綺麗に包んでもらった四角い箱を目の前にして。 「なにこれ」 言うに事欠いてそれかこの女は。 「誕生日いつだか知らねぇから」 ぐっと力を込めて更に押し出す。桃の花びらと同じ色のリボンが鬱陶しそうに揺すられた。 「だからなによこれは」 コーヒーを片手にいつものデスク、うるさい弟を嗜める姉の顔。ちっとも相手にしようって素振りがない。仕事モード?バカ言うなよ、もう切り上げるって言うから出したんだぞ。 「……こないだ寝てて、ほら、パジャマのズボンが意味ねーなーって話したじゃん。だからネグリジェ。」 もっと気の利いた(例えばトンマの野郎の口からゲロゲロ恥かしげもなく出てるような)言葉を俺に言わせようってんだったら笑っちまう。でも多分そんなことじゃない。……だからいっそうムカツク。 「ああ、貰い物の横流し!」 そんなセリフをパッと明るい顔で言うなクソッタレ。 「たまには素直に喜べよ。小遣いやりくりして買ってきたセーショーネンの純粋な心配りを踏みつけやがって」 また軽い箱を揺する。音はしない。……ホントに入ってんだろうな? 「何か下心があるんでしょう」 ジト目、引き攣る口角、芥子粒ほども俺を信じる心は見えない。 「……ねェーよ」 あーこの腹の底が泡立つ感じ。イライラ、ムカムカ、ジリジリ、ハラハラ。 「無いわけないでしょ」 「聞いたかアグモン、断言したよこいつ」 「アニキ、開き直るのはいいけどせめて節度守れよなー」 「何が」 「天然ってマジ手に負えねー。淑乃ー突っ込めよー」 「アグモン、コイツに気を使えったって無駄無駄」 ……お前ら本当にナカヨシな、二人で大人の会話ってかぁ?……ええィくそ、腹立つ。 それでも俺はうっすら微笑みさえ浮かべて言うんだ。 「いいから開けてみろって。白で、可愛いぞ」 可愛いぞ、だって。 自分で言ってて心臓が変になる。 「な、なによ、それ」 ……さっきの仏頂面はどこへ隠しやがった。 バーカ、箱の蓋持ち上げる手が震えてやんの。 ――――――。 はいご愛嬌。 真っ赤な顔した淑乃がぶるぶる震えながらプレゼントの化粧紙を丸めたものをぶん投げた。俺の数秒前まで座ってた席に向かって。 「こりゃベビードールっつーのよアホンダラー!」 がははは!知らいでか! 「俺の誕生日はそれ着て誘惑しやがれ!」 16:33 2007/06/05 あー頭悪い話。あるみしゃんが大淑イラストをボキの為に一杯描いてくれるので(妄想)ボキもボキの為にアホい話を精一杯書いてみるテスト?てゆうかこれが漫画化に選ばれたらアニキより先にボキがノーズブラッド+!ウッフン淑乃に期待大! |
なんか自分気持ち悪い。 具体的に何がとは言えないのだが、とにかくキモチワルイ。 マスターなら気分が優れないのかと尋ねる事はしないだろう。マスターは私にも自尊心はあることを良くご存知だから。 ……アグモンは尋ねる。私のプライドを程よく突付いてくださる。 「何見てんのー」 「――――――何も」 「ララモン……通り越して、クダモンかな」 うるさい。 「呼んでやろうか」 余計な事はするな。 「薩摩隊長の視線の先を追いかけていただけだ」 「遠慮すんなってば」 「作戦概要を聞きたまえ」 「あとでアニキに教えてもらうもーん。だいたいオレ達まで作戦会議出席なんてクダモンがツマんねー提案するから居るだけじゃん。ま、どっかの誰かはそれに賛成してたけど」 何を言っても無駄だと、私は目を閉じた。耳はさすがに塞げない。 きっとこいつはからかいたいのだろう。思う存分笑って、彼女にも言うかもしれない。だがそうなった所で別に不都合など全く生じない。 私と彼女の距離というのはそれほど存在する。 「……見てるだけでいいのか?」 見ているしかないのだ。 「話し掛けろよ」 監視プランの細部を質問するのが精一杯だ。 「この間の捕獲戦みたいにさ」 近付いてどうするんだ。データを渡すことすら私達には必要ないのに。 「トーマにしてるみたいに、付き人やればいいじゃん」 「アグモン」 「なに」 「うるさい」 「…………………ヘッ…。」 呆れ顔でそっぽを向いたアグモンが静かになって、開いた目の先には彼女。 私達が共有し、並列化するのはデータ。 私は速やかに正確で揺るぎのない情報をただ流すだけ。 「オレ達だっていわばバグの塊じゃん?今さら一つや二つ増えた所でどーって事ない。 ……知ってるか?史上初のパソコンバグってスミソニアン博物館に保存されてんだぜ。」 「――――――ゆうじゃん。」 「なんだそれ」 「アグモンの真似だ」 「えー似てねぇー」 くつくつと笑うアグモンを見て、少しの間、気持ちの悪い自分が消えた。 彼女は作戦概要の補足に精を出している。 いつもと同じように。 17:32 2007/06/05 あれーガオクダだったはずなのにいつの間にかアグガオに?あれれーおっかC〜。だってクダがどうやっても動かない事甚だしくて。ゴメンネ☆ガオクダ始祖のあるみしゃん☆でもほら大淑喋りするガオクダよりはガオクダよ!(錯覚) ガオクダは非接触型。多分どっちもどうもしない。でも最終回後DWで人間界情報を収集するコンビ。そんな俺ワールド。 |
「ださーい」 「うるさいわね」 「ふるーい」 「黙りなさい」 「くらーい」 「ひっぱたくわよ」 珍しい非番の日、思う存分羽根を伸ばしてやれとばかりに飛び込んだ映画館。 「休みの日に一人で映画かよ。冴えねぇなぁ」 空席の目立つシアタールーム、隣の席にわざわざ座った男を見れば。 『今から来るのよ、彼氏がポップコーン持って。お退きボウヤ』 なんてサラリと言えたらこんなとこ来てないっての。 リバイバル映画。白黒の画面、擦り切れたフィルム、黒い雨が掠れるスクリーン。 隣でつまらなさそうにコーラを飲んでいる。 映画の内容はよく解らない。どうでもいい訳じゃない。ただ頭に入らない。 息苦しい感じ。 眉をしかめて映画の世界に戻る。若い妻が戦争に行く夫の髪を庭で切ってる。もう戻ってこない夫が庭で見つけた四葉のクローバーを妻に捧げる場面。この映画を見るのは2度目だからこの先のストーリーも知っている。妻はそれでも夫を待つのよ。戦争が終わり、白髪になり、たった一人で庭のブランコに揺られながら事切れるのだ。二つに分けた四葉のクローバーの、二枚の葉を持ちながら。 ……吐き気がする。 何故この映画をもう一度見ようと思ったのか。 「……アタシ出るわ、これあげる」 持っていた炭酸飲料を押し付けてあたしは映画館を飛び出した。 胃の中がぐるぐる回っている。何か居るみたい。キモチ悪い。 駅ビルを抜けてタクシーを止め、即マンションへ戻った。玄関のドアを閉めて、ずるずるともたれ掛かる。やっと呼吸が出来る喜びで涙が溢れた。 「ぐっ……くぅ…………」 頭の中で映像が唸った。フラッシュバックするのはノイズの混じったモノクロ映像。 写真なんか撮らないでよ。 ビデオなんかまわさないで。 色紙でも書けば気が収まるの? あの映画を見て可哀想な自分を慰めるつもりだった。不幸で不憫な淑乃ちゃんを哀れむつもりだった。一人で泣きたかったのに。 「うぅ……ううゥ……」 頭のどこかが壊れそうになる。でも一方で流れる涙が心地よかった。 この涙が止まったらノートを一冊買いに行こう。 そのノートの一ページ目はもう決まってる。 大のアホ。 それから全部のページに恨みつらみと、最後のページに四葉のクラブ。 ……四葉のクローバー、本来は呪術の道具で「お前の幸福を吸い取ってあたしが幸せになってやる」って意味で送りつけるものらしいわ。 22:06 2007/06/05 ……あるみしゃん家の「散髪屋さんごっこするラブい大淑」からネタを拝借して書いたはずの話がなんでこんなことに。最終回の「DWに行く!」という爆弾発言の一週間くらい前。良い子は「アグの帰る宣言からそんなに間がある演出じゃない」とか「街が廃墟で映画どころじゃねえだろボケ」とか言わない子です(忘れてた)。一度は泣くでしょう。淑乃は切り替えが早いタイプだといい。そしてあっけらかんと行ってらっしゃいクソ野郎と笑顔で背中を蹴り飛ばすといい。幸福吸い取っている間はあんたと縁が切れないでしょう。だからクローバー捨てるんじゃないわよ。 |
寝ぼけ眼で司令室に立ち寄ったらライトが付いていたのを見つけ、覗いてみるとDWインターフェイスにかじりついてるトーマが居た。 「ありゃ、今日遅番だっけ?」 声をかけようかと思ったが、あんまり真剣な後姿に気後れしてそのままドアを閉めた。 「同い年がぐうぐぅ寝てる時間にご苦労なことだわ」 夜勤の見回りなんて、本当は必要ない。一応ここは腐っても国の機関でありセキュリティも並大抵のものじゃない上に、誰が好き好んでこんな世間一般に知られてないところに侵入するのか。 『同い年って、大のこと?』 「……一般的にってことよ」 私の肩の辺りに居るピンク色の浮遊物体が性懲りもなくあいつの名前を出すので適当にあしらった。 私の目的は見回りでもなければ、ララモンとの口喧嘩でもない。 「淑乃さん」 その声に振り返ると、さっきまで司令室のデスクでへたばっていたトーマがやつれ顔で電力の来ていない自動ドアにしがみ付いていた。 「なぁに、ひどい顔ね」 くすくす笑う私の顔を見て、トーマはギクッという表情で固まった。 「……どっ…どうしたんですか?こんな夜中に」 「ララモンのデフラグをしようかな、と思って」 くっと振り向くと、いつの間にかフワフワ浮かんでたララモンが居なくなっている。 「ありゃ?さっきまでここに居たのに」 おかしいな、と周りを見回す私の右肩をぐっと掴んでトーマが素っ頓狂な声を上げた。 「淑乃さん、落ち着いてください。もう一度聞きますよ、ここに何をしに来たんですか?」 「な、なにも怒ることないじゃないよ、そりゃ規定外時間の使用だけど」 「答えて下さい。ここに、何をしに来たんですか?」 「だ、だから――――――」 ララモンのデフラグを、と言いかけて、はっと気付いた。 私のその表情を見てすべてを悟ったのか、トーマは肩から手を離してホッと一息ついた。 「…………ごめん……私…無意識で…」 「……いいえ。僕も似たようなものでここに居るんですから。」 「年下の子に心配掛けるなんて……ダメねぇ……」 いつも彼の足元に居るはずの青い狼は居ない。いつも肩の辺りに浮かんでいる桃色の茄子は見えない。 「もしここに居れば……あいつも同じです、きっと。もしかしたら向こうで淑乃さんの名前を呼んでるかもしれませんよ」 ふふっとやつれた顔が力なく笑い、無理矢理に明るい声を出す。 「……トーマこそしんどかったら止めていいのよ。スタッフだって、居るんだし。一人でサーバー構築なんて大仕事を背負い込む必要ないわ」 「こういうのはね、僕、慣れてるんです。 ……自分がやりたいこと無理言ってさせてもらってるんですしね。少しでも関わっていたい。友達に」 友達、という単語に何故だか背筋がひやっとした。 「……うん、わかる」 その悪寒はたまらなく心を不安でかき乱したけれど、私は壁を掴みながら震えるトーマの手ごと彼を抱きしめられるほど寛大じゃなかったし、それを無視して抱き付けるほど無神経でもなかった。 あの馬鹿なら、どうしただろう。 ……殴って喧嘩吹っ掛けるかな…… 13:56 2007/06/19 残された者たちは踊る。淑乃は10年くらいララと寝食を共にしてた事になる訳で、そんなのが急に居なくなったらそら深夜徘徊もするわ。トンマもママンが居なくなった空白をガオで埋めてた。でもトンマは家族と住めるしガオとは主従関係だったからダメージ少ない。このトンマはたぶん淑乃んことがちょっと好き。だがジェントルメンとして弱ってる女性に付け込む事は出来ないフヌケ野郎。淑乃はララもアニキも一気に消えて茫然自失。最終回から半年後の出来事でござい。 |
ガキの頃はよく木登りして、誰にも負けなかったもんさ。 賢い子は途中でくじけたけど俺はてっぺんまで登った。 そこはたった数メートルの高さだけど世界は違って見えて、いつも過ごす日常にこんな世界がまだまだいくつもあるのかと思うとわくわくした。 俺はその世界のすべてを見てみたいような気がした。 いつしかそれは「見てやる」という野望になったのだけれど。 水面に顔を映す。ゆらゆら揺れる鏡面に古傷が見えた。 父親の記憶、母親の記憶、妹の記憶、淑乃の記憶。 父親は男なら泣くなと言った。 母親は特別問題ないと笑った。 妹は心配そうに顔をゆがめた。 淑乃は 淑乃は あの女は ばかねと傷を、古傷を撫ぜた。 勲章を、過去を、無知と未知を撫ぜた。 水面に波が走る。歪なそれぞれのミルククラウン。傷が顔ごと消えた。 冷たい水に指を指し込み、まるで向こうの世界に吸い込まれているような錯覚を感じる。 どこかへ行きたいのか。それとも帰りたいのか。 取り留めのない疑問に惑った時は既に水柱が立っていた。泡の弾ける音に鼓膜が圧迫され、視界に歪み潰れる世界が引っ切り無しに飛び込む。 急激に全身が冷やされてゾッとした。 ゾッとした。 自分が求め来たこの世界には自分の欲しいものがないという事に気付きかけてしまったから。 この世界から何故父親が帰ってきたのか? この世界に自分は何をしにやってきたのか? 自分で掴む前に解ってしまいかけたから。 「アグモン!……アグモン!」 助けてくれ相棒!俺をここから引っ張り上げてくれ!俺はまだ理解したくない! 「なにやってんだアニキ。足着くぞ、そこ」 「……あ。」 びしょびしょの服が揺らめきながら消える先には、硬い地面の感触が靴の底から伝わっている。夢中で底面の石の上で踊っていたようだ。 「寝ぼけてんの」 「……そうらしい」 オレンジ色の相棒が腹を抱えてゲラゲラ笑った。 ばつ悪くにやけ顔を赤くしていると、水面に小さな花がいくつか流れてきた。薄紫と白の小さな花。 「花も大笑いだぜ」 アグモンが空を見上げて大きな腹を上下させていた。 同じように空を仰ぐと、野宿を共にした大木の枝に藤の花が巻きつき、花をたくさん下げている。 「アニキ藤の花の花言葉って知ってる?」 「……玉の輿。」 「『歓迎』だよ」 「――――――意外に博識だなぁお前」 ゾッとした。 14:04 2007/06/12 夢見るアニキ。どこが大淑かと言われても困る。開き直った!?あまりにもネタが無いので「夢」「ふじ」「水死体」という無茶な3ワードで捏造してみたが?すばらしい!ボキはあかほり先生の次に小説の神様に愛された人間かもしれない!自分の才能が恐ろしい!逆ベクトルで!アニキの心の中に絡み咲く藤枝はいつでも負け犬を歓迎の花で誘惑している。因みに「恋に酔う、陶酔」というのもあることを後で調べたら発見した。オカルトだ! |
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