嫉妬と手錠
ラン×あたる
その日はとにかくラムちゃんが居なくて、お買い物してたらダーリンに捕まっちゃったの。
ダーリンたらラムちゃんが居ないと全然生気が無くって、いつもの若さが全く無いの。アホがこないな調子やったらラムの居らん間に若さ吸い取ったろ思たのに拍子抜けするやんけ!こいつらほんまにワシに何のウラミがあるんじゃいええい腹の立つ!
あんまり元気ないからランちゃんのおうちに連れて行ってあげたの。
でも聞くことはラムちゃんのことばっかり。いっつもあんなに逃げ回っとるくせになんじゃい、見せつけよってからに。
「ラムちゃんのことばっかりね、そんなに心配?」
「ランちゃんのほうがずっとステキさ」
まるで話のかみ合わないことを言い出す。このアホはホンマにこれで平静装っとるつもりなんじゃろか。
「ケンカでもしたの?」
「いいじゃないかここに居ない人の話なんて。それより僕たちの話をしよう」
意地でも話を折り曲げようとする。よほどの事でもあったのか、まぁこいつらのこっちゃどーせくだらんことに決まっとる。
「ランちゃんとダーリンのおはなし?」
ほぉ、おもろいやんけ。でけるもんやったらやってみぃ。
ダーリン寝取ったらさすがのラムもダメージ受けよるやろ、絶好のチャンスじゃダーリン味見したる!
「ここじゃ落ち着いてお話出来ないから寝室に行きましょうよ」
このセリフにぽかんとした顔をしたダーリンは手を引かれて素直についてくる。後でなんやブツブツゆうとるみたいやけど、今更逃げられへんで。
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ドアが開いてベットが見えた瞬間、ダーリンの手が大きく痙攣したので内心ほくそえんだ。最悪若さ吸い取っただけでもええわ、見とれよラムー
ベットに腰掛けさせて、隣にちょこんと座って手を握り締めたら、ダーリンがとぼけたフリをするから、ランちゃん言っちゃった。
「女の子に出来るのはここまでよダーリン。
後はダーリンがリードしてね…」
唇を寄せたらダーリンのキスがランちゃんの唇にそっと来たの。ダーリンたら意外に上手でびっくりしちゃった。たくさんの女の子としてるからかしら、ちょっと強引で、でも優しかった。ランちゃんちょっとどきどき。きゃ。
「ランちゃん、今日はどんなに頑張ってもラムは来ないよ。」
唇を離して眉を下げて、全然らしくない顔でアホがそうゆうた。
「……どういう意味?」
「ランちゃんはいい子って俺知ってるからさ、こういうことしなくても大丈夫だよ」
大きな手が頭を撫でる。よしよし、と子供をあやすように何度も何度も。
「ちっちが……」
「ラムもランちゃんのこと好きだよ。俺もランちゃんのこと好きだよ。」
不覚にも泣けた。アホが全然似合わんことするから吹きそうになったけど、なんか不覚にも泣けた。
「……ダーリン」
「どうしてもってならお相手させていただくけど」
俯くとやれやれという風にため息が聞こえて、胸元のリボンが引っ張られた。しゅるりと短い音が聞こえて襟が開いてしまった。
柔らかく押し倒されてベットが小さく音を立てて弾んだ。その音に心臓が跳ね上がる。なんでこんなアホにと思うけどなぁ、こいつは割と他の人間よう見とる。ワシのこともアホなフリしてこいつなりに気ぃ使うとるんやろう。ワシそんなにへこんどったんかいな。
ダーリンの手が胸元からスリップと肌のスキマへ差し入れられる。柔らかくはない男の手が肌を滑って胸に触れた。
「ランちゃんは触られるの好き?」
あの声が低く耳元で震えるので思わず身を縮めた。その動きにあわせて、反対の手がスカートの中へ滑り込む。……えらい慣れた手つきやんけダーリン。
「……やっランちゃんはずかしい…」
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手で顔を覆ってもその手を片手で封じられてしまった。思いのほか強い力で押さえつけられて思わず声が出る。
「いたぁ!なにすんじゃ…い……!」
しまったつい……!
固まる自分の顔とは正反対に、ダーリンの顔がいつも通り緊張感の無い笑い顔になった。
「ラムは苦手らしいけど俺こっちのランちゃんも好きだな」
強がりでシャイでやんちゃなランちゃん。呟きながら首筋から短いキスを繰り返して、胸元のブラウスのボタンを器用に片手で外していく。両手をバンザイの格好で固められて、突込みを入れる間もなくフロントホックも外されて、胸があらわになった。
「やだぁ、明るくてランちゃん恥ずかしぃ〜」
真昼間っからカーテンも薄いままで他人の旦那に押し倒されとるんじゃ、言い訳不可能やんけ。いくらこの窓が地上から数十メートルの高さやからったって、ワシの知り合いは空飛べる奴の方が多いんやど、洒落にならん!
「だ、ダーリン、ランちゃん怖いの…」
揺さぶりをかけてもあかんかったらどないしょ、とりあえずカーテンだけでも閉めさせなまずいわ、あわよくばその隙に……
「そお?俺ランちゃんのきれいな体がよく見えて嬉しいよ〜」
ほお擦りされた胸がゾクゾクとそそけ立つ。あかん、力じゃ絶対にかなわへん、ほんまに開けたままやられてまう!
「ダーリン、ランちゃん怖いの……やさしくキスして……」
若さ吸い取ったれば力も緩む、と踏んだんやけど、意地の悪そうな笑い顔のままアホがゆうたんや。
「恥ずかしがってるランちゃんもステキだよ」
その時、罠にかけたつもりが罠にはまったゆうことにやっと気付いた。
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こいつは始めから知っとったんや。何もかんも知っとったんや。そんでラムがおらんの狙って……なんちゅうやっちゃ。ワシもたいがいええ性格しとらんけど、こいつもなかなか食えん男じゃ。
「ダーリン、正直に答えてね。
ここでランちゃんとするってことは、ラムちゃんを裏切るってことよ。一時の感情でそんなことしていいの?
ランちゃんはラムちゃんもダーリンも好きよ。だからこういうのは違うと思うんだけどな〜」
アホが困った顔をする。そんでにへっと笑った。
「ランちゃんは偉いな。俺はそういう我慢ができなくてさ。
こんな異国の星にとどまる理由が復讐だけってのも寂しいし、レイのことだってもうなんか見てらんない感じだし。」
確かに同情の我慢が出来へんちゅーのは、ワシみたく復讐の我慢が出来へんちゅーのよりタチ悪いな。
「…ランちゃんそんなに可愛そう?」
……情けかけて自己満足に浸りたいちゅーようなそないな……
「我慢ばっかしてると苦しいから、うん、ちょっと力になりたいと思っただけなんだけどね。」
手から力が抜けた。服がせかせかと元に戻される。丁寧にリボンまで元と同じように結びなおされた。
「でもちょっと、言い訳かもしんない。
俺もちょっと寂しかったから。」
……ラムがおらんとホンマにあかんようになるみたいな言い方すんなや。ワシ別に……ホンマ……
この男はほんまによう分らん。ラムが一番のくせにワシにこないなことするし、そのくせワシのことまで気ぃ使いよるし、その割にはラムにはこないに気ぃ回したりせん。どれがホンマのお前なんじゃ。
お前辛いだけやんけ。
ワシ完全に悪者やな。……別にいい者やろうて気はあらへんけど……
「……ランちゃん、ラムちゃんのことちょっと忘れちゃう。だからダーリンもちょっとラムちゃんのこと忘れてランちゃんだけのダーリンでいて?
ランちゃん、ダーリンに優しくされたいな」
耳元で囁いてやる。丸まった背中に寄り添ってダーリンの手に触れた。
もしもワシがラムの立場で、ワシがダーリンを好きになってたら……いや、これからそうなる。一回だけ、そうなったる。
……そう、なりたい。
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「ランちゃんかわいい」
「やん…ダーリンもすてき…」
カーテンも閉めてドアに鍵もかけてシャワーも浴びて、あとは寝るだけ。
ダーリンの首筋から胸にかけてのラインがホンマに男の身体で、ビックリした。生傷の絶えん男やけど、肌に走る薄い傷を触ってみたい衝動に駆られた。指先を電気にやられた腫れの痕に滑らせる。
「……なに?」
「こんなになるまで我慢してたの?」
「我慢ちゅーか、別に気にしてない。殴られたりすんの日常茶飯事だし」
「……殴られるの、好き?」
「好きなわけあるか!俺が素直になるとみんな殴るだけじゃ」
そこまで言ってはっとした顔になったアホが青くなった。
「……素が出たな。ヘンな気ぃ回すの止めぇ。わし、気ぃ使われ慣れてへんから照れるやんけ。
ワシな、どっちかゆーたら他人に壁作る方やねん。あの3人の他やったらダーリンが初めてやで、ホンマのワシに気付いたのん。
……嬉しかったで、そないにゆうてもろて……」
そこまで言うたらダーリンが唇にキスした。それ以上言わんでも分るとでもいいたそうやな。
「ラン、お前は俺の女じゃ。いいな。
俺はお前の男じゃ。いくらでもワガママきいちゃる。なんぼでも言え。」
…………そやな……今だけやったらダーリン独り占めやな…………
フッと緩んだ涙腺があっという間に熱くなった。そのまま抱きしめていて、と何度か呟いたら、思い切り強く抱きしめられたから……涙が止まらんかった。……お前、人がええのも大概にせぇよ……ホンマに好きになってもぉたらどないすんねん……
「ラン、お前の好きにしちゃる。いくらでもなんとでもしてやる。俺はお前の男なんだからな」
頭を撫でられて、もうそこまでいったらとまらへんかった。ガキみたいに泣きまくった。どないしてええのか自分でもわからんくらい泣いた。泣いて泣いて、それでも逃げんと側におってくれたダーリンがいとおしくてたまらんかった。
もうええ。もうええ。
最初はこの人にもろて貰お。この人にもろて欲しい。
「最初で最後のワガママじゃ。ワシの初めてもろてくれ…」
後悔なんざせんぞ。ラムの旦那やからてなんや、アホで間抜けやからなんや。
ワシ、こいつがええんじゃ。
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最初は黙ってやった。痛いことあらへんかった。上手いことしてくれたんか知らんけど、ああこんなもんか思ただけやった。ヘンに身構えとったのに拍子抜けじゃ。
二回目、せやから好きにして、ゆうたのがあかんかった。
ラムはアレか、マゾちゅうやつなんか。ダーリンがあんまり強くにするから痛くてたまらんかった。そないゆおうとしたら体中が変な感じになってきて、ダーリンのが入ってるところがじんじん痺れてくるみたいになって、声が出てもた。そしたらその声が気に入ったみたいでダーリンが何度もゆえゆえゆうから、こっちもなんや恥ずかしゅうなってきて……
「やっ、やめぇてっ……ほん、恥ずっあっ」
「恥ずかしいなんてゆーとる余裕があるならまだまだ大丈夫じゃな…
そんなこと言ってらんないくらいにしちゃるから楽しみにしとれ」
首筋から肩にかけてだけが見える範囲で、ワシの体の上で動くダーリンの息切れがどんどん切なくなってきた。ダーリンの肌がうっすら汗ばんでて、肩に頬を寄せダーリンの吐息を聞いてた。気持ちいい。無理に触られるいつものんとはぜんぜん違うわ…
「ダーリン、いってええよ、ワシ心配ないさかい全部出し。
眷属違いすぎたら子供でけせんのはしっとる。かめへんから。いっつも中で出されへんねやろ」
そこまでゆうたらダーリンの顔つきが変わった。
マジになってもたんやろか。いっつもそないな顔してたらりりしいのになぁ。
「いっつもってなんじゃい。俺はお前ひと筋じゃろが。俺がお前の男になってから一度でも浮気したことがあったか?
過去など俺たちには無用。お前も全部忘れんか、せっかくの雰囲気が壊れる」
……よおゆうわ、ほんまに。
せやけどなんやちょっと……面白いでこないなんも。
「ごめんなさいダーリン、ランちゃんたらダメね……許してダーリン、ランちゃんなんでも言うこと聞くわ」
乗ったろやないけ。乗りかかった船じゃ、どこへなりと好きに動かしたらええわ。
最後まで見届けたる。
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「……なんじゃいこの所業は。」
「ダメだよ、女の子がこんなもの部屋に隠しちゃ」
服を着せられて後ろ手にタイムロック付きの手錠をはめられ、またベッドの上に寝かされた。この男の趣味はよう分らん。何でわざわざ服着せるんじゃい。
「せめて下着脱がさんかい、おのれのんが付いて汚れるやないけ」
結局あれから外に出したんやけど、それでも風呂にも入らずまた服着せられたんや。ぬるぬる付いたまま下着穿く気持ち悪さったらないでほんま。
「俺はね、ランちゃん……ふわふわの服を着てる女の子を脱がすのが好きなんだョ。
特にスカートがよい。下着は白が好ましい。」
……おっさんくさい趣味しとるのう……
「なぜなら白の下着は濡れると透けるからね〜」
ばっとスカートを捲られる。スカートが顔を覆って前が全く見えんようになった。……こっこれが数時間前まで処女やった女にすることか!
「だっダーリン!ワシこないなことされたらコワいやんけ!せめて手だけでも自由にせんかい!」
ゆうたって無駄やった。すりすり太ももに擦り寄られて背中じゅうにさぶいぼが立った。あんまり気持ち悪くて悲鳴も出んのや、引きつり笑いが喉の奥で爆発する。
「ぎひいいぃぃぃぃぃ!ややややめえええー!いややー変態ーなんちゅうとこに頬擦りすんねや〜あかんーあかんー気色悪うて気が狂いそうや〜堪忍して〜!!」
やっと叫べた時にはほお擦りがかなり際どいとこにまで進展してた。さする手がゆっくり円を描いて下着に掛かったからやっと脱げる思うたんやけど。
「おー、べたべただねぇランちゃん。ランちゃんは触られるのが好きなのかな〜?」
ぬるぬるの下着の上から二本、指があてがわれたんや。あんまりにも感覚が鋭敏になっとる所にそんな刺激与えるから、もう…あかん……
「…やぁあ!!」
★☆★☆★☆★☆
「うわーすごーい、ランちゃん太ももまでべたべた〜」
ふざけた声が低く重低音になったかと思った瞬間、太ももに唇が這った。続いて熱いほどの舌が。
かさっとした潤いのない唇がヌルヌルする肌をすべって、何度か差し出される厚い舌がそのヌルヌルを掬い取っていく。……あかん…気が狂いそう……
舌がザラザラしていて、熱くて、痛いくらいやというのに口からは決して嫌という言葉は出なかった。ただ思い切り喘ぎ声をかみ殺すだけ。
「ダーリンあかん……そこだけは…あかんねや…ぁ…」
「そこってどこ?ここ?」
唇がベタベタの下着に這った。熱い舌先がかすめる様に上下する。下着の生地の凹凸に沿って起こる微妙な振動に体中に快感が走り回ってゆく。
「〜〜〜〜ッ!!」
声なんか出ぇへん。頭中真っ白になってどこかの線が途切れそうな快感。ダーリンの舌だけが残る感覚の全てをさらっていく。
「ぁ!ああぁ…」
怖い、気持ちいい、ダーリン助けて……何一つ言葉にならずにただ喘ぎ声になって口から漏れる。嗚咽にまでなりそうなほどの喘ぎ声。自分の耳が痛くなってくる。それ以上にダーリンの舌が執拗に下着の上から這うんや。
「お願いや…おねっ…ああっお願いやから……手ぇ自由に……自由にしてください……
ダーリンお願ああぁー…ああっ……お願いしますぅ……」
「“電子ロック”だから俺にはどうしょうもないしねー」
「お願……手…ああぃ……握っ…ぇ…」
「……へ?」
「ダーリンの手、手が握りた…やぁああぁ…」
言葉も出ない。考えも出来ない。ただ快感の渦に飲まれそうになるだけで、もどかしい振動とダーリンの決して上手くはない舌の動きにただ腰を動かすだけ…
不意に引きつる手にダーリンの熱くて大きな手が添えられ、強く握り締められた。
戒められた手首に走る鈍い痛みよりも強く、ダーリンの手がワシの手を掴む。熱くて、大きな手。天井だけを見ていた自分の目が、まるでそこにあるかのようにダーリンの手を見ていた。見えないけれど感じる手。
舌の這う下着の上に居るのもダーリン、見えない自分の手に触れているのもダーリン。
「あ、あ…ァああ…っ
ダーリン、だめ…ぇ……、ランちゃんもう…もう…っ」
「……ん?らめ?あにがらめ?」
舌を休めずにそのままの体制でダーリンの声が……!
★☆★☆★☆★☆
こっ声が……下着を通してダイレクトに……!
「やぁあ!あかん!もうあかんねやダーリン!ワシ舌だけで…また…ッ!」
かすれた悲鳴にまたダーリンのスットンキョーな声。……この声のときは絶対に言うこと聞いてくれへん……そろそろルールが飲み込めてきた……!
「舌だけで……なに?」
「もう堪忍して……堪忍してぇ……
ワシもう…お願いやから…!お願い…します……っ」
「だぁから、なにが?何を、お願いするのかなぁ?」
ようやく舌を離して、またワシにキスをする。どろどろの粘液と唾液と、それから、吐息。目の前がくらくらする、まるで酔ったかのように頭の中が真っ白になっていく。夢中でダーリンにキスを求めた。無言でただひたすらに求めたキス。ただひたすら与えられたキス。…酔うはずや…
「…お願いします…イかせてください…」
恥ずかしくて意識が飛びそうなのと同じくらいに、その言葉を素直に口に出した自分に驚いた。
「エライね、よく言えましたランちゃん…
でも、主語がない……いかんな、日本語は正しく使わねば……なぁ?」
“なりたての非処女”がイくはずが無いと思ってるのか、悶え狂うワシをイジメたいのかは解らんが、ともかくダーリンは何度も主語は?と訊ねる。
「ダーリン、ランちゃんもう我慢できないの!ほんとにもうダメなのぉ!」
「だーかーらー、何が?って訊いとるじゃろが」
「ダーリンが欲しいのぉ!」
「おれの、何?」
鬼!悪魔!変態!根性悪!サディスト!
頭の中でありとあらゆる罵詈雑言が浮かんでは消えて、最後に残ったのはこれを望んだのは自分自身だというただ純粋な答えだった。
「…×××……!」
顔が更に真っ赤になるのが自分でもよくわかった。ダーリンの顔もまともに見られない。
ダーリンの顔をちらりと盗み見すると、にたーっ、としか表現しようのない顔で笑った。心底嬉しそうで趣味の悪い意地悪な笑い顔。
その顔を見た瞬間に、手に込められていた力がすっと抜けて、同時に手錠の感触が一気に緩んだ。
「…お、音声認識…?」
「ご褒美」
布の隙間から舌が差し入れられ、ゆっくりかき回しながらお尻を揉まれた。
「ひあぁぁぁあぁああ!」
ようやく与えられたあんまりな快感と生で這いずる舌の感触が鮮烈過ぎて、声を抑えることも忘れてしもうた。生で舐められるだけでも気が狂いそうやのに、同時に尻まで…!
「ぃひぁや!だめーっ!」
ダーリンの頭を必死で押し下げているつもりなのだがダーリンの頭は少しも動かないし、舌と手の動きが休まることも無い。
「ああいやぁいやいやいや!」
ずるぅっと舌ごとダーリンがせり上がってきて、口中どころか顔中がぬるぬるになったダーリンにすごいえっちなキスをされた。
その後にダーリンが入ってきてワシはすぐにイってもた。その時、あまりの爆発的な快感によって失神した。……たった5・6回の経験で失神してええもんなんやろか。
★☆★☆★☆★☆
「……やー、……イったねぇ。」
顔が赤くなったまま元に戻らへん。まだドキドキ脈打つ心臓が脈打ち過ぎて痛い。
「……ダーリン上手いんだもん……」
「褒めたらもっぺんするぞ」
「やぁんダーリンったらー」
「……いたた…本気で殴ったな……」
「やだ、痛かった?ごめ〜ん」
「お詫びにキスさせろこら」
しまりの無いへらへらの笑い顔。
「…ダーリン怖くないの?ランちゃんの能力知らないわけじゃないんでしょ?」
冗談めかしてワシがそう言う。アホがその冗談を冗談めかして投げ返す。
「俺ね、そういうの有り余ってるからわけたげる。いくらでも吸い取っていーよ。
その代わりいっぱいランちゃんにえっちなことしちゃうもんねー」
能天気な返事。……アホ、そないな元気もみな吸い取ってしまえるのに。
「んでもさ、じゃあランちゃんは俺が怖くないの?
手ぇ縛られてえっちされるとかこぁくない?」
敵を作らない人のよさそうな顔と猫なで声、それからワシの表情の機微を絶対に見逃したりしない目。
頬が赤くなる。そないな真剣な顔でなんちゅうこと聞くんや。ここで何ゆうたかてイってもたんや、アレに勝る説得力なんかあらへんがな。
「んーん…こぁくない。ランちゃんこぁくなかったわ、ダーリン」
「おれも。ランちゃんがこぁい筈ないじゃないか。」
★☆★☆★☆★☆
調子に乗ったのかなんなのかは解らんけど、ついぞ言うまいとしていた話題にまで手が伸びる。睦言とはまっこと恐ろしいもんじゃの、女スパイの武器の意味がようやく理解できたわ。
「ランちゃん、ダーリンとラムちゃんの結婚式楽しみなのよ」
横でアホがグッと息をつまらせた。咽るというより無理矢理空気を飲み込んだみたい。
「もーどんな嫌がらせするかて、それ考えるのが最近の楽しみなんじゃ。長いこと下準備してな〜もー忘れとうても忘れられんよーな式にしたんねん。今までの恨みつらみを一気に昇華したるんや〜」
言うたびにアホの引きつり笑いがどんどん切実な音になってきた。わははは、ざまーみくさらせ。ワシほんまねちっこうてややこしい性格しとるんじゃ。
「ダーリンかて一発カマされたら笑って許せるタイプちゃうねんからワシのこと非難できんど」
一応釘を刺しておく。な、なんや…別にダーリンに嫌われたないわけやないで。
「俺はその場で晴らすタイプなんでね。長く持ってると腐るから、それ。」
「ワシのは腐らへんといつでも新鮮やで〜昨日のことのよーに思い出せるわ」
うふふ、と低く笑いながら両手をわきわき動かしてみせる。この両手一杯にも収まらん恨みをやなー……
「そ、そういうのって精神衛生上よくないよランちゃん」
……なんや、乗ってくるか無視すると思うたのにめずらしく反論かいな。
「ワシお前みたいに心広ないんじゃ。ウラミに燃えて明日を生きるんじゃい。ほっといてんか」
「…それがダメ!それが実にいかん。
ラムなんかいくら恨んでも暖簾に腕押し、糠に釘。一人相撲もいいとこだ。ああゆう手は恨みを無視するに限る。
俺は長年あいつと連れ添っとるから分るんだが、あいつほど憎悪の欠落しとる奴もおらんぞ。相手が憎悪を持ってるからこっちの憎悪ぶつけてケンカが成立するんだ、一方ばっかりヒートしても仕方あるまい。」
……わかっとるわい、そんなこと。ワシが何年ラムと付き合うとると思ってんねん。お前より長いんやぞ。
「ラムにぶつける怒りに頼ってないで、もっと別の…なんか、見つけたほうがいいんじゃないの?」
ダーリンはワシの触れてはいかん所に触れてしもた。絶対触れてならん所に。
感情のコントロールなんかきかへん。どないしょうもないところにお前は踏み込んだんじゃ!
「ランちゃんに他に何があるの!?
レイさんもダーリンもラムちゃんにとられて!今度はダーリンがラムちゃんを取るの!?
ダーリンがランちゃんのものになったりしないくせにそんな事簡単に言わないでよ!
ランちゃん一人で生きてけないんだから!!」
「だったら俺を恨めばよかろう!
一夜限りお前を陵辱した上に無責任に生きがいを取っちまう男だぞ、恨む要素は万端じゃろが!」
肩をつかまれ、自分のいきり立つ全てを吸い取られるようなキスをされた。
ワシ…そういえばこんなにたくさんキスしたことなかった。
この能力のこと知ってまでしてくれるような奴おらんかった。
誰彼なしに発動する力とちゃうて、知ってても……おらんかった。
……ラムぅ……お前ホンマに…ええ旦那もろたのぉ…そんでワシにまた嫉妬させよゆう魂胆やな…わかってるんや、ピンときたんや……
胸が押しつぶされそうになるほどぎゅっと抱きしめられた。背中に手を回して、よほど引っかき傷でも作ったろかと思ったけど…そんな暇なかった。
涙を食いしばるだけで精一杯やったから。……どないしてお前恨めゆうねん……
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「……夜があけるわね……」
窓の外が白み始めてきた。スズメの第一声に同時に二人の身体がこわばる。
「まだ明けきっとらん。」
毛布の隙間を埋めるように肌を寄せ合う。最後や。これで、終わる。
「いやや、帰らんといて、側におって…ここに…おっ……」
囁くような、呟くような独り言が肌にしみこめばいいと思った。
「いる。ここにおるではないか。こんなに抱きしめとるのが信じられんのか」
明け方のぼんやりしたダーリンの声。少し上ずっていて、切ない。
「いやや…ここにおったら……あかん……」
あかん。ここにおったら、ワシもうお前なしで生きていく自信なくなる。これは夢や。夢なんや。せやから……覚めなあかん。
「……どないせーとゆーのだお前は。」
「ランちゃんの目が覚めて、それでもまだおったら……ワシ、お前のことホンマにきらわなあかん…ラムともレイさんともあかんねや……お前まできらわなあかんようになったら……わしここにおられへんようになるやんけ。せやから……」
最後にしたキスは、ワシの望みどおりに強引で無理矢理で一方的やった。
気を失うほど、むせ返るほど…強引な。
★☆★☆★☆★☆
朝遅くに目覚めると、そこには昨日の痕跡などたった一つも残っていなかった。
まるで本物の夢やったみたいに。
安心したのか涙がこぼれて声を殺して泣いた。
体中から昨日の感覚が蘇って、体中からダーリンの匂いがして……声を殺して泣いた。
なんでラムはワシの欲しい物みんな持ってくんじゃ…みんな…持って…
せやけど渡さへんで……昨日のダーリンは……ワシのもんやったんや……最後まで……ワシの……ワシだけの……
涙が溢れて止まらんかった。
泣き疲れて一息ついて、結婚式には絶対派手な嫌がらせをぶちかましたるねん、と心に誓った。
ワシ心狭いからな、うらみ抱いて明日に生きるんじゃい。
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