亜空間とわたくし
しのぶと因幡
「あの二人って結局どうなるのかしらね」
遠ざかっていく電撃の光といつもの悲鳴を眺めながらわたくしはそう呟いたのです。
「?どういう意味ですか?」
それまでポカンと事の成り行きを見ていた隣のウサギの着ぐるみを着た男の子がわたくしにそう訊ねました。
「だって宇宙人じゃない。」
「・・・僕だって亜空間人ですよ」
彼は少し奇妙そうに答え、にへらっと笑って見せました。わたくしはその笑い顔が遠くで見た誰かに似ていたので、少し物悲しさを覚えたのです。
「・・・そうね、そうだったわ」
「しのぶさんは宇宙人や亜空間人はお嫌いですか?」
もともと下がりがちの眉が更に下がったので、わたくしは慌ててそうではないと訂正しました。
「ただ・・・根拠もなく不安になるの。住む場所や空間が違うって、とても怖いように思えて・・・」
いつか・・・そう、来るという予想もできない『いつか』・・・わたくしたちの意思ではない大いなる何かによって永遠に引き裂かれてしまうことがあるかもしれない。そんな不安が横たわる不安定な場所でわたくし達はこの瞬間を生きているのです。どうにもならない時間や空間の歪の中で、わたくしたちはたゆたっているのですから。
「――――――そうですね、でもそれは地球人同士でも三次元人同士でも・・・」
「ううん、同じじゃないわ。だって地球人同士なら、会おうと思えば会えるもの」
「それは三次元人の思いあがりですよ」
いつものにっこりした顔で彼はそうゆっくり言ったのです。
「会おうと思わなければ、亜空間人同士だって会えませんよ」
あたるさんとラムさんならなんだって越えていきますよ。あの人たちは強いです。とても強いです。彼は繰り返しそう言いました。まるで自分がそうでない事を悔やむかのように。
「・・・羨ましいな」
「あの二人がですか?」
「ううん、因幡さんが。
わたしだったらそんな風に考えられないわ。視野が広いのね」
「オプティミストなだけですよ」
彼がまたさっきと同じように、にへらっと笑って頭の後ろを掻きました。
「あなた少し私の昔好きだった人に似てるわ。」
わたくしがそう言うと笑いながら少し困ったように彼は言いました。
「僕は浮気なんかしませんよ。しのぶさんひと筋です」
それを聞いてわたくしは声を上げて笑いました。
たった一言で言い表せるほど、亜空間なんかなんでもないことだったのですから。
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