ロングロングエピローグA
しのぶ+あたる×ラム
唇が熱い。
体の構造というか、基礎的なものが違うからだろうか。
年がら年中ビキニで通しとるしな。そもそも体温が数度高い。
日焼けだってしないし肌のハリだって地球人のそれとはちょっと異質だ。
そんな明後日なことを考えながらキスをする。
こいつとするのは何度目だったかもうとっくに忘れた。
女はキスが好きだと聞くけれど、俺も結構キスは好きで、でもめったにここまで濃厚なキスはしない。
それはラムだからというわけではなくて、単にその気がないからだ。
今日は珍しくその気がある。
何てことない、今日たまたまそんな気分でちょうど都合よくラムが側にいてちょっとカワイイ仕草なんかしやがったからだ。
取り返しのつかないくらいのドぎついのをかましてやった。
蒼の目が見開かれたままぎょろりと動いたので、押し倒すくらいに強く唇に力を込めた。
ジャリテンが押入れの襖の隙間から覗いているだろうか。
むき出しの肩を抱いて、自分の胸板に押しつぶされて弾む大きな乳が非常に気色ええ。
口の中でもごもごと何か言葉を発しようと、舌と唇を細かく痙攣させるように動かしたラムを力いっぱい抱き潰して動きを止めた。
ふと薄目を開けると、悩ましげにひそめられた眉が震えていたので笑った。
「……やめ。」
唇をやっと離すと、口の中がラムと自分の唾液でどろどろしている。袖口で拭ってラムから身体を離した。
「……な……っ!!
なんでだっちゃ!」
「おまーなー……また俺に変なもん使っただろ。」
牙をむき出して怒るラムにじと目で指摘すると、うっと言葉に詰まったようにそのまま黙った。
「どーしてお前はそういうもので俺の心を動かそうとするのかねぇ
いいかラム、男女の間柄に無粋なものを差し挟んだらその時点でそれは対等な関係にはならんのだぞ。」
説得することが無理だということも、無意味だということも俺は今までの経験上よく知っている。それでも言わなければならないと思う。自分の身と、ラムがここに居続けるために。
「ダーリンはそんなにうちが憎いのけ!?」
「ブッ……なんだそりゃ、憎いて……」
思わず呆れ返って呟いた。
なんでコイツはワケの分からんことばっかいって一人で大騒ぎしとるんだ?
「うちはただダーリンの側に居られたらそれでいいのに!」
「だったらどーしてこーゆー道具を使って俺をいたぶるんじゃい」
「ダーリンはうちと結ばれたくないっちゃ!?
うちはダーリンに全てささげるのに!」
軽いめまいがする。
最近こいつは暴走気味だ。どこでどう仕入れてきたか知らんがその情報が完璧にマチがっとる。こいつのいいところは従順・素直、オマケに単純というところだか、そっくりそのまま欠点ともいえる。
「お、お前ね……」
いつもの調子でジャリテンやメガネ達が乱入してくれないものかと期待して、それが如何にばかばかしい願いであるかも同時に知った。俺はまだラムと一線を越える気がない。
深い仲になってラムの拘束が云々かんぬんという問題ではない。
はっきり言ってしまえばラムはまだガキなのだ。さっきのようにちょっと強く出ると途端に弱腰になる。悦んではいるのだろうがそれより明らかに不安が勝っている。いくらなんでもそんな女に無理強いするほど俺は鬼畜じゃないぞ。
「そーゆーことはもっと覚悟してから言え!
いいかラム、なんども言うがお前にはまだ早いんだ。……わかったらとっとと自分の寝床へ行けバカタレ!」
「早くないっちゃ!うちはちゃんとダーリンを受け…」
「ほぉ。受け入れられるとな。
ぼけ!寝言も休み休み言わんか!ぶるぶる震えとる女抱いたっておもしろないわ!」
ぎくりとした顔のままうつむいたので、俺はそれ以上言わずに布団をかぶった。
背中でぽたりと雫の落ちる音がした。
いつものことだと思う。
たったそれだけのことだ。
何度もあったことだ。
全部乗り越えてきたことだ。
だから今回も乗り越えられるだろうと、根拠のない自信があった。
ラムが学校に来ないくらい。
いつもの調子で面堂やメガネ達が俺に動向を聞きに来る。いつもの調子で知らんと答える。ばかばかしくもいつも通りの工程だ。
いつもと違うのはその後しのぶに呼び出されたことくらいだ。
「あたるくん、真面目な話をしましょう」
手を取っていつものスキンシップを計ろうとするおれの目をまっすぐ見て、静かにそう言ったしのぶは、俺だけが知ってる顔をしていた。
「……なんだよ」
「なんだよじゃないわよ。ラムはどうしたの」
「かー、まぁたその話かよ…おれはラムの付録じゃねえんだぞ!ったく、みんながみんなおれの顔見るたびラムラムって……」
「当たり前でしょ、あんた達は世界で一番有名なカップルなんだから」
「にしたって俺がないがしろにされすぎじゃ!」
俺が窓の桟に頬杖を付く。その隣で呆れ顔のしのぶ。
「あたるくんってヤキモチやきよね」
「…………そっかな。」
思い当たることもある、がしかし知らん振りをする。
「そうよ。自分自身にまでヤキモチやいて、ばかみたい」
「……は?」
「ラムとなんかあったんでしょ」
鋭いことを言う。しかしそれが唐突でもあり、的を射過ぎてもいるのが不自然だった。
「………ああ、誰かさんが変な入れ知恵してくれたおかげでなー」
ひょいと隣を見るとわざとらしいまでに明後日の方向に視線をそらして、知らん顔をしている。…わざと引っかかったな…
「ったく……何言ったんだあの単細胞に……おかげでこっちはえらい迷惑しとる」
まだそ知らぬ顔をしながら口笛なんて吹き出したので、くいっと顔をこちらに向けさせる。
「いかんなァしのぶ、人の話はちゃんと顔を見て聞くもんだと習わんかったか?ん?」
「だってまだしてないなんて思わなかったんだもの!
ラムはプロポーションだっていいし、地球に来る前にレイさんとあったんじゃないかとー」
たらーっと流れる汗を拭いもせずに弁解にもならない弁解をして、しのぶがアハハハと笑った。
「ふん、その方がなんぼか話が単純だったろうにな。
……どーせお前のことだ。おれが優しくなかったとか言ったんじゃないのか?」
「ちょ……!見くびらないでよ!そんな無神経なこと言うわけないでしょあたるくんじゃあるまいし!」
なんちゅう言い草じゃい。
「ほー。じゃ、なんとゆーた?」
「最初は痛いとか怖いとか急だとかどうやったって力じゃ敵わないとか」
「なお悪いわ!……すっかり怯えとるぞあのばか。
へたに触ることも出来ん。なにしろUFOに閉じこもって出て来やせんのだからな。」
そ知らぬ顔でそっぽを向いてもしのぶは呆れた目線でおれを見ていた。
「……ヤキモチやき。
ラムに好かれてる自分が羨ましくて手出しできないだけじゃないの。くっだらない」
しのぶがそう言ったので言葉を返そうとした瞬間にチャイムが鳴った。行き先を失った言葉が無理やり戻ってきた。
『男が女にヤキモチやいてどこが悪い』
………自分に嫉妬してるのは流石に……
しのぶの言葉が居心地が悪くてガールハントも乗り気しない。ぼんやりと考える。
女の気持ちは分からない。女の感情は分からない。
しのぶの気持ちも分からなかった。でもあいつは自分でちゃんと処理して…で、乗り越えちまった。おれは見習って真似して乗り切った。それから後は近いけど別の道を歩いてる。お互い時たまこうやって意地悪をしに立ち寄ったりする。別の道はそう遠くないから少し切ない。
乗り切った、つもりだが今でもやっぱりしのぶは特別だ。
淡く遠くなっても忘れることは多分ない。
あのときおれはちゃんと本気だったよ、それなりに。後からそんな話しをしてお互い笑った。あの時したキスが最後だった。
でもこうやって話したりするし何も変化もない。そうしようとしているから。
いつかラムとも……こんな思いを共有するのだろうか。
……そりゃねぇな……あいつしつこいから。
周りの連中がよく「ラムはおれのどこに惚れたのか」なんてバカなこと聞きやがるけど、そんなもん言い当てられるやつだったらおれは惚れたりしねぇよ。ラムは単純で従順で短気で乱暴者だけど……しかたねぇよなー、気に入ったもんは。
一緒に暮らしてて、一緒に乗り越えて、ずっと居たから空気みたいになっちまった。ないと苦しいんだよ。認めるのには努力が必要で、そっから発展するのには訓練が必要だった。そんでこの世の中ってのは努力が簡単に実るほど単純じゃないし、訓練が報われるほど従順でもない。
で、しのぶはおれを蹴落とす。
一人でいい女になりやがって。おれも連れてけよ。
優しいしのぶちゃんは先に牽制を入れる「あたしはあんたを助けたりしないわよ」。おれはしのぶに名実共に男にしてもらったってわけだ。
おれの周りには逞しくてしなやかな女で溢れかえっとる。それが羨ましい気もするが、同時に不憫な気もする。傲慢だろうが。
なぁラム、お前一人で考え込む癖やめろよ。お前はしのぶや弁天さま、お雪さんみたく強くねぇんだからさ。おれが原因だろうがなんだろうがおれから離れるなよ。
苦しいではないか。
日曜日、朝起きるとそこはラムのUFOだった。
「おきたっちゃね、ダーリン」
「……なんのマネだ二週間も帰ってこんで」
短い沈黙の後ようやく憮然とした顔でそう言えて、おれはあわててそっぽを向く。緩んだ頬が元に戻らない。
「なんや締まりないアホ面しやがって」
浮かぶ緑色の球体が相変わらず小憎たらしい言葉を吐いた。
「よージャリテン、こんなとこに隠れとったのか。母さんが心配しとったぞ」
「おどれは自分の母親が心配しとる人間になにさらすんじゃい!」
ぷくぷくした頬を思い切り引き伸ばしながらぎゃあぎゃあ騒ぐジャリテンをひっくり返した。真正面から火ィ吹かれた日にゃあたまったもんではない。
「テンちゃん、いい子だからお外に遊びにいくっちゃ。うちはダーリンと大切なお話があるんだから」
「せやかてラムちゃん、このアホ…」
「お願いだっちゃテンちゃん。」
しばらくぐぬぬぬ、と唸っていながらもジャリテンは黙って窓から外に出て行った。振り返りも憎まれ口も叩かずに。
「……………なんじゃい、星に帰ったのかと思った」
「帰ってたっちゃ」
ラムがまるで抑揚の無い声でそれだけを言ったので、俺は二の句がなかなか次げずにいた。
「……せめて一言母さんに言ってから行けよ!心配するだろーが」
我ながら苦し紛れな話展開だと思った。
「お母様にはちゃんと言ったっちゃ。夕食だってちゃんと三人分しかなかったはずだっちゃ」
背中でする声が淡々としてて、おれは思わず振り返る。
「………………ダーリンは心配してくれてなかったのけ?」
なんちゅう痛ましい笑い方するんじゃい、けたくその悪い。所在のない愛想笑い。きっちり正座なんかしやがって。
「するかっ」
口から出るのは相変わらずの憎まれ口で、取り繕いも本音も生まれない。
「うち…ダーリンと……」
「やめんか朝っぱらから!んな話ききとうないわ!」
ぎくっとした顔のまま、また愛想笑いをしたので俺は無性に腹が立って仕方なかった。なにしろいつものラムならここで電撃の一発でも食らわせるはず。でもってきーきー怒ってダーリンのばかーって、それで終わりだ。
今日は妙にしおらしい。というか覇気がない。
「うちダーリンと……出来ないっちゃ・・・
妻の務めも満足にしないなんて・・・怒られても当然だっちゃ・・・」
・・・このばか。
ばか。
どあほ!
「んな事で怒っとるのではない!
見くびるなよ、俺はお前が怖がるからやめたんだ。意味などそれ以上もそれ以下も無いわ!
俺が今怒っとるのは!お前が俺に無断で二週間も帰らんかったことだ!」
言ってしまってからしまったと思った。結果的にラムを心配していたと言ったも同然だったから。
しかしラムはそれについて突っ込んでこなかった。ぼんやりと俺の顔を見ている。
「ダーリンは出来なくてもうちのこと嫌いにならないっちゃ?」
「・・・お前が何を勘違いしとるのかは知らんが、俺は嫌がる女を抱く趣味は無い。がしかし!抱けない女を嫌う趣味も無い。第一俺は女の子とお付き合いする上で己の性欲のみを満たす下心など邪道だとゆー主義じゃ。」
「でもダーリンしたくないっちゃ?しのぶはダーリンがしたがりって言っ……!」
はっとした顔になって、それから顔が青くなった。…大方絶対に言うなと言われとった事を口滑らせたのだろう。マヌケめ。
「…どーも最近おかしいと思ったら、えらいしのぶと仲良しこよしなんだなー。
そんな事まで聞き出したのか。おーおー、陰険な了見だー」
「そっ…そんな言い方……」
言葉を詰まらせたままうなだれたラムはまた所在なさそうな顔をして黙った。
「そーいや変なもん飲ませやがったな、どーせ媚薬だか惚れ薬だかってとこだろ。
そーゆーもん使ってまで何故したがる。」
じと目で睨みながら心なしか身を縮めているラムを問い詰める。根性もねーくせに人の劣情煽りよってからに……
「だって!
うっ…うちの星ではせっ…せっくすなんかしないし!……ホラ、うちの星って科学が進歩してるから人工授精で……
……だからうちそんな知識なんかないし……仕方ないからしのぶに訊いたら…ダーリンは……その、それ好きっていったっちゃ…」
…………あのアマ……
「だからうち、ダーリンに喜んで欲しくて……でも誘い方なんてわかんないし……昔みたいに布団敷いて迫ってもどうせ逃げると思って……ダーリンをその気にさせようとして媚薬をつかったっちゃ…。…でも怖くて……」
ぎゅう、とこぶしを握って長い髪で顔が隠れるほど俯いた。遠目には分からなかったが肩が薄く震えている。
……あほが……
そう頭の中で呟いて、それが誰に向けるべき言葉なのか分からない自分がいた。アホだ。あほだ。
「お前は俺を信じとらんのか?
やだっつったらちゃんとやめただろうが。今までお前を襲ったりしたことあったか?」
そういう問題ではない。分かってはいる。だが無性に腹が立つ。そんでそれ以上に切ない。
「……信じてるから……怖くてもしたかったっちゃ……」
一気に自分の顔が赤くなるのが分かった。
……やべ……かわいいではないか……
「…………ゆーてみー。」
へっ?と泣き出す寸前みたいな顔をしたラムが間抜けな声を上げた。
「どないしたら怖くないかをゆーてみーちゅーとんじゃ!」
ラムがやっと笑った。
泣きながら。
「……おまーなー……」
「だってダーリンが言ったっちゃ。」
こんな平日の水曜日に遊園地だと?人が居ないのはいいがだからこそ目立つではないか、ふわふわ浮きやがって。
「だー!浮くなちゅーとろーが!普通にしろ普通に!
お前はなんもせんでもただでさえ目立つっつーのに」
「はいっだっちゃ」
うっれしそーな顔しよってからに。
ぶすったれた顔を作ってもつい頬が緩む。それを何とか押しとどめる。二週間ぶりに帰ってきたのがそんなに嬉しいのか俺は。
短いスカートを揺らしながらはしゃぐラムの、パーカーのすそが浮き上がるたびに俺はそれをはっと押さえそうになる。じっとできんのかこいつ!
「ラム観覧車乗るぞ。」
これ以上ちらちらされたらたまったもんじゃない。
「えーダーリン観覧車はトリに乗るものだっちゃよ?」
「うるさい!乗るっつーたら乗るの!」
ぶーぶー言うラムをなんとかムリヤリ観覧車に押し込めて。
「なんだってそんな短いの穿いて来たんだ、動き回るのが分かっとろーに」
やっとちゃんとぶすったれた顔が作れる。それに比例するようににまーっとラムが笑う。
「ダーリンどきどきするっちゃ?
うち今日はいつもの一張羅じゃなくって地球の下着つけてるっちゃ。」
ほらっと、満面の笑みを浮かべてラムがスカートをめくろうとする。
「わっばか!はしたないマネを!」
思わずスカートを押さえつけた……拍子に、太ももに手が触れる。ぎょっとして手を引っ込める。手のひらにいつも食らってるのとは違う電気がビリビリ走ったような気がした。
「わっわざとじゃないぞ!だいたいお前が…」
言い訳を言い終えるより先に目に飛び込んできたのは、ラムの上気した顔。
「ダーリン…もっと触って……」
今なら怖くないっちゃ、ここなら誰も見てないっちゃよ…。耳元で囁くあのラムの声が潤んでいる。
「ばっばか!動いてんだぞ観覧車は!」
外を見るとちょうど頂上に差し掛かるところだった。小さな遊園地のこれまた小さな観覧車なのだ、一周する時間もたいしたことがない。
「大丈夫だっちゃ」
けろりとした顔で体中から電撃を放つ。…がく、ん…と鈍い音を立てて観覧車が止まった。
「…なっなんちゅうことをお前…」
「そんなに強い電流じゃないっちゃ、すぐ復旧するっちゃよ」
……ついさっきまでびーびー泣いとったと思ったらこれか……女はわからん…………。
そんなことを思いながらも手は正直にラムの太ももに吸い寄せられる。対面に座っているラムのスカートの奥がもう少しで見えそうになる。手を滑らせればぴったり閉じた足にかかるミニスカートを……
「ん……ダーリン、くすぐったいっちゃ……」
手を滑らせる。ずずずっと、太ももをすべる自分の手がもどかしい。第二関節くらいまでスカートの中に潜ってしまう。……いいのか、このままどんつきまで行って……
柔らかくてつるつるの肌。温かくていい匂いの太もも。指に少し力を入れると簡単にへこんで戻ってくる弾力が心地いい。
「やっ……あ…」
見上げると、悩ましげな顔を真っ赤にしたラムが何かに必死に耐えるように唇を薄く噛んでいた。
「……怖いか?」
「ちっ……ちがっ…
なんか…ダーリンが触ったとこ、変な感じなんだっちゃ……」
ぞくぞくして熱くなってひりひりして……恥ずかしいっちゃ……短くぼそぼそそう言いながら更に顔を真っ赤にして自分の言葉に照れている。
かわいい。
むちゃくちゃかわいい。
自分の背筋がぞくぞくする。もう止まらん。どうにもならんぞこんなもん!
いくら初めてじゃないといっても俺だってそんなに経験豊富なわけじゃない。おまけにいつも見てるあの顔が恥ずかしそうに赤くなっとるんだ、これでどうにかならない男がおったらそいつは病気かホモだ。俺は生憎病気でもホモでもない。だからどうにかなっちまいそうだ。
ここでもう押し倒してしまおうか、なんて頭に過ぎった瞬間。
がくん、と観覧車が動き出した。ゆっくりとゴンドラが地面に近づき始めた。
なんとなく二人とも、ゴンドラの外に出るまで顔を合わせられなかった。
「お前さ、はじめてが外なんてやじゃない?」
「いいっちゃ。UFOや家なんかでしたら、うち恥ずかしくて帰れないっちゃ」
くすくす笑いながらラムがそんなことを言った。頬が桜色になってて、いつもと雰囲気が違ってるからかもしれないが、それがえらく色っぽく思えた。
「金の心配してんなら……」
「ううん、ちがうっちゃ…早くダーリンにして欲しいから…」
遊園地の裏手にある公園。木々が生い茂っててベンチがいちいち死角に設置してあって、いかにもカップル受けを狙ってそうな公園。さぞ夜は大盛況なのだろう。普通平日の昼間にこんな視界の悪い場所に居る人間はよほどの変わり者か、リストラされ所在のないサラリーマンくらいのもんだ。
おれはそれ以上何も言わずに素直にラムの首筋にキスをした。きゃしゃな首が驚いたのかひゅっと縮こまる。ゆっくりと唇を動かして鎖骨のへこみに舌を這わす。ラムの息が急に切なくなった。必死で声が出るのを我慢しているらしい。
それを見て、ぞくぞくするのと同時にいたづら心もむくむくと頭をもたげる。
「どうした、声出してもいいんだぞ」
「やっ……恥ずかしいっちゃ……」
ちらりと視線を胸の膨らみに移す。つんと上を向いた形のいいバストが服を押し上げ尖っている。そこに指を沿わすようにそっと触れた。
「くぅ…ぁ」
声がますます切なく途切れて、俺はついに切れてしまった。
もういかん。
実にいかん。
「ラム、これ以上すると俺はもう自制がききそうもない。やだったら今すぐ言え、言わなきゃこのままする。もう止めん。」
ぜーぜー息荒らしながら吐くセリフではないが、最後の理性を振り絞ってそれだけを言った。
「……して。ダーリン」
すこし間を置いて、ラムが恥ずかしそうに言った。
俺の何かがぷつっと音を立てた。
キスをする。どろどろのだ。いつもみたいな浅いのではない。深くて長くてねちっこい奴だ。何度も何度も角度を変え深さを変え牙に気を付けながらラムの舌を転がした。唇を離すのももどかしくて、息をするのも面倒だった。
胸を揉みしだく。形も大きさもちょうどいいラムの胸は、やあらかくて温かった。おまけに尖った先端がひどくいやらしいと思った。パーカーのチャックを三分の一ほど下げると、始めて見るラムの普通の下着姿が現われた。薄いピンク色のレースがあしらわれたブラジャー。指を進入させる。探り当てた硬くしこった先端が高い熱を持っているのに驚いた。
「あぁ……」
小さく唸るように呟いたラムが俺のYシャツにしっかりしがみついたので、身体が更に密着する。ズボンの前にラムの腹部が押し当てられ、ひやりとする。
「……ダーリンも気持ちいいっちゃ?」
ラムがわざとこする様に密着したまま上下に動いてみせる。硬くズボンを押し上げているものの正体を知っているのだろう。
「やっやめんか気色のいい」
「もっと良くなるっちゃ」
言うが早いかチャックが開かれ、もぞもぞとそれを引っ張り出された。ラムの指が絡められたそれは妙にグロテスクな気がして、思わず振り払いそうになる。が、ラムのひんやりした柔らかい指が吸い付いているようで身じろぎできなかった。
「うち勉強したんだっちゃよ…」
言うが早いか、ラムはそのままずるずると下がっていってぱくっとそれを頬張った。
「ななななな!!」
思わず声を上げる。その自分の声に驚いて口を押さえた。さっきまでとろけるようなキスをしていた唇がそれを咥えている。異常な光景だと思ったがそんなことを考えた瞬間に舌が絡み付いて全てが吹っ飛んでしまった。
じゅるじゅる、はしたない音がそこから聞こえる。ゆっくり、牙が当たらないと気遣っているのだろう。もどかしいほどゆっくりした慎重な舌運びが、結果的に焦らされたそれをいっそう大きくした。
「ダーリンこれ以上おっきくしたらうち、口にはいらないっちゃよ…」
さっきまで触れられて恥ずかしいと言ってた女のセリフかそれが。
程よくざらざらした舌がねっとりゆっくり舐め上げるので、ぞくぞくと全身の毛がそそけ立つ。ゆっくりゆっくりアイスを舐めるかのようにねっちりじっくり、嫌がらせかと思うほど丁寧に。
「らら、らららむ、やるなら一思いにやってくれ…気が狂う……」
「うち初めてだから基本に忠実にやるっちゃ」
ハウツーセックスものの記事を素直に鵜呑みにしたのか、ゆっくり記憶を辿るかのようにまたリップストロークを繰り返す。じゅるじゅると言う音だけが全身を伝って脳髄に響き渡る。
頭を掴んで激しくゆすりそうになる自分の手を必死で押しとどめる。振り払って全て吐き出したいのを全身で我慢する。頭の中が真っ白な砂嵐で一杯になる。
「ダーリンの我慢してる顔とってもかわいいっちゃ」
……こっ殺す……
能天気で官能的なセリフがやっと耳の端に引っかかった為に、殺意が芽生えた。
「ご褒美、だっちゃ」
声が聞こえた後。
強い衝撃が全身に走って、記憶が一瞬途切れるほどの快楽の波が押し寄せる。
「ん゙!んーんん!んー!!んー!」
苦しそうな声が押さえつけた両腕の下からくぐもって聞こえる。聞こえてもどうしようもない。ただ精液の出続ける快感に身を任せるしか方法がない。自分でも信じられないほどの量を吐き出す。相変わらず柔らかい唇の感覚は纏わりついたまま…
息切れと頭痛までもする。耳鳴りと視界不良が世界の全てになってしまった。
「おっ男を甘く見るとこういう目に遭うんだ…わかったかラム」
やっと出た言葉がそれで、俺は後々心底後悔する事になる。
それはもう、心の底から。
調子に乗っただけなのだろう。
もしかしたら無理矢理虚勢を張っていただけなのかもしれない。
それをわかってやれずに、出た言葉がアレだった。最低だと我ながら思う。
あれからラムは家に帰ってこない。当然学校にも来ない。ずっとだ。もうすぐ一ヶ月になる。ため息もいい加減つき疲れた。学校の連中もおれを追及することに飽きたらしく、ここ暫く静かなもんだった。
風呂に入っても部屋で漫画読んでても思い出すのはあのことばかりで、吐き気さえする。
なんでおれはこうなんかね。素直に気持ち良過ぎたスマンと言えばよかったんだ。
『ラムに好かれてる自分が羨ましくて手出しできないだけじゃないの』
しのぶの言葉が耳に痛い。
俺はラムに好かれている俺が羨ましくてたまらない。だからせめて虚勢を張る、お前なんか平気だよ、と。
素直に喜んだり出来れば追い詰めることもなかっただろう。いつもこうだ、自分に振り回されてあいつを泣かしちまう。
情けない。一年前からちっとも進歩してない。
こう反省したってラムの前でその反省が生かされた試しなどいっぺんもない。サルだってもっとマシだろうに。
一ヶ月前からかけられたことのない部屋の窓の鍵を見る。夜空を見上げてもムダだと頭でわかっててもつい見上げる癖にも慣れた。
ゆっくり立ち上がって夜の散歩に出る。一ヶ月前からのお決まりのコース。ラムの居そうな場所を一周する。ランちゃんのUFO、しのぶの家、サクラさんの実家、竜ちゃんの宿直室……公園、繁華街……考え付く限りのデートコース。
ぼんやり歩く。
家で母さんは何も言わない。父さんはバカな息子だと言った。自分でもわかっとるわい。
……おりもせん奴にどーやって謝れちゅーんじゃ。謝るチャンスも貰えんのか俺は…
「来てないわよ。」
窓からしのぶが顔を出す。いつものことだ。いつもの返事だ。
「ああ。」
「あんたもバカね、毎日毎日探し回るくらいなら最初から素直になればいいのに」
「…………。」
「……ね、ちょうどいいからコンビニまでボディーガードやってよ。」
言うが早いか窓の中に引っ込んで、ものの一分で玄関から出てきた。
「早いな。」
「つ、ついでよ、ついで。」
月の光を背に受けながらはっきりしない自分の影を踏み踏み、二人で無言のまま歩き続ける。
不意にしのぶが言った。
「謝らなくていいわよ。」
急にそうポツリと聞こえたので、弾かれたようにしのぶを見た。しのぶは自分の影を見つめたまま歩いている。
「だってそうでしょ?誰だって最初はコワいもんよ、あたしだって怖かったわ。でもあたるくんだから…我慢できたのよ。怖くてしかたなかったけどあたるくんのこと信じてたもん。
ラムは信じられなかったから逃げたわけでしょ?謝る必要なんてないわ。むしろあたるくんが」
「違う。
あやまんなきゃならんのは俺の方だ。
怖がってるの知ってたのに」
……なんでおれはしのぶの前だとけっこう素直になれるのに……
そこまで考えてはっとした。
何故しのぶがラムと俺のこと知ってるんだ?それより先になんで…
「黙っててごめんね。うちにいるのよラム。
一ヶ月経ったし随分落ち着いてきてるから迎えにいってあげて。」
しのぶがバツの悪そうな顔で笑う。
俺はまたしのぶに甘えたことを知った。
「帰ろう。」
コンビニの袋を提げたまま、久しぶりに入るしのぶの部屋でうずくまっているラムに手をさし伸ばした。
「明日ちゃんとお礼に来るよ。すまんな迷惑掛けて」
しのぶにそう言いながらうなだれるラムを引き起こして部屋を出る。ラムは嫌がりはしないが目もあわせない。引き寄せる方向に足進めるだけだ。
「こういう時はお互い様。
よかったわねラム、あたるくんが迎えに来てくれて」
その言葉に俺は背筋をチクリとやられた気がした。結局俺はしのぶを迎えには行かなかったのだ。
「……しのぶ、お前まだ俺のこと好き?」
握っているラムの手がびくっと震える。
「自惚れてんじゃないわよバカ。」
呆れ顔でため息をついて笑った顔がいつも通りで、また俺は救われる。
「ひでえな」
眉をひそめて笑った自分の顔がすまなさそうに歪むので、むりやりに笑い顔を作った。
しのぶの家のドアが閉まって二人で歩き出した。月が冴えてきていて、二人分の足音とコンビニ袋のがさがさという音だけが聞こえる夜道は変に懐かしいような気がして、黙って歩いた。ラムは何も言わずまだうなだれている。
俺は歓楽街に足を向けてそのままホテルに入った。ラムの手が汗ばんでいる。キーを選んでエレベーターを待つ間中、自分の鼓動が静かなのがやけにおかしかった。
部屋に入る。ラムはまだ微動だにしない。
「まぁ座れよ。家じゃまともに話出来そうにないからここに来ただけだ。
一応はっきりさせとかんと気持ち悪いからな。」
黙ってベットの向かいに置いてある椅子に座る。俯き加減で顔がよく見えない。
「悪かった。心から反省しとる。だから帰って来い。」
ぺこりと頭を下げて一気に言った。一世一代の大告白だ。めったに見れるもんじゃねーぞ。
「……ちゃ……」
「?」
「……っちゃ…」
「は?」
「うちのこと好きって言わなきゃゆるさないっちゃ」
震えた声で小さくそう言ったので、ぐっと言葉に詰まる。お前っ…ここまで俺が譲歩しとるとゆーのに……?
……?
「ラム。お前ちょっと顔上げてみろ」
「うちのこと好きって言わなきゃ上げないっちゃ」
「いーから上げてみろ。」
「……や、やだっちゃ」
「上げてみーちゅーとるんじゃ」
ぐいっと力任せに顔を両手で引き上げる。
「お前なんでそんなに顔が笑っとるんじゃい」
ぷいっと目をそらす。……いい度胸じゃねーか。
わき腹をつかんでくすぐる。途端に付け焼刃の眉間のしわは消えて大声で笑い出した。
「キャハハハハ!!ダーリンやだ!なにすっ…ちゃアハハハハハハ!!」
「何を隠しておる!お前との付き合いは伊達に長いわけではない!吐け!吐くのじゃ!」
「アハハハハハ!いやっあははははは!!だーり、あはははははやっやめるっちゃー!!」
「言え!言ったら止めちゃる」
ベッドに引き倒して逃げ回るラムのわき腹をくすぐり続ける。
「アハハハハハハハハハ!!ダーリンもうやめるっちゃ!わかった!言う!言うからぁー!!」
「ほんとだな、嘘ついたら気絶するまでくすぐるぞ」
「ほんとのほんと!ほんとだっちゃ!ほんとだっちゃー!!」
ようやくくすぐるのを止めると、ゲホゲホ咳き込んで呼吸を整える。目じりに涙が浮かんで、ぜーはー肩で息をしている。明らかに素でわらっとったなこいつ……
「言え。」
「……な、なにを……」
「気絶させられたいのかお前は」
両手をわきわき動かすと、うっとなった顔のまま数秒固まって……仕方ないという表情でぽつりぽつりと話し始めた。
ラムがしのぶに俺のことで相談を持ちかけて、しのぶが煽ったこと。
その煽りを真に受けて公園で更に恐怖症になったこと。
しのぶが煽った責任を取るために一ヶ月の面倒を見ることになったこと。
「よりによってしのぶとグルか。」
「だってこのくらいしないとダーリン反省しないっちゃ」
……こっ…こ・い・つ・わ……
無言で震える俺を見て心配になったのか、ラムがそろりとそっぽを向いたおれの顔を覗き込む。
「…………だ、ダーリン……怒った…?」
ベットの端に乗っかって、心細げなこえで訊く。
「あー怒っとる!これ以上ないくらいにな!」
「ごめんっちゃ、うちも流石にやりすぎたと思っ」
ばさ。肩をつかんでそのまま押し倒す。
「反省しとるか?」
「し、してる!してるっちゃ。」
「んじゃ、お詫びのしるしにリベンジさせなさい。
……こないだみたいに怖くせんから。」
ぎくっとラムの肩が震える。顔が笑顔のまま固まった。
「……ぜったい?やだって言ったらちゃんとやめるっちゃ?」
「おう、約束する。
やぶったら電撃食らわせろ、最大のやつ」
ラムの目が伏せられて、暫くしてから頷いた。丁寧にキスをしてラムの耳元でありがとう、と囁いた。
服を取り払ってまじまじとラムの身体を見る。程よく肉付きのいいグラマーな身体はどこもかしこもすべすべで、柔らかかった。
「うち…シャワー浴びたい……」
「いいぞ。一緒に入るか?」
ラムはほほを染めて慌ててシャワールームに飛び込むように逃げた。……いつもと立場逆転だな。なかなかこういうのも面白いぞ。
もう何度目か忘れた深い口づけ。裸で布団の中にもぐるというのは不思議な感じだ。しかも着けてるのが下着だけというのが実に頼りない感じがする。キスをしながらラムのバスローブの胸元に手をかける。
「……お。」
「この前のリベンジだっちゃ」
あのブラジャーが零れ落ちそうなラムの胸を隠していた。
「お前はなかなか分かっとる」
頭を撫でてやると照れたような嬉しそうな顔をして笑った。もう一度深くキスをして、そのキスを首筋からそっと這わせて胸の谷間にずらしていく。窮屈そうなホックを外して、胸を優しく撫でた。
「ん……っ……」
押し殺したみたいな鼻声。耐えるような吐息が耳元で霧散する。
「なんだ、声出したっていいんだぞ」
ふるふる首を横に振って顔を真っ赤にしたまま俯いた。……わざとやってんのかこいつ……んな顔されたらいじめたくなるではないか。
胸をゆっくり揉んでその表情をじっと観察する。胸の尖りがいっそう強くなり、張りが増したような気がする。ちらりとおれを見て、目線が合うと更に顔を赤く染めて目をそらした。……絶対さそっとる。嗜虐欲を煽っとる。
……しかし調子に乗ってまた同じ轍を踏むのもなぁ……
…………よーするに、怖がらせずにいじめりゃいいんだ。
画期的なアイデアと人道的かつハイセンスな発想に我ながら感心してみる。
ゆっくりゆっくり胸を揉んで、強く弱く緩急つけてラムの息が切なく途切れ途切れになってもまだ止めない。尖りを引っ張りつまみ指先で転がしてもゆっくりまるでほぐすかのように揉みしだく。
身体がいい調子に火照ってきたのでゆっくりと指をわき腹から太もも、その付け根へと滑らせていく。肌がビリビリと電気を帯びている。よほど感じているらしい。顔が必死に耐えて耐えて今にも叫びだしそうに震えている。
指の腹ですべすべの下着を少しづつずらしながら、もう片方の手は背中から滑り落ちて形のいいヒップと下着の間に滑り込ませて肌をもんだ。
「ああっ……だっ……ダーリン…!」
「なんだ?」
「恥ずかしいちゃ…見ないで……」
顔を背けて小さな声で抗議する。
「分かった。」
俺は目を閉じて手探りで下着を全部剥ぎ取った。太ももの付け根の奥に触れる。
「……ラムはすけべじゃのう、こんなに濡らして」
「やっ……ちがっ!ダーリンが…するから!」
「そっかぁ?この量は違うだろ。俺のせいでは…」
「うち、ダーリンじゃなきゃこんなにならないっちゃ!」
……くそぉ、かわいい。
中指を少し折り曲げて、秘部にフィットするように手を当てた。その途端に静電気のような電撃が身体中に走った。おーおー、正直な身体だこと。
ゆっくり動かす。あっという間に手がぬるぬるになる。潤滑液のおかげでさして抵抗もなく中指が埋まっていく。その度に微弱な電気が中指を中心に身体に広がる。それがなかなか面白くも歯がゆい。電気が走っても声を必死に我慢しているのだ。そんなに声出すのがいやか?
「どうした。気持ちいいのか?ゆってみ。」
ふるふる。無言で首を振る。必死で唇を噛んでいる。くそっ…負けるもんか。
「……あそお気持ちよくないのか。じゃやーめた。」
手をふっと離すと、ラムの顔がはっとして急に眉を思い切り顰めて、やっと切ない声を出した。
「やっやめちゃやだっちゃ!」
わはは簡単に引っかかりよって。
「じゃ続ける。
でもどこがどう気持ちいいか言われんとわからんしなァ……困ったぞぉ。」
わざと間延びした間抜けな声を出してちらりとラムを見た。真っ赤な顔をして小さく息切れしているラムが意を決したように唇を動かした。
「ダーリンのゆびがうちの…いじったら……気持ちよくって……だから…して?」
「うちのドコ?あたるくんわっかんなーい」
「うちの……た、たいせつなとこ……」
途切れ途切れの切ないセリフ。
「どーこだろーなー角かなー」
そ知らぬ顔でしらんぷり。
「……うっうちの……ヴァギナ……」
……いや間違いではないが……もちっと官能的な単語はなかったのか。別にオ○○○とまで言えとは言わんが。
「よし、じゃ俺の手をそこまで持ってってくれ。その場所が分からん。」
かーっと顔が更に赤くなった。……こいつこのままぶっ倒れるんじゃねーのか。
そんな明後日な心配をよそに、ラムは素直に俺の手を自分の股間に誘導する。……さっきより濡れてる……
そこまでで俺がやっと保っていた冷静さが崩壊した。
「ちゃっ!!だっダーリン!!なんてとこ舐めるっちゃああぁあぁ!!」
「お前だっておれのいじめただろうが。仕返しじゃ」
舌を這わす。ぬかるむ熱いジュースに口をつける。生まれて初めてここまでの至近距離でラムを見たかもしれん。
「ああっだーっ…リ、ン……のばかぁ……」
丁寧に丁寧に舌を這わしてはわざと大きな音を立てて飲んだ。その度にビクビクと痙攣する全身を逃がさないように、ラムの両手を合わせる様に握り締める。
「……ん……ああぅ…んっ!」
ドロドロになる顔がおもしろい。汗と涙と吐息でラムの顔は俺の顔よりドロドロになっている。髪がいく筋も張り付いて不必要なほど色っぽい。
いかんおれがぶっ倒れる。
口を離して腕で拭ったそのまま、俺はラムを膝の上に向かい合わせで座らせて、顔を見た。真っ赤。
「痛くないよーに騎上位な、わかるだろ?
自分で好きに入れな。入れ方わかんなかったら正常位でやるけど、どうする?」
「騎…騎上位くらいうちだって……!」
……なぁにをわけ分からん勇気出すかな……ま、ラムの顔がバッチリ見えるから騎上位提案したんだけどさ。
「痛かったら浮いたらいいからな。」
「…う、うん…」
恐る恐る手を添えてゆっくり火照った入り口にあてる。とろけるような感触が鋭敏に伝わってくるので反射的に体中を硬くした。一気に果てたらそれこそ何を言われるか分かったもんではない。
思い切りが付かないのか、何度も腰をもじもじさせては離して自分の強がりを後悔している。……仕方ねえなぁ……
「ほれ、手伝っちゃろ」
上半身を起こして向かい合うように俺の膝にラムを座らせる。
「こっこのままするっちゃ!?」
「座位だと不都合でもあんのか?」
「だって……全部見えちゃう……」
泣きそうな顔で小さく囁くような抗議をしたラムの胸が、よく見ると小さく弾んでいた。それを見て心臓が小さくなるかと思った。
「心配すんな、顔しか見ないから」
「そっちの方が余計はずかしいっちゃ!」
赤い顔のままでラムが小さく怒鳴る。いつもの顔だ。うん。
「だってお前の恥ずかしい顔見たいんだもんよ」
けろっとして言い放つ。
「……ダーリンのいじわる!うちホントに恥ずかしくてたまらないっちゃ!」
もう泣く寸前の顔をしてついにきいっと怒り出した。
「ばか者!俺が恥ずかしくないとでもおもっとんのか!」
本音が出た。
やっと。
ラムがきょとんとしたまま固まって口をぽかんと開けている。
「……ダーリン……」
「やっと帰ってきてはしゃいでんだよ!ラムの顔が見たくてしょうがないんじゃ!」
くそっここまで言わせやがって。ほんとに鈍いやっちゃ。ぜんぜん俺のこと分かってない。
ラムの居ない一ヵ月半、俺がどんな気で居たかなんか知りもせんで……あ、くそうなんか腹立ってきた……
「うちはやっとダーリンに会えて好きすぎて顔見られないっちゃ!」
部屋が…しん…となったので二人して顔を赤くして黙てしまった。…き…気まず…
「…んじゃ、入れるのは正常位でやろうか……」
「そぉだっちゃね…基本が一番だっちゃ……」
二人して妙にかしこまって仕切り直しをすることにした。ゆっくりラムを押し倒して覆いかぶさる。ふわふわした身体が自分の身体の下で潰れていてそれだけで満足してしまいそうだ。
「やややっとダーリンと結ばれるっちゃ。思えば長い苦労の連続だったっちゃ、ダーリンさえ誠実ならうちこんな悩み抱えることなかったのに」
「なにをゆーとんじゃ。お前みたいなハネッ返り、気の長い俺じゃなきゃ相手に出来んわい」
かあっといっぺんに顔が赤くなる。ふたりして。
……どうせいつもの調子でわざと挑発させて言い合いにでも持ち込もうと思ったんだろう。そうはいくか。最初ぐらい真面目にやらせろ。
「きょ、今日はダーリンいつもとノリが違うっちゃね?」
「おまーが真剣にやれちゅーたんじゃろが」
「うちそんなこと言ってないっちゃ!怖くしないでって言っ…」
「だから怖くしとらんではないか。痛くもあるまい?…恥ずかしいくらいなんだ、俺だって恥ずかしいわい。
俺だってな、俺だってな、公園でお前が口でやったとき死ぬほど恥ずかしかったんだぞ!それを……一ヶ月も帰ってきやがらんで……」
怒りに任せて本音が次々出てしまう。ええい、いっそ全部出てしまえ。
「……ダーリン、うちが居なくてさびしかったっちゃ?」
そっと抱きしめられて耳元であの声が囁く。抱きしめて言った。
「寂しくないとでも思うのか」
「……ううん……うちも寂しかった……でも帰りづらかったのも本当なんだっちゃ……
ごめんっちゃ、反省してるっちゃ、もう離れないっちゃ、うちはダーリンのものだっちゃ…」
後半の声が水っぽくなっていたのでキスをした。目を閉じて何度も。
「痛かったら言えよ…我慢すんな」
本当はもっと指や口でほぐした方がいいのは分かってる。実は俺には一番最初しのぶを思いきり泣かせたトラウマがある。両方が訳も分からずただ突っ込むもんだし力加減も手順もよく分からない結果だったのだが、その後も随分ヘコんだもんだ。トラウマの上塗りだけはなんとしてでも避けたい。……かといってこの雰囲気で指なんかでやったら怒るだろうなぁ……
「ダーリン…ゆっくりしてね」
………………くそ……トラウマくらいいくらでも受けちゃるわい!
ゆっくり差し入れるように割り入る。身体中で抵抗しているかのような圧迫感があってとてもではないが無理強いできない感じがする。入り口のところでびたっと止まってしまった。
……まさか身体の構造が違うのでは……
考えられることではある。いくら同じような姿かたちをしてるからって内部構造まで同じだとは言い切れない。むしろそう考えるの不自然なのかも知れない。……どーすっかな……
処女とするのはこれで二回目だから勝手なんか分からんし、ただ初めてだからこんなにキツいのか身体の構造そのものが違っているのかの判断が付かない。このままやっちまっていいものか悪いものか……
そのままうろうろしてたらラムがきつく閉じてた目を開いた。
「どっどうしたんだっちゃ?うちの身体なんか変なのけ?」
「いや……お、お前の星でセックスってどーやってんだ?地球のやり方と一緒なのか?
……い、いや、ほら、やっぱ最初はお前の星のやり方に合わせてやろーと思ってさ」
引きつり笑いでごまかす。まさか男がやり方がわからん等と言えん。股間…いやさ沽券に関わる。
「えっ…!?
ふっ普通だと思うっちゃよ……ってそんなこと女に言わせるもんじゃないっちゃ!デリカシーがないっちゃ!」
……ふうん……そうくるか……
「…………いや俺はこの口から聞きたいんだよ……
ほれ、ゆーてみ?ドコをどうするといいのだ?ちゃんと言わんと分からんぞ」
「だっだからっ……そのっダーリンの…をうちのに……」
「俺の?俺の何をお前の何に?
お前俺より現国の成績いいではないか。接続語と名詞だけじゃ文章は成立せんのはしっとるよな?」
「行間を読むっちゃ!作者の言いたいことを推察するっちゃ!」
「あたるくん現国苦手だもーん」
にへっと笑って耳元に唇を寄せる。ラムはここが一番弱い。
「言えよ…口でちゃんと言え……ラムの身体のどこをどうすればいいか俺に教えてくれ…」
まさしくピンチをチャンスに変える俺らしいアイデア。……自画自賛してる場合か。
「お前の星ではどうやってる?
人工授精が全てではあるまい、ちゃんと習慣として残っとるはずだ。知ってるんだろ?だから“怖い”んだろ?ほれ、ゆーてみ。俺はちゃーんとその通りにするぞ。」
「…ダーリンの意地悪……趣味悪いっちゃよ……」
「一ヶ月も隠れとったお前に言われとーないわ」
しばらくぐうの音も出ずに押し黙っていたラムは、何か決意したように小さく息を吸い込んで深呼吸をした。
「…………だいたい場所も方法も地球とおんなじだっちゃ。ただうちらは浮いてするっちゃ。」
「なるほど。ただお前らと俺は身体の構造が違うからなー」
「この間保健の教科書見たら似たようなもんだったっちゃ。……でもちょっとうちじゃダーリンの、おっきいかも知れな…」
はっとした顔になってそのまま真っ赤になって撃沈した。……こいつ本当は俺よりエロいんじゃないのか……
「お前……一人でしたことあるな?」
「なっなっ!なんてこと聞くっちゃダーリン!」
きーん。……でっけぇ声耳元で……の野郎……
「したことあるんだろ。比較対照がないとそのセリフは出ねーもんな」
「しっしらないっちゃ!!」
おーおーまっかっかになりよって。……そーかぁ…ラムでも一人ですんのかー……なんかこう……アレだな……
自分の部屋を思い浮かべる。自分の部屋の押入れを思い浮かべる。あの中で…一人で……いかん再充填してきた……
「ちゃんと白状したら、誘導するのはカンベンしてやるぞ。…どっちにする?」
にっこり笑う。もう既にラムは涙目になっていて、ちいさくくぅぅ、と唸っていた。
「したっちゃ、ダーリンの寝た後にしたことあるっちゃ!」
半ばやけくそ気味にラムが悲鳴を上げる。ほほー、俺が寝た後にねぇ……ばかもん、それ聞いたら眠れなくなるではないか。
「よし、まぁカンベンしてやるか。」
ラムが途端にホッとした顔をして身体の力を抜いた。その隙に片手を組み合わせて握り締める。……そういや、しのぶもこうしてなきゃ不安がって……俺の癖になっちまってたか。
ふっとため息をつくように笑って、もう片手で支えながらゆっくり進入した。
「あ、あ、あ、あっ!」
目をしっかり見開いて水面に出て呼吸する魚のようにパクパクと口を動かした。……やっぱ痛いか…この圧迫だもんな……
「あー、あー、あー…!」
もうそれ以外に声が出ないのか、必死に身体をよじって痛みを避けようとしている。分かっていたこととはいえやはり痛々しい。
「痛いか?やめるか?」
「いやっあっだいじょ……あっ!」
「大丈夫じゃねーだろ、お前その…」
「ちがうっ…ちゃ、きっ気持ちいっいっ……あっ」
……変な意地はりくさってからに……
無理矢理喘ぐラムが涙をためてなんとか演技をしている。……こんなんでどないせーちゅーんじゃ……俺鬼畜みてぇじゃねーか。
「あのなっお前が気持ちよくないと俺も気持ちよくないの!」
「ほんとに大丈夫なんだっちゃ!だから抜かないで!」
「眉間にしわ寄せて冷や汗かきながらゆーても説得力ないわ!」
ずるりと身体を引き抜いて視線を走らせる。……やっぱり。鮮血とぼしき影が見える。ったく面倒な女に惚れたもんだ。素直に痛いといってもろた方がなんぼかマシじゃわい。
「ホントはもっと前儀ってのをやるべきなの。急に入れたって痛いだけなの。分かる?
こんなに濡れてるから大丈夫かと思ったんだけど、ま最初だかんな。もうちょっと柔らかくしような」
諭すように言う。こんな冷静な話し方をしてるがホントは泣き叫ぼうが引っかかれようが電撃を食らおうがむちゃくちゃにしたい。それをせんのは一ヶ月間の空白のおかげだ。……もうあんな時間はごめん被る。
「…ん…。」
泣き止んだ子供みたいな声。ほれみてみい。
指でゆっくり中をほぐしていく。くちくちと小さな粘液と粘膜が擦れる音が聞こえた。ラムの切ない息が耳元に漏れている。指を動かすたびにラムの眉がビクビク痙攣するのが面白かった。
「まだ痛いか?」
首を小さく横に振る。言葉を口に出さない。時々引きつったような吃音が聞こえて、ますます膨張する。増長する。
「あっ!」
指を差し入れた本人がその声に驚いた。目が見開かれてこれ以上ないくらいに顔が赤い。
「どぉした」
指を少し動かす。
「あぁ!」
「どーしたんだラム、何とか言え。黙っていてはわからん」
「だっダーリンのばかっ言えっ……あっ…わけないっちゃぁ!」
鼻に掛かった甘ったるい声が、指を動かすたび切なそうに途切れ途切れになるのが実にいい。それは矛盾しているようだが色っぽくて、可愛らしいのだ。
ラムが無言で必死に俺のほうに手を伸ばして抱きしめる。ビクビクと痙攣する身体とは別に俺を求めているらしかった。
「……どうした、そんなにひっついたら動きにくいではないか」
「だって怖いっちゃ…身体っ……うちの身体じゃないみたいに…ダーリンの指……ダーリンじゃないみた…いっああっ」
もっとぎゅってして、とラムが言った。
怖いのか、こんなに近くに居ても。
近くに居るから怖いのか?……離れるのが。
だったら離れたってちょっとやそっとじゃ忘れなれないようにしてやるわい。
ついさっき行ったコンビニの袋をラムを抱いたまま引っ張り出す。
「な、なんだっちゃ?」
ずるずる引きずられるような格好のラムが頭の上でガサガサ鳴る音に急に現実に引き物されたような顔をしている。
「いいもの。」
コンビニ袋から引っ張り出したのは長方形の箱。ビニールフィルムをビリビリに破る。箱から出てくる何連にも連なった正方形のアルミ袋の一つを破いて中のものを出す。
「……なんだっちゃダーリン、これ」
「避妊用具。」
買う時にしのぶが露骨にいやな顔をしたが、まぁ一応礼儀だかんな。……既に意味なさそうな気もするが……
「ひにんようぐ…ってなんだっちゃ?」
「つまりお前が妊娠しないようにする道具。これを俺がつけるわけ。」
興味津々ラムが俺の説明を聞く。ラムがにたりと笑う。……あ、いやな予感。
「うちがつけてあげるっちゃ!ねー、ダーリン貸して貸して!」
「ばっ!ばか!お前そんなっ……わっやめっやめい!破れたら意味ないだろうが!人の説明聞いておらんのか!?
お前っ……わっ!女がそんなとこ掴むなばかっ!」
急に襲いくる他人の感触に戦慄する。や、やばいってお前!
「だったら大人しくするっちゃダーリン!力を抜いてうちに任せるっちゃ」
「ホントにさっきまで痛い痛いと泣いとった女かお前は!」
「ダーリンばっかりずるいっちゃ!うちもダーリンをびくびくってさせてやるっちゃ!」
絶対処女のセリフじゃないそれは。……いったいどんな勉強したんだコイツ……
俺はついに観念して、大人しく力を抜いた。さすがに抜き身の状態で電撃なんぞ食らおうものなら即死する。
「……うわぁ……」
ラムが俺を触る。細く柔らかな指が纏わり付いて、ゆっくりリングを下ろしてゆく。その様子をラムが凍りついたように凝視している。ついに最後までリングを下ろし終えてもラムはまだそれを見ていた。
「……んなにまじまじ見んな。」
照れというよりは完全に羞恥の声なのが自分でも分かる。居心地がすこぶる悪い。
「だっ……ダーリン……」
かすれた声で俺を呼ぶラムはまだ顔が固まっている。
「なんだよ」
「これ、うちには無理だっちゃ…うち壊れちゃう……」
……うれしーこと言ってんじゃねえよ。顔真っ赤にしながら言うセリフかそれが。
「そっか?お前すげー期待してるけどな、顔」
ぎょっとした顔のラムが慌てふためいて両手を振る。
「そっそんな事ないっちゃ!痛くてもう!」
「……ん、まあ痛かったらやめちゃる。怖かったらこのままやめるが?」
にやりと笑ってラムの返事を待つ。その7秒間の葛藤が面白い。
「やさしくしてね?」
感想というのもおかしな感じだが、敢てそれを述べるとするのならば“新世界”だろうか。
圧迫感と静電気と粘膜の感触で声が出ない。
俺はきっとラムが痛がって最後までいけないだろうと思っていた。だからせめて言葉でいじめちゃろうと、恥ずかしがるラムの顔を見てそれで今日はよしとしてやろうと思っていたのだが。
きつくて仕方なかったのは最初の方だけで、それなりにほぐれたラムの身体はそりゃあもう別世界のようで、こともあろうに初めてのはずのラムが切なげに喘ぐのだからたまらない。何度も必死に我慢するのに精一杯で、気の利いた軽口すら思い浮かばない。
「ひっあっ……ァーリン…!きっ…つくて…
……息が…つまるっちゃ…ぁ…!」
胸に顔をうずめながらちらりとラムの顔を垣間見る。眉間にしわを寄せて、それでも頬は真っ赤で、唇がかすかに震えて何か言葉になる前の吐息を吐き続けている。
「ラム」
名前を呼ぶと視線がこちらに向けられる。目が合う。俺の顔に手が伸びてキスをされた。
唇が、熱い。
「うちヘンになっちゃう」
「なれ、ヘンになれ」
「怖いっちゃ」
「一緒にヘンになってやる」
そうやっと言うとまた唇を塞がれ、深く、永く自分の身体を急かした。
ラムの身体があまりに強くこわばって俺を抱きしめる。耳元でかすれ声がダーリンと何度も囁く。好き好き大好き。
大きくラムの身体が弓なりに反って俺の身体から離れた。
俺はその身体が離れぬように、腕できつく縛った。
「ねぇダーリンどーしてこっち向かないっちゃ」
うるさい。
「ねぇ〜、照れてるっちゃ?」
うるさい。
「こっち向くっちゃ〜ダ〜リン〜」
背中で甘えた声を出すラムの顔の予想なんかすぐに付く。笑ってやがるんだ。
その証拠に拗ねた風なんてこれっぽっちもないし、怒ってすらいない。
どうも俺をイかせた事が嬉しいらしい。
……経験のない処女にイかされるってのは正直面白くない。それをまた相手がちゃんと知ってるから更に面白くない。実に面白くない。
「ダーリンいっぱい出たっちゃね。うちゴム越しでもびっくりしたちゃ。うちそんなによかった?」
耳元で甘く囁く声が潤んでいるので、くるりと身体を回転させてラムの方を向いた。
「ああよかった。
…あんまし自分だけ気持ちよくて自己嫌悪に陥っとる」
素直にその言葉が口から出たのに、自分でもびっくりした。
ラムの顔がみるみるうちにほころんできて、布団の中の薄闇でも分かるくらいに頬が染まる。
「…嬉しいっちゃ…」
そこには、ただ一言それだけを言って小さく俯くその女に、改めて惚れていた俺が居た。
手をつないで、早朝の友引町を二人だけで歩く。家に帰ったら、まず久しぶりに4人で飯を食おう。……あ、5人か。
「ねーダーリン」
俺のジャンパーを羽織って、地面を歩くラムが俺に小さく声をかける。俺もそれに習って小さく返事をする。
「なんだ?」
「うちのこと、好き?」
小首をかしげてまっすぐ見つめる蒼い瞳が朝日に輝いている。
「……ばぁか」
俺は呆れてため息交じりの一言だけを返す。
「んもう、ちゃんと言うっちゃ!」
「答える義務はない」
「…うちの処女奪ったくせに…」
「ぶっ……おまーな……」
朝っぱらからなんちゅうことを言うんだこの女……
「ねー言うっちゃ!こういうときならすらっと言えるっちゃ?」
「拒否する。
こーゆー時に出る言葉なんぞ8割方ウソッパチじゃ」
朝帰りで、二人っきりで、手を繋いで、家に帰るなんて、シチュエーションが出来すぎている。
「……素直じゃないっちゃ。」
とうとうラムが呆れ声を出した。
「………どーゆー意味じゃい。」
「じゃあうちのこと好きだから今好きって言いたくないのけ?って言い直すっちゃ」
「………………」
俺は不意に突かれた図星に言葉が詰まって無言で通す。
「ねぇダーリン、白状するっちゃ」
「うるさい。」
「あっダーリン照れてるっちゃね?顔がまっかだっちゃ」
「うるさい」
「でもね、ダーリン。
この宇宙中、好きな人からスキって言われたくない女なんて居ないっちゃ。
女は嘘でもいいから好きって言われたい生き物だっちゃ。
それが女心ってもんだっちゃよ」
「……………………」
女心を説かれても俺には多分一生解らない。
それは俺が男だからとかそういう理由ではなく、おれがそうしないからだ。
理解しようと努力すれば、欲すれば、それは必ず自分の都合で歪められた解釈になるだろう。大なり小なり人間なんてのはそういう生き物だ。
だったらせめて俺は俺で居る。だからラムはラムでいればいい。
「ま、ダーリンの素直に照れた顔なんていいもの見せて貰ったから今日のところはこれで勘弁してやるっちゃ」
「……このやろ……」
「女を甘く見るとこういう目に遭うっちゃ、解ったけ?」
ラムがにやりと意地の悪そうな顔で笑う。
俺はその後、呆然と立ち尽くしたまま湧き上がる怒りと後悔を一生懸命押さえるのだった。
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