼻を鳴らして軽く受け流すカズマの顔を見たかなみは、ふうんとどんぐり眼を半分にする。
                 「わたしのことあいしてるからじゃないんだぁ?」
                 挑発とも取れるそんな言葉に露骨なほど嫌そうに顔を歪めて慌てふためくカズマ。
                 「お、お前が昔のことなんか聞くからだろ!?」
                 「あいしてないんだったらやめちゃおっかなー?」
                 うふふふ、と鼻先に拳を当てて意地悪をこれからしますよ、とでもいいたげなかなみが嘯く。
                 「つまんねぇ言葉覚えやがって……」
                 両手でかなみの頬と頭をぎゅっと掴んだカズマがゆるく頭突きを繰り出して搾り出す切なげなくせに揺るぎの無い声が少女の心臓を小さくした。
                 「今さらやめられっか!」
                 どちらからともなく唇が合わさり、舌が絡んで、唾液を嚥下する音が静かな部屋に妙な迫力をもって響いてゆく。
                 カズマはかなみを女として認識することをずっと恐ろしいと思っていた。こんなにも簡単で、こんなにも取り返しがつかないことだと彼はよく知っていたから。
                 かなみはカズマを男として認識することを自分が心から望んでいたのだと考える。形にする方法がわからなくてもどかしい日々に終わりがやってきたのだと知った。
                 「カズくん」
                 「……あんだよ」
                 「わたしね、時々カズくんがいつか居なくなるような気がするの。それがずっと怖くて、悲しくて、嫌だった」
                 「――――――――――――」
                 「でもね、今はそれでもいいって思うんだよ。……変かな。会えなくても帰ってこなくても、ずっと一緒に居るような気もするからかな。自分でもよくわからないけど……なんとなくね、カズくんとこうするの、初めてじゃないみたいな感じ……」
                 自分の胸の中で欲の無い想像で安らぎに満ちているかなみの表情は、どこか悟っていてどこか諦めきれない風にも見えた。そのあえかな少女のそぶりがカズマの胸を激しくかきむしる。
                 カズマの動揺を敏感に感じ取ったのか、かなみがふと顔を上げた。二人の濡れて揺らめく視線が絡んで、心臓の鼓動がシンクロしたような気がした。
                 「――――――最後までしてもいいよ」
                 「……ば、馬鹿かおまえは!」

                19
                 乱暴にかなみの腰を掴んで自分の腰の辺りに押し付けた。妖しいまでの白さで仄々と光を放っている幼い少女の股座から、カズマの怒張が隆々とそそり立つ光景は卑猥以外に形容のしようがない。
                 「おら! 見ろ! お前のちっちぇーハラん中にオレのビッグマグナムが入るわけねーだろが! ちっと考えりゃワカんだろ!?」
                 「は、はいるもん!」
                 「中指一本でビービー泣く奴が大口叩いてんなー」
                 「だって、カズくん入れたいんでしょ?顔に書いてるよ!」
                 「かっ……かかか、かいてるわきゃねーだろ!どんな猥褻物だよオレのツラぁ!?」
                 「でも、でも、でもぉ……」
                 かなみは引かない。本能か、知識か、体験からか、それはどちらにも解らなかったが、相手の求めるものに殉ずることも厭わない強い瞳にさすがのカズマも器用に誤魔化すという選択肢が最初から存在しないことは解る。女の欲望を得たかなみにとっては、もちろんそれだけではないが。
                 「〜〜〜〜わぁかったぁ!かなみがイタくなくて!オレも楽しい!そおゆう秘儀を教えてやる。だから今回はそれで納得しろ!」
                 それでもカズマは最後の一線を越えることを己に禁じた。ただしこれを理性と呼ぶにはいささか勇気の要素が絶対的に足りないが、そこを今指摘するのは野暮というものだ。
                 腰をむんずと掴み直し、カズマがそのまま自分の胸の方へとかなみの身体をずらした。
                 「ひぁぁぁ〜……!」
                 「このままお前が棒に跨って腰を前後に動かす」
                 「こ、これぇ……なんか、ヘンだよぉ?おまたがムズムズするぅ……」
                 「ソレで正しい。むしろソレが正しいんだ」
                 「すごいえっち……動くとカズくんのがビクビクしてて……ずっと見えてるぅ……」
                 「詳細な実況中継はせんでよろしい」
                 ずっしりと充血したカズマの硬くて太い暴れっぱなしな例のヤツは、ぷっくりつややかな双丘に押しつぶされて無残な姿を晒してはいたが、少しも不憫には見えない。
                 懸命によく見知った少女が腰を前後にゆるりゆるりと揺すっている光景というのは不思議なもので、カズマは胸がいっぱいになるのと同時にどこかへ置き忘れられた様な妙な気分になった。自分の知っている行為を、自分の知らないかなみが熱心に繰り返している。
                 抱きしめたいと思った。もういいと言いたい。腰を下から突き上げたいと思った。もっと強くと言いたい。
                 「……かな、み……っ!」
                 結局カズマのどの欲望も叶うことはなく、ただ白濁した体液がかなみの赤く濡れそぼったスリットに浅く突き刺さっている張り詰めたものから吐き出された。
                 「あっ……やだ、なんか、すごく……動いてるよぉ……!」
                 ひく、ひくと身体を薄くくねらせてかなみが自分の跨っている物の変化を申告する。
                 「最中にヤダなんて言うなよ……心が折れちまうだろ……」
                 「…………よく分からないけど、こうしていたいってこと?」
                 「もっとしたいって言ってンだよ」
                 たすったすっと肌を打ち付ける音だけが続く。
                 あばら浮いてんな。……もっと太れ。
                 ま、まだこれからおっきくなるんだもん。
                 耳に直接舌を入れられてゴロゴロビチャビチャと大きな音がする度にかなみの身体が跳ね上がる。クラクラする。いつの間にかカズマの胸の上に寝そべるようにしていたかなみがカズマの頬に舌を這わせて、何を思い直したのかおずおずとキスをした。
                 「カズくんのほっぺたって思ったより柔らかいんだね」
                 「……そうかい」
                 そういってカズマは笑った。

                20
                 ――――――あーあ。ヤッちまった。……いや正確にはまだヤッてはないんだけど……いや、ヤッたも同じか。
                 かなみの荒い息が落ち着いて身体の冷えにやっと気付き、布団だの毛布だのを慌ててかぶったカズマが心の中で超弩級のため息をついた。こんなちっこい子供相手に何本気で入れ込んでんだオレは。
                 だがその一方で彼自身はようやく不安に浮ついていた自分が地に降りたような気がした。人に愛されて人は始めて人足りうるという言葉が真実だとすれば、カズマはかなみに愛されて獣から人間に進化したのだろう。
                 ……でもそんなことがあるのだろうか?浅はかだ、哀れみすら感じてしまう。たったの10年すら生きてない未発達な生き物に自分の根拠を背負わせるなどとは。
                 「……お前が愛とか言うから……混乱しちまうだろぉが」
                 月の光の照り返しはぼんやり眩しくて、冬の冷たい空気はシンと静まり返っていて……温かなかなみの身体だけが現実のよう。
                 カズマは少し思案した後、髪に鼻先をつけて思い切り胸に吸い込んだ。すー。はー。ひゅー。ふー。
                 「ふぁ……っ」
                 やべ、変な声でた。
                 頭の中が警告に似た羞恥を発したのに。
                 髪を少し口に含んで歯でゆるく噛んでみた。ぐちゃぐちゃ唾液の音をさせて甘く潰れる髪の一房は限りなくかなみ自身の味がして、ひどく征服欲が満たされる。カズマは実現できない陵辱を存分にしている想像をしながら静かに浸っている。
                 ちゅうちゅうと唾液を啜って唇から濡れた髪をぽとりと離した。シーツの上に自分のよだれに塗れたかなみの髪が水玉模様を形作る。それがまるで強姦された後に打ち捨てられた女のようだという感想を持った。
                 馬鹿げた己の欲情に従がわされ、哀れに崩れてゆくかなみの姿を夢想しながら、身体を駆け巡る吐き気を伴わない劣情の全てが呪わしく切ない。
                 「さっさと寝やがって……全然抱き足りねぇヨ」
                 乾いた唾液で引きつる肌と肌を、カズマが力いっぱい抱き潰す。
                 身体をくっつける刹那は、かなみを抱く間は、彼女のことだけに集中している時間は、自意識なんぞにかまけてゲーゲー言ってるより濃厚に自分と対峙していた。かなみが望むカズマでありたいと願ったからだろうか?
                 その答えをカズマはいまだ的確に掴めないで居る。かなみの予言に漠然とした肯定も否定も全く出来ないのと同じように。
                 「じゃあもっかいする?」
                 「……起きてやンの、このムスメ……」
                 「あんなにぎゅってされたら誰でも起きちゃうって」
                 困り顔の癖に笑っているかなみが目を閉じてカズマの胸にうずもれた。
                 「今度の“出張”はいつ帰ってくるの?」
                 カズマは少しギクリとする。確かここ最近は君島が来たことは無いはずだし、仕事の話を聞いたのもつい昨日のことだ。そもそも人見知りの激しいかなみが自分から君島に近づくわけがないから、君島に仕事の話を聞いたわけがない。
                 「な、なんで仕事のこと知ってんだよ?」
                 「カズくんから一緒に寝ようなんて言うの久しぶりだからそうじゃないかなーと思ったの。……風邪引くなとか優しいこと言う時は絶対何かあるもん」
                 なるほど、素晴らしい洞察力だ。感心半分恐ろしさ半分でカズマが降参したように唸った。
                 「……三日くらい、北の方に行くって君島が言ってた」
                 「そうやっていつもちゃんと前もって言ってくれたら寂しくないのになぁ」
                 篭った細い声はよく耳を澄ますとちょっとだけ震えている。
                 「――――――三日後にプレゼント山のように抱えて帰ってきてやるよ」
                 髪を撫でるようにあごを滑らせてかなみの小さな頭に頬擦りした。
                 「それってリクエストあり?」
                 その頬擦りを押しのけるかのように少女が勢いよく顔を上げて尋ねる。その目はきらきらと嬉しそうだ。
                 「な、なんか欲しいものあるのか?」
                 思わず顔を引きつらせてカズマが尋ねることには。
                 「……爪きり。ヤスリの付いてるやつ」
                 頬を染めて伏せ目がちなかなみが小さく答える。
                 「――――――なんで?」
                 「……カズくん、爪伸びてるから……痛いんだもん」
                 かなみがそう呟いたのを、カズマが慌ててそっぽを向いたその先に何かを見るような神妙な面持ちで眉を顰めて聞いていた。

                 さて、笑いを堪えている悪魔はどっちでしょう。
                04:40 2008/08/11

                 


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