真夏の夜の

                アグモンとアニキ

                 夏の日に
                 夏の日に
                 それは始まって
                 そして終わって
                 おれはわけもわからず
                 猛烈に泣き喚く
                 それがいかにダサくてカッチョ悪いかおれはよく知っていたし、こんなところを知香に見られたらと思うとそれはそれは背筋がゾクゾクと総毛立った。
                 夏の日に
                 夏の日に
                 急に出会って
                 急に旅立った
                 おれはわけもわからず
                 呆然と立ち尽くす
                 それがいかに未練がましくて鬱陶しいかおれはよく知っていたし、こんなところをアグモンに見つかったらと思うとそれはそれは肝が冷えた。
                 空を見上げる
                 突き抜けるような青、目の覚める深い色、絶望的な隔絶感。  或いは
                 ホームシック。
                 かっこわるい
                 会いたいな
                 だっせぇ
                 顔が見たい
                 シケてやがる
                 なにしてる?
                 女々しい
                 おれの事を思うことはまだあるか?
                 湿っぽい!
                 ぐるぐる巡る遠くに見えもしない故郷と、そこにいる人々、父と母、妹。仲間、友達、同僚、クラスメイト、教室から見えてた風景、それから……
                 それから……
                 この世界は魅力的だ、目も眩むように広く美しい。そして愛しいと思う。
                 デジタルワールドはもはやおれの第二の故郷とも呼べる場所で、不自由は少しあるけどまぁ、それなりに楽しく刺激的に日々をやってる。
                 なのに、窮屈で退屈なごみごみしたあの街にあって、デジタルワールドにはないものが欠けている。ずっとおれの中で欠けている。
                 平坦で色のない世界だったあの日々にアグモンが現れて少しづつ色付きはじめたのは、例えるなら冬から春になってある日気付いたら家の垣根に鮮やかな赤色の花が咲いていた感じ。
                 色とりどりの世界。酔いそうな総天然色が押し寄せてくる。
                 あの日々から少し落ち着いて、今思えばあの垣根の花は多分、あの夜に咲いたのだろう。
                 「……なんつって、詩人だねぇ」
                 「あー?なにがーアニキー」
                 「――――――なんでもねぇよ」
                 もう一度何かと問いかけようとして、アグモンはその素振りを鎮めた。
                 「帰りたい?」
                 アグモンが尋ねる。
                 「別に」
                 「顔に書いてる」
                 「デジモン文字でか?」
                 「――――まだごたごたしてるけど、まぁ、大丈夫だよこっちは。
                 ほんとはあの時オレ、アニキに帰れって言わなきゃならなかったのになと今でも思うんだ。
                 大丈夫、大丈夫、なんとかなるよ。だから、オレ達のことは、心配すんな、アニキ」
                 アグモンが言葉を切り、切り、拙い言葉でそう言った。
                 「るせぇ、おれは好きでここに居んだ。誰がどう言おうがおれの勝手にする。」
                 「……そう。」
                 アグモンが眠たそうな目を瞑り、議論は無駄だと言わんばかりにつまらなそうに口を閉ざした。
                 「そんなにしょーもない顔、してたかよ」
                 返事はしばらくの間は返って来ず、問い掛けたことをおれが忘れかけた頃にアグモンがぽそりと零した。
                 「ララモンが」
                 「……あー?」
                 「オレ達とあんま行動しないのは、淑乃のこととか、思い出すからだと思うんだ」
                 「……あー……」
                 「何でここに居ないんだろう、何でここに連れて来なかったんだろうって、毎日苦しいんじゃないかって。……ま、オレの想像だけどね。あの二人、付き合い長かったから」
                 「……で、それがおれと何の関係が」
                 「アニキがもしそれで苦しいのなら、帰ればいい。ララモンと違って元々あっち側の出身なんだから。
                 ララモンもアニキが居なくなれば、人間が目に止まらなければ、きっとマシになる気がするんだ。」
                 「ま、お前の想像だけどな」
                 うっという顔をしてアグモンが言葉に詰まった。
                 あの時、止められてたら
                 あの時、留まっていたら
                 あの時、我慢していたら
                 おれは変われていたのだろうか?今のように手足を思う存分伸ばして眠れただろうか?
                 「どっちにしたっていいじゃねェか。どーせ帰れないんだし」
                 「………………。」
                 そうだ。
                 どうだっていい。
                 おれは今充実して生きてる。
                 それが一番重要なはずだ、だからまぁ、別にいい。
                 おれはここに居るのだ。ここに居るのが正しいのだ、だってあの日そう決めたのだから。
                 「偶に落ち込む自由くらいくれたまえアグモンくん」
                 時々は胸が苦しくなるけどそれも生きてる証ってことで。
                 「……あと、いい加減ララモンに好きだって言っちまえ。待ちくたびれてっぞ」
                 「ま、アニキの想像だけどね」
                 いつか帰りたいと思った時にアニキがちゃんと帰れるようにって、ガオモンがクダモンと一緒にデジタルゲートを探してるんだぜ。口実じゃねーかとは思うんだけど、気持ちがありがたいよなぁアニキ。アグモンがぼそぼそとつまらない口調で続ける。
                 おれは黙ったまま。
                 「オレ、淑乃の代わりばっか、できねぇよ」
                 ぽつりとアグモンが言った。
                 おれはその通りだと思ったけれど、やっぱり何も言わなかった。
                 
                21:13 2007/05/10

                 


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