解雇記念
あたるとラム
西の空が赤い。まるで血の色のようだ。それを呟くと、隣からルビーの色だっちゃ、と訂正された。
「お前はいつもこんな風景を見れるんだなぁ」
「ダーリンが望めばいつだって連れてくるっちゃよ」
少し寒い風が吹くので、寒そうな格好をしている女の方を見もせずにジャンパーを突き出した。
「なんだっちゃ?」
「見てるこっちが寒い。引っ掛けてろ」
そしたら隣でふっと笑う気配がしたので、俺は一瞬手を引っ込めようとしたのだが、それより先にジャンパーがするっと手からはなれた。
「ああっ!うち取ってくる!」
言うが早いか、緑色の長い髪がさぁっと風のように過ぎ去っていった。
俺は電気の通っていない廃鉄塔に一人置き去りにされて、西の空が闇色に染まっていくのをじっと見ていた。
ラムが俺の“妻”になってから何度目のデートだかもう忘れた。今日はラムが行きたい場所に俺を振り回す日だった。ラムは俺の知らない場所を連れまわして、最後に行き着いたのがこの場所だった。
一度だけこの場所で見た夕日が忘れられなくて俺に見せたかったという。俺は勘がいいからすぐに分ったのだけれど、たぶんラムはそのとき、泣いたのだろう。感動したのならラムなら何度だっていける場所なのだ、すぐに俺に教えたに違いない。
多分泣かせたのは俺なんだろう。それ以外であのラムが泣くはずがない。
泣くはずがないのだ。
夕日がどんどん沈んでいく。短い日没が終わる。
町の向こうに夕日が吸い込まれてゆく。
空を仰ぐと、もう気の早い一番星が輝き始めている。遠い遠いこの星より遠くから来た女。二度目は俺だけのために。
息を切らせてジャンパーを掴んで文字通り飛んで来たラムが、慌ててジャンパーに袖を通した。
「ダーリンのあったかさが逃げるっちゃ」
俺は無言でラム抱きしめた。
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