いいこ に するから

                かなみ×カズマ

                 さてここで問題です。
                 何故唐突に俺の下半身は如何ともし難い状況になっていて、その上その如何ともし難いモノをマイエンジェル・かなみ嬢(8)が一心不乱に手当しているんでしょう。シンキング・タイム、スタート。
                 「ぅおぁあああぁああ!」
                 ぽたぽたっとかなみの服に唇から垂れた液体が音を立てた。
                 俺に肩を押えられてきょとんとした顔の赤い少女が、うっとりと夢見ごこちの目で俺を見る。
                 どっと汗が出た。
                 嫌な種類の。
                 例えるならそうだな、手ごわい喧嘩相手に背中を捕らえられたってぇ直感、アレに似てる。肌がデッカイ一発を食らうの必至っていう時と同じ粟立ち方をしていた。
                 かなみの身体の何処にも力が入っていなくて、ふにゃふにゃと鼻を鳴らして甘える子犬みてぇだ。それか、風呂に入ってしばらく話相手してもういい加減眠たくなった時。
                 「おっ、おまっ……ぁ、かな、みっ!……なっなに…っ…!……?」
                 しゃっくりの最中に無理矢理喋ろうとしたみたいに、きちんと言葉が出ない。喉の奥でどれもこれも我先に出ようと大渋滞を起こしてやがる。
                 頭の奥が痺れてた。身体も上手く動かない。何を言えばいいのかも解らない。
                 なのに
                 なのに
                 ああ、なのに
                 俺の股間は何故萎えないのですか。むしろさっきより幾ばくか元気になってないか?
                 かーっと顔に血が上る感覚がわかった。やばいヤバイやばいすげーハズかしいぃっ!!
                 よく見れば上着を脱はされてるし、アンダーウエアも胸んとこまで捲り上げられとる!ズボンのチャックはだらしなく開いていて、トランクスなんか無理に引っ張り下げられてて……まるで強姦にでも遭ったみてーじゃねぇか!
                 ……いや、実際いま正にレイプされかけてんだけども!
                 「カズくん……かわいい……」
                 あのトロけるよーな甘い声がくすぐったいほど間延びして俺の耳を這い回る。背筋が問答無用でゾクゾクした。
                 俺の手の力が抜けるのを予測したかのように、かなみが俺の腕からするんと抜け落ちて、俺の腰のあたりに手をついて体重を思いっきりかけた。当然、二人は成す術もなくばたんと倒れる。
                 「なななななななな」
                 混乱に混乱を極める頭はもう焼き切れる寸前で、まともな発音もままならない。そんな俺の引きつった口に、あのめくるめく快楽を俺の下半身に与え給うたちっこいクチビルが近づいてきて……
                 「んぁ……っ」

                 おいお前ら、ディープキスってされたことあるか?
                 ありゃ、すごい。……  どう表現すりゃいいのかさっぱり解らない。ぬるぬる滑る粘膜のテレパシー。
                 かなみの体温と、吐息と、唾液の味、それからたぶん自分の精液の味。そんなもんがぐちゅぐちゅに掻き混ぜられてやわらかくてぷるぷる弾けるちっこいクチビルで口中に塗りたくられてゆく。
                 かなみの前髪が頬やら鼻先やらをちらちら横切るたびに、子供特有のあまったるいイイ匂いがして、かなみのシャンプーの匂いでくらくらする。薄く痙攣する首の付け根ンとこに意思でも持ったかのような異様なものが走り回っていた。
                 痺れる舌が上手く動かない。がちがちに固まっているその舌に、かなみの熱い舌が絡みつく。
                 ……あたま、ヘンになりそぉ……
                 ジンジン煩い頭の端っこ、ビリビリ痛い指先、ジクジク痒い腰の辺り。
                 ……舌も歯も小さいなぁ……
                 ぼんやりそんなことにしか頭が回らない。
                 「うふふ……カズくんったら……」
                 ちゅく、と小さな音を立ててさくらんぼのよーな赤い唇が離れてしまう。名残惜しげに見つめる俺の視線を笑ったのだろうか?かなみが俺の心臓を止めかねないような表情で囁いた。
                 「お腹のとこ、くすぐったいよ」
                 唇と頬、それと顎のところをヌラヌラ光らせたかなみがちょっと下を向いて口角を持ち上げる。
                 言われたところに目をやると、びったり臍にへばり付くまで反ってヒクついた……その、ナンだ、ナニがだな……かなみのつるーんとした腹に押し付けられているのによーやく気付いた。……普段なら激痛レベルだぞコレ……
                 「……ね、出したい?出させてあげよっか?」
                 自分が震えているのか分かった。だが何故震えているのか分からない。ただガクガクと膝が笑う。手から力が抜ける。全身がずっしりと重く感じた。
                 なんだ?なんだこれ?かなみ?これがかなみ?こんなこと言うかなみだと?
                 ふざけんな!
                 頭ではそう思っているのに、かなみの舌が俺の歯を舐め上げるのを止められない。
                 「カズくん震えてる……大丈夫、痛くしないよ。力抜いてて……」
                 唇を一度少し強く吸われて、そのキスが丁寧にゆっくり首筋を伝い、胸に下り、腹に降った。
                 「……やっ……!」
                 やめろ、と言うつもりだったのに。
                 どうして体が動かない。なんだって言葉が出てこない。何故……拒否しないんだ俺は。
                 少し不安になる不穏な雰囲気とか腹の下がちりちりする感覚がとかさ、いっそ懐かしい。俺、この感覚知ってるよ。怖いっつーんだ。
                 かなみの手、体温たけぇ……なんか自分でするのとはまた違う、なんだ、その。
                 小さな手が、小さな舌が、細い髪が、細い首が。まるで跪くように微かに踊っている。
                 耳を澄ますと静かに喘ぐかなみの呼吸が聞こえた。
                 あたま、くるいそう。

                 そう思った瞬間目が覚めた。
                 見慣れた崩れかけの天井、窓から差し込む太陽の光、埃っぽい治療室跡の空気。雀の鳴く声もする。
                 俺は暴れっぱなしの心臓のどきどきを確かめるように胸に手をやった。
                 手の甲が規則正しく上下するのが見える。
                 「……っ……!」
                 ぎゅっと胸元を掴んで、アンダーウエアがぐっしょり濡れているのに気付いた。尋常じゃない寝汗だ。
                 まだ心臓は治まらない。ひどく喉が渇いてやがる。
                 「……か……勘弁しろ……ッ……!」
                 わあああ!
                 しにてええええええ!
                 よりにもよってなんでかなみなんだよ俺の脳!
                 なんだそりゃ!なんだそりゃ!ナンなんだよそりゃぁああああぁぁあぁっ!!!
                 頭を抱えてもんどりうってジタバタしかすることがない。なんたってまだ頭には鮮明に人生で見たこともないような色っぽい顔して微笑むかなみの顔が浮かんでるし、夢とは思えないほど生々しいあの感触はまだ肌という肌に残っているんだ。……痛みを感じるほど。
                 そんで、そんで。
                 そのクサレ記憶に律儀にも程があるほど呼応している自分の体が憎い。憎たらしい。
                 朝とかそういう問題じゃない。絶対にコレは生理現象と違う。完全に性欲に反応しているっ!
                 「…………俺はロリコンじゃねぇー……よな?」
                 思わず息子さんに訊ねてみたりした。

                 「――――――めずらしぃ、カズマから仕事するなんて言い出すとは」
                 明日は雨かな?君島がわざとらしく車から手を出した。朝っぱらから人を拉致っといてそのセリフかよ!
                 「今回ちょっとばかり長いヤマだ、二日三日じゃ帰れないけどいいのかぁ?」
                 いつもは嫌がるくせにと俺の顔を横目で見て、その先は口をつぐんだ。よほど俺がふてくされ不機嫌な顔をしていたのだろう。
                 「いーんだヨ! 黙って運転してろ。」
                 「……いいっつったって、おめー……かなみちゃんは……」
                 「ううううるせぇな!」
                 挙動不審に慌てる俺を一瞥して、君島はふうんとため息とも返事とも突かないものを吐いた。
                 「……家出る時『いい子にしてるから早く帰ってきてね』って言ってたぞ」
                 ほら、それ弁当。俺の分まで作ってくれちゃってさ、ほんと8歳とは思えねーほどよく出来た子だよ。君島が足元に置いてあった紙袋をあごで指して、うんうん、と何度か頷いた。
                 「――――――いいこ、だから家に居づれェんだよ――――――」
                 ぼそりと言って、運転席とは逆方向にそっぽを向いた。
                 気楽そうに背中をシートに思いっきり押し付けた君島は、それが聞こえたのか聞こえなかったのか、溜息ついた顔のまま何も言わなかった。



                23:11 2008/06/25

                 


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